※この作品はR-18です。

俺の妹が最高のオカズだった   作:風見 源一郎

19 / 100
それはもはや呪いに近いもの

 

「二名様のご利用ですね。では、代表者様のお名前とご住所の記入をお願いいたします」

 

 ネットカフェの受付で、カップルシートの利用を希望した俺と佐知子。

 

 入り口だけは良い雰囲気の作りになっていて、ホテルのフロントをカジュアルにしたような、白黒が基調の落ち着いた空間になっている。

 

 俺は学生証を取り出し、備え付けのペンを取って受付用紙に指定の情報を記入する。

 個人情報をこんな簡単に書いてしまっていいものか。

 

 みんなが使っているという以外の理由を見つけられないまま、俺は不安を押し殺してペンを走らせた。

 

 30分の利用料金が一人あたり210円。

 漫画が読み放題でドリンクバー付きと聞けば、安いようにも感じるけど。

 繰り返し気軽に使えるほどではないよな。

 

 あんまり来すぎると店員に顔を覚えられそうだし、美優に部屋を使っていいと言ってもらえてよかった。

 

 今日は社会見学と割り切ろう。

 

 やることは、不純異性交友だけど。

 

「ありがとうございます。では、当店のご利用方法について説明させていただきます」

 

 エプロン姿の店員が、ポートフォリオを捲りながら設備の使い方と利用規約を説明する。

 その中には当然のように淫らな行為を禁止する文言が書かれていた。

 

 見つかったら即退室、あるいは罰金から通報まであるのか。

 

 やはりというか厳しいな。

 

 佐知子は終始無言のまま。

 

 利用中を示す札を渡されて、店員に部屋の場所を地図で案内される。

 

 なぜ鍵ではなく札だったのか。

 

 それを理解する頃には、俺は自らの過ちに多大なる後悔をしていた。

 

「これって……」

 

 佐知子が小さく声を漏らす。

 

 そこにあったのは、隣と板一枚だけで区切られた簡素な部屋だけだった。

 扉の下部には外から内部を確認するための小さな隙間があり、屈めば中で何をしているのかを覗けてしまう。

 

 なにより、壁が薄かった。

 

 鼻をかむ音も、ヘッドホンを置く音も、すぐ隣の部屋のものなら簡単に聞こえてしまう。

 

 不用意に動くとすぐに音が出てしまうがために、全員が努めて静かにしている。

 

 カップルシートは一帯でまとまっているものの、一組の男女がたまにおしゃべりするくらいで他は無人と変わらないように静まり返っていた。

 

「画像では完全に個室っぽかったんだけどな」

「もしかして、お店を間違えてました?」

 

 靴を脱いで個室に上がると、俺はスマホを取り出して店の名前をネット検索した。

 その結果わかったのは、似たような名前のお店に誤って来てしまったこと。

 

 佐知子が自分が通っている塾の近くだと発言したことから、そこが当初予定していた場所だと思い込んでいたが、実のところ完全個室のネットカフェは駅の反対側にあったらしい。

 

「すみません、私のせいで……」

「いや、普通に気づけるミスだったし。俺が注意してればよかった。ごめんな」

 

 さすがにこんな場所でエロいことはできないか。

 初めて来た場所ってだけでもテンションは上がるし、漫画もドリンクバーも揃ってるから一時間くらいはゆっくりしていこう。

 

 部屋はビニール製のシートで黒に統一されている。

 雑魚寝するにはちょうどいい場所で、パソコンのある足場だけが床を取り外せるようになっている。

 防音効果があればもっとくつろげるんだけどな。

 だから完全防音の個室は需要が高いのか。

 

 せっかくのカップルシートなんだし、おしゃべりくらいは気兼ねなくできるような場所であってほしかったな。

 小声でしか話せないのは、それだけで悪いことをしているようで気が咎める。

 

 佐知子は部屋に入ってすぐに横になって、隅っこに畳まれていたブランケットを手に取った。

 

