※この作品はR-18です。

俺の妹が最高のオカズだった   作:風見 源一郎

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妹のエッチな誘惑 地獄の射精管理 ~射精禁止だよ、お兄ちゃん~ その4

 

 街路樹の等間隔を目で追い、風を切って歩く。

 そんな自分が別人のようだった。

 

 これが数ヶ月前の俺なら、意気がってるだけのキモいオタクだったけど。

 美優に服を選んでもらって、良い美容室を紹介してもらって、筋トレを始めて。

 気づけば世界が変わっていた。

 

 他人の視線も気にならないし、声をかけられても緊張しない。

 自己評価が極端に低かった俺は、人と話しているだけで自分の存在を恥じていた。

 

 どうせキモいし、服はダサいし、話はつまらないし、挙動不審だし。

 それが一つずつ改善されていくと、それまで他人を眺めてすごいなって思っていた日常会話が難なくできるようになって、「なんだ俺って普通の人間だったんだ」って思えるようになった。

 

 ……実の妹に並々ならぬ性的興奮を覚えることさえなければ、本当に普通の人間だったんだけど。

 

 あの妹だからしょうがない。

 

 目的地は最寄駅。

 普段は自転車を使うが、歩いてもそう遠い距離じゃない。

 今夜は外泊をするから、自転車を使うと駐輪場が必要になるのでやめておいた。

 

 慣れた道を外れて、違う経路を歩く。

 どうせ時間はたっぷりあるんだ。

 運動していた方が性欲も早く発散しそうだし。

 

 休日はオタク趣味に時間を使うばかりでゲームやネットで引きこもっていることが多かったから、丸一日外で遊べと言われても困ってしまう。

 

 とはいえ、幸いにもやることがないわけでもない。

 鈴原にオススメされたアプリを進めないといけないし、オンラインゲームのレベル上げもしなくてはいけない。

 

 だから夜はネットカフェで過ごすつもりでいる。

 それまでは、電気屋に行ってPC部品でも眺めているか。

 

 住宅街から駅の間、マンションが増え始める大通り。

 途中で大きな川が流れていて、橋の上でチャリを待機させている学生もちらほら見えた。

 現代に生まれた人間の感覚からすれば田舎と言えるぐらいに自然に囲まれたこの場所には、大きな公園がある。

 

 と言えば聞こえはいいが、それしかない。

 娯楽施設もなければ学校に近いわけでもなく、数駅隣はそこそこ栄えているため、遊びに来る人など稀だ。

 公園でも家族やカップルがベンチでゆったりしているだけだし、縁もゆかりもない俺にとっては地元なのに知らない土地だった。

 

 景色はいい。

 胸がスッとする。

 

 美優に散々性欲を溜められて、半勃ち状態のままの肉棒からは、少しずつ芯の硬さが抜けてきていた。

 

「……でかいマンションだな」

 

 そんな街中の景観にそぐわない、高層マンションが一棟建っていた。

 

 駅からの便はいいとは言えないけど、歩けばスーパーには行ける距離だから、まあアリな物件だ。

 ここ周辺の土地は安いとはいえ、こんなマンションに住んでるのはかなりの富裕層だろうな。

 

 二重ドアで隔離されたオートロックのエントランス。

 そのドアが、建物から出てきた人物によって開かれる。

 

 コツ、コツ、と底の薄いサマーブーツが地面を鳴らした。

 胸の大きい、ポニーテールの女性が一人。

 リッチなおば様かと思ったら、やたらエッチな体つきのお姉さんだった。

 

「──って、山本さん!?」

「あら。ソトミチくんだ。おはよう」

 

 まさかの見知った顔だった。

 

 帰りが同じ方向なのに通学路で会ったことがなかったのは、こんなところに住んでたからだったのか。

 

「お、おはよう」

「ふふふ。なんだかソトミチくん、男の子になっちゃったね」

 

 山本さんは両足を揃えて立ち止まった。

 

