※この作品はR-18です。

俺の妹が最高のオカズだった   作:風見 源一郎

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好きだよ

 

 朝になって目が覚めると、隣には当たり前のように美優が寝ていた。

 

 とはいえ昨日の夜に「一緒に寝よ」と言われたから驚いたりはしていないんだが。

 

 ああいや、ここは正確に伝えなければならない。

 なぜなら3度目となるこの共寝も、何やら理由があってしているらしいのだ。

 

 昨晩、「大切なお話があります」と美優に言われてから、俺がどんな話かと尋ねたところ、「その前にしておくことがある」とお預けをくらってしまった。

 そして、その次に出てきた言葉が「今夜は一緒に寝よ」だったのだ。

 なにやら大切な話とやらに関係しているらしいが、俺としては美優と一緒に寝られるだけで嬉しいので断る理由はなかった。

 

 寝起きに女の子といることが多くなった俺の人生。

 昔の俺が見たらなんて言うのか。

 昔っていうか三ヶ月間くらいのことなんだけど。

 

(もう10時か……さすがに寝過ぎたな……)

 

 昨日は美優からカーテンを閉めて寝ようと提案されたため、部屋には日光が入ってこず、時計の示す時間と体感時間がいまいち合わない。

 休みの日になると、美優はいつもこうして日差しを遮断して遅くまで寝ているのかと、ふと疑問に思う。

 でも、土日の朝食の時間を考えると、休みの日もきちんと起きてるはずなんだよな。

 

「美優、もう10時だ。起きないのか」

 

 隣で眠る美優は、俺の右手を胸に抱いて眠っている。

 

 このまま胸を揉んで起こそうかと一瞬血迷い、俺は空いている方の手で美優の肩を揺すった。

 どれだけ美優の仕草が俺への好意に思えても、失礼はいけないのである。

 

「ん……」

 

 美優は重たい瞼を上げて、薄目で部屋の明るさを確認する。

 そして、その暗さに安心したのか、またベッドに体重を預けておやすみモードになった。

 

「まだ夜だよお兄ちゃん……」

「いや美優がカーテン閉めたんだよ。時計を見ろ時計を」

「むーまだ夜だってば」

 

 美優はもぞもぞと動いて、おっぱいが潰れるくらいの至近距離まで俺に近寄ってきた。

 

 よほど起きたくないらしい。

 早くしないと昼飯の時間になってしまう。

 せっかくの献立表がたった一日で破綻するわけだが、この夜はいつまで続くのだろうか。

 ずっとこうしていたい。

 

「あんまり甘えられると、俺もその気になるぞ」

 

 俺は空いていた方の手を、まずは美優の背中にまで回してみる。

 それを美優が嫌がる素振りはなく、俺は腕に少しずつ力を込めて美優を抱きしめてみた。

 その圧迫感の中で、美優は体勢を変えることもせず、代わりにおっぱいに挟まっている俺の手をギュッと握ってきた。

 

 こんなことをされたらもう勘違いがどうとか言っている場合ではないのだが。

 

 しかし、残念なことに、今は朝なのだ。

 

「美優は本当に寝起きが弱いんだな」

 

 美優は熟睡から目覚めた直後は、何故か甘えモードになる。

 もしかしたら、他の子と寝泊まりしているときも同じなのかもしれない。

 だから俺が好きだからこうしているとは限らないわけだ。

 

「むぅ」

 

 そんな美優が、今朝は不満気に顔を上げた。

 目はパッチリと開いていて、表情も引き締まっている。

 

「普通に起きてるよ」

 

 どうやら今朝は寝惚けていたわけではなかったようだ。

 ともなると、この密着具合はもう好きの証としか取れないのだが。

 

「悪い。なんかビックリして」

 

 大切な話があるとか、その前にやることがあるとか、そんなことを言われていなければ素直に喜べるのに。

 

「起きてたらくっついちゃいけないの」

 

 美優は口をへの字に歪めて、少しだけ俺から離れた。

 

「ま、待った! 違うんだ。美優にくっついてもらえるのは死ぬほど嬉しい。ただ、いままで色々あったから……」

 

 昨日からずっとベタベタしてくるし、これは素直に好意と取るべきだとは思う。

 それでも、由佳のときのようなお仕置きがあったせいで、条件反射的に身構えてしまうのだ。

 

「ふむふむ」

 

 美優はまだ両手で掴んだままの俺の手に頬ズリして、目を瞑りながら考え込む。

 ほっぺがふにふにで気持ちいい。

 

「尤もな意見だね」

 

 目が合った美優の表情は穏やかだった。

 

 よかった。

 珍しく俺の意見が認められた。

 

「疑ってると、美優に失礼かな?」

 

 信じていいなら信じたい。

 美優にもっとストレートに好きな気持ちを伝えていいのなら、今すぐにでもそうしたい。

 だけど、俺のこの想いはあくまでも美優のためになっていて欲しくて、その上で俺は美優に尽くしたいんだ。

 

「別にこの距離感でいいよ」

 

 美優は安らかな顔で、微妙に隙間の空いた位置でまた眠りについた。

 

 この距離感でいいというのは、どちらでも構わないという意味なのか。

 それとも、この距離が望ましいという意味なのか。

 

 わからない。

 

 でも、俺と美優の間にあるこの隙間は、すでに埋まっていた距離なわけで。

 

「なら、俺がもっと美優を信用するって言ったら……?」

 

 美優が俺とのスキンシップを望んでいるのだと、そう本気でそう信じるのであれば、俺が触れることを美優が嫌がることはないはず。

 いや、もっと自分に正直に表現するなら、美優は俺が抱きしめることを喜んでくれるはずだ。

 

 俺は美優をそっと抱き寄せて、体を密着させた。

 初めて自分から引き寄せる美優の体温に、告白をした直後のような心音が頭に響いて、期待と不安がジワりと滲んでくる。

 

 そんな俺に対して、美優は体を少しだけ上に移動させて、俺を抱きしめ返してきた。

 美優のおっぱいが俺の口元に当たって、俺が首を下げれば顔を埋められるような位置。

 そこから更に、美優は自身の膝を俺の腰に乗せて、脚を絡めてくる。

 

 考えうる限りで、美優と最大限に密着した状態。

 

 これは、イエスの返事でいいんだよな。

 俺が美優にくっつくことを、美優は認めてくれたんだよな。

 

「美優……」

 

