コンサートホールには五百人近い観客が行列を作っていた。
俺はアリーナに区画整理用の柵を設置してから、チラシ折りを済ませ、今度はエントランスで物販列の整理に回る。
設営有りなので時給が高いのは嬉しいが、昨日の山本さんとのエッチに引き続いての労働はさすがに堪える。
外は快晴。
球形の屋根が陽を反射して煌めいている。
俺は屋外に溢れてしまった客に、一本ずつミネラルウォーターとうちわを配布して回った。
「あちぃ……」
このクソ暑い中で、俺たちイベントスタッフはスーツ姿で仕事をしている。
これをやってるだけで将来は営業に就職したくないと強く思う。
熱中症対策の後はエントランスに戻り、物販列を数十人単位で区切る仕事を手伝った。
人数をカウントして、「ここの人まで先に進んでください」とお願いをし、先頭のロープを開放して物販に流す作業を繰り返す。
そこからは別のスタッフが客を誘導してショップにまで流していった。
俺の対応列には、去年も一緒に仕事をした知り合いが付いていた。
大学生の先輩が男女で1人ずつ。
高校生のうちからイベントスタッフをやっているのは珍しく、俺はこの2人に顔を覚えられていた。
「ソトっち。これが掃けたらそろそろ本番中の配置説明だよ。西口Aドアに集合」
大学生にしてはちんまい背丈の女性、阿形さんが声をかけてきた。
もうお酒も飲める歳なのに、美優とさして身長が変わらないくらいだ。
「喫煙所前に集合じゃなかったですか?」
「列整備してる人はドア番に変更だって言われて、呼びかけしてるの。啓太郎も一緒だよ」
ドア番か。
ライブ中に人の出入りを監視するだけの役だからかなり楽だ。
今回はスタンディングの男性アイドルライブだし、暴れる女性客たちの足元で柵を押さえる役にならなくてよかった。
「チーフ、全員集まりました」
俺は阿形さんと一緒に集合場所にやってきた。
バイトのまとめ役であるチーフの説明を聞いて、各自の配置を確認する。
20人ほどが密集したその中で、金髪の男が控えめに手を振っていた。
「よう阿形。そいつはソトミチ……だよな?」
説明が終わり、金髪頭の啓太郎さんが声を掛けてきた。
俺たちはまとまって近い場所に配置されることとなり、三人で移動している。
「ソトっちだよ。なんか様変わりしたけど」
「高校生デビューってやつ? ちょい遅くね?」
「啓太郎だって染めたの2年からでしょ」
阿形さんと啓太郎さんは同じ大学でバンドをやっているらしい。
当時声を掛けられたときは疎外感が凄まじかったが、いまは不思議と緊張せずにいられる。
「あの筋肉バカはもう来ないのか?」
啓太郎さんが俺に尋ねたのは、高波のことだ。
あいつは去年、一度だけイベントスタッフのバイトに来たことがあったが、肌に合わなかったのか辞めてしまった。
「高波は部活が忙しいみたいなので」
サボり魔ではあるが、実力はあるやつだし、2年と3年の夏は忙しくしているはずだ。
俺たちは所定の場所に着くと、ライブ開始までは休憩時間となった。
客が入る前の会場は静かだ。
俺たち三人は、通路に設置されたベンチに並んで座った。
「で、ソトっちは彼女できたの?」
阿形さんから唐突な切り出し。
女の子の考えることってみんな同じなのだろうか。
「今はいないですね」
「ほほう。今はってことは、前はいたんだ?」
「短い期間でしたけど」
「えー。いいじゃんいいじゃん。どんな子だったの?」
阿形さんは楽しげに身を乗り出してくる。
以前も積極的に話してはくれたけど、女の子は恋バナとなると勢いが違うな。
「フラれてんだからあんまり探ってやんなよ」
啓太郎さんが満足げな顔で俺の肩に手を乗せる。
この人は彼女がいてもおかしくない顔をしてるけど、女っ気ゼロなんだよな。
「悪い別れ方とは限んないじゃん? こんなにいい感じに変わったんだし」
「んー、たしかにな。前に会ったときはもっと根暗なやつかと思ってたよ」
「はっきり言い過ぎ。私もびっくりしたけど」
何を隠そう俺が一番驚いている。
二次元を相手に一生を過ごすのだと思っていた俺が、すでに4人もの女性と性的な関係を持ってしまったなんて。
女なんて信用できない、どうせどいつもこいつもロクなやつじゃないんだって、そう決め込んでいたのに。
今となっては、こうして年に数回しか会わないような人ともきちんと話せる。
「詳しく話すのは難しいですが、ツラい別れではなかったですよ」
「うんうん。いい女の子に出会ったんだね。しっかり前進してるのは良いことだ」
「あー俺も阿形がいい女の子だったら良かったのになー」
「うっさい」
阿形さんから啓太郎に容赦なく見舞われる腹パン。
「痛って! お前、暴力を振るう女はモテないぞ!」
「やられたらやり返せがうちの家訓なので」
「阿形のこの姿を見てなぜその教育方針が失敗だとわからなかったのか……」
「あんたはそれ、殴られたくて言ってるのよね」