「それはどうも」

 

 髪を整えて、体を鍛えてってのもそうだが、姿勢とかは美優の影響で元々悪くない方だったからな。

 ちゃんとした服を着てると、山本さんみたいな美人にこうしてばったり出会った時も抵抗なく話せる。

 

 直しておいてよかった。

 ありがとう美優。

 今は何かやらかして怒らせてるけど。

 

「ソトミチくんはこれからお出かけ?」

「美優に追い出されて放浪中」

「あらあら。喧嘩でもしてるのかな」

「わからんけど怒られてる」

 

 喧嘩とはちょっと違うからな。

 

「山本さんは?」

「弟たちを迎えに行くの。両親がこの土日に旅行で家を空けるから、うちで預かってくれって」

「そっちも放置家庭だったか」

 

 大人に夏休みなんてないはずだけど。

 休みやすい都合でもあるんだろうか。

 

 俺は山本さんと並んで歩いた。

 行き先は同じらしい。

 

「山本さんの弟か。さぞイケメンなんだろうな」

 

 こんな大人びた美貌の遺伝子なんだ。

 長身の美形に違いない。

 

「全然。こんなちんちくりん。女の子みたいなやつだよ」

 

 山本さんは肩掛けしたポーチの紐で見事に作り出した大山の麓に手の甲を添えて空気を撫でる。

 

「だからよく女装させて遊んでる」

「ひでぇ姉だ……」

 

 学校では誰にでも優しい天使のような山本さんだけど。

 家だときっと天下を取ってるんだろうな。

 

 もしこんな優秀で美人の姉と一緒に暮らしていたら、逆らえる気がしない。

 妹が相手でもこのザマだからな。

 

「あれ? 弟さんは一緒に暮らしてないの?」

 

 これから家で預かるために迎えに行くってどういうことだ。

 家族って、一緒に住んでるものだよな。

 ましてや学生だし。

 離婚や別居をしているならいざしらず、両親は旅行に行くぐらいには仲がいいんだよな。

 

「あっ……そ、それは……!」

 

 山本さんのやらかしたという顔。

 公園の入口の前で立ち止まり、髪の毛をくるくるといじりだす。

 

「え、えぇと……弟たちは、親戚の家に、泊まってて……両親の旅行を期に、帰ってくる……ことに……」

「親がいなくなるなら、親戚に預けたままにしたほうが良くないか?」

「はっ──!」

 

 強張っていく山本さんの表情。

 

「あああうん! そう! そうなの! だから、元々はそのつもりで預けてたんだけど、親戚も親戚で都合が悪くなったから、うちで預かることになって!」

「はあ。預かるのか」

「預かるっていうのは! 帰るって意味で! あの、でも親戚に預けてたのは預けるって意味で! だからその、あの、別に一人暮らししてるとかじゃなくてね!?」

 

 首と両手とポニーテールと、振れるものありったけ横に振って否定する山本さん。

 

 山本さんってほんと嘘をつくのが下手なんだよな。

 この素直さがあるから、他の女子に僻まれることがないんだろうけど。

 

「高校生なのに一人暮らしって珍しいな」

「だから、あのぉ……うぅ……」

 

 山本さんは頭を抱えてうずくまる。

 通り過ぎていく人たちの視線が痛い。

 

 俺は何もしてませんよってアピールで作り笑いを振りまいて、数分。

 山本さんは時計を確認すると、俺を公園の中に引き込んだ。

 

「あのね、ソトミチくん」

 

 公園のベンチ、美少女と並んで座る。

 まだ陽の低い時間のベンチは冷たかった。

 

「みんなには内緒にしてくださいっ!」

 

 パチン、と両手を合わせて拝まれる。

 必死に目を瞑る顔も可愛い。

 

「それは構わないけど。どうせ鈴原とかは知ってるんだろ? ……下世話な質問で申し訳ないが」

「あはは。うん、答えづらいところではあるけど。一人暮らししてることは、鈴原くんも知らないの。あの部屋に家族以外を入れたことはなくて」

 

