山本さんに変なお願いをされて、頭がぐるぐるしたままの俺は、予想外に遅くなった帰宅にドアの前で立ち呆けていた。
最近やたらと目が合うようになったと思ってはいたが、俺と二人きりになるタイミングを見計らっていたとは。
しかもその話の内容も謎だし。
どうして俺が山本さんに頼み事をしなければならない?
そもそもなぜ相手が俺なのか。
わからない。
考えたってしょうがないことだけど。
ミステリアスなのは妹だけにしてもらいたいものだ。
「ただいま」
すっかり板についた帰宅の言葉に、返事はなかった。
鍵が開いていたのだから美優が帰ってきているはずだが、部屋に籠もっているんだろうか。
リビングに近づくと微かに鼻腔を突く香ばしい匂い。
魚を焼いたものだ。
香りの強さからして、作った直後か、作っている最中だな。
タイミングが悪く声が届かなかったんだろう。
俺はリビングのドアを開けて、再び帰宅の挨拶をする。
つもりだった、俺の行動は、そのあまりに衝撃的な光景にキャンセルされた。
「み、美優……!?」
救急車を呼ぶべきか、本気で迷った。
美優が倒れているのだ。
ソファーの上で、うつ伏せに。
しかも、ブラウスのボタンが中途半端に開けられて、潰れた谷間が覗いている。
腰からはブラウスどころかキャミソールの裾まではみ出ていて、こんなだらしない格好で美優が寝るなんて考えられなかった。
「美優!! 大丈夫か!?」
俺は急いで美優に駆け寄り、体を揺すった。
背中は上下に動いていて、口からは呼吸音が聞こえる。
「うぅ……」
意識不明というわけでは無いみたいだ。
過労か、熱中症の可能性もありうる。
俺は冷蔵庫から水を取り出し、コップに注ぐと、美優の足を下ろしてから体を起こした。
「ぐぅ……うにゃむにゃ……」
美優は薄目を開けてぐったりしている。
背後から上体を支えてやるが、それでも首が据わっておらず不安定だ。
発熱、発汗はなく、ひとことで表すなら、寝ぼけている状態なのだが。
「美優、どうした。水を持ってきたけど、いるか?」
俺が尋ねると、美優はなんとかわかるくらいに首を横に振った。
このときの俺の脳を支配しているのは不安と恐怖だった。
そのせいで、普段は考えないようなことばかりが浮かんできた。
暴漢に襲われたのではないか。
学校でイジメにあったのではないか。
果てには、海外からやってきた虫に刺されて病気になっているのではないかなどとも考えた。
だから俺は、意識が薄い美優に断りを入れる前に、体に異変が無いかを確かめた。
傷はないか、痣はないか、炎症はないかと。
スカートをめくることもためらわなかった。
焦りすぎて乳首が見えても気に留めなかった。
ブラウスの裾を上げて背中まで確認して、やがてどこを探しても見つからない異常に、俺の頭は冷静になっていった。
「うむぅ……んぁ……ふぅ……」
美優は寝言とも取れない声を出して、全身から力を抜く。
検査のために掴みの甘くなっていた俺の手を、美優の体がすり抜けて倒れそうになった。
それを俺は、抱きとめた。
両手で、がっしりと。
不意のことだった。
そのままゆっくり横にしてやればよかったのに。
頭から床に落ちたら大変だと、無理をして美優の体を支えてしまった。
「おわっ、や、やば……」
俺の手が美優の胸を掴んでいた。
大きくて柔らかい、そのたわわを。
何度も触れたいと思って、一度も確かめることができなかった美優の感触。
予想通りの弾力に、想像以上の柔らかさがある。
少し力を加えれば、それは変形して、指の間から溢れてくる。
そこでやってきた第二の混乱。
俺はブラウスの上から美優の胸を鷲掴みにしているのに、なんでこんなにも柔らかいのか。
間違いなく巨乳に分類される美優の胸を触っているのだから、柔らかいのは当然のはずだった。
なのに、ひっかかる、その違和感。
そうだ。
俺は美優の裸を抱いているわけじゃない。
服の上から胸を掴んでいるのだから、それは硬くなくてはならない。
なぜなら、このサイズを持つ女の子がブラジャーをつけないはずがないからだ。
「つけて、ない……」
無意識のうちに揉んでいた。
その吸い付くような柔らかさに、本能が我慢をすることを許さなかったのだ。
美優のおっぱいを堪能しながら、俺はそれを確かに見た。
テーブルの下に投げ捨てられた大きなブラジャー。
