「結論を言うと、なぜ山本さんと付き合うことになったのかはわからない、と」
俺は鈴原と和食屋に入って事の成り行きを聞いていた。
鈴原は進級した直後に山本さんと話す機会があり、そこで思い切って二次元の魅力を語ったところ、山本さんが興味を持ってくれたのだという。
それから二人はこっそりと話す機会が増え、デートをするようになると、気づけば交際に発展していたのだとか。
「にしても、山本さんはお前のことあんまり好きじゃなさそうだな」
「そ、そんなことあるか! 妬みでいい加減なこと言うなよな」
鈴原は怒った。
たが、威勢が良かったのは最初だけで。
あとは水を飲んでから、口を噤んでしまう。
「妬んでるわけじゃなくてさ。この前、高波と四人で帰った時とか、何も感じなかったのか?」
少なくとも俺には、山本さんから鈴原への好意は感じられない。
鈴原の昔の好きな人を聞いたり、俺の今の好きな人を聞いたり、物理的に避けようとしたり、顔をひきつらせたり。
どう考えたって、別れたがっている証拠だろ。
「……たしかに、最近は少し、話す機会が減ってきたけど。でも、俺は奏のために時間も金も全部使ってるし、他の女の子との連絡も一切取るつもりはないし、勉強だって奏に追いつけるように頑張ってるし。デートの時だって、荷物も持つし、疲れないように気は使ってるし、ご飯代全部払ってるし、絆創膏とか日焼け止めとか色々持ち歩いてるし。なんなら、これからバイトの掛け持ちも増やしてもっと楽をさせてやりたい」
「怖えわ」
大切にしたいってのはわかるけど。
さすがにそれがやりすぎなことくらい俺にだってわかる。
「なんだよ。俺が奏と上手くいってないこと前提で話しやがって。言っておくけどな、俺たちにはしっかりとした愛の営みだってあるんだぜ」
「おまっ。そういう、生々しい話はな……」
「お? 童貞のお前には刺激が強すぎるか? 奏のためにかなりマイルドに表現したつもりなんだけど。今のうちに慣れといた方がいいぜ。女とのセックスなんて、下ネタから始まるからな」
ニヤニヤと箸でカツの衣を突く鈴原。
さすがにこいつに卒業の遅れを取った上に、相手があの山本さんとなると悔しさもひとしおだ。
「お前がやってんのか……」
「ああ、やってる。ま、奏の体が気持ちよすぎて、今でもほとんど保たないのがツラいとこだが」
「ふーん。そうなのか」
「って言っても、別に俺が早漏ってわけじゃないからな。奏が付き合ってきた男もみんなそうだったって言ってたし。奏がすごすぎるんだよ」
下ネタを語り始めてから、鈴原のやつは饒舌だった。
俺に対する優越感に浸りたかったというのもあっただろうが、散々否定された分の不安を拭い去りたくて口にしてる感じだった。
「とにかく、俺は人生を奏に捧げるって決めてるから。どんなこと言われたって奏の願いなら叶えてみせる。そういう男になるんだ」
気がないのはわかってても諦められないと。
初めての恋人で、なおかつそれが美少女ともなれば、誰でもそうなるか。
なんにしても食欲の失せる話だ。
俺はさっさと生姜焼き定食を平らげて、鈴原に早く店を出るよう催促した。
俺は本来なら、今頃美優と二人でご飯を食べていたはずなんだ。
山本さんに用があるならしかたないと、以前までは思えていたけど。
鈴原のものになってるって考えるとやっぱり寛容にはなれないよな。
この恨みは忘れてやらん。
「山本さんから連絡とか来てるか?」
俺は自分のスマホに美優からのメッセージがないことを確認していた。
これから合流しなければならないのだが、どこで待っていればいいかわからない。
そんな折。
「あ、お二人さん。ご飯は終わった?」
にょきっと生えるように、山本さんが顔を出してきた。
「おお、戻るの早かったな。妹さんは?」
「それがね」
山本さんはだいぶ後方で待機していた美優を指さした。
「今度は、鈴原くんに用があるって。美優ちゃんが」
「ソトミチ妹が? なんだそりゃ」
なんだそれは。