 山本さんは気まずそうに噴水を眺める。

 

 家族以外には一切教えてなかったのか。

 偶然とはいえ、なんだか悪いことをしたな。

 

 山本さんが住んでいる部屋は叔父の持ち物。

 山本さんなら半値で住んでいいと言われ、親の仕送りとバイトでなんとかやりくりしているのだとか。

 

「そうか。まあ、誰にも言わないよ。意味もなくこっちに様子を見に来たりもしない」

「うん、ありがとう」

 

 感謝を述べて、俯いて。

 

 山本さんは大きなため息をついた。

 

「信用できないと思うけど」

 

 所詮は口約束だし、信用されるほどの付き合いもないしな。

 

「あ、ううん! そうじゃなくてね。私がソトミチくんの秘密を教えてもらうつもりだったのに、なんでこうなっちゃったかなぁ……って」

 

 そういや、昨日は山本さんから頼み事はないかとしつこく聞かれたんだった。

 山本さんの秘密とトレードって話が出てたけど、棚ぼたで一つアドバンテージを取ってしまったな。

 他言しない担保として俺の悩みを教えてしまうか?

 美優じゃなきゃ抜けないってとこをぼかせば、話せないことでもないよな。

 

 なんてことを考えていると、山本さんのスマホに着信が。

 ディスプレイには『あーくん♥』と表示されている。

 

 弟さんかな。

 仲が良さそうだ。

 

『おいテメェ! いつまで待たせるつもりだ豚女ァ!』

 

 第一声からこの勢い。

 口調は男らしいが、声はあどけなかった。

 

「はいはい、すぐお姉ちゃんが行きますからね。もうちょっと待っててね」

『牛みてえにたらたら歩いてんとアイス買わすぞコラ!』

「そんなに怒んないの。みーくんの言うこと聞いて大人しくしててね」

『うっせぇ! あと3秒で来なかったらアイス2個だからな! じゃあな!』

 

 ブツッと切れた通話。

 山本さんは頬に手を添えてニヤニヤしている。

 

「聞いてたイメージとだいぶ違うんだけど」

「下の子はわんぱくなの。ほっぺにチューすると殴ってくるし」

「それはきちんと躾した方がいいんじゃないですかね」

 

 こんなキレイな女の子を殴るなんて、ろくな男にならないぞ。

 

「躾けるだなんてそんな……。お姉ちゃんはね、惜しみない愛で弟を抱きしめてあげるものなんだよ」

 

 山本さんは自らのたわわな胸を両腕で抱いた。

 

「そして白目を剥くまでおっぱいで窒息させる」

「またえげつないことを……」

 

 前言撤回。

 わんぱくになったのはどう考えても山本さんのせいだ。

 

「思春期のお年頃だろ。そんなことしたら余計に反発するんじゃないか」

 

 下の弟さんは声からして小学生くらい。

 姉からの過剰なスキンシップは、それがどんなに美人でも嫌がるだろう。

 

 山本さんは少し考え込むと、またうっとりした顔に戻った。

 

「反抗的な方が可愛いじゃない?」

 

 あ、これはダメな姉だ。

 

「しおらしくなった後に女の子の服を着せるとね、お姉ちゃん、言うこと聞くから仲良くしよって擦り寄ってきて……。うふふ。電話ではあんなだったけど、ちゃんと仲良くしてるんだよ」

「そ、そうか」

 

 愛情が歪みすぎている。

 まさか山本さんにこんな一面があったとは。

 でもまあ、学校でもお姉さん気質ではあったか。

 

 それに俺も人のことは言えない。

 実の妹とあんなエロいことして、レイプしかけるくらい興奮して、こんなに性欲を溜めてるしな。

 

「ん? あれ!?」

 

 俺は咄嗟に股間を押さえた。

 あんだけ性欲が高まっていたはずなのに、この山本さんの隣に座っててまるで反応していない。

 

