※この作品はR-18です。

銀髪の魔王と黒髪の魔人   作:ムマ・N

29 / 51
感想、お気に入り登録、評価ありがとうございます。

若干病み上がりなもので、エロなしの上に少し短めです。
あと何話やるか実はいまいち決まっていなかったり、どうしようかなって感じです。
では、どうぞ。


小さな棘

「一応今は同盟者だから正直に答えるが……上魔契約はオススメしないな」

 

 菜々芭の最悪の初体験の夜が明けた次の日、隠しラボにて鷹佑はアクラと向き合っていた。

 シンフォニックリリーを倒しきれなかったことで、ただ戦うだけではやはり勝つのは難しいと考えた鷹佑は、アクラを呼び出し新たな戦法を生み出すべく相談していた。

 鷹佑もプライドは高いが、ゼーロウに所属していた多くの魔道士のようにプライドばかりが肥大化しているわけではない。

 彼は頭の下げどころを分かっているのだ。

 

「やはり難しいか?」

 

 少なからず魔力を持つ鷹佑は、魔道士としての才能がある。

 しかし強化スキンなしの鷹佑は決して魔力量自体は高くない。

 故に契約出来ないのかと思ったのだが、アクラの苦々しい表情を見るとどうやら違うようだ。

 

「まぁ……変わりもんの俺があんまりこう言うのもアレなんだけどな。基本的に魔族は人間の敵(・)だ」

 

「…………」

 

 今までにないほど真剣な表情でアクラが強調した言葉に思わず鷹佑は押し黙る。

 

「魔族は人間をマナを生み出す家(・)畜(・)か、遊んでも問題ない玩(・)具(・)くらいにしか思っていない。上魔契約はそんな魔族と交渉するっていう本来は無茶な内容なんだ。契約者に旨味がなくなれば魔族はその契約を破り、敵対する」

 

 上魔契約を行い死んだ魔道士は、歴史上でも歴史に記されていなくとも、とんでもない数が存在する。

 それを防ぐには、その上魔が反抗出来ない状態、例えば上魔でも防げない魔術契約を結ばさせるなどしなければならないが、上魔も馬鹿ではない。

 反抗を防ぐための契約など乗ってくれるわけはないのだ。

 メッツァーはそういう意味でも例外だった。

 なんたってアクラを含めれば、メッツァー陣営には並の上魔を凌駕する特別な上魔が3体も、メッツァーが気に入ったという理由だけで居るのだから。

 

「出来るとしたら……あまり強くない奴だな。今のシンフォニックリリーの相手をするには力不足だろうが、お前が一緒に戦って手数の補助をしてやれば今よりは強くなれるだろ」

 

「……ふむ」

 

 意外と言われてしまえば意外なほど真面目に考えてくれるアクラに、鷹佑は少しだけ感謝の念を浮かべるも、感謝より考えることに頭を使うことが何よりの感謝の印になると考え、早く答えを出そうと頭を捻る。

 

「ちょっと試してみるか?」

 

「試す?」

 

「よっと。待ってな」

 

 そんな鷹佑を見ていたアクラは不意に椅子から立ち上がり、数歩鷹佑から離れる。

 そして見る見る間に姿を変えていき、数瞬後には触手の怪物へと見た目を変化させていた。

 

「これは……」

 

「俺の固有の魔法だ。こいつを使えば擬似的に上魔が居る状態での戦いがテスト出来る。次回の出撃の際にこれで協力してやるよ」

 

 今のアクラの姿は、鷹佑が知るわけもないが、かつてメッツァー陣営に居た上魔、ゲルゲのものだ。

 アクラは己の身に宿る力の種類を確認しながらも、少しだけ懐かしい感覚を感じていた。

 決して有能な上魔とは言えなかったが、狡猾で油断も少ない老獪な上魔であったゲルゲは、少なくともアクラの方からは嫌いではなかった。

 今回、鷹佑に協力する上で、この姿を選んだのも、ゲルゲの能力が試すのに丁度良い強さを持つと判断しただけではなく、どこか懐かしさを感じたからである。

 無論、メタモル魔法ならば、もっと強い上魔にもなれるが、それではテストにならない。

 

「報酬はそうだな……シンフォニックリリーの身体でどうだ?」

 

「……あぁ分かった。しっかりデータはとっても良いんだな?」

 

「あぁ勿論。上魔ってのがどんなもんか……じっくり調べておけよ」

 

 菜々芭を犯せた日の翌日であり、テンションが高めだったアクラによる提案を受け入れた鷹佑は、アクラの軽口に素直に乗り、新たな戦いの準備を始める。

 メタモル魔法を解除し、元の姿に戻ったアクラとの作戦立案はその後、菜々芭との約束の時間ギリギリまで及んだ。

 鷹佑、ファルケによる戦いはまだまだこれからなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅ……ぅぅ……」

 

(どうして……どうしてこうなった?)