そこから阿形さんと啓太郎さんの喧嘩(阿形さんの一方的なバイオレンスだけど)が始まり、俺はその慣れたやり取りをぼんやりと眺めていた。
心が落ち着いている。
前までは、こんな男女のやり取りを見ると、羨ましくて仕方なかったのに。
「おいお前ら、もう客が入る時間だ! 静かにしてろ!」
見回りに来たチーフに怒られて、俺たちはようやく仕事に戻った。
それから、バイトが終わったのは、夏の陽が傾く前ぐらいの頃だった。
規模がデカイだけあって片付け作業も長引き、俺は初日から設営込みのバイトにしたことに若干の後悔を覚える。
とはいえ、稼がないと遊ぶこともできないし、PCのパーツも買えないからな。
働かざるもの食うべからず。
何も苦労しない人間に、楽しく自由な人生を謳歌できるわけがないんだ。
「ソトっち、おつかれー!」
「お疲れ様です」
帰り際、俺は阿形さんに呼び止められた。
啓太郎さんも後ろからやってきている。
「ねえねえソトっち。飲みに行こうよ」
「え? 俺、未成年ですよ?」
「もちろんソトっちはソフドリね。いやー私さ、この歳になって飲み始めたらハマっちゃって。普段は友達と飲みに行ってるんだけど、せっかくだし、今回はソトっちと行こうかなって」
「ああ、なるほど」
これは迷うな。
自分でも不思議なことに、行きたくないわけではない。
今日はもう疲れてるから早く寝たいし、そもそも俺はバイト終わりに残ってまで人と話したいとは思わないタイプだったから、直感的にはお断りしたい気持ちがあるけど。
「持ち合わせが、あんまり無くて」
失礼な断り方ではあるが、お金を無駄遣いしたくないのが本音だ。
だが、意外なことに、ご飯を一緒にするのは構わないとは思える。
これはきっと、美優以外の女の子と付き合わなければという想いで、色んな人と関わろうとし続けてきたからなんだろうな。
「ダイジョーブだって! 飲めない後輩からお金は取らないよ」
そこまでして誘ってくれるのか。
夕食費分の小遣いを使わなくて済むと考えれば、むしろお得だし、悪くないかな。
「そういうことなら、ほどほどにご馳走になります」
昔の俺からしたら信じられないような返事をして、俺は阿形さんたちと飲み屋に行くことになった。
「うーむ……このお酒は微妙だなぁ。甘いばかりでこう、噛み締められるものがない」
阿形さんは日本酒とカクテルとウィスキーを順に注文し、つまみは枝豆だけという謎のテイスティングを続けていた。
「お前な、こんな安居酒屋で味比べしてもしょうがないだろ」
啓太郎さんはずっとビールを飲んでいた。
不味い不味いと言いながら、サークルでしこたま飲まされているうちに慣れてしまったのだとか。
「安くないよー! グラスで800円もするんだよ? それなのにドリンクを持ってくるのは遅いし年齢確認はされるし」
阿形さんは啓太郎さんの背中をバシバシ叩きながらボヤいていた。
いい具合に酔いが回っている。
人間ってお酒を飲むとこんなに変わるものなんだな。
今のうちに学んでおこう。
「でソトっちはさ、新しい恋は始めないわけ?」
そして俺にキラーパスがやってきた。
酒のつまみである枝豆がなくなってきて、次は俺ということか。
「頑張ってはいるんですけど、色々と苦労があって」
今の俺の状況を、どう説明するべきか。
美優のこともそうだが、山本さんとの関係もそう簡単に話せるものじゃないし。
でも、そうだな。
俺は美優以外の女の子とエッチができるようになるために、健全な恋をしたいと思ってここまでやってきたんだ。
だとすると、山本さんとの関係の終着点はつまり、付き合うことになるけど。
どうして今まで考えてこなかったんだろう。
「苦労って? ソトっちの好きな人が別の誰かに恋をしてるとか?」
「ソトミチが好きでもない女にアプローチをかけられてるとかじゃね」
「複数の女の子を好きになっちゃって選べないとか」
「元カノにフラれた影響でEDになってるとかな」
阿形さんと啓太郎さんが交互に喋る。
「啓太郎はマイナス思考過ぎ。啓太郎こそもっとアプローチかけなよ」
「あ? 男が女を追いかけるとかダサいだろ?」
「その考え方がダサいっての!」
また阿形さんが啓太郎さんの膝をバシッと叩いて、啓太郎さんが暴力反対アピールをする。
「で、ソトっち、どうなの」
阿形さんがふくれっ面で訊いてくる。
啓太郎さんもジョッキをドンとテーブルに置いて、追加で注文を取った。
「ずっと片思いしてる人がいて、その人が考えてることがよくわからないので、足踏みしてる……って感じですかね」
これはあくまでも、たとえ話。
俺の美優に対するこの想いを恋と呼ぶのは、少なからず問題があるのはわかっている。
俺が美優に一方的に欲情して、それがたまたま受け入れられてエロい関係が続いているだけであって、男として美優に何かをしてやれたことはない。