「どうしたの? 無くなっちゃった?」

「そうかも」

 

 俺は後ろを向いてズボンの中を確かめる。

 すっかり小さくなっているが、たしかに男の象徴がそこにはあった。

 

 これはまずい。

 家を出るまでは、抜かずにどうやって過ごせばいいのか悩んでたくらいだったのに。

 前にも勃たなくなったことはあったけど、今日のこれは絶対に勃たせないといけない状況だ。

 

「あの、山本さん。変な頼み事をしてもいいだろうか」

「ふんふん。良いよ。頼み事ね、一つ貸しだね」

 

 山本さんは指を一本立ててノリノリで頷く。

 こんな現金な人だったっけ。

 

「その……髪の匂いとか、嗅がせてもらってもいい……?」

 

 俺が一番女の子のフェロモンを感じる場所。

 ましてや母性の塊である山本さんの匂いを嗅げば、興奮できるに決っている。

 興奮しないはずがない。

 

 その山本さんはというと、わずかに顔を引きつらせて固まっていた。

 

「あのぉ……ソトミチくん? それ、エッチさせてってお願いされるより気持ち悪いのですが……?」

「そ、そうだよな。すまん」

 

 焦ってつい口走ってしまった。

 せっかくいい雰囲気で話してたのに。

 嫌われてなきゃいいが。

 

「うーん……まあでも、それがソトミチくんの頼みなら、聞いてあげないこともないけど」

「え、マジで!? いいの!?」

 

 まさかのオッケーを頂いてしまった。

 俺だけが山本さんにとっての特別、という線はないだろうし。

 そんなに俺に貸しを作りたいのか。

 

「うん。……うん? え?」

 

 承諾のあと、山本さんの頭に浮かぶ疑問符。

 俺があまりに喜ぶので余計な疑念を生んでしまったようだ。

 

「ソトミチくんの頼みって、どっちのこと?」

「どっちって? なにが?」

 

 どっちもなにも、俺は髪の匂いを嗅がせてくれとしか。

 

「えっ!? そういうこと!? そっちでいいの!?」

 

 エッチさせてくれって言われたほうがマシって、そういうことなのか。

 その選択肢がありなのか。

 

「や、やっぱり、あっちのこと!? あの、えと、え、エッチは、ちょっと……ね? 私はてっきり髪の方を許可したつもりで……」

「あっ、うん。だよな」

 

 びっくりした。

 とんだ勘違いだ。

 会っていきなりセックスさせてくれって頼むやつがどこにいるんだ。

 

「まあソトミチくんなら少しは考えてもいいけど」

「なぜそうなる」

 

 どう考えても俺のことが好きなわけではないよな。

 

 俺の周りの女子がエッチに寛容すぎて困る。

 

「どうして髪の匂いが気になったの?」

「ああ、いや、そういうのじゃないんだ。悪いな。気にしないでくれ」

 

 匂いを嗅いで勃つか確かめたかった、なんて言えないしな。

 

「え、なになに。気になるじゃん」

「いやぁ、かなり言いにくい話で……。ほら、前に学校で話した悩みに関係してて」

「あーそう! それ! 教えてよ! 解決してあげるから。貸し二つ目ってことで」

 

 あれ?

 俺、髪の匂いもエッチも体験してないのに、借りを作ったことになってるんだけど。

 

「そうだな……」

 

 言ってみるか。

 

「実は、俺……」

 

 あるいは、この山本さんなら。

 

 悩みの解消には適任。

 しかもエロいお願いも許されそうな雰囲気。

 貸しも作りたがっている。

 

 もし、解決してもらえるとしたら。

 

「EDみたいなんだ」

 

 エッチをしてもらえるかもしれない。

 

「……知ってるよ?」

 

 風が吹いてから、一言。

 

 山本さんは「それだけ?」みたいな顔をしている。

 

「なんで知ってるんだ」

「ほら、私が更衣室で裸になったとき。美優ちゃんになんて頼まれてたか知らない?」

 