 美優のおっぱいの匂いが俺に和らぎをもたらしてくれる。

 悲しいことに、きっちりと情欲までをセットにして。

 

 いわゆるリラックスをしたままの興奮状態。

 こんな状況で空気を壊すようなことはしたくないが、美優のおっぱいを目の前にして性欲を抑えろという方が無理な話だ。

 

「あの、先に謝っておくんだけど」

 

 俺がそう切り出した後に、言葉を続けたのは美優だった。

 

「別にいいよ。どうせおっきくなっちゃうんでしょ」

 

 美優もさすがに俺のことはよくわかっていて、もう怒ることも無いようだった。

 そんな言葉に安心したのか、俺の愚息はムクムクと成長していき、ものの数秒で最高硬度に達する。

 

「んあっ……お兄ちゃん……そこ……」

 

 硬くなった俺の肉棒に、美優が身じろぎをした。

 

 美優の体の位置は俺より上。

 しかも片脚を俺の腰に乗せて絡みついてきている。

 すると必然、俺の勃起が美優の割れ目に当たってしまうのだ。

 

「悪い」

「謝ることはないけど。私もこんなに見事に当たるとは思ってなかったし」

 

 俺はスウェットをパジャマ代わりにしているため、美優の服よりも生地がだいぶ厚い。

 だから美優も、俺が勃起してもそれほど突起が盛り上がらないだろうと踏んでいたようだ。

 しかし、勃起する前から美優の股が俺のズボンの上部を押さえていたせいで、すんなり上向きに膨張するはずの肉棒が割れ目に引っかかってしまっている。

 

「美優がもうちょっと上に来るとかは?」

「お兄ちゃんがおっぱいで窒息しちゃうよ」

「俺は構わないが」

「私がイヤなの」

 

 くそう、なんてわがままな妹だ。

 だがそんなところも愛らしい。

 

「なら、離れる……とか。俺は嫌だけど」

「私もイヤ」

 

 美優が抗議をするように俺をギュッとする。

 美優のおっぱい嗅ぎ放題が無くなるのは勿体無いし、なによりこの密着状態の収まりが良すぎて体勢を変えたくない。

 

「なのでこのままジッとしていましょう」

「それは俺が我慢できないんだが……」

 

 こんな生殺し、耐えられるはずがない。

 せめて少しずつくらいは性欲を発散しなくては。

 

「押し付けたら怒る?」

「怒る」

 

 美優は素っ気なく、しかし、はっきりと答える。

 予想通りの回答ではあるけど、前はさせてくれたような。

 

「パジャマが汚れるでしょ」

 

 そんな俺の思考の足りなさを美優が補足してくれた。

 

 美優の濡れやすさだと、下着を圧迫すると愛液が染み出してしまう。

 前はスカートだったから汚れるのは美優のパンツだけだった。

 その結果として俺の制服のスラックスまで濡れてしまったわけだが、それと同じことがお気に入りのパジャマでも起きてしまうのは避けたいらしい。

 

「パンツはいいのか」

「さすがに諦めたよ。どうせイジってなくてもお兄ちゃんといると濡れちゃうし」

 

 美優はさらっとそんな発言をしておいて、間を置いてから目を逸らして後悔の表情を伺わせる。

 ここは突っ込んでやらない方が美優のためだろうか。

 

「前みたいにナプキンを敷いておくとかは?」

「お兄ちゃんはあれ敷くとどうなるか知らないでしょ」

「すみません……」

「そもそもそんなのつけてたらお互いに気持ちよくないでしょうが」

 

 はい。なんとなくわかっていました。

 わかっていながら欲望に任せて愚かな発言をしてしまいました。

 

「まったく。お兄ちゃんの妹には添い寝も許されないんですかね」

 

 美優は膝を俺の腰から下ろして、俺のペニスをグリグリと圧迫してきた。

 

「あっ……痛っ、ご、ごめん……!」

 

 美優がこうして乱暴に刺激してくるときは、本当に痛みを感じるくらい強くしてくる。

 快感を与えることなんてまったく考えず、かといって怒りや敵意があるわけでもなく、ただ俺の堪え性の無い性欲を蔑むための行為だ。

 

「あ、あぐっぁ……あっ……!」

 

 それが俺に多幸感と快楽をもたらしてくれる。

 前から何度かSMっぽいプレイを強いられてきたが、その痛みが快楽に変わることはなく、ただただ痛みそのものに俺は歓喜してしまう。

 

「あ、あっ……! ま、待って! それ以上は……!」

「えっ。もう出ちゃいそうなの」

 

 美優はマジで引いたような顔をして、ため息を一つ吐くといつもの表情に戻っていた。

 

「お兄ちゃんってほんとドMだよね」

 

 美優は膝を押し付けるのをやめて、今度はよしよしと肉棒を撫でてくれた。

 下腹部の血流が速まって鋭さを増す勃起。

 このアメとムチに、愚息の方もすっかり調教されているようだった。

 

「出したい?」

「出したい」

「じゃあ脱いで」

 

 こんなに優しく「脱いで」と言われたのは初めてだった。

 

 俺は胸の内にじんわりと暖かいものを感じながら下半身を露出させる。

 ムスコも照れているのか亀頭が真っ赤だった。

 

 美優は俺から離れると、足元に移動し、そして、布団を頭まで被った。

 

「終わるまで覗かないでね」

 

 美優は俺の腰まで布団を上げて、自分の体をすっぽりと覆った。

 

 布団に下半身が隠された、その暗闇の中で、美優の手が俺のペニスに触れる。

 そのいつ何をされるかわからない緊張感に、俺は思わずビクッと身を震わせた。

 

 そんな俺を弄ぶように、美優は下半身へのキスを至るところに繰り返して、そしてついには、ひたっ、と濡れたものが肉棒に当たる感触があった。

 

「あっ……!」

 

 竿の根元から、美優が俺のペニスを舐め上げている。

 美優が俺のペニスの裏筋を舐め、亀頭を唇でシゴき、竿全体に吸い付いてきた。

 俺に見られていないからか、普段よりも激しい愛撫が俺のペニスを責め立てている。

 

「はぁ……ああっ……! 美優……いいっ……!」

 

 ジュポッ、ジュボッ、とひとしきりしゃぶってからは、また舐めフェラに変わり、その舌が玉袋にまで這いずってくる。

 

 その舌が、ぺろりと睾丸を撫でた瞬間。

 

「あああっ! それ、やばいっ……!」

 