焦るあまり埒外になっていたが、さっき胸に異常がないか確かめたときに気づくべきだった。
ああ、やばい。
柔らかい。
気持ちいい。
これでガチガチに勃ったモノを挟んでもらったら、どれだけの快感が生まれるんだろう。
してもらいたい。
パイズリを。
美優に。
死ぬまでには。
一度くらい。
「ふぁ……んー…………わたし……なんでこんなとこに……」
「み、美優!! 起きたのか!! よかった!!」
俺は慌てて手を離し、美優を開放してソファーを降りた。
そこにはきちんと背を伸ばし、瞼を擦る美優がいる。
「あ、お兄ちゃんだ。おはよう」
「お、おはよう、美優。どうしたんだ? そんな格好で寝るなんてらしくない」
美優は帰宅してから今までのことを覚えていないようだった。
今日は何かあるかもとは聞いていたが。
寝込むほどショッキングなことだったのか。
「ああ、そっか。うん。ダメだったみたい」
「ダメだった? なにがだ?」
「ダメだったの。私、やっぱりダメだった」
美優はいそいそと服を直していく。
俺がブラジャーを拾って渡してやると、美優は受け取る前に自分の胸を何度か触って、首を傾げてからそれを身に着けた。
違和感を残してしまったか。
今更ながらなんともリスキーなことをしてしまった。
俺の目の前でブラジャーを着ける辺り、まだ頭は冴えていないみたいだけど。
マズイことをしてしまっただろうか。
いや、だが、最初に掴んだのは事故なんだ。
それは間違いない。
揉んだのは、申し訳ないけど、不可抗力ということで。
「お兄ちゃん、今何時?」
「もうすぐ18時になるとこ」
「そっかぁ。じゃあご飯食べよっか」
「そうだな」
美優がトボトボとキッチンに向かうと、テーブルに運んできたのは鯛のムニエルととろろの定食だった。
これを作るだけの気力はあったのか。
美優のことだからこれくらい無意識でも作りそうだけど。
こんな立派な料理を用意してもらって、兄である俺は無断でおっぱいを揉んでいるなんて。
最低だ。
これはさすがに懺悔しなければならない。
「お兄ちゃん、遅かったね」
「ああ。急用ができて」
俺は炊飯器から米をよそって着席する。
美優の分も取ってやった。
「ごめんね、心配かけて」
「いいんだよ。病気とかじゃないんだろ?」
「うん」
美優はとろろに醤油を垂らして力なくかき混ぜる。
「あの、ひとつ、謝罪しなきゃならないことがあるんだけど」
「ん? どうしたの?」
俺は美優の置いた醤油を取り、とろろに掛けながら、ごく自然な流れになるようにその言葉を口にした。
「さっき美優が寝てるとき、ちょっと胸を揉んでしまったんだが……」
それを言い切ったか、言い切らなかったかのところで、『ダンッ!!』と強い打撃音が俺の真向かいのテーブルで鳴った。
俺は飛び跳ねるように驚いて、その後に手に持っていたとろろが器ごとなくなっていたことに気づく。
美優が俺から奪っていた。
とろろだけではない。
ムニエルから味噌汁、漬物に至るまで。
米以外の全てが、いつの間にか美優のテーブルに並べられていた。
「と……とろろ……」
おかずになりそうなものが醤油だけになった俺が、ポツリと呟いた。
その言葉に、殺意を眉間に寄せた美優が俺を睨んできた。
「知らない。自分の精液でもかけて食べれば」
美優は俺の分のムニエルをバクッと大口で早食いすると、とろろを二人分かき混ぜて自分のご飯茶碗に流し込んだ。
「わ、悪かったとは思ってる! でも、美優の体を支えてたら、タイミング悪く、その、あくまでも事故であって……!」
言い訳をする俺に対し、美優は冷徹な表情の奥にある怒りを収める様子がない。
「いい機会だから、お兄ちゃんの精液がどれくらい不味いか知るといいよ」
やばい、めっちゃ怒ってる。
そういや今日は不機嫌って言ってたよな。
どうしてそんな日に限ってこんなことをしてしまったんだ。
「そ、そんなに、不味いのか」
気まずい雰囲気だけにはなりたくなくて、どうにか会話を繋ぐ。
「とろろの5倍は粘つくし、イカ刺しの3倍は生臭い」
「そ、そんなにか……」
「そもそも、お兄ちゃんは量が多すぎ。男優さんだってそんなに出さないよ」
そうか、美優は佐知子にセックスを教えるためにAVで勉強をしたんだ。
せっかく他の男を知らなかったのに、比較対象ができてしまったんだな。