 山本さんが更衣室で裸になったのって、俺が美優と服を買いにショッピングモールに行ったときのあれだよな。

 

 鈴原との別れ話とか色々あって頭の整理がついてなかったけど。

 そういえば山本さん、俺の勃起を写真に撮って美優に送ってたんだよな。

 

 あのときか。

 

「美優ちゃんにね、お兄ちゃんがEDみたいだから助けてあげてって、お願いされて。結果的にああすることが、鈴原くんとのお別れを手伝ってもらえる条件だったの」

「そうだったのか。全然知らなかった」

 

 美優のやつ、俺に何も教えないで色々と手を回すからな。

 おかげで美味しい思いができてるわけだけど。

 

「でも、ソトミチくん。あのときはおっきくなったよね?」

「それはそうなんだけど」

 

 どう収拾をつけるべきか。

 さすがに妹とエッチなことをしすぎて、他の人じゃ勃たなくなったなんて言えないしな。

 

「あれから、悪化しちゃって。実際のところ、EDというより射精障害っていうのかな。そっちに近いんだ」

「ふむふむ。つまり、おっきくはなるけど、ピュッピュッ、ってできないわけだ」

 

 経験がある女の子だと話が早くて助かる。

 その射精の表現の仕方はゾワッとくるけど。

 

「うーんと、それはもしかして、結局はエッチなことをしないと悩みが解決できないのでは?」

「そうなるだろうな」

 

 山本さんをオカズにしてオナニーができるようになれば、それも一つの解決ではあるけど。

 それに山本さんが気づくまでは黙っていよう。

 

 これが最後のチャンスかもしれないんだ。

 射精をするのに美優を頼らずに生きていける、そんな人生を取り戻すためには、やはり他の女の子の協力が必要。

 

 容姿に申し分なし。

 なぜか俺に協力的。

 これ以上にない好機だ。

 

 ものにしなくては。

 そうなれば、美優の負担も減らしてやれる。

 

「そうだねぇ。私ならまず間違いなく解決はできるけど……」

 

 山本さんは悩ましい顔をしながら俺をチラチラと見てくる。

 

「もしかしてソトミチくん、私の悩み、鈴原くんから聞いた?」

「山本さんの悩み? って、前に資料室で話したやつ?」

「そうそう」

「聞いてないし、見当もつかない」

「むー……。そっか。ならいいや」

 

 本心から、全く知らないという気持ちが伝わったのか、山本さんは俺の言葉をすんなりと信じた。 

 さっきまでの会話のどこが山本さんの悩みに繋がってたのやら。

 

「要は、出ればいいんだよね?」

「まあ、そうなるな」

「じゃあそこでちゃちゃっと済ませちゃおうか」

 

 山本さんは公衆トイレを指差す。

 発想が完全にビッ○のそれなんですが大丈夫なんですか山本さん。

 

「非常に申し訳ないんだが、今日はダメなんだ」

「そう? なら明日は?」

「それも、できない」

「なんでよー」

 

 妹に射精禁止されてるから……っていうのも、当然、言えるはずがない。

 

「どうしてもダメ? 深夜とか早朝とかでも?」

「あー、うーん……日曜日の深夜なら可能性はあるけど……難しいな……」

「うぐっ……まあ、月曜日が夏休み前の最終日だし、どうにかなる、かなぁ……うぅ……なんで土日じゃダメなの……」

 

 どうしても月曜日までに俺に貸しを作っておきたいらしい。

 そんなキレイな体を投げ売ってでもやっておかなければならないことなのか。

 

 俺にはわからん。

 女の子の気持ちが。

 まったくわからない……。

 

「弟さんも待ってるだろうし。そろそろ行ったほうがいいんじゃないか?」

「なぜ話をはぐらかすのですか」

「こっちにも言えない事情があるんだって」

「またそうやって秘密ばっかり」

 