とはいえ、美優の女の子としての一挙手一投足に心を奪われてしまっているのも事実で、これを恋心以外で表現することもまた難しい。
美優のあべこべな態度は、結局なんなんだろうな。
男として迫れば気持ち悪いと言われ、オナホのような扱いをすれば「別にいいのに」と呟かれる。
エッチそのものが好きで、恋はしたくないという可能性は、ないよな。
だとしたら俺なんて選ばないだろうし。
「へー。ま、お前がフラれるまでの経緯をまず話せよ」
それからはニタニタと楽しそうな啓太郎さんに促され、阿形さんが啓太郎さんの失言を物理的に反省させながら、俺はどうにかうまい具合に話をつなげていった。
ちょっとした事件が起こったのは居酒屋の帰りだった。
まだ社会人が帰るには早く、学生が残るには遅いくらいの時間帯。
居酒屋を出て駅に向かっていると、啓太郎さんがツンツンと俺の肩を突いて、とある居酒屋の脇道に注意を引いた。
「おい、あの子、めっちゃ可愛いくない?」
ワンテンポ遅れて俺が目をやったその場所では、居酒屋の店員さんがお店の裏にビール瓶の運搬をしていた。
ポニーテールで長身の女性。
そのお店の制服であるTシャツが、遠目から見ても豊かな双丘に押し上げられている。
「俺、アドレス聞いちゃおっかな~」
酔った勢いなのか、いきなりナンパ宣言をする啓太郎さん。
お酒の力は本当にすごいな。
「あんた、さっきは女を追いかけるなんてダサいって言ってなかったっけ?」
「あれだけの上玉ともなれば話は別だって」
「ふーん。なら、話しかけてみたら?」
足取りのおぼつかない阿形さんは、不機嫌そうに啓太郎さんを睨む。
「声はかけたいけど、相手も仕事中みたいだし」
「うっわ。ヘタレ過ぎ。ダサっ」
「んだよ。業務中に声かけて成功するかっての。迷惑になるだけだろ」
二人がまた喧嘩をおっぱじめると、店員さんもその声が自分に向いていることに気付いたのか、こちらに視線を移した。
そしてあろうことかその店員さんは、店の奥からこちらに歩いてくる。
客だと勘違いされたのかもしれないと思い、どう説明するか迷っているうちに、その女性店員は脇道の暗がりから出てきた。
店員さんの顔が街の明かりに照らされると、俺はまさかの見知った顔に声を漏らす。
「や、山本さん!?」
「やっぱりソトミチくんだ。お仕事は終わったの?」
「ああ……うん……」
心臓が一気に冷えた。
この状況、啓太郎さんの見ている前で、かなり気まずい。
「え? なに? ソトっち、この子の知り合い?」
「は……? おい、ソトミチ。どういうことだこれは」
二人がぐいぐい迫ってくる。
さっき居酒屋でボカしながら喋ってた子がこの山本さんとバレたら、次に会う時が非常に面倒だ。
「えっと、友達、です」
ひとまず無難な回答で切り抜ける。
山本さんも仕事中だ。
どうせ長くは喋っていられないだろう。
……俺と山本さんって、友達関係でいいんだよな。
「マジかよソトミチ! お前、ちょっと俺と学校とっかえろ!」
「無理を言わないでくださいよ」
「無理って言うから無理になるんだ! てか、本当に友達? この子と普段から遊んでるの? 山本さんだっけ? マジなの?」
『友達』の定義が遊ぶ相手を指すものかはさておくとして。
啓太郎さんがあまりのショックに発狂しそうになってるから、早くこの場から離れたい。
「はい、ソトミチくんとは友達です」
山本さんは俺に目配せして、軽くウインクする。
「と言っても、“セ”のつく関係ですが」
そして、とんでもない爆弾を置いて、山本さんは「ふふふ」と口元を手で押さえながら店の中に消えてしまった。
阿形さんは口をあんぐりと開けてフリーズ中。
啓太郎さんは真顔で突っ立っていた。
「おい」
俺はガシッと啓太郎さんに肩を掴まれる。
正確にはまだセのつく行為はしていないが、まあそんなことを言っても収まりはつかないだろうな。
「二次会、行くよな!?」
般若を泣かせたような顔でせがまれて、俺は再び居酒屋に連行されることとなった。
それからガチ泣きが終わらない啓太郎さんがテキーラをショットで入れまくり、完全に潰れたところで二次会はお開きになった。
阿形さんの家が近いらしいので、二人が一緒に帰ることになり、啓太郎さんは肩を担がれてタクシーに運び込まれた。
車内がゲロまみれにならなければいいけど。
駅に向かうと、そのあまりの人の多さに驚いた。
時刻は21時になろうかという頃。
停車する電車が混みすぎて、ホームにいる人が乗り切れずにいるのが問題のようだ。
車内を覗いてみると、浴衣姿の女性がちらほらと見えた。
どうやら近くで花火大会があったらしく、ちょうどその帰りのラッシュに巻き込まれてしまったようだ。
地元まではそう遠くないのに、電車自体が遅延してしまっているせいで帰宅時間は予想もつかない。
加えて、急行を使えばすぐのところを、本日のみ各駅停車で運行されている。
花火大会の混雑くらいではこれほど大掛かりな対応にはならないはずだが、どうやら別件での遅延が要因として重なっているらしい。
