妹がエロすぎる。
ショッピングモールの騒動から一夜明け、ベッドに横たわる俺は、ギンギンに勃起したペニスを持て余していた。
あれから美優には「山本さんがエロかった」「山本さんのおっぱいが最高だった」と言いまくって、いかにも俺の精神が健全になったようにアピールをした。
その実態は、悪徳弁護士もびっくりな虚偽宣伝である。
俺のイチモツを硬くさせているのは、美優のおっぱいだ。
事故とはいえ、あの美優のおっぱいに精液をぶっかけてしまった。
しかも外で。
あの暑い中、美優は俺にかけられた精液のニオイを気にしながら電車で帰ったのだろう。
あるいは、事前にお手洗いで入念に拭いていたということも考えられるが。
そんなところまで含めて俺の精液を処理している美優のことを考えると、睾丸が緊急増産を始めたようにすぐ射精をしたくなるのだ。
オナニーをしたい。
だが、美優以外をオカズにして抜ける気がしない。
山本さんにあれだけのことをしてもらったのに、最後の最後で美優とあんなことになったせいで、また妹でしか抜けない体になってしまった。
「お兄ちゃん。起きてる?」
コンコン、としっかりノックの音が転がり込んでくる。
俺はすでにパンツまで下ろして完全に肉棒を露出させている状態。
ドアを開けられたらオナニーをしようとしていたことがバレてしまう。
「起きてる。けど、寝てる」
的確な状況説明をすると、美優がそろっとドアを開けて中を検めてきた。
「おはよう?」
美優は小首をかしげながら挨拶をしてくる。
たぶん俺の肉棒が勃起していることに対するおはようなんだろう。
「おはよう、だな」
そういう意味を込めて返事をする。
美優は気にせず中に入ってきた。
今更どうこう言うことでもないのだが。
兄がオナニーをしていても部屋に入ることを躊躇しない妹ってどうなんだろう。
「写真を撮って彼女募集したいんだけど」
美優は当然のようにデジタル一眼レフカメラを首から下げてやってきた。
わかってるぞ妹よ。
俺は驚かない。
「どんな風に撮ればいいんだ?」
「とりあえず、それ一枚撮る?」
「いやいやいや」
こう平然と話をしているが、もちろん俺は下半身裸で勃起している。
そのうち美優と日常会話をしているだけでムラムラしてしまいそうだ。
「まず抜きたい」
「はーい」
美優は俺のベッドの前に座ってカメラをイジり始める。
普通なら兄がオナニーをすると言ったら部屋を出ていくものだろ。
いや、本当に普通の兄妹ならオナニー宣言なんてそもそもしないけど。
美優は俺がこの右手で扱くネタを山本さんだと思っている。
俺もできればそうしたかった。
でも、できない。
どんなエロいことを考えようとしても、あの美優のおっぱいに妄想を支配されてしまう。
俺が美優をオカズにしないために彼女になってくれそうな友達を紹介してもらうつもりだが、はっきり言って童貞を卒業したくらいで美優を忘れられる気がしない。
俺は肉棒を擦りながら、チラと美優を横目にやる。
やや大きめのブラウスを着た美優は、昨日ほど胸の形がくっきりしていない。
だがその分、隙間から覗ける肌色の面積が増していた。
小さな体に、歳不相応に艶やかな柔らかい肉。
それは力んでいないだけの筋肉だったり、あえて残した贅肉だったりする。
美優はどんな体が理想的に見えるのかをよくわかっている。
まるで自分を投影したアバターを俯瞰して作っているかのように。
洗練されたスタイルを保ち続けていた。
そんな女の子に、俺はいつでも精液を飲んでもらうことができる。
今みたいに肉棒を表立って扱いて。
興奮に喘いでも、この妹は気にしない。
出ると告げれば飲みに来るし、出しに行けば受け止めてくれる。
そんなもの、それそのものがオカズとして足りるに決まっている。
「……あっ…………美優……っ……!」
動かす手を速くする。
肉棒はより硬くなって、睾丸がせり上がってきた。
カタパルトを固めて弾丸を装填するように、射精感がじわじわと広がって、発射の準備は着実に進んでいく。
「ん? 出そう?」
カメラのメモリを眺めていた美優が手を止めた。