 美優に陰嚢を舐められると同時に、尿道口からトロッと先走りが溢れたような感覚があった。

 以前に山本さんが言っていた、玉舐めをすると精液が増えるという現象がもし本当なのだとしたら、たしかに美優に舐められて俺の体が喜ばないわけがなかった。

 

 そんな俺の歓喜が伝わったのか、美優はしばらく玉舐めを続けてくれた。

 俺がイかない程度に竿も擦って、ペロペロと股下のあたりまで全体を舐め回してくれる。

 

 美優もこの目隠し状態だからこそここまでご奉仕をしてくれているんだろうけど、こんなイヤらしい舐め方をする美優の顔を見てみたい。

 こんなに美優がエロいことをしてくれているのに、俺に見ることの景色はこんもりと膨らんだ布団がときおりモゾモゾと動く程度だなんて。

 

 約束だから終わるまで布団は捲れない。

 でも俺のペニスを舐め回している美優は見たい。

 

 そんな葛藤の中で、ついに竿にむしゃぶりついてきた美優のフェラに、俺の射精衝動は一気に高まった。

 もうこうなったら、このもどかしさを射精にぶつけるしかない。

 

 俺はベッドで仰向けに、静かな部屋で天井を見上げる。

 

 布団越しに、ジュブ、ジュブ、と微かなフェラ音が聞こえて、夏休みの閑静な朝の空気に溶けていった。

 

 女の子の裸が見えているわけでもない。

 喘ぎ声が聞こえているわけでもない。

 だが、だからこそ、この布団の中で行われている行為を酷く卑猥に感じる。

 玉舐めで血流を促された睾丸から、ググッと精液がせり上がってきて、もはや耐えられるだけの猶予はなかった。

 

「美優、もう、出るよ……!」

 

 俺は布団越しに声を掛ける。

 俺には見えない空間の中で、俺の射精を待っている美優の口に、俺は思い切り射精をした。

 

「ああっ……美優……出る……出るッ……!」

 

 ドクッ、びゅるっ、びゅるびゅくっ、ビュッ──!!

 

 美優が飲んでくれることを信じて大量の精液を吐き出した。

 ペニスにはしばらく温かい粘性が全体を覆っていて、美優が咥えたまま俺の射精を受け止めてくれたことがわかる。

 

「美優……アッ……ああっ! も、もういいって……!」

 

 ペニスを口に含んだままだった美優は、俺の射精が終わってからすぐにフェラを再開した。

 溜まっていた分の精液は十分に出せたし、今朝はもう終わりでいいんだけど。

 

 美優には俺を無理やりイかせようとする癖がある。

 だが、それは俺を煽ってのことであって、こんな無機質に射精地獄を始めることはないはずだった。

 

「美優、もう、スッキリしたから……!」

 

 射精後もぐちゅぐちゅと吸い付かれる感覚が続いて、俺は声が届いていないのかと思って布団を捲った。

 

「ふっ……んんっ……ふあぁ……ちゅぶっ……んちゅ、じゅる、じゅぶ……! んむっ……はぁ……ちゅぱっ……ちゅっ……むちゅっ……」

 

 美優は俺が布団を上げたことにも気づかず、一心不乱に俺のペニスを咥えていた。

 

 しかも、その右手を自分の股ぐらに突っ込んで、フェラと一緒に動かしている。

 

「み、美優……!?」

 

 俺は思わず布団を被せ直して硬直した。

 

 美優が、俺のペニスを咥えて、俺の声が聞こえないくらいオナニーに没頭していた。

 

「じゅっ……じゅぶっ……くちゅ……んはぁ……んんっ……じゅるじゅぶっ……!」

 

 フェラがどんどん激しくなって、布団越しでもはっきりと唾液を啜る音が聞こえてくる。

 

「美優っ……あああっ……そんなにしたら……あっ……!」

 

 美優が自慰行為に浸りながらフェラをしているという事実。

 それが興奮材料として加わって、俺の射精欲を膨らませた。

 再充填された精液に、それでも俺は、次は美優がイク番だと、必死に自分に言い聞かせたが。

 

「ああっ……ああぐっ……きもち……よすぎる……!」

 

 フェラをすると興奮するとは聞いていたけど、まさかあの美優がここまで乱れるなんて。

 

 まだ俺にその姿を知られていないつもりの美優は、恥じらいを一切持たない淫らなフェラで俺を責め立ててくる。

 同性相手ですらトロかせてしまうほどの器量を持つ美優が、男のツボを把握するのに手間取るはずがなく。羞恥という壁を乗り越えた美優のフェラテクに俺が十秒と耐えられるはずもなかった。

 

「美優、ごめん……! また出る……出る……!!」

 

 俺は美優に聞こえるように、布団を捲って大きな声で警告した。

 

「んんっ……」

 

 どうにか届いた声に、美優はフェラを止めて、俺はそこに二度目の射精をした。

 ドクン、ドクン、と先ほどを上回る量の精液を、唇で竿を絞める美優の口に放出して、それと同時に、美優の体も強張っていく。

 

 美優は急いで自らの股から手を引き抜いて、両手で俺のペニスを支えながら必死にそれを我慢した。

 

 俺に射精されることでやってきた絶頂の兆し。

 怒涛のように押し寄せる衝動に、美優は精液を飲み込むこともできず、そして、そのままビクンビクンと体を跳ねさせてイッた。

 

 目尻に涙を溜めて、それでも精液を吐き出すまいと懸命にペニスを咥えたまま、美優はオーガズムに痙攣する体と懸命に戦っている。

 そんな状態がしばらく続いて、美優は自らの絶頂が収束してから、ゆっくりと精液を飲み込んだのだった。

 

「美優、あの……。あ、ありがとう」

 

 怒らせてしまったかと迷ったが、まず言うべき言葉はそれだと思った。

 美優が俺のためにフェラをしてくれて、何よりも俺は感謝をしている。

 

 そんな俺に、布団から抜け出てきた美優は四つん這いのまま覆いかぶさってきて、俺の両手首を押さえた。

 べったりと愛液のついた美優の手が俺の手首を強く握って、血流が止まりそうなほどに圧迫してくる。

 

 やっぱり怒っているのかと、見上げた美優に怒気は感じられず。

 目はトロンと虚ろになっていて、むしろそこには感情というものが見られなかった。

 窓ガラスを曇らせるように、ハァハァと浅い呼吸だけを繰り返して、焦点の合わない目で俺を見下ろしている。

 

「美優……!?」

 