 山本さんは不満そうな顔をしながらもベンチから腰を上げる。

 

「都合がついたら教えて。連絡先は美優ちゃんに聞いてくれればいいから」

「わかったよ」

 

 俺に背を向けて公園を出ていく山本さん。

 門を曲がってからは駆け足だった。

 

「女の子ってわかんねぇ……」

 

 俺は頭を抱えて、しばらくベンチに座り込んでいた。

 

 

 

 

 

 それから電気屋に寄って、ゲームのためにパソコンのメモリを拡張したいとか、無理な願いを財布に相談しながら街を練り歩いた。

 

 ネットカフェの予約は夕方から。

 それまではもっとオープンなカフェで電源を確保しながら、アプリをやってはゲームセンターに行き、アプリをやっては本屋に行き、アプリをやっては服屋に行きと、ひたすらに時間を潰した。

 

「ナイトプランのご予約ですね。明日正午までのフリータイムパックでよろしかったでしょうか?」

「はい。それでお願いします」

 

 明日も予定があるわけではないので、時間はたっぷり取っておく。

 美優の命令とはいえネットカフェでの宿泊はなかなかの痛手だ。

 夏休み、どれくらいバイトを入れるかな。

 

 カードキーを渡されて、いざ個室へ。

 前に佐知子と来たときよりワンランク上のネットカフェだ。

 

 まずは手始めに漫画を読み漁る。

 読み途中で止まってた作品がいくつかあるからな。

 ここで読んでしまえば、その冊数だけ元は取れたと考えることができる。

 

 本棚にズラッと揃えられた背表紙はいい。

 いつ見ても気分がウキウキする。

 時間が遅くなってきたから、どちらかといえばムラムラし始めてるんだけど。

 

 俺、ちゃんと射精しないで夜を過ごせるよな。

 

「おやおやぁ。こんなところに、美優のお兄さんじゃありませんの」

 

 それは本棚の角から聞こえてきた。

 

 嫌味ったらしいこの声は、間違いない。

 あのロクでもない女のものだ。

 

「由佳か……。お前、ネカフェで待ち伏せするの好きだな」

「雰囲気が好きなんですよ。なんか空気が卑猥じゃないですか」

「どうしてもネカフェをエロいことをする場所にしたいらしいな」

 

 実際にしてしまった俺が言えたことではないが。

 

「むふふ。そんなこと言っちゃって。お兄さんからもエロスが溢れちゃってますよ?」

 

 そう言って、由佳が見つめる先が、俺の盛り上がった股間だった。

 

 これはマズイな。

 由佳の声を聴くと、どうしても美優のお仕置きを思い出してしまう。

 

「これには深い事情があるんだ」

「へぇ。どんな? 実はお兄さんがロリコンだとか? あ、それは周知の事実でしたね。ぷくくっ」

 

 クソ野郎……こいつとだけは絶対に仲良くなれる気がしない。

 

「まっ、いーんですよ? おにーさんのならぁ、由佳ちゃんがスッキリさせてあげないことも、ないですよ?」

 

 ぐいぐいと近づいてきて、由佳は指先で俺のズボンのチャックをなぞる。

 

「お、おい」

 

 なんでお前ら、そんなに俺に積極的なんだ。

 

「私、今、すっごく気分がいいんですよ。それも、お兄さんのお・か・げ。だから少しくらいはお礼をしてあげたい気分なんです」

「あ? 俺のおかげ?」

 

 何を言ってんだこいつ。

 俺は最後にファミレスで会ってから、由佳とはスマホでメッセージのやり取りをしたくらいで、何も感謝されるようなことなんて……。

 

「あっ──!!」

 

 ファミレスの、あのこと。

 美優に伝え忘れていた。

 

 由佳がロクでもないことを考えてるって。

 しかもあれ、俺のおかげって言われてたし。

 

 もしかして、いや、間違いないよな。

 美優が怒ってる理由って。

 