 

 昨夜、狂気と欲望で菜々芭を翻弄したものとは同じ人物とは思えないほどアクラは狼狽していた。

 原因は彼の胸の場所で小さく声を抑えるように嗚咽する少女、菜々芭である。

 

(待て待て、落ち着け落ち着け……状況の整理だ。とにかく状況を整理しよう。そう、何事も落ち着いて整理することが大事だ。そう大事なんだ。落ち着け落ち着け落ち着け。菜々芭の良い匂いとか考えてる場合じゃない。とにかく落ち着けぃ!)

 

 根本的に他者を害することはあっても触れ合うことが少ない生き方をしてきたアクラ。

 そんなアクラの非常に回りの良い頭脳も今は完全に役立たずになっていた。

 そもそも女に惚れる経験すら初めてであるアクラには、その惚れた女の意思で抱きつかれ、胸を貸すというシチュエーション自体、想像すら出来ていないものだったのだから仕方ないことだろう。

 むしろ狼狽を表に出していないだけマシだ。

 

(とにかく、とにかくだ。じょ、状況を整理しよう)

 

 アクラがここ百合瀬財閥の屋敷に作られた菜々芭の研究室を訪れたのは、およそ数分前。

 菜々芭との研究の時間だったために、鷹佑との相談を切り上げ、訪れたのだ。

 そしてそこには見た目には普段通りの菜々芭が居た。そう、本当に見た目には普段通りだったのだ。

 ただ一点、アクラを見てすぐに泣き出したという点を除いては。

 

(そうだよ。そりゃあんな簡単に負けちゃったからショックを受けてるかもな、くらいには考えてたけどさ、いきなり泣く? しかも俺の胸に飛び込んできてさ。いや、可愛いんだけどね。可愛いんだけどさ、いや違くて、そんな場合じゃなくて、えーっと、まずは抱きしめるべきなのかな? いやでも俺、こういう時なんて言えばいいのか分かんないし、あぁもう、とりあえず何か言わないと)

 

 いまいち冷静に混乱した思考回路でグルグル考えていたアクラ。

 だがそれでも基本的には頭は悪くない彼は、こんな時にどうすれば良いのか、多少は理解出来ていた。

 いや正確に言うならば理解ではなく、知識として持っているだけだ。だからこうなる。

 

「……菜々芭」

 

「っ……」

 

 キザったらしく声を作ってしまいながら、両腕で胸の中の菜々芭の身体を包み込むようにして抱く。

 すると一瞬ビクッとした菜々芭だったが、そのまま大人しくアクラの腕の中に収まった。

 まるで小動物のような可愛らしさを感じさせるその仕草は、アクラにとってとても愛らしい。

 しかし、そんなことを思っている余裕はない。

 

(これで正解か?正解なんだよな?これで間違ってたら俺はただの変質者じゃないか?いや、変質者で合ってるかもしれないけど、違う。そう、違う。無月亜九としては変質者なのはまずい。そう、これは慰めようとしてるだけだから、菜々芭のためだから、うん。合ってる合ってる)

 

 無駄に早い思考回路を働かせて、アクラは必死に自分を納得させる。

 そんなアクラに腕の中で、菜々芭はゆっくりと顔を上げ、潤んだ瞳を向けた。

 

「亜九さん……」

 

「あ、あぁ。なんだ?」

 

「ごめん、なさい……私……負けました……シンフォニックシュガーになって……負け、ました。亜九さんに、あれほど協力して頂いたのに……全て、無駄に……」

 

「…………」

 

 その菜々芭の言葉でやっとアクラは少しばかり冷静になれた。

 菜々芭が涙を流している原因、それはやはりアクラが原因であった。

 つまり、菜々芭は研究者として補助していたアクラに申し訳なく、そして自分が無力だという事を改めて実感し、酷く精神的なダメージを負わされたのだ。

 しかしアクラにとってはそれは狙い通りの結果であり、菜々芭が気負う必要はなかった。

 