 俺の肉棒に、粘液が垂れてきた。

 

 美優の秘所から愛液が溢れている。

 それも、ポタポタと雫が落ちるような量ではない。

 まるで蜂蜜を垂らすように、トロトロとアツい体液が、美優の膣内から流れ出ている。

 もうエッチは終わったはずなのに。

 

 この光景が意味するものを、俺は理解してしまった。

 美優はまだ硬さが残ったままの俺のペニスの上にまたがって、その体はセックスのための準備をしている。ゴムを付けることもせずにだ。

 

 つまりこれは、快楽のためのセックスではなくて。

 

 なぜだかはわからないが、美優は俺の腕をベッドに押さえつけて、子作りを始めようとしている。

 

 早い話が、逆レイプという状況だった。

 

「み、美優、ちょっと待ってくれ!」

 

 その気になれば俺の方が力は強い。

 もし美優が本気で暴れるようでも、最悪の場合はベッドから振り落としてしまえばいいだけではあるけど。

 

 美優を相手に、そんな乱暴なことはしたくない。

 

「まだ、子供は、早いんじゃないかな? お金のこともあるし、学校を出てからでも、遅くはないと思うんだが」

 

 どうにかして美優に正気に戻ってほしい。

 俺の心の底に湧いてしまった生殖本能が吹き出す前に、美優の目を覚まさないと。

 

「……ふぅ」

 

 俺の声を聞いて、美優の呼吸が変わった。

 顔にもいつもの色味が戻っていて、しっかりと目も合っている。

 

「見ないでって言ったでしょうが」

「わ、悪い……! 終わるまでって、俺がイクまでかと思ってたから」

「そこは曖昧な表現をした私も悪かったけどさ」

 

 美優はティッシュを何枚か取って、その半分を俺に渡した。

 美優はトイレで用を足し終えた後のように、ティッシュで股を拭こうとして、その不格好さを自覚してから布団で体を隠して愛液を拭った。

 

「はぁ。それじゃあご飯にしましょうか」

 

 美優はさっきまでのことを気にする様子もなく、俺も言及するのもどうかと思ったので、大人しく美優に従って階段を下りた。

 

 今日の朝食はバナナヨーグルト。

 キッチンに置かれたそれぞれの食材に、美優はまた大きなため息をつく。

 

「もうなんか見てるだけでお腹いっぱいだよ」

「それは、その、すまん」

 

 なんともタイミングが悪かった。

 美優はバナナの皮を剥いて、包丁を手に取り、さく、さく、と輪切りにしていく。

 さっきまでしていたことがアレだけに、玉も竿もキュッと縮み込んでしまう。

 

 しかし、混ざってしまえば気にならなくもなるもので、いつものように対面でテーブルに座って俺たちは食事を始めた。

 

「あのさ」

 

 俺の脳内で渦巻いている疑念があった。

 もうここまで来ると、それを晴らさずにはいられない。

 

「美優はフェラをするの……嫌じゃないのか……?」

 

 あれだけ何度も拒まれていたはずのフェラを、美優は当然のようにしてくれた。

 しかも俺からしてほしいと頼んだわけでもなく、今朝は美優が率先してやってくれたのだ。

 

 思えば、こうして美優が許容してくれるようになったものは、フェラだけではない。

 手でしてもらうのも、スキンシップそのものも、美優はずっと嫌がっていたのに、何かのタイミングでその一線を越えてしまってからはすんなりと要望を聞き入れてくれる。

 

 あるいは、食わず嫌いだっただけで、してみたら良かったという可能性もなくはないが。

 だとしたら、美優がずっと言い訳にしていた「兄妹だからしない」とは一体なんだったのか。

 それがわからないことには、俺がこれからも美優にフェラをお願いしていいのかもわからない。

 

 美優の負担じゃないのなら、俺は美優にフェラをしてほしいんだ。

 この世に美優のフェラ以上の官能があるとは俺には思えない。

 美優のフェラは、俺にとって人生なんだ。

 

「お兄ちゃんの言いたいことは大体わかるよ。……あとなんか邪悪な気配もするけど」

 

 スプーンに乗せたバナナヨーグルトを、美優はパクっと口にする。

 

 些か気持ちが乗りすぎた。

 心を鎮めよう。

 

「でも答えとしては、妹としては抵抗があるって言うしかないかな」

「それほど抵抗があるようには見えなかったけど……」

「そこが問題なんだよ」

 

 美優は語気を強めてピシッと言い放った。

 

「世間的な常識だけじゃなくてね? 遺伝子的にというか、まず本能からしてお兄ちゃんを性的に受け入れてしまうのはおかしいわけですよ」

 

 血の繋がった兄妹が性的に惹かれ合うこと。

 それは本来的な生き物のあり方としては、全くの逆だと美優は言う。

 

 それは俺も考えたことがあった。

 佐知子と付き合っているときに覚えた、あの違和感。

 俺は美優を女として意識していて、逆に佐知子を妹のように感じていた。

 

 人間の本能は、ニオイなどの感性からしても、血縁者を好きにならないようにできている。

 遺伝子の似ている者を臭いと感じ、遠く強い遺伝子を持つ者の匂いを嗅げば、落ち着いたり興奮したりするようになっているはずなんだ。

 そうやって生物は自然と親しいものを排除し、様々な遺伝子情報を引き継ぐように設計されている。

 

「でも美優は、俺とのエッチそのものは受け入れてしまえると」

「その通りですね」

 

 そういえばいつだか、俺の精液を飲むことに対して「思うところはあるが何も感じない」って言ってたな。

 

「それは……どこからなんだ……?」

「どこからというのは?」

「だから、飲むのとか、手でするのとか、それ自体を嫌だと思ったことはないの?」

「ないよ?」

「マジで!?」

 

 すごいことをサラッと言われてしまった。

 今まで俺とのエッチを拒んできたのは、すべて世間体の問題だったと、そういうことになってしまうのだが。

 

「そ、その考えに従うならだ。仮に美優が俺と兄妹であることを気にしなくなったとして」

「はい」

「セックスしたいって言ったら、する?」

「するだろうね」

 

 美優はあっけからんとそう言ってみせた。

 

 こいつは正気なんだろうか。

 まさかこのヨーグルトに何か良からぬ成分でも入ってないだろうな。

 もしくはバナナにはエッチに寛容になる効能が……。

 