「むっふふ。思い出しました? お兄さんが教えてくれたんですよ。美優の弱点。なーんでこんな簡単なことにも気づかなかったんだろうって」

 

 ニタニタと下卑た笑みを浮かべて、由佳が取り出したのはスマホの写真だった。

 

 そこに写されていたのは、女子生徒の裸。

 この超美麗な少女の姿は見間違えるハズもない。

 

 遥のものだ。

 

「先日、健康診断があったんです。そこでですね、ちょろちょろっと、こんな素敵な写真を撮らせていただきまして。良く撮れてるでしょ? 美優の恩人さんが」

 

 最悪だ。

 軽く考えすぎていた。

 

 これは美優がキレていてもおかしくない。

 そして俺は、この犯行に加担した共犯者だ。

 

「この写真を見せたときの、美優の青ざめた顔。達しちゃうくらい可愛かった……はぁ……」

 

 恍惚とした由佳の表情。

 変質、異常。

 常軌を逸している。

 

「待て、お前、死ぬぞ」

「はぁ? 何言ってんですか。こっちは美優に、逆らったらこの写真をバラ撒くって言ってあるんですよ? もう美優は、私の奴隷なんです。明日は一日、美優にはオモチャになってもらう予定なんですから」

 

 それが美優が俺に一日家を空けろと言った理由だったのか。

 自らを辱められる姿を見られたくなかったから。

 俺を締め出すため、あんなことを。

 

「どうしてこんなことをするんだ。由佳は美優が好きなんじゃないのか?」

「好きでしたよ? 今でも、好きです。でも届かなかった。四年間もずっと、美優は私のことを相手にしなかった。ちょっとくらい優しくしてくれてもよかったのに。一度も笑ってくれなかった。美優が悪いんですよ。全部、何もかも」

 

 めちゃくちゃな言動。

 だが、全てが間違っていると切り捨てることもできない。

 

 由佳が悪であることに変わりはないが。

 そうさせたのは、美優の影響力が大きすぎるせいでもある。

 

「あれ? あれあれ? まさか、気づいてないんですか?」

「な、何がだよ」

 

 目をガッと開いて、由佳は俺の瞳を覗き込んでくる。

 正直、かなり怖い。

 

「明日は私、いっぱい美優に恥ずかしいことをさせるんですよ? その写真を撮ったら、次に奴隷になるのは、誰だと思います?」

 

 スマホを振って俺を煽ってくる。

 美優の恥ずかしい写真を人質にされて困る人間。

 思いつくのは、二人。

 

「遥と、お互いに脅しの道具にするつもりか」

「ノンノン。遥は美優なんて庇いませんよ。あれはラブなドールとして好きなのであって、恋人として惹かれ合ってるわけじゃありませんから。それに、遥はああ見えて性格ちょー悪いですからね。美優なんて比にならないくらいに最低の女ですから、あいつ」

 

 恨みのこもった由佳の声。

 あれだけ拷問まがいなことをされていたら、嫌になる理由もわからないでもないが。

 

 脅しの相手が遥ではないとすると、残るはやはり。

 

「俺か」

「そーです。むっふ。お兄さん、溜まってるみたいですし。その精子、私にくれてもいいんですよ?」

「まさか、俺を巻き込んで家族になるつもりか……?」

「いえーす! 美優の義姉さんになりたい女子はたくさんいますからね。お兄さんの精子、結構需要あるんですよ?」

 

 とても嬉しくない事実が発覚してしまった。

 美優がモテすぎるせいで、俺にまで魔の手が忍び寄っているなんて。

 

「ま、悪いようにはしませんよ。お兄さんは色んな意味で、私の恩人ですからね。まずは美優のエッチな動画が送られてくるのでも楽しみにしていてください。それまで、ネットのエロビデオなんかで済ませないでくださいね?」

 

 由佳は俺のイチモツを、ズボンの上からソフトタッチすると、にっこり微笑んで会計へと向かってしまった。

 