 せっかく漫画もドリンクもあるのに寝てしまうのか。

 

「カップルシートですから、カップルらしいことしませんか?」

 

 佐知子は声を抑えて、寝転んだ体のすぐ横をぽんぽんする。

 

 一緒に寝ようってことか。

 

 それもいいかもな。

 

 佐知子には家が使えることはまだ言ってない。

 せっかく二人で寝られる場所を使いたいんだろう。

 

 俺も荷物を端に置いて、佐知子と同じ向きで横になった。

 

「違います違います。座ってください、ここに」

 

 俺が寝てすぐ、佐知子は俺に起きるように促してきた。

 

 添い寝ではなく膝枕がご所望か。

 

「こういうのは男が女にしてもらうものじゃないのか?」

「お兄さんが何も言わないのがいけないんですよ」

 

 佐知子は髪留めを取って俺の膝に頭を乗せる。

 

 そして、腰に手を回して、ギュッと顔を押し付けてきた。

 

 まだ恋人らしい関係とは言えない俺たちだが、佐知子の方にはそれなりに恋人らしさに対する憧れがあったようだ。

 

 俺は佐知子の髪を撫でてやった。

 

 佐知子が恋人らしい触れ合いに憧れるのも当然だ。

 彼氏が欲しいという理由で俺に応募をかけてきたわけだし。

 

 お腹にグリグリと頭を擦りつけてくる佐知子に、俺は片方の手は撫で続けたまま、空いた腕でギュッと抱きしめた。

 

 昨今の女の子は、条件さえ合えば惚れ込まなくても男と付き合うのか、佐知子からすれば俺はいい男なのか、それはわからない。

 でもこれだけ好意的に接してもらえるのは、悪い気はしないよな。

 

 膝もとに触れる人間の温もり。

 

 一人の少女の温度。

 

 心地いい。

 

 というよりも、気持ちいい。

 

「むっ。お兄さん。これはなんですか」

 

 ツンツンと指先でなじられる、テントの張った俺の股間部の先。

 

 いや、これはしかたない。

 もとより女体に触れることに慣れていない俺だ。

 そんなに柔らかほっぺをスリスリされたら勃ってしまう。

 

「すまん」

「もう。こういうことだったんですね」

 

 佐知子は何かを悟ってブランケットを引き上げる。

 

 こういうことっていうのは、美優がお付き合いにセックスを前提にしたことについてだろうか。

 俺が他の人より性欲が強いのは認めるけど、これで毎日やりたくてしょうがない人みたいに思われるのは心外だ。

 

「声を出しちゃダメですよ」

 

 佐知子はブランケットを被り、俺の下半身ごと頭を覆った。

 暗闇となったその中で、もぞもぞとズボンに触れる佐知子の指。

 間違いなくのチャックを開けられている。

 

 まさか、ここでするのか。

 たしかに、ブランケットを被ってればもしものときに備えられるし、咥える音も抑えられるけど。

 壁は天井まで伸び切っていないし、店員が巡回してないとも限らない。

 そんな状態なのに、俺の肉棒は硬くなっている。

 

 チャックを下ろされて、パンツの前ボタンを開けられるまではすぐだった。

 中からガチガチになった勃起が取り出されて、すぐにニュルリとしたぬめりが亀頭を包む。

 佐知子にとってこれは処理でしかないんだろう。

 そういう行為としてしか佐知子は知識を持っていない。

 

 夏を迎えて蒸し暑くなってきたこの時期に、パンツの中はそれなりのニオイがするはず。

 それも気にせずに佐知子は舐めてくれている。

 

 フェラをされてるんだ、俺は。

 こんな公共の場と言って差し支えない場所で。

 一種の露出プレイにも等しい。

 そんな状況で興奮できるなんて、特殊性癖はシスコンだけじゃなかったってことか。

 

 ブランケットのおかげで、佐知子がどんな顔で俺の肉棒を咥えているのかはわからない。

 音も遮断されて聞こえない。

 