「最初の話に戻るけどね。お兄ちゃんにフェラするのが嫌だったのは、妹としての立場があったのと。実際にしてみて、一切の嫌悪もなく受け入れられちゃう現実を認めたくなかったからで」

 

 美優が俺にエッチをするかしないか、その基準は自分がすることを許せるかどうかだった。

 だからこそ、俺と美優との初めてはどれも、それを乗り越えるためのきっかけになっていた。

 

「昨日の夜に美優に初めて咥えてもらったとき、デカいため息をついてたけど。あれはフェラができることを認めてしまったからなのか」

「そうだよ。ついでに言うなればトイレのアレもそうです」

 

 おお、そういうことか。

 トイレの一件から美優が俺とのエッチに寛容になったのは、そういう心の整理だったのか。

 

「なるほどな。美優は手でするのも、精液をかけられるのも、全く嫌じゃなかったんだな」

「それだけじゃないよ。あれだけお仕置きをされた後も、お兄ちゃんは私のおっぱいを見ておっきくしてたじゃない? そのとき私、頭の中では、お兄ちゃん気持ち悪いって呆れてたんだけど」

「衝撃発言すぎて泣きたい」

 

 しかし納得しかなくて反論の一つも出ない。

 

「でもなんか、そういうのも、アリかなって思っちゃったんだよね」

「アリってなに」

「もっとシテあげちゃおうかな、とか?」

「踏みとどまってくれて本当によかった……」

 

 あの状態から更に射精をさせられていたら、俺はもうこの世にいなかっただろう。

 もっと若い頃は腹上死で逝けるなら男の本望だと思っていたが、今となってはまだまだ先を楽しむまでは死んでも死にきれない。

 

「……ってなると、だ」

「口でしてほしいならまたしてあげるよ」

「おっ、そ、そうか」

 

 ドキッとくる先読み。

 いや、必然として導かれる結論だったのか。

 

 美優は澄ました顔でバナナヨーグルトを食べ進めていく。

 こういう割り切りに関しては本当にメンタルが強靭だよな。

 いずれにしても、俺の疑問は良い方向に解決したようだ。

 美優はフェラをすることを嫌がってはいないようだし。

 

「でも、本気で怒ってたことも何度かあったような……?」

「それはお兄ちゃんが服を汚そうとするからでしょ」

「すみませんでした」

 

 どうやら譲れないポイントもあるらしい。

 

 朝食を終えた俺たちは、食器をシンクに運び入れ、それを俺が洗った。

 その最中に、また美優が背中から抱きついてきて、ごくごく短いスキンシップタイムが行われた。

 

 最近、妙にひっついてくるんだが、これはどういう意図なんだろうか。

 

 そんなことを考えながら、ぼーっと歯を磨いて、ソファーでゲームでもやるかとくつろいでいると、やはり美優が俺のところにやってきて。ベタベタしながら、二人は同じゲームアプリを開くのである。

 

 仰向けに寝転ぶ俺に、腹ばいに重なる美優。

 

 ここはもう直球で尋ねてみるしかない。

 

「美優は俺にくっついてるの好き?」

「邪魔ですか……?」

「俺は嬉しいけど」

「なら好き」

 

 美優は一瞬だけ不安な顔を覗かせて、俺の返答を聞いてからは、また陽だまりで昼寝をする犬のように俺の上に寝そべった。

 

「美優、ちょっといいか」

 

 俺は起動したアプリを早速落として、スマホを横のテーブルに置いた。

 そして、美優の肩を掴んで体を起こし、同様にスマホを取り上げる。

 

「今朝からずっと考えていたことがあるんだ」

「なんでしょうか」

 

 美優はそう返事をしてから、中途半端に上体を起こした体勢が辛かったのか、一度ソファーを離れた。

 そして、俺をソファーに腰掛けさせて、美優がその向かい側から膝を跨ぐように座ってくる。

 いわゆる対面座位のような体勢である。

 

「なんでしょうか」

「なぜ仕切り直した」

「こっちのほうが喋りやすいから?」

 

 美優は小首をかしげ、それから俺の手を取って自分の腰に回させた。 

 喋る気があるってことでいいんだよな。

 

「結構、真面目な話になるけど、いいかな」

「ちゃんと真剣に聞くよ。私からもお話があるから、しばらくこうさせてね」

 

 そうか、美優からもようやく『大切なお話』をしてもらえるのか。

 だけどその前に、これだけははっきりさせておかないとな。

 

「もうちょっとこっちに寄れるか」

「はいはい」

 

 俺が美優の腰を引き寄せて、その分だけ美優が俺と密着してくる。

 すると、案の定というか、美優は必要以上に俺にべったりとくっついてきて、おっぱいで俺の顔を埋める勢いでギュッと抱きしめてきた。

 

「や、やっぱり少しだけ離れて」

「はーい」

 

 美優は完全な密着はやめて数センチだけ腰の位置を引いた。

 

 い、いかん。

 真面目な話をするつもりが下半身が反応してしまいそうだった。

 

「美優は他の人にはこうやってベタベタしないんだよな?」

「お兄ちゃん以外にはしないよ」

「女の子が相手でも?」

「しませんね」

 

 美優は髪の毛をいじりながら綽々と答える。

 

「じゃあ、聞くけど」

「はい」

 

 もう、聞いてしまうしかない。

 答えを知ってしまう恐怖になんて、怯えている場合じゃない。

 

「美優は……俺のこと、好きなのか?」

 

 ついに口にしてしまったその言葉。

 

 いつの間にかお互いの目線は一直線に結ばれていて。

 

 真剣な眼差しで、俺と美優は見つめ合う。

 

「好きだよ」

 

 その瞳の奥に、はっきりと見える美優の感情。

 これまでの冷淡なものとは明らかに違う、少女としての温度を持った視線。

 

「私はお兄ちゃんがすごく好き」

 

 その言葉の最後を絞り切るまで。

 美優の瞳は微塵も動くことはなく、俺のことを見つめていた。

 

「それは……あ、いや」

 

 美優の「好き」が、男としての好きなのか、家族としての好きなのか。

 それを確かめたい気持ちをグッと押さえつけて、俺は美優と自分を信じて、こう告げる。

 

「俺も、好きだよ。美優のこと」

 

 俺はもう美優を信じると決めた。

 美優を一人の女として、誇って愛していきたい。

 

「んふふ。知ってる」

 

 美優はいたずらな笑みを浮かべて、俺にギュッと抱きついてきた。

 とにかく美優にとっては、こうしてくっつくことが一番の愛情表現らしい。

 