鈴原の野郎も満更でもない顔しやがって。
「ま、何がしたいのかわからねえけど。可愛い妹さんだしな。仕方ねえから付き合ってやるか」
「手を出したら吹き抜けの階段から突き落とすからな」
「そ、そんなマジになんなよ!」
美優のことだから、自衛はしっかりしてるだろうが。
指一本でも触れようものならニッパーであらゆる突起を切り取ってやる。
「ソトミチくんは、本当に美優ちゃんが大切なんだね」
鈴原が美優のところへ行って、今度は山本さんと二人きり。
余計なことを聞いたせいで、前と同じように話せる自信がない。
ジトッと俺がマイナスの感情を向けていると、山本さんもしおらしくなって手を前に重ねた。
「改めて、だけど。ごめんね」
いじらしく体をくねくねさせる山本さん。
どこもかしこも女性としての美が詰まっていて、今にして思えば山本さんに彼氏がいないなんて思うほうが間違っていたのだと気づく。
「謝ることはないよ。ただ、何がしたいのかわからないっていうか。俺と話すようになったのは、鈴原と別れたかったからだと思ってたんだけど」
投げやり気味に、問いかけた。
山本さんはやりづらそうに髪の毛の先をくるくるといじると、上目遣いを仰ぎながら僅かに頷いた。
「別れたいのは、その通りで。ソトミチくんと話すようになったのは、それを手伝って貰うつもりだったってのも、事実です。だから、本当にごめんなさい」
山本さんは深々と頭を下げた。
悪女、ここに極まれりってところか。
告白したのは鈴原の方だったらしいが、それを受け入れたんだったら責任というか、もう少し義理を持ったほうがいいんじゃないのか。
「でも、そっちの方は解決しそうだから。ソトミチくんとは、改めて仲良くしていきたいなって思ってるんだけど」
「解決? 別れるってこと?」
「うん」
「いやぁ……」
あの鈴原の様子を見る限りだと、とても簡単に別れられるとは思わないけどな。
解決しそうっていうのは、なんだ。
美優が何か手を回してるってことなのか。
「正直なところ、複雑ではある。鈴原だって、あれはあれでいいヤツなんだよ。やりすぎでも頑張ってるわけだし、もっと大切にしてやってもいいと思うが」
付き合ってまだひと月だろ。
判断を下すには、あまりにも短すぎる。
「……あんまり、詳しいことは言えないけど」
山本さんは唾を飲み込んでから再び口を開く。
「付き合うために、条件があったの」
「ほう」
それは知らなかった。
「その約束は、とっくに破られてて」
「えっ」
「でも、別れたら、私の悩みとか、全部回りに話すって。鈴原くんが」
「おいおいおいおい」
鈴原のやつ愛だどうだ言っておきながら。
帰ったら覚えてろよ。
「私も、もう少し上手く話せればよかったんだけど。正直に言うとね。もう、疲れちゃって」
山本さんの顔は、言葉通りに疲労が滲んでいた。
曰く、俺と戯れたアレも自暴自棄だったそうで。
「ちなみに、その条件とは?」
「うーんとね。ソトミチくんになら、教えてもいいんだけど」
なぜ俺にならいいんだ。
「美優ちゃん、だいぶ時間がかかるって言ってたから。お店を回っていかない?」
山本さんは無理やり笑顔を作って俺を誘ってくる。
両手に抱えた荷物を上げて、俺もだいぶ疲れているとアピールしてみるが、やはり山本さんは俺を連れて行きたがった。
「むぅ。そこまで嫌がらなくても」
「嫌がってるわけじゃなくて。脈絡がなさすぎて困惑してるだけだよ」
「そ、そんなに変だった?」
山本さんはキョロキョロ辺りを見回す。
山本さん側の事情はわかった。
俺だって別に、山本さんを嫌いになったわけじゃない。
だけど、さっきから手を指でなじったり、何度もため息をついたり、俺を誘う山本さんの挙動があからさまに不審だったのだ。
「何か隠してるだろ」
「……べ、べつにぃ」
「嘘下手か」
何かを隠しているのが明白な以上、それを聞くまでは従う気にはならない。
山本さんもそんな俺に意思を感じ取ったのか、深呼吸をひとつ挟んでから肩を落とした。