「……大丈夫だよ菜々芭。俺は無駄になったとは思ってない」

 

「亜九さん……」

 

 だからアクラは素直な気持ちを伝える。伝えられる。

 

「相手は今までにない相手、魔族だ。いくら魔法戦士であるシンフォニックシュガーになれたとしても必ず勝てる相手じゃない。それは菜々芭だって分かっているだろう?」

 

「…………」

 

「菜々芭、俺達は研究者だ。研究者は一度の挫折で諦めない。だから、俺も協力する。いや菜々芭のため、俺に協力させてくれ」

 

 これはアクラにとっては菜々芭に諦めて貰っては困るからこそ言っていることだ。

 アクラは正確に言うならば菜々芭が泣き出してしまうほど精神的なダメージを受けた理由を分(・)か(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。

 

 菜々芭がこれほどまでにダメージを受けている理由が、自分の見た目をしている上魔に犯され、あろうことが絶頂させられてしまった。

 それが魔法戦士としても、一人の女としても甚大なダメージを与えているのだが、それにアクラは気付いていないのだ。

 アクラにとって、そんなことは有(・)り(・)得(・)な(・)い(・)からである。

 

「亜九さん……すみません。少し、弱気になってしまっていました。ありがとうございます。貴方が居てくれるなら……私はまた戦える気がします。だから……もう少しだけ……良いですか……」

 

「あぁ」

 

 アクラは菜々芭を安心させるため、より強く菜々芭の身体を抱きしめて、その頭を優しく撫でる。

 そのまま暫く、菜々芭はアクラの胸の中で再度涙を流して居たが、やがて落ち着いてきたのか、ゆっくりと身体を離す。

 

「もう……大丈夫です」

 

「そっか」

 

「はい」

 

「色々落ち着いたかな?」

 

「はい……ありがとうございます」

 

 そう口にする菜々芭の目元は泣いたせいか、少し腫れてはいたが、その表情から悲しみは消えていた。

 逆に少しばかり冷静になったせいで、自分がやったことに関する羞恥心が芽生え、微妙に顔は赤かったが。

 

「あの……先程は……失礼しました……突然抱きついたりして……あと、胸もお借りしてしまいまして……その……忘れて下さい」

 

「いや、別に良いさ。それより……そうだな。少し休んだら?研究の続きをしようにも……今日は無理そうだろ?」

 

 アクラは恥ずかしそうにしている菜々芭が微笑ましく、つい悪戯をしたい気分になってしまうが、そこはグッと堪える。

 今は上魔アクラではなく、研究者無月亜九なのだ。やって良いレベルは弁えないといけない。

 

「いえ、休むわけにはいきません。莉々奈さんも頑張ってくれてます。私だけ休みたく、ありませんから」

 

 そう口にする菜々芭の表情は先ほどまで泣いていたとは思えないほど、強いものだ。

 事実、菜々芭は強い。

 今回の件でこれほどショックを受けたのは、あくまで亜九絡みだったからであり、前回の件も自分が襲われたことよりも、莉々奈が襲われたことの方がショックだったくらいだ。

 そんな菜々芭の表情を見たアクラは、やっぱりこの子は強い子だと感嘆の念を抱くと同時に、そんな菜々芭を自らの手で弄んだという事実に少なからず興奮していた。

 

(っ……なんだ?)

 

 しかし興奮すると同時にアクラは胸の辺りに違和感を覚える。

 チクリと走る痛み。小さな、だが確かにある痛み。

 だが、アクラはその正体に気付かない。

 それも無理は無いだろう。一体誰が気付けるというのだろう。

 魔族であるはずのアクラが、菜々芭を傷つけたかもしれないと罪悪感を僅かに感じている事に。

 

「さぁ始めましょう亜九さん」

 

「ん、あ、あぁ……」

  

 昨夜、菜々芭を襲ったのも今日菜々芭を慰めたのもアクラにとっては演技ではない素の姿だ。

 菜々芭の存在が大事だから汚し、菜々芭の存在が大事だから大切にする。

 上魔アクラとしての考えと、菜々芭を好きになった一人の男としての考え。

 その矛盾を広げる小さな小さな棘が刺さったことに、今はまだ誰も気づいていなかった。

どの編が面白かった?

  • スイートナイツ編
  • プリンセスティア編
  • スイートナイツ2編
  • シンフォニックナイツ編
  • レムティアナイツ編
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。