「そっか。そもそも俺が美優を好きになったから色々と始まったわけだし、今更言うことでもないか」

 

 もう2ヶ月以上も前から、美優は俺の気持ちなんて知っていたんだよな。

 

「お兄ちゃんさ、ほんとにちゃんとエッチなゲームやってた?」

「えっ。なぜ今それを」

「お兄ちゃんが乙女心に理解がなさすぎて、妹はとても悲しいです」

 

 美優はわざとらしくしょんぼりとした顔をする。

 残念ながらエロゲは恋愛の教材にはなっていなかったらしい。

 せめて選択肢が頭に浮かんでくれれば……。

 

「私はもうお兄ちゃんが私のことを好きなのはわかってるんだから、お兄ちゃんは安心していくらでも私に好きって言っていいんだよ」

「なるほど。わかったよ」

 

 それだけ言って、美優は黙りこくる。

 

 そして、俺とまた見つめ合う。

 

 訪れた長い静寂。

 

 美優の顔が、次第に険しくなっていった。

 

「はあ……お兄ちゃんが妹心を理解するのはあと100年くらい先かな……」

「わ、悪い! 今のは言うところだったか!? もちろん、俺は──」

「もういいです。雰囲気がなきゃ意味ないでしょうが」

 

 安心していくらでもとはなんだったのか。

 しかしまあ、ここは美優が正しいか。

 

「今思ったんだけどさ。美優が俺のことを好きで、こんなにスキンシップもしてくれるってことは、もう兄妹とかあんまり気にしてないんじゃないのか?」

「正確には雪解けの最中ですね」

 

 美優はなおも俺にベタベタと引っ付いてくる。

 

「だからもっと温めて」

 

 美優はねだるような視線を俺に向けて「もうわかってるよね?」と言いたげな顔をした。

 

 俺は美優をその腕に抱きながら、初めて一緒に寝てからどれだけこうして触れ合ってきただろうと振り返る。

 美優が本格的に俺とのスキンシップを求めるようになったのは、俺が山本さんとエッチをすることになったと言った後からなんだよな。

 

 もしかして、少しぐらい嫉妬していたりしたんだろうか。

 本当にそうだとしたら、かなり嬉しい。

 

「それじゃあ、今度は私の番だね」

 

 ようやく美優の大切な話を聞けるときがきた。

 その前にしておくことって、告白とかだったのかな。

 どちらにしても話してくれるならなんでもいいんだが。

 

「これからする話は、私が三ヶ月間悩んで、ようやく出せた結論だから。お兄ちゃんに今すぐ同じ答えを出してほしいとは思わない。でもね」

 

 先ほどとは一転して変わり、美優は俺の手を握って、切ない声で話を続ける。

 

「どうか、今こうして幸せでいる私を、忘れないでいてね。心の底から、お兄ちゃんと両想いになれたことを、嬉しく思ってるって。それだけは、信じてください」

 

 ──たとえお兄ちゃんが、私のことを嫌いになっても。

 

 美優はそう、前置きを締めた。

 

 どうやらこの大切な話は、美優にとっては深刻な内容らしい。

 

 でも俺は、そんな美優の辛そうな顔を見ても、落ち着いた心のままでいられた。

 

「美優のことを嫌いになんてならないよ。……なんて簡単に言っていい話じゃないのは、なんとなくわかる。でも、それでも言わせてほしい」

 

 ──俺はずっと、美優を好きでいるよ。

 

 たとえ俺が酷く傷つくような真実が明かされたとしても。

 俺はそうあると心に誓った。

 

 だからこの心は、ちっとも揺らぐことはなかった。

 

「そっか。なら、私も信じてるね」

 

 美優は胸のつっかえが取れたように、また優しい声に戻った。

 

「あのね」

 

 大きく息を吸い込んで、美優はようやくその言葉を口にする。

 

「私、男の人が、ものすごく苦手なの」

 

 美優から告げられた真実。

 

「……そう、なのか」

 

 なんということか、それはすでに俺の知っている情報だった。

 

 だが、理解はしていなかった。

 だからこれほど重大な事実を、俺は軽んじた。

 よくよく考えてみれば、これは無視してはならない大切な話だったというのに。

 

 なぜなら。

 

「俺、男なんだけど」

 

 そうだ。

 どうやって理屈を捏ねても、俺が男であることは疑いようがない。

 

 美優は男嫌いで、でも男である俺が好きで。

 もしその両方が真実なのだとしたら、この致命的な矛盾を孕んだ美優の想いは、深刻な悩みに足る何かだったはずなんだ。

 

「そう、お兄ちゃんだけ。お兄ちゃんただ一人が、私にとっての特別。この“特別”が、きっとお兄ちゃんを傷つける」

 

 美優はまだはっきりしない言葉で、その結末を予告した。

 

「この前クローゼットの中を見せたときに、私が可愛い服を着なくなった理由を話したじゃない?」

「ああ、先生と母さんにもう着るなって言われて、泣いて帰ってきたやつか」

「そうそう。実はあれには裏話があって」

 

 美優は昔から優等生だった。

 その美優が親にも先生にも叱られるなんて、よっぽどのことがあったに違いない。

 

「私ね、そのとき男の子と喧嘩してたんだ。それで、何人かが病院で検査を受ける羽目になって」

 

 初っ端から飛ばしてきたな。

 どれだけ過激な戦いを繰り広げてたんだこいつは。

 

 にしても、原因は男子との喧嘩か。

 由佳に教えてもらった噂は本当だったみたいだな。

 

「上級生の男の子が5人。みんなクラブにも通ってる人たちだったから、怪我をさせたことに親から猛抗議が来て。さすがに私もあのときは幼かったからさ、みんなから頭ごなしに怒られるのは耐えられなかったよ」

 

 うんうん、まだ小さい子をそんな風に叱りつけるなんて酷いよな、って相槌を打ってやりたいけど、ちょっと待ってほしい。

 なんで当時小学3年生だった美優が、スポーツマンの上級生を相手に喧嘩で勝てたんだ。

 

「美優って運動はそこまで得意じゃなかっただろ」

「まあね。でも、喧嘩は別。覚悟の差ってやつ?」

「そんな少年漫画みたいな……」

 

 でもなぜだろう。

 この数ヶ月で知った美優なら、たしかにそれもあり得るのかもと思ってしまう。

 

