※この作品はR-18です。

俺の妹が最高のオカズだった   作:風見 源一郎

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使われたい美少女、二人

 

 山本さんとのデートを控えた前日の夜。

 

 俺は美優と二人で誕生日ケーキを囲んでいた。

 

「お兄ちゃん。お誕生日おめでとうございます」

 

 美優は着席したまま深々と頭を下げた。

 なぜこのようなおめでたい日に仰々しい態度なのか、その原因はこのあとのやり取りですぐに判明することになった。

 

「では、はい。月並みな渡し方ですが。こちらが誕生日プレゼントです」

 

 美優はバレンタインでもないのに板チョコを渡してきた。

 どこにでも売っているような百円ぐらいの板チョコだ。

 これが恋人になって初めて誕生日を迎える俺へのプレゼントらしい。

 

(つまり、これは……)

 

 美優は月並みなプレゼント、ではなく、"渡し方"だと言った。

 

 それはすなわち、この板チョコがプレゼントそのものではないことを意味している。

 

 この長方形から連想されるものといったら、それはもうチケットのような紙状のものしかあり得ないわけで。

 

(考えておく、とは言ってたけど、まさか本当に用意してくれたとは……)

 

 俺が板チョコの銀紙部分を取り出すと、その裏からピラっと紙が出てきた。

 

 俺がそれを拾い上げると、そこには『お兄ちゃんのお願いを一度だけ聞く券』と書かれていて、要するに一度だけならどんなことでも美優は言うことを聞いてくれるわけである。

 

「念のための確認だけど、これは話を聞くだけの券じゃないよな?」

 

 俺は小さめのホールケーキを切り分けている美優に尋ねる。

 

「この妹がそんなセコいプレゼントをするとでもお思いですか」

「だよな」

 

 ピンク色に縁取られた可愛らしい紙にいかがわしいことを書いてよこしてきた妹の声は実に涼しげだった。

 

 美優は義理を通すことにおいて並ならぬ覚悟と拘りがある。

 不要な期待をさせるぐらいなら最初から普通のプレゼントをするだろう。

 

「なら、誕生日ということだし、少しわがままを言ってもいいだろうか」

「お兄ちゃんからわがままなんて珍しいね。聞きましょう」

 

 美優は取り分けたケーキにサクッとフォークを指して、大きめに削り取ったスポンジを一口に咥えた。

 

「一度だけお願いを聞く、となると、どこまでがお願いの範疇なのか切り分けが難しいと思うんだ。たとえば、仮にエッチなお願いをするとして。俺が『美優のオナニーを見せてほしい』って言ったとするだろ?」

「はい」

 

 美優は『仮にも何も、エッチなこと以外に使う予定があるんですか?』みたいな顔をして話を聞いている。

 

「そこで俺がムラッときて、やっぱり抜いてほしいとお願いしても、オナニーを見られるほうが恥ずかしい美優からしたら抜くこと自体に抵抗はない。でも、追加でのお願いになるから、流れ的には断ることもできる」

「そうですね」

 

 美優は冷静に答える。

 

「とするとだ。俺としては最初から一度のお願いにそれも含めておけばと後悔するわけで、それを見越すと最初のお願いをどうするか迷うわけだよ」

「つまり?」

「一度、ではなく一日ならどうだろう?」

「ふむふむ」

 

 淡白な相槌を打ち続ける美優。

 ケーキを味わうのに神経を集中している。

 都内で新しくオープンしたお店で予約してまで手に入れた逸品なので、上に乗っているイチゴの一つでさえそれなりの高級品だ。

 

「俺が券を使ったその日は、俺が満足するまで美優は俺のお願いを聞く。具体的には深夜0時まで。これなら客観的でわかりやすいし、こっちも楽しみ甲斐がある」

「お兄ちゃんに良心が残っているなら許容します」

「そうか。よかった」

 

 同意してもらえてよかった。

 これで俺も心置きなくケーキが食べられる。

 

「ならこのチケットは『1日中どんなにイヤなことでもお兄ちゃんの命令に絶対に従う券』に書き換えておくからな」

「お兄ちゃんの良心ほんとに残ってるよね?」

「もちろん」

 

 パクッとケーキを咥えたままの美優が、ジトーッと暗い目を向けてくる。

 

 例によって兄としての評価が下がっている気がしないでもないが、ここで折れてもいられない。

 俺には兄として妹を堪能する責務がある。

 つい先日それを自覚したばかりなのだ。

 