しまった。
つい美優の名前を出してしまった。
あくまでも山本さんをオカズにして、美優には精液を処理してもらうだけってことになっているのに。
「んっ……はぁ……いや……どうやって……出したらいいかなって……っ……」
俺はベッドで仰向きになっているから、必然ペニスも上を向いている。
亀頭をパクっと咥え込んでくれれば何も問題はないのだが、そうしてくれない美優には上手く口に入るように出さなければならない。
だから、重力の方向的に仰向けのまま射精するわけにはないのだ。
「出すときにこっち向いてくれたらいいんじゃない?」
美優はスマホに手を持ち替えながら答えた。
寝返りを打って肉棒も横にしろと。
美優が言うならそうさせてもらうが。
この体勢、なんかエロい。
無言で性器を刺激し続ける。
寝たまま飲んでもらうのは初めてだ。
夢精したときは、舐め取ってもらっただけだし。
肉棒以外の部分だけど。
それでもあれは死ぬほど気持ちよかった。
思えば美優との接触らしい接触ってあれだけだよな。
もっと触って欲しい。
触らせて欲しい。
美優の体温を、もっと感じたい。
「うっ……くぅ……美優…………出る……」
更にストロークを加速させる。
美優は、返事もそこそこに、スマホを片手に持ちながらベッドまで乗り出してきた。
横向きの俺のペニスの前で美優は口を広げる。
前後感覚がわからないが、位置調節は美優が上手くやってくれているはずだ。
一人でするときも、ティッシュの構える位置などに気苦労するのに。
それを相手に任せられるのも興奮材料の一つだった。
俺からすれば好きにぶっかけているだけ。
それを、美優が上手に飲んでくれる。
美優の横顔が遠くにあって。
精液を飲むのに邪魔にならないよう、長い髪を耳に掛ける。
その仕草を見た瞬間、射精欲が爆発した。
「美優ッ…………ああっ……出ッ──!」
ビュク、ビュク、と精液が吐き出される。
俺もどこに飛ぶかわからない場所に。
その瞬間、美優は俺の亀頭が口に入るくらいに顔を近づけて来る。
ずっとそうしてもらってきたことだが、横から眺めていると口の状態がわからない分、フェラチオをしてもらっているような錯覚があった。
美優の頬の内側に、俺は精液を出している。
回を増すごとに確実に精液の量は増えていて、それでも美優は、何も言わずに飲み込んでくれる。
全てを吐ききると、美優は口を離した。
先っぽから垂れそうになっている分は自分で拭かないといけない。
この点に関する不満は未だ無くなりそうにはないが。
今回も気持ちのいい射精だった。
「……なあ。一つ、聞いてみてもいいか?」
俺はパンツをズリズリと上げながら、とある疑問を美優にぶつけてみる。
「なに?」
「その、だからどうってわけじゃないんだけど。精液、不味くないの?」
「不味いよ」
美優は即答して、口の中でしきりに舌を動かす。
まあ、そうだよな。
苦いし生臭いしで。
本来は飲むものではないし。
「でも、嫌ではないんだよね」
「うん」
「なんで?」
「さあ?」
美優はこっくり首をかしげる。
自分でもわかっていないのか。
色々と聞きたいことはあるけど。
それが原因で飲んでもらえなくなるのも嫌だからな。
でも、もうひとつだけ。
「一番最初から疑問に思ってることがあるんだけど」
「はい」
「他の人のを飲もうとは思ったことはないの?」
これを男性経験と呼んでいのかわからないけど。
要するに、実の兄の精液を平然と飲めてしまうくらいなんだから、クラスの男子の手伝いとかしてても不思議ではないよなということ。
極めて失礼なのはわかっているのだが、これだけ可愛い妹が、男から全く言い寄られないわけがない。
「むっ。すごく答えづらいことを聞かれてる」
美優は眉根を寄せて考え込んだ。
あれ、待てよ。
そこは「ない」って即答してくれるものだと思っていたけど。
「お兄ちゃんが聞きたいのは、要するに。お兄ちゃん以外の人に対して、私に精液を飲ませることを許せるのかってことだよね?」
うん?
若干ニュアンスが違うだけで、意味は同じだよな。
なぜそう言い換えた?