「わかりました」
睨み続けたのが効いたようだ。
美優の無言の圧力を体験するようになってから、その使い方が少しずつわかってきた。
「私も、美優ちゃんにお願いされてるの。ソトミチくんと一緒にレディースのショップを回ってって」
「えぇ……。なんで?」
「わからないけど。女の子の服も少しは知っておいたほうがいいって。今日も美優ちゃんに色々と教えてもらってたんでしょ? 通りで、雰囲気が変わったわけだね」
山本さんは俺の顔を覗き込んでくる。
そういう仕草は、さすがというか、グッときてしまう。
ほんとよくできた造形だ。
ぷっくり涙袋から二重まで人手で作ったみいに整っている。
これと付き合ってたら別れたくもなくなるよな。
「どう……でしょうか……?」
「わかったよ。行くよ」
美優の命令だからな。
どうやら二人でいるときにアドレスを交換したようで、美優からのお願い(というより半ば命令)によって俺を連れ回そうとしていたのは事実だったと確認できだ。
「あっ、うん、そっか。来てくれるんだ。そっかぁ……」
山本さんが急にそわそわしだした。
合意してやったのになんでそんな反応だ。
「じゃ、じゃあ、気合いれていくね」
「おう」
そこから、山本さんは急に喋らなくなった。
動きもぎこちなくて、お店に入っても服を手に取ることもなく。
ぐるっと一周したその足で店の外に出てしまう。
「上の階に、広いお店があったよね。そこ行こうか」
「あの安いとこか? もう行ったけど……あ、でもレディースって意味では行ってないか」
そこはこのショッピングモールで一番大きな服屋だった。
全国にチェーン店を持っていて、日本人ならもはや知らない者はいない。
「最大5点まで試着可……足りるかな……」
お店に入って早々、山本さんが確認したのは試着室の制限だった。
服を見る前からそんなところをチェックするのか。
ふむふむ。
勉強になる。
「ボタンが多いやつ……ボタンが多いやつ……下着も持っていこうかな……」
ぶつくさつぶやきながら店内を進んでいく山本さん。
ちょっとどころではなく不気味である。
もっと優雅に買い物をするものだと思っていたから意外だ。
「よし、これでいいよね」
山本さんはひと通りの服を選んでから、試着室に向かった。
俺の役割は、終わりかな?
何を学べばよかったのか。
思ったよりたくさんお店を変えるとか?
これをどうにかデートに活かさないといけないのか……難しいな。
「ソトミチくんも、ついてきてもらっていい?」
「俺も? 試着室に?」
「うん。似合ってるか見てもらいたくて」
「そういうことなら、まあ。いいけど」
そういうのって、男に決めてもらうのが一般的なんだろうか。
だとしたら、レディースの知識がないのも考えものだよな。
でも女の服に詳しい男なんて変じゃないか。
「私が入ってきてって言ったら、なるべくカーテンを開けないですぐに入ってきてね」
山本さんは試着室の中にカゴを下ろし、後ろを向いて、俺が理解したことをしっかりと確かめる。
「了解した」
俺は荷物を試着室の前に置いた。
通る人の邪魔にならず、かつカーテンの開閉に支障のない場所に。
「はぁ。ふぅ……」
山本さんはなかなか個室に入ろうとしない。
過呼吸になるんじゃないかってほどに深い息を繰り返して、何かのタイミングを伺っていた。
「よし」
意を決して、個室の中へ。
カーテンを閉めると、中でまた山本さんは深呼吸をしているようだった。
新しい服をお披露目するのがそんなに恥ずかしいものか。
カーテンもできるだけ開けるなってのもな。
試着室を管理しているスタッフはみんな女性なのに。
チラ見されるだけで嫌なのか。
複雑なものだな。
女の子は。
難しい。
カーテン越しでも、衣擦れの音は聞こえてくる。
こうして間仕切りがある状態だと、たしかに妙な雰囲気にはなるな。
俺も緊張してきた。
ん。
音が止まった。
「……どうぞ。入ってきて、いいよ」
「おう」