「それはそれとしてだ。明日になったら、親父たちが帰ってくるだろ? だから、今夜は、その……ど、どうかなって」

 

 自分から積極的になってみたものの、歯痒さが隠しきれない。

 世の男性諸君らは、どうやって女の子をエッチに誘っているのだろうか。

 

「明日は奏さんとのデートがあるので、オススメはしませんが」

「わかってる、いつもは山本さんと会う前はしないことにしてるし。だから、今夜だけはって思ったんだけど」

 

 これまで、俺が山本さんとデートする前は、できるだけ美優とエッチをしないようにしてきた。

 理由は他でもなく、性欲を溜めておくためだ。

 

 とりわけ男にとって、愛は性欲によって深まることを美優は知っている。

 だから、山本さんと恋人らしい雰囲気を俺が自然と作り出せるように、美優は意図して性欲の発散を禁じている。

 

「んーと、今回はそういう話とはちょっと違ってて」

 

 美優は真面目な顔で淡々と話を続ける。

 

「今夜休んでおかないと、お兄ちゃんはもしかしたら死ぬかもしれない」

 

 しっとりと、冗談めかしさなど欠片もなく、美優はそう言った。

 

「なんで!?」

「何故とは言えないのですが。ただの予感でもあるし、それは明日じゃなくてまた別の日かもしれない。でも、もしそれが明日だったとしたら、多分お兄ちゃんは今日エッチしたら明日死ぬことになる」

「なんだと」

 

 訳は分からないが、美優の謎の自信に満ちたその言葉は、俺にエッチを諦めさせるには十分だった。

 

「そういうことなら、まあいいか……」

 

 どうせこの先だって、ずっと美優とはエッチをしてくのだ。

 今夜できなかったところで、さしたる問題はない。

 

「なんにしても、誕生日をお祝いしてくれてありがとうな。このケーキも。本当に嬉しいよ」 

「いえいえ。お兄ちゃんの妹ですので」

 

 そこでようやく美優も朗らかな表情になって、俺たちは二人で誕生日ケーキを食した。

 たまに出てくる『お兄ちゃんの妹』の真の意味が何なのかは実はよくわかっていないのだが、ニュアンスで伝わらないこともないので突っ込まないことにしている。

 

「あと、このチケットも。マジで貰えるとは思ってなかった」

「それについては……、たまたまね」

 

 美優はまた意味深なことを言って、食器を片付けにキッチンへと立った。

 今夜の美優はまた一段とミステリアスだな。

 

「あ、そうだ。お兄ちゃんにもう一個言うことがあるんだった」

 

 食器洗いを終えた美優が、俺のところへ戻ってきた。

 

「言うことって?」

「これからの二人に必要なもの」

 

 美優はスマホを操作して、その画面を俺に見せてきた。

 そこに映っていたのは、カレンダーを管理するアプリだった。

 

 なるほどこの予定表を俺たちで共有するわけか。

 

「たしかにカップルには必須のアプリだな」

「私たちにとって無いと困るものなんだよ」

 

 美優は俺と二人のためのものであることを強調して、同じアプリをインストールさせてから、二つのカレンダーを共有した。

 

 そのうち一つは、『兄妹の予定表』という名称のカレンダー。

 

 そして、もう一つは──

 

「な、なんて……いかがわしい……」

「私としてもどうするか非常に悩んだんだけど。お兄ちゃんも一つ大人になったわけだし。こんなものがあってもいいのかなって」

「そうだな」

 

 美優が予定日を埋め込んでいる、そのカレンダーに付けられていたタイトルは『お兄ちゃんの性処理予定表』。

 

 性欲の強い俺……というか俺たち兄妹にとって、その日にエッチができるかどうかは死活問題。

 それを、カレンダー共有アプリを使うことで、よりストレスのない性活を送れるようにと、美優が考えたものだった。

 

 カレンダーには美優の生理周期が記載されていて、ピルを飲んでいるためかなりの精度で美優の体の具合を把握することができる。

 

「この背景がグレーのマスがダメな日か。普通の予定もこっちに共有されてるんだな」

「どちらかというとこっちがメインで、もう一個は人前で開くとき用かな」

「なるほど」

 

 うっかり間違えないように気をつけないと。

 

「えーっと……要するに、このカレンダーの真っ白のマスであれば、俺はいつでも……」

「はい、妹をお使いいただけます」

 

 美優は事務的な口調で言い切った。

 

 妹を使えるというのは、エッチをするためにその体を使えるということだ。

 性欲が溜まったときに、射精を目的として、妹の口や膣を自由に使える、ということ。

 

 このアプリは本来、確認を取らずとも互いの予定を把握しておけるようにするためのもの。

 

 しかしてその実態は、兄が射精をするための『妹予約アプリ』なのであった。

 

 ……神アプリか?