「精液が濃すぎるの。お兄ちゃんは私のことを考えないと射精できないんだよね? なんでそんなに精子を出してるの?」
「す、すまん」
「私は妹だよ? 血の繋がった実の妹。毎日何回も抜いてるくせに、どこにそんな量の精液を溜め込んでるのかな。まったく」
「俺も不思議なくらいです」
「私があんまりスキンシップを取らないの知ってるよね。お兄ちゃん、最近は女の子にモテるとか勘違いしてるんじゃないかな。私が方々に手を回してあげなきゃ、お兄ちゃんなんて女の子とロクにお喋りもできないのに。家事ができることを抜いたらお兄ちゃんに残るのは性欲だけでしょ」
ああ、ダメだ。
もう手のつけようがない。
何一つして俺に非が無い立場が無い。
「孕ませたがり」
「申し訳ない」
「変態」
「ごめん」
「ばか」
「ほんと悪かった……」
美優の声がだんだんと小さくなっていく。
怒気が収まってきたのか、ゆっくりと食事の手を進め始めた。
さすがに自分の精液を掛けて食べる気にはならないし。
冷蔵庫から新しい食材を取ってくるのも気が引けるからな。
醤油だけで食べるか。
こんな程度で誠意になるとは思わんが。
お互いに何も言わなくなって、静かになって、美優が茶碗をテーブルに置く。
「ごめん。ちょっと言い過ぎた、かも」
美優は気まずそうに伏し目で謝ってきた。
「いやいや。完全に俺に問題があるから。美優は何も悪くないよ」
恩を仇で返すつもりなんて毛頭ない。
むしろ美優から受けた恩は二倍にも三倍にもして返してやりたい。
でも俺にはそれだけの能力が追いついていなかった。
たとえば、いますぐ俺にできる恩返しにどんなものがあるのか。
わからない。
だからいつも後手後手だ。
「はぁ……」
美優はため息をつくと泣きそうな顔になった。
「わ、悪かったって! お詫びは何でもするから!」
「うん。まあお詫びはしてもらうつもりだけど。そうじゃなくてね」
美優は茶碗に移したとろろを、また元の容器に入れ直して俺のテーブルに戻す。
「今日、何かあったのか?」
「まあ、うん」
それから、美優は言葉を続けなかった。
俺も追及する気にはなれなくて、お互いに黙ったまま食事を終えた。
食器をキッチンに運んで、洗い物をしようとした、その手が止まった。
美優がソファーで膝を抱えていた。
「なにか、買ってきて欲しいものとかあるか? それとも……なんだ……紅茶でも飲むか……?」
俺は美優の悩みを深掘りしないように尽くせることを探した。
どんなことでもいい。
美優の気が楽になることなら。
「ありがと。別に何もいらないよ」
美優は顔を膝に埋めて丸くなる。
こんなに弱った美優の姿は初めて見た。
一人にしてやったほうがいいのかもしれない。
でも、それなら自分の部屋に戻るような気もするし。
俺は何をするのがベストなんだろう。
「今日ね、健康診断があったの」
顔を俯かせたまま美優は口を開く。
「健康診断? こんな時期に?」
「先月は学校全体で変な風邪が流行って。夏なのにインフルの子もいたんだって。それで中間試験もあったから、この時期に延期になったの」
「そうだったのか。んで、健康診断がどうかしたのか?」
学校の健康診断なんて、目と歯を診る以外は身体測定しかないよな。
難病を宣告されるようなことなんてないと思うけど。
「身長」
美優がボソッと溢す。
「去年から1センチしか伸びてなかった」
なるほど、そうだったのか。
でも1センチも伸びたんだったら、元々小柄な美優からしたら悲劇的な数値でもない気がするけど。
女の子だし。
「それは、残念だったな。身長は、努力じゃどうにもならないもんな」
「それなのに」
美優は俺の言葉を遮るように続けた。
「おっぱいが4センチも大きくなってた」
鼻水を啜る音が聞こえた。
美優が泣いている。
「そ、それはまた……」
おっぱいって、胸囲が去年より4センチ増えてたってことだよな。
「4センチも変わったなら、ブラのサイズが合わなくなるんじゃないか?」
「だから先月買い替えたんだよ。そのときは、まだ去年と比べても2センチのプラスで収まってたのに」
胸囲が直接カップサイズに効いてくるとは限らない。
でも、美優を見る限り、胸だけが成長していることは明らか。
プラス4センチがそのままトップとアンダーの差に響いてくる。