山本さんの緊張が伝わってきて、カーテンを掴む俺の手も震える。
女の子とのデートって、こんなに心臓に負担のかかるものなのか。
指示されたとおり、俺は最低限自分が通れるだけの隙間を開けて、個室の中に入った。
「おじゃましま────っ?!」
そして、絶句した。
「早く、閉めて」
山本さんは自らの体を抱きながら俺を急かす。
混乱した頭の中、俺はカーテンに隙間がないことをしつこく確認した。
そして、目の前にある理解しがたい光景に、ついには頭が回り始める。
「山本さん、服……」
全身肌色。
それはファッションと呼ぶにはあまりにも大胆で。
っていうか、完全に露出していた。
山本さんは、下着の一切すら身に着けていなかった。
「状況が、よくわからないんだけど」
困惑の最中で、山本さんはジリジリと間を詰めてくる。
といっても最初から1メートルもなかった幅だ。
山本さんが数歩踏み出すだけで、俺は簡単に壁に追い詰められてしまった。
「何も考えないで。感じて」
「うっ……ちょっ……」
山本さんはそのまま俺に抱きついてくる。
ズボンに手を回して、股間を押し付けるように力を入れた。
学校で感じ取ったものはまるで違う。
生の肉体に抱きしめられている感覚は、服の上からでもありありと伝わってくる。
「なんで……こんなこと……」
薄いTシャツに、胸を押し付けられて。
腕に手を添えられてからは、その初めての快感に抗えなかった。
「ごめんなさいソトミチくん。私は悪魔に魂を売ってしまったの。だからもう、こうするしかなくて」
「悪魔?! ってなに!?」
「美優ちゃんです……」
山本さんは涙いっぱいの目で俺を見つめる。
そういうことか。
妹の目的はこっちが本線だったのか。
俺がこんな服屋に来ているのも、元々は美優以外の女の子で勃たなくなったのが原因。
山本さんが頼まれたのは、俺にファッションを教えることではなく、俺にエロいことをして勃たせることだったわけだ。
「どこまでしろって言われてるんだ」
「ソトミチくんの、おっきくなってるのを、写真で送ればいいって」
写真って。
俺の心理的ハードルもだいぶ高いんだが。
だけど、やらないと収まらないよな。
「とにかく、ソトミチくんも脱いで」
ズボンから、チャックを下ろして。
そのままパンツごと山本さんに下ろされる。
手慣れてるなと思う辺り、俺の心も汚れているんだろうか。
「うぅ……なんで大きくなってないの……」
「いや、これは、緊張のせいだと思う」
山本さんは俺の固さ半分の肉棒に一層涙目になる。
写真をさっさと撮って終わりにするつもりだったんだろうが、俺もここまで唐突だと空気に慣れるまでに時間がかかってしまう。
さすがにここまでされて勃たないってほど完全にダメになってるわけじゃないはずだ。
そうであって欲しい。
「こうなったら。やっぱり、男の子はおっぱいだよね」
膝を突いた姿勢で、最も肉棒に近い位置にあるそれを、山本さんは持ち上げる。
山本さんも手が小さくないはずなのに、指先から溢れるくらいにたわわなその膨らみを俺の肉棒にギュッと押し当ててくる。
大きくなっていないせいか、思いの外弾力を感じられなかったそれは、しかし。
谷間に溜め込まれた高い体温と、おっぱいに挟まれているその絵面だけで、脳の性的興奮領域に神経パルスをこれでもかと叩き込んできた。
体全身、シミひとつないきれいな肌。
胸の先っぽも、数々の男たちに使われてきたのかと思えないくらいに淡い色が残っている。
外側だけを見れば、誰も山本さんがこんなエロい女だとは考えないはずだ。
でもこれはある意味で、エロいことをするために生まれた体であるとも、失礼ながらに思ってしまう。
「どう、かな。舐めたりしたほうがいい?」
そんな言葉が、平然と出てくる。
女の子に自分のモノを咥えられる。
誰だって一度は望んだはず。
フェラチオを。
もししてもらえるなら。
もちろん、して欲しい。
「あ、でも、おっきくなったね」
山本さんに言われて、俺はようやく気づいた。