俺はただでさえ汗まみれのスーツがもみくちゃになることも覚悟して、電車の混雑に突っ込んだ。
ギュウギュウに押し込まれて、手すりにつかまることもできず、俺は周囲からの圧力で突っ立っている。
荷物は前に、痴漢に間違えられないように手を揃えて、できるだけドア側に移動した。
しかし、これだけの満員電車になると、ドア際に来たのが正解だったのかは疑問だ。
2駅を過ぎて壁際にやってきたが、壁の硬さに挟まれるのは人間に挟まれるよりも痛い。
気合で空間をあけてみても、ベルトなどの硬いものが当たる痛みが和らぐだけで、肩から腕にかけては動かせそうになかった。
蒸し暑いし、痛いし、おまけに電車が急停車を繰り返すせいで、足が疲れてしまう。
周囲の人々も同じく疲弊しているようで、音楽を聴いてストレスを和らげようとする人や、手すりに挟まってぐったりしている人がちらほらと見えた。
「ん……?」
そんな中、思いもよらぬ出来事が俺を襲った。
背後からもぞもぞと、尻を触られるような感覚。
俺は男だし、まあ荷物でも持ち上げたくて無理やり手を突っ込んでるのかなと思っていたら、あろうことかそいつは両手を使って俺の尻を撫で回してきた。
これは、痴漢だよな。
どうしよう。
なにかの勘違いであって欲しい。
俺、男だし。
でも、こんなにあからさまに触られると、もう痴漢としか思えない。
しかし、どう対処したものか。
遅延している電車が俺のせいで余計に遅れると考えると、乗客からの文句が怖くて、自分が犠牲になっていればいいとさえ思えてしまう。
あと数駅我慢すれば降りられるんだ。
ケツを触られるぐらいは我慢しないと。
「っ──!?」
せっかくそう覚悟した直後に、痴漢は俺の腰に手を回してきた。
俺の両腕の分だけ空いたギリギリのスペースに手を忍び込ませ、今度はズボンのチャックの上に手を重ねてくる。
スリスリと指先で俺の肉棒の位置を探して、その形を確かめているようだった。
その感触に、嫌悪感が沸き上がる。
──と、思っていたのに。
あろうことか、俺はこの事態を、不快に感じてはいなかった。
それどころか、優しく撫でてくるその手を、気持ちいいとさえ思ってしまう。
ダメだ、こんなプレイに呑まれては。
いくら俺の性癖が歪んでいても、見ず知らずの──男かもしれない相手に痴漢されて興奮するなんて、あってはならない。
そう思うのに、俺の体は窮屈なのとは無関係に動かなかった。
恐怖の中にほのかに混じる好奇心。
今まで知り合った誰でも無い人間に秘部をイジられたら、どれくらい気持ちいいのか。
そんな考えが、「怖くて動けない」と言い訳する自分を本当に動けなくしている。
痴漢の手は止まらなかった。
俺のズボンのチャックを下ろし、トランクスのボタンまで開けて、完全にモノを狙いに来ている。
周囲に悟られないように、指と手首の可動域だけを使って、その手が俺の肉棒に触れてきた。
「ぅっ……ふぅ……」
生のペニスに触られている。
片方の指で竿を摘んで、もう片方の指で亀頭を擦ってくる。
これは本当にマズい。
勃起しかけている。
肉棒を撫でるその手が、その体温が、その柔らかさが、俺に抗いようの無い快楽を与えてくる。
痴漢は俺のパンツの奥に手を入れてきた。
俺のイチモツの全体を確かめている。
手のひら全体で、指の一本一本を使って、玉の下から亀頭の先まで、すべてを撫で回してくる。
「……ぅっ……!」
気持ち良すぎて、声が漏れそうだ。
これが男なら、俺はもう今まで知らなかった世界の扉を開いてしまったことになる。
でも、俺の少ない経験から考えても、このスラリと伸びた手の形、肌の柔らかさ、肌そのものの感触、男には思えない。
なんとなくだが、背中に柔らかい感触が当たっているような気もするし。
これって、女の人のおっぱいなんじゃないか。
てか、冷静に考えろ。
ありえないだろ、ここまでする痴漢なんて。
この混雑の中、わざわざ俺の背後に張り付いて、躊躇なく肉棒を触ってきた。
しかもその手は、すでに上下に動いて俺の愚息をシゴき始めている。
「ぁぐっ……ぃ……!」
き、気持ちいい。
周囲にバレない程度の、わずかな手首の動きで、俺は感じてしまっている。
これが男の所業のはずがない。
というか、こんなことをする人は、あの人以外に考えられない。
「はぁ……はぁ……!」
──山本さんだ。
山本さんが見知らぬ痴漢を装っているんだ。
高校生に深夜バイトはできないし、ランチの仕込みから入った山本さんが、最後の最後まで店で働いているとも考えにくい。
だとしたら、この時間がちょうど帰宅に被る可能性はある。
思えば俺が山本さんにエッチなイタズラをされたときも、学校でいきなり背後からだったし。
二度目はショッピングモールの更衣室で、フェラをしてもらったのは資料室だ。
山本さん、こういう外でのプレイ、好きすぎないか?