「この一ヶ月半で2センチも増えたのか……」
ありえる話なのかはわからないが、これが本当だとしたら、下手をすれば更にブラの替え時が来ていることになる。
「最近は多少痩せ型になってもご飯の量を抑えてたのに。もうイヤ……可愛い服無い……形も維持できない……」
美優は体を抱えたままソファーに横たわる。
もとより自分の見栄えにこだわる美優だ。
ダメージは深刻なようだった。
「実際……その……どれくらい……なんだろうな……」
気になることを聞こうとして、さすがにデリカシーがなさすぎたかと小声になる。
「Gカップ……」
美優は生気の抜けた声で答えた。
「が、少しキツい。ホックの外側を使ってなんとか入ってる。これ以上大きくなったら、また買い直し。お金かかる。肩凝る。周りの目が気持ち悪い。もう家から出たくない」
憂鬱な胸を抱いて呪詛のように呟いた。
ここ一ヶ月半で急激に成長した美優の胸。
俺との関係が変わったのもその辺りからだ。
自意識過剰かもしれないけど、たぶん、美優が俺に胸を触られて怒ったのは、そういう背景があったからだと思う。
「その、悪かったな」
自然と謝罪の言葉が出た。
「ん? ああ、触ったこと?」
「それもあるけど。色々と。飲ませてたのとか」
あんだけ不味いって言われちゃうとな。
美優は感情を面に出さないから、てっきり精液の味が気にならないタイプなのかと思ってた。
「うーん……それが原因じゃないと言い切れないところはあるけど……。飲んでたのは私の意思だから、謝られるのも違う気がする」
美優に言われると、その通りではある。
俺は手で受け止めてもらうつもりだったのが、口を開けられて、思わず出してしまって。
それからも、美優は口に出されることを拒まなかった。
そんなことをされたら、誰だって出したくなるに決まっている。
自分の意思だとは言うが、美優は何を考えて俺の精液を飲んでいたんだろう。
「でも、これからは、控えたほうがいいよな」
「まだ彼女を作るの諦めてないなら控えたほうがいいかもね」
「諦めたわけではないけど。じゃあ、その、したいって言ったら?」
「今? 別にいいけど」
「えっ」
まじで。
いいの。
「不味いんじゃなかったのか」
「不味いよ。何度も言ってる通り。すごく不味い」
だよな。
「でも、不味いのと嫌いなのは、別だから」
美優は自分の胸で顔を隠す。
不味くても好きになるものなんて青汁とプロテインぐらいだと思うけど。
美優にとってこれはそういう類のものなんだろうか。
「出すの?」
美優にそう言われて、俺のペニスが欲望と共に膨れ上がってくる。
今まで美優と体験したエロいシチュエーション。
そして、先ほど触れた美優の胸。
鼓動が大きくなる。
こんな落ち込んでいる妹に、射精をするなんて。
そんなこと、考えられるわけが──
「……だ、出したい」
下半身は本心を隠さなかった。
スラックスの上からでもはっきりとわかる膨張。
昨日佐知子とあれほどセックスをしたにもかかわらず、俺は落ち込む妹を相手に欲情している。
美優が相手だと理性が利かない。
歯止めが掛からない。
常人の思考ならありえないはずの状況でも、性欲を第一に優先してしまう。
「ママが帰ってくるまでに出してね。我慢禁止」
夕方の食事後。
我が家の両親からしたらまだ早いくらいの時間だが、帰ってくる可能性がないでもない。
自分の部屋に移動するのが最も安全だが、そんな流れでするものではないことをお互いにわかっている。
どんな体勢で扱けばいいだろう。
俺はパンツに手を掛けながら、そそり勃った肉棒をどう露出させるべきかに迷っていた。
散々美優の目の前でオナニーをしてきたとはいえ、羞恥心はなくならない。
でも、結局出すときは美優の顔の前にさらけ出すことになるんだよな。
ならば考えるべきはどう扱くかじゃない。
美優のどこをオカズにしてオナニーをするかだ。
「体を触るのは、ダメなんだよな」
「絶対にダメ」
これだけは譲らないよな。
さっきも直に触ってたら殺されていたかもしれない。
「匂いを嗅ぐのは?」
「場所による」
「スカートの」
「ダメ」
くっ、許容範囲が広いんだか狭いんだかわからない妹だ。
「そういや、服の匂いを嗅ぐのも禁止だったよな」
「それはまあ、事情が変わったのでよしとします」