おっぱいの温かさに惑わされていたが、ふにゃふにゃに柔らかかった肉棒が、立派な剛直に変わっていた。
「あっ……そう、だな。撮ったほうが、いいよな」
「んー。ふふっ。どうかな。撮る前に、する?」
改めて尋ねられて、心が揺れる。
迷っているのはきっと、鈴原との色々があったからで。
相手があの山本さんともなれば、断る理由もない。
「──お客さま。サイズの方はいかがでしょうか?」
店員に声をかけられて、俺たちは飛び上がった。
そうだ。
ここは試着室だった。
あんまり長く使っていると不審がられる。
「ごめんなさい、遅くて。色々組み合わせしてるので、もう少し待ってください」
「ああ、いえ、いいですよ。合わなければこちらでお持ちしますとお伝えしに来ただけなので。ごゆっくりお過ごしください」
カーテン越しの会話。
着替え途中で全裸だった山本さんと、服も持ち込まずに下半身を露出させていた俺。
中を見られたとしたら、ヤバかったのは俺の方だったな。
「えっと、どうしよっか」
山本さんは、まだ元気な状態の俺のムスコに訊いてくる。
「いや、まあ。撮っちまった方がいいんじゃないかな」
「そうだよね。わかった」
ポーチからスマホを取り出して、俺の股間部にカメラを向けられる。
死ぬほど恥ずかしいが、妹の命令ということはすなわち、俺も従わなければならない勅命だ。
「送信っと……。あ、オッケーもらえた。やった」
山本さんは小さくガッツポーズをする。
「美優ちゃん来るみたいだから。私は帰るね」
「あっ、はい。どうぞ」
山本さんはスッキリした顔で服を着始める。
もう流れじゃないもんな。
仕方ないか。
俺も一応、ズボンは穿いておこう。
「カゴにある服は置いてくね。美優ちゃんもここに直接来るって言うから」
「わかった」
山本さんはブラジャーに腕を通し、器用に胸を抑えながら片手でホックを引っ掛ける。
素早い動きだが、相当な握力がないとできないだろうな。
俺はもうなされるがまま。
股間の膨らみだけが虚しく存在を主張している。
山本さんは立ち上がって、パンツをはいて、ゴムがぱつっと締まる音。
下着姿の山本さんが俺と目を合わせてきて、恥ずかしそうにはにかんだ。
俺はガン見しちゃってるけど。
いいんだよな、これ。
エロい体だな。
美優は雰囲気全体でエロいけど。
山本さんは形そのものがエロい。
「鈴原くんについては、美優ちゃんが上手いことやってくれたみたいだから。私はこれから、フラれに行ってきます」
着衣を終えて、カーテンに手を掛ける。
ニコッと笑って、山本さんは試着室を出ていった。
それから、数分経って。
女性ものの下着と、硬くなったまま収まらない肉棒を残し、このまま店員に中を見られたら社会的に終わる危機感を覚え始めたところで、ようやく救世主がお出ましになった。
「お兄ちゃん」
カーテンから、顔をひょっこり。
声を掛ける前に開けてくるものだから、つい身構えてしまったが。
すっかり見慣れた安心する顔がそこにはあった。
「山本さんはどうだった?」
美優は靴を脱いで、中に入ってくる。
「実に、この通りで」
俺が店員だった場合のため引いていた腰を突き出す。
それに対する美優の反応は、瞬き一つだった。
「私じゃないよね?」
「これは違う」
疑いたくなる気持ちもわかるが。
これは間違いなく山本さんに興奮して出来上がったものだ。
「というか、その」
「ん?」
「このまま山本さんのこと考えてイけるかも」
「ふーん」
美優は山本さんが持ってきたカゴを物色しながらおざなりな返事をする。
「頼んでもいいか?」
それは、この場で出させてくれというお願い。
美優はカゴの中のブラジャーを手にとって、カップの大きさをたしかめてから、「はいはい」と俺の前にやってきて正座をした。
「どうぞ」
先程まで山本さんがいた場所に、美優がいる。
長い黒髪、ぱっちりした目、豊かな胸までは一緒。
違うのは、体格と愛嬌の良さだ。