 俺のせいで美優が追い込まれることになった。

 あんなアイディアを与えてしまったんだ。

 美優が怒るのも無理はない。

 

 無理矢理にでも由佳を止めたいが。

 ここでこじれて事態が悪化したら、それこそ取り返しがつかない。

 スマホを破壊したところでデータが消えるわけじゃないし。

 

 俺はなんて言って美優に謝ればいいんだろう。

 

 そもそも、許してもらえるんだろうか。

 

 頭の中は不安でいっぱいだった。

 

 メールや電話で簡単に謝罪を済ませるわけにもいかず。

 

 帰宅が許される日曜日の18時まで。

 

 ゲームや漫画に集中して、ただ時間が過ぎるのを待った。

 

 ネカフェを出てからも気持ちは落ち着かず。

 

 帰宅時間が近づくほどに心拍数が上がっていく。

 

 あれだけ早く過ぎろと思っていた時間が、あと何分しかないと心をあまのじゃくにして。

 

 ようやく訪れたそのとき。

 

 自宅前。

 玄関のドアに手をかけた18時。

 

 鍵は開いていた。

 

 ドアを開くと、そこには。

 

 いつもと変わりない美優が、両手を前に重ねて俺を出迎えて待っていた。

 

「おかえりなさい。お兄ちゃん」

「お、おう……」

 

 普通だ。

 

 普通過ぎる。

 

 これは、異常だ。

 由佳が家に来ているはずなのに。

 怒りも悲しみも感じられない。

 

「えっと……」

「早速だけどお兄ちゃん。命令の二つ目、聞いてもらうね」

 

 美優は俺に、家に上がれと指示をすると、階段を登っていく。

 

「お兄ちゃんさ、オナホ、好きだよね」

「それは、まあ、その、嫌いじゃない、というか、どちらかといえば、好きな方ではあるが……」

「そうだよね、お兄ちゃん」

 

 美優がいきなり立ち止まった。

 ぶつかりそうになって、急いで身を引く。

 

 そこは、俺の部屋の前だった。

 

「そんなお兄ちゃんに、オナホの開発をお願いしたくて」

 

 美優は俺の部屋の前に置いてあった小さな箱を拾って、それを俺に見せる。

 

 0.01ミリの極薄コンドーム。

 5個入りの、高級スキンだった。

 

「命令、聞くよね。お兄ちゃん」

 

 気づけば、美優の目から人らしい輝きが失われていた。

 ドス黒い濁りすら感じるほどの暗い瞳。

 

 美優の手が俺の股座を擦り上げる。

 これまでに溜めた精液の量を、そのまま表すくらいにパンパンに勃起していた。

 

「あ、あぁ……」

 

 俺はそのとき、昨日の朝に脳が発していた危険信号の意味を、ようやく理解した。

 

 美優が俺の部屋のドアを開く。

 

 室内にあったのは、大きなダンボール箱。

 

 その一つの面がくり抜かれて、お尻だけが外に出されていた。

 

 仰向けの状態で、ふとももつき。

 まさしく正常位で挿入する大型オナホのよう。

 

 だが、あのサイズ、あの質感。

 

 どう考えても、本物の人間にしか見えない。

 

「お、おい、美優」

「いまさら嫌とは言わせない。命令、聞くよね?」

 

 美優は俺の胸にコンドームの箱を押し付けて、冷たい目で俺を睨む。

 

「ゴム、5個入ってるから。そのオナホを使って、5個全部を精液でいっぱいにしてくれればいいだけ。それでお兄ちゃんは無罪放免。簡単なお仕事。やったね」 

 

 ひどく冷淡で、あまりにも平坦な声。

 

 俺に拒否する権利などない。

 

 どんな命令にも従う。

 さすがに限度があるだろうと、たかを括っていたが。

 

 この妹はその一線を越えさせた。

 

 今日が俺の、まっとうな人間としての最後。

 

 それは言い訳のしようがない、れっきとしたレイプの命令だった。

 

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