 静けさの中で俺の秘部だけが快感に浸っている。

 

 女の子に舐められているんだ。

 

 心臓がバクバク鳴って、緊張を通り越してハイになってきた。

 

 だが、それでも、なにか物足りなかった。

 昨日フェラをしてもらったときにはすぐ射精してしまったのに。

 慣れ、とは違うようだった。

 俺が我慢強くなったというよりも、射精に至るための何かが欠けている感じ。

 

 今の俺に足りないもの。

 それは視覚情報だ。

 あのときは、美優にメス顔を教え込まれた佐知子が、懸命に俺の肉棒を舐める姿を眺めることができた。

 だが、いまは温かい粘性が亀頭部を刺激しているだけ。

 

 俺はブランケットを刷り上げることにより露わになった、佐知子のふとももに手を乗せる。

 恋人同士なんだから、生足に触っても犯罪にはならないよな。

 触れた瞬間に佐知子がビクついた気がしたが、黙ってフェラを続けているあたり、合意してくれたとみていいだろう。

 

 俺は内腿のスカートに覆われていた部分にまで手を忍びこませる。

 ふともも、女子の生足、すべすべで白く輝く肌。

 ふにふにのこの肉感、堪らない。

 

 スカートの中を検める興奮は、すぐに股間へと伝わっていった。

 自分の拍動が聞こえるくらいに血脈が膨らんでいる。

 

 もっと視覚情報が欲しいけど、俺の秘部だけブランケットで隠しておいて、佐知子の大事な部分を晒すわけにはいかない。

 

 俺はスカートが捲れないように、佐知子の股間部へと触れる。

 指先が感じ取る刺繍つきのパンツの形。

 チラと見ると、水色が可愛らしい爽やかな下着を履いていた。

 

 下着売り場や妹の洗濯物で散々見てきた女の子の下着だが、履いてる状態ってのは別格だ。

 やはりパンツは穿かれなければ意味がない。

 

 そこから、両脚に挟まれてシワになっている真ん中の部分へと指を運ぶ。

 また佐知子はビクッと反応して、しかし、そこでも佐知子は何も言ってこなかった。

 

 その代わりにというか、ジュブジュブと肉棒にむしゃぶりつく勢いが激しくなる。

 

 佐知子も興奮しているのか。

 

 それを確かめるべく、俺は外側からパンツのクロッチに触れた。

 濡れて、いる、ような気もする。

 だがこれでは汗と判断がつかない。

 

 愛液らしいぬるぬるは感じないし、直接触れてみるしかない。

 ここまで手を侵入させてるんだ。

 佐知子も直に刺激されることくらい理解しているだろう。

 

 パンツをよけて指を忍ばせる。

 

 まだ毛も生え揃っていないその割れ目に、触れた瞬間は、肌の摩擦を感じただけで、佐知子は全くその気になっていないのかと不安になった。

 

 だが、その割れ目に指を沈めてみると。

 

「うわっ……まじ……か……」

 

 薄膜を破られた卵黄のように、指に絡みついてくる佐知子の愛液。

 興奮と同時に、そこには感動があった。

 

 本当に、濡れるんだ。

 

 女の子の膣内がぐちょぐちょになるなんて、言葉責めのための口上でしかないと思っていたのに。

 それはファンタジーなんかじゃなくて、確かにそこに存在した。

 男の、俺の、この硬くなった肉棒を受け入れるために、佐知子の秘裂は粘性をまとっていた。

 

 この指よりも先に、俺のペニスを貫通させた佐知子の肉壷。

 初めて触れるその場所が、佐知子にとっての性感帯にきちんとなっているのか。

 美優がイジっていたときには、気が変になったくらい激しく乱れていたけど、どこをどう触ればアレほど女を狂わせられるんだ。

 

 美優はすごかったんだと改めて思い知らされる。

 肉壁をグリグリとイジって、肉棒を咥える佐知子をいたずらにイジメてみるが、ストロークが変わることもなくフィードバックが得られない。

 

 あんまり強くすると痛いらしいけど。

 逆に弱すぎるのか。

 刺激する場所が悪いのか。

 

 懸命になって、その集中力に自分で気づいたところで、ふと我に返る。

 俺は今、ブランケットに隠れたところで佐知子にフェラチオをしてもらってるんだ。

 なのにどうしてこうも平然としていられる?