清純派のように見えて、経験豊富、かと思えば純情な面もあって、でも、プレイは変態的。
山本さんの性指向が全くわからない。
ただ、言えることは。
「ぁ……ぃぃ……」
とにかく股間が快楽に満たされている。
山本さんの手が、鈴口からあふれる先走り汁を全体に塗りたくり、カリから裏筋までを丁寧にマッサージしてくる。
すぐにでも射精してしまいそうだった。
この快感こそが、山本さんである証だ。
『えーお待たせいたしました。間もなく──』
ようやく次の停車駅。
この次が俺の降りる駅だ。
痴漢はひとまず俺の肉棒を引っ込めて、それでも離れようとはしなかった。
反対側のドアから乗客がぞろぞろと降り始めて、超満員だった電車が満員電車くらいにまで緩和される。
それでも、幸か不幸か、車内に入ってきて奥に進まない連中のせいで、ドア付近だけは人口密度が高いままだった。
もちろん、痴漢、もとい山本さんからの快楽責めは続いた。
ドアに擦り付ける勢いで俺の肉棒をズボンから外へと引きずりだして、刺激を与え続けてくる。
下手をすれば俺たちは、公然わいせつで御用になる。
そのあたりはさすがに山本さんだから、きちんと周囲の状況を把握した上でやっているのだろうが、満足に首を動かすこともできない俺にはただただ恐怖だった。
そして、その恐怖感と罪悪感が、俺の性的興奮を高めてくる。
こんな人の多い中で、堂々と手コキをされてるなんて。
俺が射精できないってわかってるから、ここまでしてるんだろうけど。
もしこの場で俺が我慢できなくなって、精液を壁にぶっかけてしまったら、山本さんはどうするつもりなんだ。
「ぁぅっ……はぁ……!」
山本さんが肉棒を握る力を強くしてきた。
手首とのスナップと合わせて、手コキを激しくしてくる。
「ふぅっ……ぅぅぐっ……!!」
声が、出てしまう。
気持ちよすぎて、頭が変になりそうだ。
『間もなく──』
車掌からのアナウンスが流れる。
ガチガチに勃起して、電車の中で蹂躙されていた肉棒は、その瞬間にようやく解放された。
電車が緩やかにスピードを落としていって、そろそろ駅のホームに入ろうかという頃。
気付いてしまった第二の問題。
こんな最大まで勃起した状態で駅に降りたら、股間が目立つ。
下手をしたら、その時点で別の痴漢容疑で捕まるかもしれない。
俺は乗客の流れに合わせて降り、改札を目指す人々に股間が見えないように柱の陰に立って、ホームから人が捌けるまで待った。
「あら、ソトミチくんだ。奇遇だね、こんなところで」
俺の背後からぴょんと姿を現した女性が1人。
本日二度目の出会いである。
「奇遇ってなぁ……もうほんと、びっくりしたよ」
これで相手が山本さんじゃなかったら、俺はもうなんというか、人生の半分を投げ出していた気がする。
「凄いことになってるね」
山本さんはパンパンに張ったスラックスを見て、クスリと笑う。
「誰かさんが変態プレイをするから」
「えー。ソトミチくんだって喜んでたじゃん。お汁いっぱい垂らしてたし」
「うっ……」
そこを突かれると反論できない。
まあ、俺も楽しんでいた部分はあるし、お互い様か。
「ソトミチくんは帰りは自転車?」
「今日はバスだよ。スーツだと運動するのも汗をかくのもなるべく控えたいし」
「なら一緒に帰れるね」
山本さんは俺の横に並んで歩いた。
あの、隣を歩いている男は、勃起を隠すためにカバンを前に抱えているような人間なんですが、大丈夫なんでしょうか。
「山本さんは、その、ああいうの、好きなの?」
バス停に向かう道すがら、俺は山本さんに聞いてみることにした。
これから性的な関係がもっと深まるのであれば、互いの性指向を理解しておくのは重要だ。
決して、過去のことを探りたいわけではない。
「ああいうのって?」
「だから、ほら。外でするのとか。学校とかでも、色々あったし」
「あー……」
山本さんは真剣な顔で考え込む。
自覚はあったのだろうか。
「言っておくけど、お家以外でエッチなことをしたのは、ソトミチくんだけだからね?」
「え、マジで」
あれだけのことをされると、その発言はにわかに信じがたい。
もちろん、俺に対するイタズラは、山本さんが抱える悩みを解決するためだったのは理解している。
でもそれにしたって、一番最初のエッチなイタズラは、どう考えてもそういうプレイが好きな人間のやることとしか思えないんだが。
「まあ、そのですね。しようと思ったことが、ないわけではなくて。実際、お外なのに出ちゃった人はいるし」
そうか。
結果論ではあるが、しようとしても、プレイに至る前にみんな射精してしまうから、できなかったのか。
「なので、一応答えておくと、好きです」
「そっか。まあ、俺も、好きだけど」