「黙秘します」
「なんで!?」
「黙秘します」
ツーンと目を閉じてそっぽを向く。
この態度、どこかで見たことあるぞ。
そうだ。
ツンデレ系ヒロインが勘違い系主人公に見当違いなことを言われた時の対応だ。
こいつはデレないけど。
「そうか。まあ、変なことを聞いて悪かったな」
「いいから写真撮るよ。ほら、着替えて着替えて」
俺は美優に言われるがままに服を着替え、髪を整える。
せっかくだからと化粧水やら乳液やらで肌をキレイにしてもらって、お姫様にでもなった気分……にはならなかったが。
俺は玄関の全身鏡と向かい合う。
美優はいつのまにかメガネと指示棒を身につけて横に立っていた。
ペシペシと指示棒で手のひらを叩く美優。
大丈夫だ妹よ。
俺には何一つ疑問に思うことなどない。
「感想は?」
「チャラい」
「はい。では勉強机に向かって真面目な顔をしましょう」
「ギャップ狙いか」
「ハナマルです」
どことなく大きく腰を振りながら階段を登っていく美優。
小柄なのに巨乳。
歳下なのに先生。
俺はすでに猛烈にギャップにやられている。
「はい。撮りますよ」
俺は美優の演習ノートを前にして椅子に座った。
決して対価として宿題を手伝わされているわけではなく、「こんなん余裕だろ」みたいな顔をさせるための工夫らしい。
パシャパシャとシャッター音だけが溢れる室内。
俺も俺でカメラマンの経験がないわけではないからな。
自分が撮られるより美優の姿を撮りたい。
そして待ち受けにしたい。
「こんなものかな。そしたら次は朝食にしましょう」
美優はメガネと指示棒を机に置いて、カメラは首に下げたまま。
ドアを開けて俺を先導する。
「そういや俺の当番だったか。悪いな」
「エッチなことより妹の腹事情を考えてください」
「すんません」
俺ばっかりオカズをいただいて申し訳ない。
なんてしょうもないことを考えながら、リビングに下りて冷蔵庫の中身を確かめる。
「食材は……玉ねぎだけ大量に余ってんな」
「私とパパとママが同じ日に特売を買ってきたからね」
「連絡くらい取れよ……」
両親は家の事情をあまり知らない。
放任主義というか、昔からあまり家にいることはなく。
かといって仲が悪いわけでもなくて、思春期のこの年頃からしたらむしろ良い方だ。
「しょうがない。てきとーに卵と肉を混ぜて消化するか」
親子丼もどき。
朝から重たいけど。
カウンター形式になっている我が家のキッチン。
その対面から、ひょっこり美優が顔を出した。
「みりん切らしてるよ」
「そこは買えよ!」
ええいままよ。
すき焼きのタレで誤魔化してやる。
俺が怒りに任せて計量をしていると、また外側からパシャパシャと。
美優は正面に回ったり後ろ姿を撮ったり忙しい。
「そういや、親父たちは?」
「仕事に行ってるよ」
「ついに休みの日まで働くようになったか……。ご苦労なこった」
「パパが長期休暇を取れることになったから、旅行のために資金を貯めてるんだって」
美優の情報では、ちょうど夏休み期間に入ったぐらいに、夫婦で海外へ行くらしい。
両親がいきなりどこかに行くなんてうちじゃ珍しくないことだが、海外とはまた大規模だな。
しばらくしてシャッター音が止んだ。
美優がカメラとスマホを無線通信してデータを送っている。
「写真はもういいのか?」
「うん。良さそうなの選んでおくからご飯よろしくね」
「はいよ」
俺は冷凍庫にラップしておいた米をレンチンして、多すぎる分量の玉ねぎを角切りし、ご飯のお供になるくらいの肉を転がして卵を混ぜた。
味付けは完全に俺の好みに整える。
驚くべきことに、俺が美味いと思った料理には一度も文句を言われたことがない。
美優が作る料理もいつも美味しいし、うちの家族はみんな味覚が似通っているので楽だ。
皿に盛ってテーブルに並べる。
美優はカメラを背後の棚に置き、差し出された箸を取って手を合わせる。
俺は美優の対面に座った。
「いただきます」
もぐもぐと。
食べ始めると、誰も喋らなくなる。
俺と美優は、家族とどの組み合わせで卓を囲んでいても、食事の時は気まずいくらいに無言だ。
日常的に美優と会話をするようになったのは、おはようとただいまを言うようになってから。
会話のきっかけというか、やっぱり挨拶は大切なんだと思い知らされる。
それでもなお会話がないのが食事の時間だった。