 

「あれ。俺に予定を更新する権限がないな。これだと肝心の予約ができないんだが?」

「お兄ちゃんにはまだやることが残ってるでしょ? いいきっかけだから話をしただけだもん」

 

 誕生日に合わせただけの早すぎるプレゼントだったというわけか。

 

「つまり、この妹予約機能は……」

「山本さんとのことが解決したらアンロックされます」

 

 まさかの条件解放式だった。

 こんなエッチなアプリを前にして、なんとももどかしい。

 

「こんなモノを渡して、使えるようになったら本当に使うからな」

「お兄ちゃんならこんないかがわしいモノでも本当に使うだろうなと思ってインストールしたから大丈夫だよ」

 

 そういうことなら期待に応えよう。

 すべて綺麗に片付いたら、予約でカレンダーをいっぱいにしてやる。

 美優の予定を見る限りだと時間単位の設定もできるみたいだし、その日に抜きたくなったときの呼び出し機能としても使うことができそうだな。

 

「なら、まずは明日だな。今夜は大人しく寝て、明日は全力だ」

「頑張ってね。私も応援してるから」

 

 美優は両手をグーにして、小さくエイエイオーをしてくれた。

 

 こんなに可愛い妹がいるんだ。

 

 一日でも早く、この妹のためだけの兄になってやらないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 迎えた夏休み最後の日。

 

 俺は山本さんと遊園地デートをするために駅で待ち合わせをすることになった。

 

 遊園地なら由佳とも行ったのだが、山本さんが指定したのは園内を回ることを主としたリゾート系の遊園地で、まさしく恋人たちが集う場所になっている。

 メインイベントとして花火が上がる場所はもうここしかない。

 

 改札横の柱の陰でしばらく待っていると、向かいから眩しいぐらいの美少女が見えた。

 耳元にピアスを光らせて、短めのスカートを揺らしながら長い足でこちらに歩いている。

 

 その側を通り行く誰もが彼女を振り返っていた。

 

 少女は俺のところへやってくると、たおやかな仕草で耳元の髪をかき上げ、熱のこもった視線を俺に注いできた。

 

「ソトミチくん、おはよう」

 

 なんでもないそんな言葉が色っぽかった。

 

 もうそれだけで、なんだか「好き」と言われているような気さえした。

 

「おはよう。今日はいつもと違うね」

「うん、どうかな?」 

 

 うっとりとた目つきで視線を落として、恥じらいながら全身をアピールする山本さん。

 羽織物で肩から先を日差しから隠したその中に、豊な膨らみを見せるレース基調のタンクトップが、いつも以上に山本さんを大人っぽくしていた。

 

 しかし、どれだけのお洒落をしても張り出た胸の丸みにまず目がいってしまうのが、男の悩みというか、巨乳の女性の悩みでもあるのだろうか。

 

 ……いや、今日のおっぱいはいつにも増して大きいし、形がキレイだな。

 

「あ、気付いた? 今日は盛ってみたの」

 

 あれだけ乳のあった胸を更に寄せて上げてきたのか。

 それはさすがに反則だろ。

 俺としては眼福の至りだけど。

 

「ソトミチくんはおっぱいが好きだろうなって」

「俺のことを一番に考えてくれたことは嬉しいよ。一応、美容院に行ったのにも気付いてるからね。ピアスもよく似合ってる」

「あ、嬉しい。やっぱりソトミチくんはちゃんと私のこと見てくれるなぁ」

 

 ふふふと微笑んで、それから山本さんは、誘うように俺にウインクをしてから楽しげに歩き出した。

 

 あれだけ目立っていれば誰だって気付く。

 きっと、山本さんは俺がどんなことを褒めても、ああして喜んでくれたんだろう。

 そういう「好き」に真っ直ぐなところが、一緒に居て心地良く感じる。

 

 そんな山本さんに俺は追いついて横に並ぶ。

 

 高級店の顔馴染みにいそうなお姉さんスタイルに、若さに身を任せて肌の露出を足したような大人可愛い山本さん。

 靴にはいつもよりヒールがあって、ギリギリ並んでいた身長は山本さんの方が高くなっていた。

 