 

 つい数日前まであれほど憧れていた性行為を、俺は何事もなく受け流してしまっていた。

 射精感も湧いてこない。

 

 早漏じゃなかったのは喜ばしいことだが、これだと一生懸命にやってもらっている佐知子に失礼だ。

 

 俺は佐知子の肉壁をいじるのをやめて、口による奉仕を受けることに集中した。

 竿の裏側から、玉も舐められるだけ舌を入れて、そのたびに、声を上げたくなるほど快感が走る。

 女の子の口への射精は、美優に何度も相手をしてもらって、それをはっきりと好きなものだと俺は自覚している。

 

 だからフェラチオからの口内射精は、俺にとって最大の快楽であるはず。

 

 なのにどうして、こうも発射のスイッチが入らないのか。

 

 佐知子が下手だなんてことは考えにくい。

 第一に、これまでにないほど、俺の肉棒は佐知子の奉仕に歓喜している。

 

 問題があるとすれば、俺の方か。

 

「んっ……ちゅぶっ……ふあぁ……お兄さん、どう、ですか?」

「気持ちいいよ。すごく。ただ、なんというか、出すのはまだ難しそうで」

「うぅ……そうですか……」

 

 案の定佐知子を落ち込ませてしまった。

 女の子の自信を失わせるのは男として最悪のこと。

 どうにか射精して、佐知子を安心させてあげたい。

 

「場所が悪いのかも」

「緊張、ですか?」

「たぶん」

 

 要因としてなくはない。

 

 でも、佐知子のおかげでエロい気分にはなっている。

 

 理性は徐々に崩れかけているんだ。

 それでも射精できないのは、別にもっと大きな問題がある。

 

「口じゃないほうが、いいかも」

「わかりました。でしたら、仰向けに寝てもらってもいいですか?」

 

 俺が佐知子の指示通りに仰向けになると、佐知子は俺に覆いかぶさって、ブランケットをお尻から被せる。

 

 やや変則的な騎乗位だった。

 

 俺は鞄からコンビニで買ってきたコンドームを取り出して、肉棒へと被せる。

 

 それと並行して佐知子がパンツを脱ぐと、ブランケットの中から、先ほどチラ見した水色のパンツが床に投げられた。

 

 これは傍からみたら、どうなんだろう。

 ただカップルが寝ているだけに見えるんだろうか。

 やや言い訳が苦しい気がするが、もうこうなったら止められない。

 

 結局こんな壁の薄いところでセックスすることになってしまったけど、今はそんな背徳感すら興奮材料にしてしまいたい。

 

「んっ……!」

 

 隠されたお互いの秘部が連結され、わずかに佐知子の声が漏れる。

 

 人生で二度目の挿入。

 

 対面座位で挿れていたときより、安定して根元まで包み込んでもらえる。

 

「はぁ……くっ……!」

 

 まずい。

 

 声を出しちゃいけないとわかっているのに、どうしても漏れる。

 

 男である俺は、女の佐知子よりも快感は薄いはずなのに。

 

「あぁ……さち、こ……きもちいい……」

「んあっ……んんっ…………私も、です……」

 

 きっとすぐ傍にいないと聞こえない音量だ。

 同じ個室にいても、近づかなければわからないぐらいの声。

 ましてや壁一枚の先まで届くはずがない。

 

 そう思うと、もう止められなかった。

 

 子宮に届くくらい、佐知子の奥まで思い切り肉棒を突き立てる。

 佐知子の腰を両手で掴んで、亀頭で子宮口をこじ開けるようにぐりぐり当てていく。

 