他のやつらはどれも山本さんが上だと言うんだろうが。
俺からすれば全てにおいて美優のほうが勝っている。
愛嬌に関しては、悪いほうが勝者という天の邪鬼ぶりだが。
「ひとつ、お願いしてもいいだろうか」
「なんでしょうか」
事務対応の美優に、俺は一つの要求をする。
さきほど山本さんにやられたように。
美優の手で、パンツを脱がせて欲しいと。
「自分でやりなさい」
「はい」
即刻却下された。
なんだか最近は無愛想にプラスして高圧的になっている気がする。
俺は渋々自らズボンを脱いで、パンツを下ろす。
はずみで飛び出た俺の屹立は、つい数分前よりも元気なくらいだった。
下半身裸の俺と、それを口で受け止めようとする美優。
隣に鏡があるせいで、変態行為をしている興奮が倍増する。
もしかしたら俺は着衣のほうが燃えるのかもしれない。
山本さんのたわわで挟まれたときも最高に昂ぶったが、しっかりブラで形作られている胸の谷間を見ている今のほうが、興奮する。
「お兄ちゃん」
警告の声音。
俺がジロジロと美優の体を見ていることを咎められた。
「あ、いや、これはだな。ついさっきも、山本さんと全く同じ構図になったものだから」
「そうなの?」
「うん」
「ならいいけど」
直感は鋭いけど、それを信じないタイプなのか。
俺だってもちろん山本さんをオカズにして抜くつもりだ。
だけどなぁ。
美優がエロすぎてどうにもならない。
目をつむったほうがいいんだろうか。
ひとまず肉棒を掴んでみる。
さきほどまで山本さんのおっぱいで挟まれていた場所だ。
俺ぐらいのサイズじゃ、すっぽりだったな。
あのまま扱かれていたら、気持ちよかったかな。
なによりフェラをしてもらいたかった。
「んっ……あぁ……本当にイけるかも」
男性器は同時に排泄をする場所でもある。
そこを女の子に舐めてもらうって、とてつもなく気分がいいだろうな。
正直、童貞を捨てることよりフェラのほうに興味があるくらいだ。
無理にでも舐めてもらえばよかった。
山本さんめちゃくちゃ上手そうだし。
そのまま口に出しても飲んでくれた気がする。
美優は原則としておさわりNGだからな。
そんな身持ちが堅いところも嫌いじゃないが。
パンパンに張った肉棒を、俺は懸命に扱いて。
それを、美優はジッと眺めている。
そんなことができるくらいなら、もっと先までできても不思議じゃない。
一般のカップルだってオナニーの見せ合いなんかしないだろう。
しかも口に出した精液を飲んでもらえるなんて、踏み込みすぎなくらいだ。
Tシャツをくっきり形作る美優のおっぱいは、ブラジャーによってみっちり固められている。
体は小柄な分パイズリには向かないけど、一番深いところなら、美優でも俺の肉棒を包み込むくらいできるよな。
美優ならパイズリでもいい。
というか、美優の体で何かしらのご奉仕をしてもらえたら、死ぬまで射精できる気がする。
俺のオナニーを観察するあの冷たい目。
そのままこの右手の代わりに手コキしてくれたら今までの三倍は出る。
激しくでもねっとりでもなく。
ただ性欲を処理してくれるなら、俺は。
「────っ! ……やっ、ばい…………!!」
美優の事を考えてる最中なのに。
射精のスイッチがもう入りそうだ。
ダメだ。
これじゃあ美優をオカズにして抜いてることになる。
「出そう? んっ」
美優が口を開いて近づけてくる。
もう、ダメだ。
出したい。
ここに出したい。
今の射精感のまま、ドバドバ精液を出して美優に飲ませたい。
「美優……!」
「──あのぉ。お客様? 大丈夫でしょうか?」
再び店員から声をかけられて、美優の方も焦って、俺のペニスの根元をギュッと締めてきた。
だが、もう射精のスイッチは入ってしまった後。
もう出るのを止められないと、俺は首を横に振って美優に伝える。
不意に、カーテンの端っこがゆらりと動いた。
よもや店員が無断で中を覗こうとはしないだろうが。
長期利用に加えて、俺が荷物を外側に置きっぱなしにしていることもある。