「だと思った」
山本さんは楽しげに笑う。
この笑顔にはいつも癒やされる。
「バス、並んでるな」
バス停までたどり着いたはいいものの、少なくない人数が行列を作っていた。
俺の肉棒の硬さも抜けていないのに、この集団に混じって移動するのは怖いものがあるな。
「でもこのバス停を利用する人って、大抵は薬師前行きに乗るでしょ? うちの近くなら、もっと手前終点のやつがあるよ」
「そうなんだ」
バイトのときくらいしかバスを使わないからな。
いつも同じ行き先のやつしか使っていなかった。
「ほら、あのバス。あんまり人が乗ってないけど、ちゃんと家につくから安心して」
俺は山本さんと二人でバスに乗り込んだ。
乗客は先頭側の椅子に座っている人が何人かいるだけ。
股間の盛り上がりをバックで隠しているようなこの状況では、人はいないに越したことはない。
俺たちは一番後ろの座席に並んだ。
バスから家までは、交通状況にもよるが15分程度で着くことができる。
「それにしても、あんなメッセージを送った後にこうしてばったり会っちゃうのは、ちょっぴり恥ずかしいね」
そういや、次に会うのは二日後って言ってたもんな。
恥ずかしがるポイントが若干ズレているような気もするが、まあいいか。
「俺としては、会えるのは嬉しいよ」
「お、照れることを言う」
山本さんはポニーテールを口元まで引っ張って横顔を半分隠す。
こういうわざとらしい仕草も山本さんの可愛いところだよな。
定刻になってバスは出発したが、俺たちの後から人は入ってこなかった。
人寂しいバスの中は、夜らしい静かさに包まれていて、私語をするのがためらわれる。
「ところで、ソトミチくんはいつまでそうしてるのかな」
山本さんはヒソヒソ声で話しかけてきて、俺の張りっぱなしのテントを突いた。
「これは……自然には、収まりがつかないというか……」
あんなことをされた後だし、かなりムラムラしてしまっている。
バスに乗っている間に少しは縮まるだろうが、完全にガス抜きするためには射精するしかない。
「出したい?」
山本さんは顔を隠したまま、小さな声で訊いてくる。
「えっ、ど、どう、やって……?」
「知らない。でも、もしするなら、ソトミチくんのしたいようにするしかないと思う」
俺のしたいようにか。
それはどこまでが許される範囲なんだ。
「それって……その……今……してもらえるとか……?」
「ソトミチくんが今って言うなら、今じゃないかな」
山本さんは俺を煽るように見つめてくる。
しかし、体は動かさない。
俺の命令を待っている。
「なら、口でって言ったら、してもらえる……?」
「んー? ここでフェラしてほしいの?」
「そ、そういう、ことになる、かな」
言ってしまった。
一般のお客さんも乗っているのに。
「いいよ」
山本さんは両手を座面について俺に身を寄せてくる。
腕を曲げて身を伏せれば俺の股に口をつけられる状態で、山本さんはまた動きを止めた。
これは俺が脱ぐのを待ってるんだよな。
公共の場で、また秘部を露出することになるなんて。
「こ、これで……」
俺はチャックを下げ、開けっ放しだったトランクスのスリットから亀頭を覗かせた。
バスの冷房で股間がスースーする。
「これを咥えればいいの?」
山本さんが息を抜くだけのような微かな声で尋ねてくる。
「うん。あっ……ただ、今日はすごく汗かいたから、あんまりキレイじゃない、けど……」
今の俺の体は、お世辞にも清潔とは言えない。
長時間の労働で汗まみれになり、さきほど電車で手コキをされて先走りが塗りたくられたこの陰部には、汗と精液のニオイが充満している。
「ふーん」
山本さんはやや口をすぼめて不満顔を作る。
「でもソトミチくんは、それを私に咥えさせたいんでしょ?」
心がズキッとすると同時に、ペニスがビクンと跳ねた。
別に汗で汚れた肉棒を咥えさせることが好きなわけではないが、改めて言葉にされると、また体が興奮に目覚めてしまう。
「えっ、あの。山本さんとしては、いいの?」
「ソトミチくんがやれって言うならする」
山本さんはあくまでも受け身の姿勢だった。
誘ってきたのは山本さんなのに、これでは俺が悪いことをしているみたいだ。
でも、ここまできてやっぱり止めるなんて、空気が台無しになる。
山本さんだってきっとそんなことは望んでいない。
「じゃあ、これ、咥えて」
「わかりました」
山本さんはまるで従順な下僕のように俺の命令に従った。
首を下げ、バスの中で露出させた性器に、唇を近づける。
「っ──!」
その湿った粘性が、外に開放された俺のイチモツを包み込んでいく。
バスのエンジン音と、隣を走る車の騒音だけが不規則に流れ込む車内で、山本さんは俺のペニスをその口に咥え込んだ。