「喧嘩の原因はね、その内の一人の男子からの告白だったの。スポーツもできて、成績も優秀で、顔も整ってて、やんちゃなところもあるかなりの肉食。あの歳でもう、やることやってたんじゃないかな」

 

 当時の美優の上級生って、俺と同じ歳ぐらいだよな。

 場合によっては同級生という可能性すらある。

 世の中には凄い奴がたくさんいるもんだな。

 

「とにかく女の子にはモテモテで、何番目でもいいから付き合いたいって子がたくさんいた。そんな人に告白をされて、私は秒でお断りしました」

「なんで?」

「気持ち悪かったから」

 

 美優はそう答えた後に、その「気持ち悪い」が、告白をした男子の態度や、美優の体調のことについてではなかったことを補足した。

 

「私だって、その人を遠目で見て、人柄を噂で聞いているうちは、別に悪い人じゃないんだろうなって思ってたよ。でも、告白をされた瞬間にね。この人は無理だなって、本能的に察しちゃって」

 

 それが美優の、男嫌いを明確に自覚した原点。

 まだ男に対する先天的な忌避感しかなかった頃の、素直な美優の想いだった。

 

「告白の現場を覗いてた男子が、フラれたことを煽ったせいで、当人もムキになっちゃって。強引に迫ってきたから、私は近くにあった指示棒やら椅子やらで、まずその男子をボコボコにしました」

「えっ」

「そしたら、次はそのお友達に、なぜか私がキレられて。やむなく襲われない程度に無力化しました。なので、正当防衛です」

「まあ、それは信じてるけど」

 

 喧嘩の経緯はわかった。

 でも、先生たちに服のことを叱られた理由がいまいち見えてこない。

 

「服は関係あるのか?」

「単に目立つからだよ。当初から目はつけられてて、私が優等生だったから見過ごされてただけ。それがその事件をきっかけにして、『そんな服で男を誑かすから悪いんだ』って言われるようになったから、人前で着るのはやめたの」

 

 なるほど、そういうレッテル貼りか。

 さすがに十歳にも満たないうちからそんなことを言われたら、誰だって嫌になるよな。

 

 しかしここまでは、ほとんど由佳から得ていた情報通りだったな。

 少なからず驚きはあったが、理解できなくはない。

 

「要点はこの先なのか」

 

 美優はペタン座りで俺の膝を跨いだまま。

 俺の問いに、ゆっくりと頷く。

 

「それからも、数え切れないくらいの男子から告白されたんだ。でも、試しに付き合ってみようかなって思える人すらいなくて。そのうち告白されること自体に嫌気がさして、私はちょっぴり、ドライな女になりました」

 

 それでも告白は増えたんですけどね、と美優は恨めしそうにその胸を押し付けてきて、俺はこの世の男子代表になったような申し訳無さを感じる。

 

「中学生なんて思春期真っ只中だし、美優くらいの大きさだと注目されるもんな」

「そうなんですよ。こんな無駄にデカいもののどこがいいんだか」

 

 すまないがそれだけはどうしても同意してやることができない。

 せめて同情することしか、俺たち男にはできないんだ。

 

「美優が自分のおっぱいを嫌いなのもそれが原因なのか?」

「半分はそう。もう半分は可愛い服が着られないから」

 

 近頃は胸が大きくなったせいで、件のロリータ服に関してはオーダーメイドも増えてしまい、余計に遥に頭が上がらなくなっているのだとか。

 

「それって費用的に大丈夫なのか」

「胸が大きくなったのは遥がイジりすぎたせいだって言いまくってるからプラマイゼロです」

 

 そういうところ、本当にちゃっかりしてるよな。

 

 頼もしい限りだよ。

 

「でね。話は戻るけど。私さ、男の子のことが全然好きになれないから、少し前までは自分のことをレズだと思っていたわけですよ。実際のところ、女の子に触れられるのに抵抗はなかったし」

 

 それでも好きになれる子がいなかったから、レズでもなかったという結論に至ったらしい。

 

「そういう窮屈な日々を過ごしてきてね。私は男の子も好きになれない、女の子も好きになれないんだって、ずっと悩んでいたところにですよ」

 

 美優が急に力強く語り始める。

 

 その目が俺に向いたまま三角に尖っていて、俺はこのときすでに、美優が何を言いたがっていたのか、そのおおよそを理解できてしまっていた。

 

「あろうことか私の部屋の隣で、私とそっくりの名前の女の子を相手に、夢中でオナニーをしているお兄ちゃんを見てしまったわけですよ。それも画面の上のところに『俺と妹の子作り宣言~お兄ちゃんの中出しを義務化します!~』みたいな酷いタイトルが書いてあったし。ヒロイン最後まで妊娠しないのにね。駄作でしょあれ」

 

 「みたいな」とか言いながら完全に内容を把握されているんですけど、あの、そういえばいつだかのお勉強のために調べたんですかね。

 

「今にして思うと、ヒドい状況だったな」

「ヒドいなんてもんじゃないよ。あのときの私の気持ちがお兄ちゃんにわかる?」

「パソコンでぶん殴られても文句は言えなかったな……」

「ほんとにそんなレベルなんだけどさ」

 

 美優は目線を横に流して、また声を落ち着かせる。

 

「でも、本当に驚いたのはその後だよ」

 

 そう。

 

 それが、全ての始まりだった。

 

「私はね、お兄ちゃんが一人でしてるところを見ても、何も感じなかったの」

 

 どう考えても気持ちの悪い兄。

 男嫌いなのに兄の自慰を受け入れてしまった妹。

 

 そんな構図が生まれたこの出来事こそが、今朝の話に繋がるのだった。

 

「それどころか、お兄ちゃんがそれからどうするのか、興味さえ湧いた。他の男の子なんて、裸を見ることも、想像することもできなかったのに」

 

 だから美優は、あんな強行をした。

 俺のオナニーを手伝うなどという、理解不能な言動を。

 

 でも実際には、誰より混乱してたのは美優自身だったんだ。

 

「あの気持ちが何だったのか、私は知りたくて。それで、どこまでなら気持ち悪くならずにいられるんだろうって、ずっとそんなことを考えて過ごしてた」

 

 美優は徐々に俺との距離を縮めてきて、ついにはフェラをするにまで至った。

 そこでついに、美優は俺を男として受け入れられてしまうことを確信したようだった。

 

「俺の精液を飲んでくれたのも、それを確かめるためだったのか?」

「そういうことになるかな。……最初のは、なんというか、衝動的なものだったけど」

 