「あんっ……!」

 

 驚きと快感で佐知子の喘ぎ声が漏れる。

 

 やや通る声を発してしまった佐知子は、羞恥と恐怖心から俺と密着して、俺の首を音を防ぐ壁代わりにする。

 

 長い黒髪が広がって、顔がすぐ横で交差した。

 小さかった喘ぎ声も、この体勢だとはっきりと聞こえる。

 顔が見えず、佐知子の色っぽい声だけが、俺の耳に届く状況。

 

「はぁ……おにぃ……さん……!」

「────っ!?」

 

 ドクン、と俺の心臓が跳ね上がった。

 

 耳元で漏れた、その佐知子の嬌声に。

 

 途端にこみ上げてくる射精感。

 

 抑えなければと思うその一方で、佐知子は自ら腰を動かし、呼吸と共に抜ける嬌声を俺の耳に響かせてくる。

 

 それはまずい。

 

 やめてくれ。

 

 そんな状態で肉棒を擦り上げられたら。

 

 俺はまた、美優をオカズにして射精してしまう。

 

「佐知子……ごめん……もう…………!」

「イッて、ください……お兄さん……イッて……!!」

 

 迸るものを、俺はついに止めることはできなかった。

 長い黒髪の少女の、美優にそっくりの喘ぎ声を聞いて。

 俺は脳裏に美優の裸を浮かべながら射精をしてしまったのだ。

 

 最高の射精感の後に、最悪の罪悪感が俺を苛んだ。

 

 あれだけ懸命に奉仕してもらって、こんな誰が聞いてるともわからない場所で挿入までさせてもらって。

 最後の最後に、考えていたのは実の妹のこと。

 

 あれだけオカズにするなと言われたのに。

 

 そのために、彼女となる友達まで紹介してもらったのに。

 

 こんな体たらくでは、美優に対しても申し訳が立たない。

 

「できましたね、お兄さん」

 

 そんな事情を知らない佐知子は、眩しい笑顔を俺に向けていた。

 

 俺は軽く「ありがとう」とだけ返して、ゴムを取り出して口を結んだ。

 

 たっぷりと白い液体が包まれている。

 

 これは誰の、何のために出された精子なんだろうか。

 

 考えるのが嫌になって、俺は大量のティッシュでくるんでそれをゴミ箱に捨てた。

 

 お掃除フェラは、ゴム臭いのと、佐知子が精液の味が好きじゃないことから控えてもらった。

 お手拭きを開けて、数枚を使って肉棒を拭く。

 

 それもまた大量のティッシュで覆い隠して、もうそんなティッシュの山自体が不自然なのだが、店員も客のゴミ箱なんて掘り返したくないだろうと思って押し込んでやった。

 

 それから、ただ添い寝するだけの静かな時間を過ごして、俺たちは個室を出た。

 

 靴を履いて、レジへ向かう。

 

「おっ、美優のお兄さんだ」

 

 店を出る途中、出会ったのは佐知子と同じくらいの歳の少女だった。

 

 その茶髪の二つ結びは、間違いない。

 

 俺がスマホにエロ画像を入れていた、その本人だ。

 

「由佳……ちゃんか。奇遇だな、こんなところで」

「ほんと、奇遇ですねぇ、お兄さん。むふふ」

 

 由佳はむっちりと頬を膨らませて目を弓なりにする。

 

 エロとは違う意味で、ここまでイヤラシイ顔を俺は見たことがない。

 

 佐知子のやつは、先に行ったきり、戻ってこないな。

 

 由佳のことは気づいているのかもしれないが、だからこそ気まずくならないために遠ざかっているのか。

 

「ところでお兄さん、ちょっと私のお願い、聞いてもらえませんか?」

 

 由佳は手の甲を壁にしてヒソヒソと話しかけてくる。

 

「なんだよ急に」

 