居るかいないかの確認くらいはされるかもしれない。
そんな恐れから、美優は咄嗟にカーテンの端を押さえた。
早く返事をしないと、余計に店員が不審がる。
かと言って男の俺が返事をするわけにもいかず。
その声かけには、美優が答えるしかなかった。
「すみません。服を着るのに時間がかかってて。もう出ますから」
俺の精液を受け止めるはずだった口は、店員との対応に持っていかれて。
代わりに、カーテンを押さえているのとは別の腕で抱えられた美優の胸が、亀頭を丸々と挟み込んでいた。
「ぁっ──!!」
グピュビュルルル、ビュッ、ビュッ、と射精よりも排尿に近い感覚で、精液が美優の胸元に注がれていく。
最初は肉厚な胸で見えなかった白い液体が、谷間に押し出されて湧き出し、溝に溜まっていく。
「何度もごめんなさいね。確認するのが決まりで」
「こちらこそ、心配おかけして申し訳ないです」
そんな中でも、美優は平静を装って店員と応対していた。
俺はその間、ずっと美優の胸の中に射精をし続けていた。
ドクドクと脈打ちが終わり、落ち着く頃には、美優の谷間に卑猥な湖が出来上がっていた。
美優の店員との会話も終わり、美優がカーテンから手を離すと、にゅぽっとペニスが谷間を離れる。
ついに出してしまった。
服を着たままの美優の体に。
こんなにたっぷりと、濃い精液を。
その光景が、鮮烈に俺の脳裏に焼き付いていく。
出してもなお、射精したい欲望が収まらない。
それから、しばらくは、無言。
美優は目を閉じて、呼吸を緩やかに落ち着けていた。
腕で胸を強く抱きしめたまま。
力を緩めたら、きっとお腹まで精液が垂れてしまうんだろう。
「えっ、と。ティッシュ取る?」
俺は美優のバッグに目をやりながら尋ねる。
美優は何も答えなかった。
答える余裕がなかったのかもしれない。
服を汚されるのを極端に嫌っていた美優だ。
着衣状態で胸に出されたとなったら、心も穏やかではないだろう。
俺は心の中で何度も謝罪を繰り返しながら、美優のバッグを漁った。
そこにあったのは、ハンドタオル一枚だった。
「あぁ……」
美優は、こういう状況なのをわかっていたのだ。
俺の射精量が多すぎて、タオル一枚じゃ拭ききれない。
「ま、待ってろ! こっそりトイレから紙を取ってくるから!」
俺はパンツに精液がつくのも気にせず、トイレットペーパーをまるごと拝借しに駆け出した。
店員に不審がられたが、そんなことを気にしていられる余裕もない。
一刻も早く紙を取ってこないと。
取り返しのつかないことになる気がする
「────美優!」
俺は慣れない全力ダッシュで息を切らしながら、服の内側に忍ばせてきたトイレットペーパーを取り出した。
試着室で待っていた美優は、俺が飛び出したときと全く同じ姿勢で、目をつむっている。
「持っ……てきたけど」
急いで拭いてやりたい。
でも、なおも美優の体に触れていいのか迷う。
ひとまずトイレットペーパーを広げて、いくつかの束にまとめた。
そうしてるうちに、美優は特大のため息をついて、ようやく顔を上げる。
「とりあえず、上の方、取って」
美優が口を開いて、同時に目も開いた。
ほのかに目と頬が赤くなっている。
俺は焦燥感を隠しきれずも、急いで紙をあてがった。
一回、二回と、ロールを転がして。
溜まった精液を拭き取っていく。
「上はもういいから。下の方にも入れて」
美優は平坦な声で指示をする。
下ってことは、お腹の方からってことだよな。
いいのか。
って迷ってる場合でもない。
これで縁を切られることになろうとも、俺は最善を尽くすまでだ。
「い、入れるぞ」
俺は美優の下乳にペーパーを挟み込んでいく。
幸いにも、お腹の方には垂れていなかったようで。
服にも精液がかかっている様子はなかった。
「うん。ありがと」
美優はトイレットペーパーが下乳に挟まっていることを確認すると、強く押さえつけていた胸を開放した。
どうして感謝の言葉が出てきたんだろうか。