 これまでの話に加えて、条件反射で引き起こってしまう体の反応も、それそのものとは別の意味で美優を悩ませていた。

 俺とのエッチで異常に濡れてしまう体質も、触れ合っているときに暴走する性衝動も、とある一つの答えを揺るぎないものにしてしまっていたのだ。

 

「つまりね、私は本当に、逆なの」

 

 優秀で男らしい男子からの告白に嫌悪を覚え、男より女の子に触れられることを好み、その果てにただ1人、兄である俺に対してだけ、美優は性的な興味を持つことができた。

 

 一見すればチグハグに思える美優の説明。

 それが唯一、生殖本能という観点に立てば、それらを繋ぐ線が見えてくる。

 

「生物保存の優先順位が、私は他の人とは明らかに違う。本能が示すべきベクトルが、普通とは逆向きになってるの」

 

 美優の本能が交配相手として選ぶのは、遺伝子的に自分と親しい者。

 

 両親が家にいることが少なく、家事などの手伝い全般を俺は任されてきた。

 そんな家庭環境も影響しているのだろうか。

 あるいは、遺伝子の半分を引き継ぐとされているその親と比べてすら、俺の遺伝子構造は美優に近いのかもしれない。

 

「私だってすぐには信じられなかった。だから、どこまでならこの体をお兄ちゃんに許せるんだろうって、ずっと探り探りでここまできて」

 

 そうして美優は、少しずつ俺とエッチをするようになって、今に至る。

 

「結局は嫌になるどころか……私が気づいたのは、知らずにそういう行為を求めてる自分だった」

 

 思考の上ではどれだけ「ダメ」と思っていても、体が欲しがってしまう。

 だからいつかは、一線を越えてしまう。

 

「そう……だったのか……」

 

 疑問を解決することはできた。

 美優の本当の気持ちも、ようやく理解することができた。

 だからこれは、聞けて良かった話なのだと、心の表層では思う。

 

 しかし、本音を言えば、ツラい。

 その事実は、想像だにしなかったほど、残酷な話だった。

 だってそれは、俺にとって最重要な、美優の告白を否定することになる。

 

 美優が俺のことを好きになってくれたというのは、その表現で十全ではなく。

 これまでの話から導かれる真実は「美優は俺を好きにならざるを得なかった」ということに他ならないのだから。

 

 俺は美優の言葉に、どうやって答えてやればいいんだろう。

 

 この『大切な話』を聞いたからといって、俺が美優を嫌いになるのことはない。

 それは今でも誓って言える。

 

 だが、どれだけ自分の思考を否定しても、止めどなくその想いは溢れてしまう。

 

 ──美優はなんて、不幸な女の子なのだろうと。

 

「うんうん。ちゃんと伝わってるね。お兄ちゃんはもう、わかったって顔をしてる」

 

 俺の顔を覗き込む美優は、それでも明るかった。

 空元気とも違う、達観とも違う、素のままの無垢な笑顔を俺に向けている。

 

「さぞ辛かろうさ。いっぱい悩めばいい。お兄ちゃんは私がずっと悩んでる横で、出したい出したいっていつも性欲ばっかり押し付けてきたんだから」

「あ、ああ……! それは、本当に悪かったって。俺としても、色々と抑え切れないところがあって……」

 

 もしかしたら、俺が美優でしか抜けなくなったのも同じなのかもしれない。

 だからその体質だけを切り取れば、俺は美優の一番の理解者になれる。

 

 だが、俺と美優では境遇がまるで違うんだ。

 ただの冴えないオタクだった俺が、美優のような美少女しか好きになれなかった現実と、可愛くて優秀な美優が、俺のような落ちこぼれしか好きになれなかった現実。

 

 どう考えたってバランスが取れていない。

 俺は美優からたくさんのものを与えてもらって、美優は何人もの恵まれていたはずの出会いを失い続けてきたのだから。

 

「不幸なんだろうね。お兄ちゃんの世界の私は」

 

 美優の声はなぜか、弾むような明るさを持っていて。

 屈託のない笑顔のまま、美優は俺の手を両手で握ってきた。

 

「なんか、楽しそうだな」

「もちろん。だって私の世界の私は幸せだし。私はもう、答えを見つけてるから」

 

 両手から伝わる美優の体温。

 こうして握られた手には、つい先ほど俺が誓った、美優への想いが刻まれている。

 

 そうだよな。

 俺がやるべきことは、こうして落ち込んでいることじゃない。

 美優が幸せだと思えるだけの、俺なりの答えを見つけてやらないと。

 

「少しだけ、時間をくれるか」

「いいよ。今日のお夕飯の時間までは待っててあげる」

「短っ!?」

 

 美優ですら三ヶ月かかったんたぞ。

 すでにヒントが提示されているとはいえ、俺にそんなすぐに答えが出せるわけがないだろ。

 

「だって今夜も一緒に寝たいもん」

「それは別に禁止はしてないだろ」

「ただ一緒に寝るだけじゃ意味ないんだってば」

「というと?」

「それも自分で気付きなさい」

 

 美優は俺の額を小突いてから、飛び跳ねるようにソファーから下りた。

 

 なぜかこのやりとりに妙に背筋がゾワッとしたんだが。

 美優に注意されたのとは別の、何かとても恐ろしいことに気付いてしまったような……。

 

「お夕飯は夜の八時まで我慢してあげます。なので、お兄ちゃんは私を幸せにするためには何をしなければならないのか、その答えを私に示してください」

「……もし、できなかったら?」

「別にどうもしないよ。ただ、なるようになるだけ。そもそもとして、答えを探すかどうかも、お兄ちゃんに任せます」

 

 美優は髪を横に流して、「でも」と大人っぽい声で最後の言葉を付け加えた。

 

「私はお兄ちゃんに、幸せにしてほしい。選択をするのはお兄ちゃんの自由ですが。もし、お兄ちゃんに諦められたら。妹は、少しだけ泣きます」

 

 「それだけです」なんて話を締める美優は、ちっとも俺が諦める心配なんてしていなくて。

 

 これまでの美優の言葉を要約すると「答えが出るまで許すつもりはないから死ぬ気で頑張れ」ということだった。

 

「わかった」

 

 そういうことなら、地べたを這いつくばることになろうと、俺は美優が幸せになる方法を見つけてやる。

 

 どんな難しい理屈を並べ立てられようが、これだけは変わらない。

 

 俺は美優が、世界の誰よりも好きなんだ。

 

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