別に食事中にお喋りをするなと言い聞かされてきたわけじゃない。
むしろ両親から率先して話題を振ってくる。
そうしないと、まだ美優以外と話し慣れていない俺と、必要な時しか喋らない美優が口を開かないからだ。
食事を開始して五分ほど経っても、やはり会話はない。
通例なので実際に気まずさはないのだが、美優とも常々一緒にいられるわけでもないので、話せるうちに話しておきたい。
「美優は、さ」
発声してしまった。
美優と目が合って、もう続けるしかない。
「夏休みはどうするんだ?」
俺は短期バイトをしているとき以外は、ほとんどの時間をゲームやイベントなどで潰していた。
両親が出かけるたびに家事の代行をさせられて。
仕事があることに対する謎の充実感はあって。
そこで気づくのが、毎年毎年美優はある一定期間だけ家からいなくなるということ。
逆にそれらの外出を除くと、ほとんど家にいる。
こうして二人分のご飯を作ることが多くて、美優は食事が終わると俺と同じように部屋に引きこもるのだ。
「いつも通りだけど」
ぽつんと、答える。
またしばらく静かになった。
いかん。
どうやって話を続けよう。
「たまに、旅行に行ってるよな。荷造りしてるの見たことないけど」
美優の不思議の一つ。
旅行に出かけるときの装備が異様に軽い。
「今年も誘われてるよ。着替えは遥が用意してくれてるから持っていかないの」
遥ってあの目玉が飛び出るほどの美少女か。
美優に忘れろと言われてから本当に忘れていた。
他人の服まで全部用意するって、あの子はどこぞのお嬢様か何かなのだろうか。
あんな普通の学校に通ってるけど。
「どこ行ってんの?」
「色々」
「たとえば?」
「離島とか」
「なにしてんだそんなとこで……」
「それは言えない」
美優は中々にガードが固い。
わかったのは遥がやはり金持ちだったということだけ。
もし二人きりで旅行をしているのだとしたら、言えない理由に察しがつかないでもないけど。
美優と遥ってどんな関係なんだ。
「お兄ちゃんはまたイベントスタッフのバイトするの?」
「その予定。新しいとこ面接しに行くのも面倒だし。優待チケット貰えるし」
「時給もいいよね。拘束時間でお金が出るのは羨ましいよ」
「しかも有名アーティストのライブを覗けるときもあるしな。正直他のバイトはやる気もしない」
「それで立派なニートの出来上がりに……」
「ちょっと人より長く家にいるだけだろ!」
そもそも学生が働かなきゃいけないって考えが間違いなんだ。
俺は悪くない。
「エッチなゲームしてる暇があったら働けばよかったのに」
「生きがいより金を優先したら何も残らないだろ」
今じゃその生きがいも変わってしまったけどな。
うん。
何に変わったんだっけ。
「生きがい、ね」
美優は玉ねぎとたまごを箸で器用に掴んでご飯に乗せる。
こいつは人生楽しそうでいいよな。
顔も良いわ器量もあるわ友達も多いわで。
そんな妹に世話をしてもらって。
俺も少しはマシになっただろうか。
イメチェンしてまだ一週間も経ってないけど。
何よりも、大きな進歩があったよな。
「美優とこうして仲良く話せる日が来るとは思わなかったよ。話してみると、なんだ。楽しいもんだな」
喉の奥のむず痒さに耐えつつ、なんとか思ったことを言葉にしてみる。
「そう?」
と美優は素っ気ない態度。
平常運転ではあるけど、頑張った分少し寂しい。
「いや、なんつーか。どん底にダメな男ではなくなったかなと。だいぶ、変わったような気がする」
ひと月前まではオナって寝るだけの生活だった。
オナりまくってる日々は現在進行形だけど。
コミュ力がついたことは間違いない。
学校でも、小野崎とか山本さんと問題なく話せてるし。
「ふーん」
美優は俺の話を聞くより、切り損ねた胸肉を箸で引き剥がすのに夢中になっていた。
この妹は服と彼女の話以外はほんとに興味を示さないな。
「まだまだつまらない男というわけか」
さっきは「仲良く話せる日が来るとは思わなかった」なんて言ったけど。
美優としてはそうでもなかったのかな。
「前も言ったけどさ。お兄ちゃんって思い込み激しいよね」
ザクッ、と。
心に突き刺さる氷の言葉。
この妹はデリカシーというものを知らない。
立場が逆なら世間様から非難囂々だ。
「コミュ障のキモオタで悪かったな」
ネットで叩かれているような勘違い系男子にはなりたくなかった。