口を大きめに開けて、わざと舌を長く出し、陰茎を舐るサマをまざまざと見せつけてくる。
あまりにも卑猥なフェラに、俺の目は山本さんに釘付けになっていた。
山本さんは唇を軽く窄めて、口でコンドームをつけるように、俺のペニスの表皮についた汚れを舐め取っていく。
山本さんもまた、俺を見ていた。
横目で俺を睨むようにして、どこまでも俺を悪者に仕立ててくる。
無理やりフェラをさせているつもりはないけど。
ゾクゾクして堪らない。
「んっ……ちゅぷっ」
バスの停車に合わせて、山本さんは顔を上げた。
バス停に立っていた人が車内に乗り込んでくる。
山本さんは目を細めて、俺を睨む視線を強くしていた。
「酷い精液のニオイ」
「うっ……ご、ごめん……」
男はどれだけVラインを丹念に洗っていても、特に連日射精している男の場合、汗をかくと謎の精液臭がするようになる。
射精の習慣が汗腺に影響を及ぼしているのかは定かではないが、この暑い時期に蒸れた陰部は、かなりのオス臭さになっているはずだ。
それでも。
「また、咥えてって言ったら、してもらえる?」
乗車してきた老婆は前方の優先席に座った。
後部座席が視界に入るような位置には、まだ誰もいない。
「して欲しいの?」
「うん」
「んふ。しょうがないなぁ」
山本さんは、おそらく意味のなかった問答を挟んで、また俺の肉棒への奉仕を再開した。
俺のズボンを根元に押さえつけて、ペニスの竿全体を完全に外に出してしまう。
そして、それを口には含まずに、舌で撫で回してきた。
「はぁ……ぁっ……うっ……!」
刺激は減ったが、露出感が高まったことで、快感はむしろ増していた。
3席前の二人がけの椅子では、新社会人らしき若いスーツの男がゲームをしている。
イヤホンをつけているから、多少声が漏れてしまっても聞こえることは無いだろうが、油断したら大声で喘いでしまいそうで背中がヒリつく。
「んっ……んくっ……ちゅっ……じゅぶっ……」
山本さんはたまに、バスのエンジンがかかった瞬間に合わせて、あえて空気を含ませてペニスを吸った。
じゅぼじゅぼと音が耳に響いて、集中によって大きく感じるその音に、心拍数が一気に上昇していく。
「うぁ……んっ……山本……さん……!」
俺はついに我慢しきれなくなって、山本さんのおっぱいに手を触れた。
あろうことかTシャツの下にはブラジャーしか身に着けていない山本さん。
手を入れたら、生で触れてしまえる。
「ん……。スケベ」
山本さんは頬を緩めながら俺を睨んでくる。
「そんなに触りたいなら外したら?」
悪魔的な誘惑だった。
駅前の短い渋滞を抜けてスピードを上げるバスは、もう5分もしないうちに最寄りのバス停まで着いてしまうだろう。
謎の焦りに背中を押された俺は、山本さんのブラのホックをすぐに外した。
そしてそれに合わせるように、山本さんは器用にTシャツの中で腕を回して、ブラジャーだけを取り出した。
二つに折り畳まれたブラジャーが、手持ち無沙汰な左手に預けられた。
デカい。
美優のブラを見慣れた俺でも、このサイズ感には驚愕する。
だがもっと驚くべきはそのカップが支える中身の方だ。
Tシャツがおっぱいの重みでたわみ、乳首の在り処を指し示すように先っぽだけがぷっくりと膨らんでいた。
エロ過ぎる。
もう我慢なんてできない。
俺は山本さんが半裸になるのも厭わず、Tシャツの裾から手を入れておっぱいを揉みしだいた。
山本さんは文句も言わず、身じろぎもせず、ただ、俺を蔑むような目だけを向けてペニスを舐め続けている。
傍からみたら、俺が下着を取り上げて、山本さんにフェラを強要しているようだ。
服を乱され、汚らしい棒を咥えさせられ、公共の場で辱められる山本さんの姿に、俺の興奮が最高潮に達していく。
「っ……ぁっ……!」
性欲を煽られて、エロいことをしてしまい、恨みの籠もった視線を送られながらも、相手はそれを受け入れてくれている。
その状況が、まるで、美優とエッチをしているようで。
それを自覚した瞬間、俺の射精欲が一気に弾けた。
「うっ──!」
それが、次のバス停に着く直前のことだった。
喋ろうとすると喘ぎ声が出てしまいそうで、俺は山本さんに射精する宣言もできず、無断で精液を山本さんの口腔内に射出した。
「んっ……!?」
ドクッ、ドクッ、と、何度も濃い精液を、山本さんの口の中に送り込んだ。
山本さんは驚いて顔をしかめるが、口を離せば座席を汚すことになってしまうため、乗客が入り込んでいるその最中でもずっと俺のペニスを咥えているしかなかった。
俺の射精が終わるまで、ブラジャーをつけ直すことも許されず、後部座席に歩いてくる乗客の足音に怯えながらその時を待つ。