いつの間にどんな事情が変わったんだ。
この前も手でしてもらったり、美優の中で線引きが変わってきてるのは俺にもわかるけど。
「でもお風呂場で私が脱いだのを嗅いでたら握りつぶすかも」
「絶対にしない誓って約束する」
男の急所は冗談ではなく死ぬ。
「しょうがない」
美優は自分の鳩尾のあたり、ブラウスがおっぱいに押し上げられてできる布の浮き際を、トントンと手で叩く。
「ほら」
美優の目が俺を呼んでいるように感じて、俺は導かれるままに美優のすぐ横に座った。
美優はまだ胸の下のあたりを手で示している。
まだ近づけということか。
それは、つまり、まさか。
「えっ……い、いいのか」
俺の問いかけに、美優は頷いてから手をどける。
そこなら、匂いを嗅いでもいいということか。
そんな母性に溢れたエロスを。
男として至高の喜びを。
俺に与えてくれるというのか。
もう俺を更生させるつもりなんてないんだろう。
いやもう何がなんだかわからんが最高だからどうでもいい。
俺はソファーの前で膝をつき、パンツを脱ぐと、美優の胸とお腹の間に鼻を近づけた。
「はぁ……ぐっ……!」
鼻腔いっぱいに空気を吸い込むと、麻薬のように脳に痺れが広がった。
あまりにも濃すぎる、美優の匂い。
女の子特有の甘さ。
柔軟剤のフレーバーに、汗の混じった陽だまりのようなフレグランス。
「あぁ……すぅ……はぁ……ああぁっ…………脳が……溶ける…………!」
部位特有の薫り、特に美優が最も汗をかきやすいである谷間の、雫が滴り落ちて吸収される極致点。
肉棒を握るその手が、浮き出す血管を捉えていた。
心臓が供給してくる血液の量に、海綿体のキャパシティが追いついていない。
鉄心のように硬くなった内側が痛い。
それでも容赦なく送りつけられる血液に、ビクンビクンとペニスが跳ね上がる。
吹き出す先走りのカウパーが、悲鳴に喘いで涎を垂らしているようだった。
「うぅぅ……美優……ぁ……あぁぁ……」
ぼやけた頭が、麻酔を掛けられたようにふわふわする。
その頭頂に、人肌が乗っていたことを、俺が気づいたのは1分ほどしてからだった。
美優に頭を撫でられている。
それを認識した瞬間から、髪の毛の一本一本が美優の体温を感じ始めた。
「あぁっ……ッぐ……うぅぁぁはぁ……!」
それはもはや性感帯への愛撫と等しかった。
美優の手が俺の頭をひと撫でするごとに、快楽のパルスが雪崩のように押し寄せてくる。
「そんなに気持ちいいなら、さっさと出そうね、お兄ちゃん」
美優なりの手伝いだったのか。
冷淡なそのセリフすら、俺の射精を煽る攻め句となっていた。
「美優……はぁぁ……ぁああっ……美優ッ……!」
速まるストロークに、美優も射精まで間もないことを感じ取っていたはず。
「お兄ちゃん、息止めて」
それなのに、この最大のご褒美に対して、美優はあまりに残酷な命令を俺に下してきた。
思わず赤ん坊のように喚き散らしたくなった。
それでも、美優の命令に逆らう権利など無い俺は、素直に息を止めた。
薄くなっていく血中の酸素濃度に、意識が遠のいていく。
美優という脳内麻薬がどうにかごまかしていた苦しさが、危険信号を発していた。
オナニーの快感まで薄くなって、手が止まりかけた、そのとき。
「はい、深呼吸」
美優は俺の頭を撫でていた手を、左右で重ねて。
ギュッと、自らのお腹に俺の顔を押し付けた。
「んっ……んんんっ……!!」
息を吸い込んだ瞬間、酸素の吸収を求めたヘモグロビンは美優のフェロモンに支配された。
全身に美優の匂いが駆け巡って、ほとんど暴発してしまっているペニスの根元を強く握り、俺は立ち上がって美優の口に精液を全てぶちまけた。
発射したというより、注いだと表現した方が正しいほど、ドロドロと精液が流れ出てくる。
それが全部美優の口の中に溢されて、美優の口は舌の根元が白濁液で見えないくらいに満たされていた。
「あ……んむっ……」
美優はそれを飲み込んで、またソファーに体重を預ける。
俺は一瞬、どうしてそこに立っていたのかわからなくなるくらい、頭の中が煙でいっぱいになっていた。
「不味い」
眉の一つも動かさず、美優はそれだけ言って、瞼を閉じる。
どうして、こうなったのか。
俺は情けなく下半身を露出させたまま棒立ちし、その日はもう考えることをやめた。