 俺は由佳のことを何度か話題に上げてもらったから、親しみがないわけでもないけど。

 実際にはリビングで数秒顔を合わせた程度だし。

 そんな相手にお願いなんて、するか普通。

 

「ダメ、ですか?」

「まず要件を言ってくれ。それから判断する」

 

 断るだろうけど。

 

「言ってもいいですけどー。どうせオーケーすることになるんですから、空気を読んで合わせてくださいよ」

「そういう面倒なのが一番嫌なんだよ。延長になると金かかるから。からかってるだけならもう行くぞ」

「えー。話くらい、聞いておいた方がいいと思いますけど?」

 

 急に現れてなんのつもりかは知らないが、なんとなく美優と佐知子がロクでもないと言った理由がわかった。

 

 こいつはロクでもない女だ。

 

「いいんですか? お兄さん…………こんな人の溜まり場で、中学生とエッチなことしていた、やらしいやらしいお、に、い、さ、ん」

 

 ゾクッと俺の背筋に冷たいものが走る。

 

 まさか、こいつ。

 

 今までのことを。

 

「こんなところで、偶然バッタリだなんて本気で思ってたんですか? むふふ。そんなわけないじゃないですか」

 

 スマホを片手に体を揺らしながら嘲笑う由佳。

 

 そいつは脅しの道具か。

 

 はたまたブラフか。

 

 最悪、動画を撮られていたとしても、決定的な何かは映っていないはず。

 事の直後は周囲にも気を配っていた。

 ブランケットをかけてもぞもぞやっていたのが怪しかろうが、激しい動きはしていなかったんだ。

 恋人同士の軽いイチャつきで誤魔化せる。

 

「なに言ってんだか。もう帰らせてもらうからな」

「ふーん。そういう態度なんですか」

 

 由佳は大股歩きで、一歩、二歩と進み、俺と佐知子が使っていた個室の前まで移動した。

 

 やや広く開いた距離に、由佳は手をメガホン代わりに添えて、小声ながらもはっきりとした口を動かす。

 

「受付で名前と住所、書きましたよね? それと、学生証もコピーされてるし。悪いことはできませんよ?」

「……動画を撮ったんなら、見せて脅したほうが早いぞ」

 

 どうせ撮っていやしない。

 

 こいつの根拠はそこじゃない。

 

『セックスを前提として付き合う』という条件を呑んだ佐知子が一緒にいたから、していたのだろうと決めてかかっているだけだ。

 

「動画は、ないですけど……」

 

 それみたことか。

 

 俺は弾丸の入っていない銃口なんかに惑わされたりしない。

 

「店員さんに、ゴミ箱の中身を確認させちゃいますよ? 帰った後ならお店も気にしないでしょうけど、実質的に現場が押さえられたら話は別ですよね。淫らな行為は禁止って規約も説明されているはずですし、学校に連絡がいって二人とも停学なんてことも……ねぇ?」

 

 クソッ……こいつ、バカのくせに悪巧みにだけ頭が働くタイプか。

 

 どうする。

 

 ここまでするくらいだ。

 

 言いなりになったら余計に立場は悪くなるはず。

 

 どうすればいい。

 

 考えるんだ、俺。

 

「……なーんて、しませんけど。ほんとにちょっとお話したいだけなんですよ。もっと気楽にいきません?」

 

 由佳はへにゃっとした笑顔で場を和ませてくる。

 

 ここまで含めて作戦とも考えられるが。

 

 よくよく考えれば、お願い聞いてくださいって言われただけだし。

 

 前情報だけで決めつけて争っても不毛なだけか。

 

「話を聞くだけだからな」

「やりぃ! お兄さん、話わかるネ! じゃ、連絡先は佐知子から聞いとくから、詳細は明日送るね、ばいばーい!」

 

 それだけ言って、由佳は自分の部屋に帰ってしまった。

 

 はあ。

 

 これは。

 

 きっとロクでもないことに巻き込まれたな。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。