やがて俺の肉棒が筋肉の収縮を止めると、山本さんは急いで体を起こした。
乗り込んできたカップルは、最後部のひとつ前の席に座り、仲良く並んでいる。
俺は前の座席の背もたれに上手く隠れながら、ズボンのチャックを上げ、ブラジャーを背後に隠した。
「むぅぅ……うっ……!」
山本さんは俺の精液を口に含んだまま、泣きそうな顔になっていた。
ただでさえ吐き捨てたくなるほど不味い俺の精液を、あろうことか一日溜めてから大量射精させられたのだ。
さすがの山本さんでも、それを無表情で飲み込むのは無理だったらしい。
しかし、だからといって怒っている様子もなく。
背後でイチャつき始めたカップルたちをよそに、山本さんは口を開けて俺にどれだけの精液を出されたのかをアピールしてくる。
ぬちゃっと口蓋から滴り落ちる白い液体。
喉の奥まで白濁液が満たされている。
「ご、ごめん。なにか、吐き出すものを……」
俺が急いでカバンの中をガサゴソと漁っていると、山本さんは俺の手を止めて、ごきゅっと喉を鳴らしてそれを飲み込んだ。
「うっ……ふぅ……はぁ…………の……飲んだ」
山本さんはなぜか得意げな顔をして、今度は空っぽになった口内を見せてくる。
「えっと……水いる……?」
俺はカバンから出しかけていたペットボトルをチラと見せる。
「いる」
即答だった。
渡して数秒もしないうちに、半分以上水があったペットボトルがすっからかんになって戻ってきた。
やはり俺の精液を飲み慣れることはないらしい。
「えっと、なんというか、ありがとう。気持ちよかった」
「いえいえ。どういたしまして」
山本さんはお辞儀をしてニッコリと笑う。
気づけばいつもの山本さんに戻っていた。
「ソトミチくんが美優ちゃんとどういうエッチをしてるのか、だんだんわかってきた」
そしてヤブからぶち込まれる衝撃発言。
今日の俺の様子からいったい何を探っていたんだ。
「あ、もう次だ」
山本さんは俺の前で腕を伸ばして、降車ボタンを押す。
Tシャツの胸元から、ブラジャーをつけていない山本さんの谷間が見えて、俺は思わず視線を奪われた。
「ソトミチくんのえっち」
山本さんは片腕で胸を抱いておっぱいを隠す。
もっと近くにボタンがあったはずだけど、エッチなのは否定できないので謝っておこう。
「すまん」
そんなやり取りを経て、俺たちは山本さんの住むマンションまでやってきた。
自動ドアが感知するギリギリ手前で、俺はカバンにしまっていた山本さんのブラジャーを取り出す。
電車で痴漢プレイをした上に、カバンに女性モノの下着を入れているなんて、俺はいつの間にこれほどの変態になったのだろう。
悪いのは、全部山本さんだけど。
「これ、返すよ」
「ありがと。持って帰られたら、美優ちゃんのと間違えられてどっかいっちゃいそう」
「さすがに山本さんほどではないよ」
あの小さな体とのギャップで考えれば、山本さん以上ではあるんだけど。
「じゃあ、また明日な」
「うん。次こそは、しようね」
山本さんは両手で小さくガッツポーズを決めてから、手を振って俺を見送ってくれた。
明日がついに本番か。
そういえば俺、手持ちのゴムってほとんどなかったよな。
前回もするつもりだったのに、忘れてたし。
今のうちに買っておかないと。
「あれ? ソトミチくんの帰り道、そっちだったっけ?」
俺が近くのコンビニに寄ろうと、普段とは違う道に進んでしまったため、山本さんに不審がられた。
「ああ、それはだな……」
どうしよう。
前回もゴムを持参していなかったことを、正直に言うべきかな。
生を強要するつもりなんて毛頭なかったけど、印象は良くないだろうし。
とはいえ、上手く凌げるだけの言い訳も思い浮かばない。
「ゴム、買っておこうと思って。前回はその、持って行ってなくて、申し訳ない。また忘れそうだから、今のうちに買っておくよ」
「おー……なるほど……」
山本さんは俺の言葉を聞いて、しばらく考え込んだ。
「実は私、自分で買ったことって無いんだよね」
マジで、とまた疑いの言葉が口をついて出そうになった。
山本さんはこれだけエッチが好きなわけだし、常備していたとしても俺は驚かないが、山本さんは今まで本当に、したくてもできなかっただけなのだろうか。
「……売り場、見てみる?」
とはいっても、コンビニの日用品棚に陳列されているものだし、珍しいものでもなんでもないとは思うが。
さすがに見たことぐらいはあるよな。
「うん、そうだね」
山本さんはポーチにブラジャーを詰め込むと、俺の隣まで近寄ってきて、そして、手を繋いできた。
「それじゃあ、一緒にゴム、買いに行こっか」
それから俺たちは、手を繋いだままコンビニに行き。
買い物袋を下げて店を出てくるまで、放すことはなかった。