俺も叩く側だったし、そこまで空気の読めない男には絶対にならないと思っていた。
それこそ、浅はかな思い込みだったわけだ。
「お兄ちゃんは世間の言う悪いオタクに自分が当てはまってるって思ってるみたいだけど。自信がないからその悪い風評に自分を当てはめてるだけでしょ。自虐するのは勝手だけど、それで人に当たるのはどうかと思う」
メンタル致命傷レベルの一太刀だった。
本命の刃を隠し持っているとはやるな妹よ。
言っていることは尤もだが、モテない男の視点で物を考えたことがあるのかお前は。
「事実、美優は俺のこと良く思ってなかっただろ。俺には何年も女の子に声もかけられなかった否定しようのない過去があるんだ。妹にすらな」
そんなに俺に魅力があるというのなら。
もっとお兄ちゃん好き好き言ってみろってんだ。
「私? 別にお兄ちゃんのこと嫌いじゃないよ?」
美優はまたご飯を一口パクりとする。
「え、マジで」
「うん。今も昔も、私はそんなに変わらないつもり」
いや、変わってるだろ。
明らかに接し方が今までと違うって。
おかしなことを言うなよな。
いいか。
俺は決して、妹の意外な返答にドキッとなんてしてないからな。
「今はどうか知らないけど。昔は嫌いだったんじゃないのか」
「どうして?」
「全然話かけてくれかったし」
「それはお兄ちゃんも同じだと思うけど」
うっ。
言われてみれば、その通り。
話しかけようとしなかったのは俺も同じだ。
美優のことは、嫌いじゃなかったのに。
「でもほら。俺と違って美優には友達がたくさんいるだろ。俺は単にコミュ障だけど。美優は喋れないわけじゃないし」
半ば混乱しつつ、思ったことをとりあえず口にした。
美優は首をひねって悩んでしまう。
「私は学校でもこんな感じだよ?」
「でも話しかけられたらよく喋るだろ?」
俺は得意げに質問を返した。
そのつもりが、自分で発した言葉に、酷く違和感を覚えてしまう。
話しかけられたら喋るって。
それ、俺のことか。
「お兄ちゃんだって私が話しかけたらよく喋るし。山本さんとも普通に会話できてるよね?」
美優に改めて気づかされて、俺は返す言葉を失った。
なんだったんだろう。
この頭の悪い思い込みは。
見た目は美優のおかげでだいぶマシに変わったけど。
中身の方は、そんな簡単に変わるはずもなかったんだな。
「そっか。悪いな、なんか。俺、ずっと美優に嫌われてると思ってた」
「嫌いかぁ。うーん……」
美優は食事をする手を止めて考え込んでしまう。
正直な気持ちとはいえ、伝えるべきじゃなかったかな。
「うちはさ。親の帰りが昔から遅かったじゃない?」
おもむろに口を開いた美優。
俺は瞬きと頷きで同意する。
「それでお兄ちゃんには、ご飯を買ってきてもらったり、本棚を組み立ててもらったりして。まあ、パパとママに言われたからやってたんだろうけど」
小学生のときの話だ。
美優の言う通り、両親はよく俺を使い走りに出した。
娘可愛さもあり。
お前は男なんだからと、あれこれやらされた。
「今もこうして、ご飯とか作ってもらってるし」
美優は皿に残ったたまごを箸でちょこちょこと集める。
「妹は結構、感謝しているのですが」
美優はたまごをひとまとめに掴むと、一拍置いてから口に含んだ。
「おっ、おまっ──!」
ガタン、と、椅子を蹴飛ばしてしまったことも気にせず、俺はうろたえながら美優を指差す。
「お前な、こんな時にやめろよな、そういうこと言うの……!」
過剰反応であることはわかっている。
それでも、俺はどうにかして、その事実を頭から振り払いたかった。
美優の感謝の言葉を聞いた瞬間。
心臓を直に握られたように、ドクンとただならぬ脈動が起こってしまった。
そこから生まれたわけのわからない恐怖感から、俺はなんとか逃れたかった。
「はっ。しまった。お兄ちゃんがまた妹に惚れてしまう」
美優は片手で顔を隠す。
「否定できないところがほんとに腹立たしい」
いっそのこと惚れさせてくれ。
「まあまあ。日照りすぎて妹なんかに欲情しちゃうお兄ちゃんにも、ちゃんと彼女はできますから」
美優はまたスマホを取り出して、女友達のリストを見せつけてくる。
この中の誰かが、俺の彼女になってくれるわけだが。
前に見たときほど心が昂らなくなっているあたり、もう手遅れなんじゃないかと思う。