お別れの挨拶の暗喩かもしれない。
「怒って、ないのか?」
自分で体を拭き始める美優は、いつも通りとは言えないが、平静を保っていた。
「お兄ちゃんの想像の五百倍くらいは怒ってる」
めっちゃ怒ってた。
ああ、これは。
どうするべきかな。
俺みたいなやすい人間の土下座くらいじゃ、精算できないよな。
「でも、お兄ちゃんが悪いとも言い切れないから。怒らないように頑張ってる」
美優は事実、敵意というものをまったく感じさせなかった。
そこまでしなくても、素直に感情をむき出しにしてくれればいいのに。
「私も出すのには同意したし。直接の原因は店員さんが来たことによる事故だから。胸で受け止める判断をしたのも私。だから、別にお兄ちゃんが悪いわけじゃない」
美優は体を拭き終わると、俺の精液が大量に付いたトイレットペーパーをまとめて、服を買ったときに貰った袋を詰め直して余りに入れた。
「いやぁ、その、理屈ではそうかもしれないけど。でも、俺自身、悪いのは俺だと思うし。たぶん、誰がどう考えても、俺は怒られるべきだと思う」
「そうなのかもね」
「美優の本音は?」
「殺したい」
「だよな」
それが正しい。
それが正しい感情なんだよ、妹よ。
「だから、お互いのためにも、ここは俺に罰を与えてもらいたい」
「わかった」
判断が早い。
「ということで、脱いで」
そんな命令も、だいぶ聞き慣れたような気がする。
パンツのことであっているかと指差しで聞くと、美優は強く首を縦に振る。
そうして、俺は本日三度目となる、人前での下半身脱衣を行った。
そこには、まだ硬さが残ったままのペニスがぶら下がっていた。
「口塞いで。思いっきり。絶対に声が出ないように」
「うぇっ……お……おぅ……」
とてつもなく怖ろしいことが起こる予感がする。
だが、逆らったらいけない。
躊躇ってもいけない。
何を言われても素直に従え。
美優に言われたとおり、両手で口を塞いで。
さあ、覚悟はできたぞ。
「思いっきりやるからね」
美優は膝立ちになって俺の腰を掴む。
恐怖で、俺の肉棒は、再び硬さを取り戻していた。
どうなってるんだ、俺の脳は。
「よくもこの私の体を……」
美優は大きく口を開く。
その口を、俺の硬直したペニスの亀頭の後ろぐらいまで覆いかぶせる。
直後。
「──ッんんんうぅぅぅぅぅぅぅううう!?!?!?!?!?!?!」
ペニスの半分が焼かれたようだった。
ブチブチと繊維がちぎれる音すら聞こえてくる。
グッチュッと尿道が潰れるような感覚まで響いてきて、それはもはやイメージを超越して痛みだけが現実まで伝わってきた。
「んぐ~~~!!」
美優が思い切り俺のペニスを噛んでいた。
凄まじいほどの憎悪を込めて。
やばい、やばい、やばい、死ぬ。
膝がガクガク震えてきた。
目がチカチカする。
これはもう、逝った……。
「ふん!」
美優の口、正確には歯から開放されたはずの肉棒は、ピクつくたびに噛み痕を広げて、俺に激痛を与え続けてくる。
「ぁぁぁぁぁ……くぅ……っ」
俺は両手を突いてくずおれた。
人生で二度と味わうことのないであろう痛みに、俺は涙と笑いを一緒に出していた。
それは悲鳴であり、喜びでもあった。
決して俺が、ドエムというわけではない。
美優にこれほどの怒りをぶつけてもらえたということは、まだ関係を修復する余地があるということにほかならないからだ。
それが、どうしようもなく、嬉しかった。
「じゃ。私はこのカゴを持って先に帰るから。買ったやつ忘れないでね」
美優はそそくさとカーテンを半分ほど開けて、靴を履き始める。
俺は引きつる横隔膜と格闘していた。
「い、一応、聞いておくけど。大丈夫?」
美優は後ろめたそうに声をかけてくる。
声で応える余裕のなかった俺は、サムズアップだけ返すと、美優はザッとカーテンを閉めて行ってしまった。
「あー……」
人目がなくなって、余力も尽きた俺は、そのまま床に倒れ込む。
今日一日のショックが全てどうでもよくなるくらい痛かった。