「やりすぎ、かな?」

「ヒールとかピアスのこと?」

「うん」

「そんなことないよ」

 

 俺たちは一つの改札をそれぞれ通って、またくっ付いてから目的のホームへと向かう。

 

 俺も男なので、山本さんが言わんとしていることはわかる。

 男の背の方が低いのは悪く目立つし、元は清楚を型にはめたような二次元美少女しか好きになれなかった俺からしたら、ギャルっぽいアイテムに抵抗がないわけでもない。

 しかし、女の子の好きなものを頭から否定するってのもな。

 

「山本さんが好きな格好をしてきてくれたんなら、それが一番だから」

 

 それは山本さんからの信頼の証。

 俺に取り柄があるとしたらきっとそういうところだし、これからどんな関係になっても、山本さんにとって安心できる存在でありたいと思っている。

 

「そんなこと言われると、惚れちゃいそう」

 

 もうすでに惚れているのでは。

 

「まあ、なんだ。今日は山本さんの彼氏になったつもりで来てるから。……性欲も、控えめにするように、頑張るし」

 

 ここが男の見せ所。

 たとえ妹に禁欲させられて溜まっていようとも、山本さんのエッチな体に負けたりなんかしない。

 

「えー、そこはいいのに。すぐにエッチなことを考えちゃう堪え性のないソトミチくんが好きなんだから」

「それはそれで複雑な……」

 

 とはいえそこは山本さんの言う通りか。

 俺が山本さんと本当に付き合ったら、何を於いても性欲を優先してデートをするだろうしな。

 そこだけは考えを改めておこう。

 

 俺たちが駅の階段を降りている途中で電車到着を報せるチャイムが鳴り響いて、乗車列の一番後ろに、俺と山本さんは揃って並んだ。

 

「ねえ、ソトミチくん」

 

 電車がホームにやってきて、山本さんの髪を風が攫う。

 山本さんはそれを右手で押さえると、色っぽく微笑んだ。

 

「私の彼氏としてデートしてくれるって言ったの、ちゃんと聞いてたからね」

 

 それは"限りなく恋人に近かった友達"の関係から、もう一歩踏み込んだ距離感でデートをしたいという意思表示。

 

 美優からの指示もあったわけだし、これまで何度だって山本さんは、俺と恋人に近い関係になる機会はあったはずなのに。

 

 ここに至るための道のりは、この日を迎えるまでのやりとり以外にはなかったようにも思う。

 

「そこは期待してくれて構わないよ」

 

 何がどう変わるというわけではない。

 

 しかし、俺が責任を取らなければならないという自覚が、今は自分の芯として存在している。

 

 昨晩、美優が話していた予感とやらは──きっと、当たっている。

 山本さんの態度からしてもそうだ。

 今日は何かがある。

 

「それじゃあイチャイチャしに行こ!」

「ちょっ、山本さん、くっつき過ぎ……!」

 

 山本さんは俺の腕に抱きついてきて、電車の中に俺を引っ張り込んだ。

 

 そのボディの肉厚さと、周囲から集められた視線による羞恥から、俺は車内の冷房でしばらく体の火照りを冷ますのだった。

 

 それから一時間ほど電車に揺られて、やってきた遊園地。

 

 夏休みも終わる頃だというのに、まだまだ入場口は若者で溢れかえっていた。

 

「早めに来たのに、もうこんな列になってるのか」 

「このところは新しいエリアの追加ペースが早かったからね。しばらくぶりだから私も楽しみなんだ」

「そうなのか。俺は……初めてだけど……」

 

 俺はその光景に圧倒されていた。

 

 テレビで見たことがあるだけだった景色が、この肉眼に映っている。

 大きく門を構える入場口のアーチから、その奥に聳えるお城、山々に見え隠れするアトラクションが、見ているだけで期待感を煽ってくる。

 

 ──そうした、テーマパークの作り込みもそうだったのだが。

 

 何よりも列に並んでいる人たちが、これまで付き合ってきた人種とは明らかに異質だった。

 

 見渡せば各所に学生グループがいて、男女混合、男だけの団体も女だけの団体も、みんなワイワイと集まって、キャラ物の服や制服で統一感を出して特別な空気感を楽しんでいる。

 人混みの中には、ネットの配信用に自分にカメラを向けている人なんかもいた。

 

 そして、言わずもがなカップルが多い。

 

 そうした人々のほとんどが、オフ会などの集まりでは出会うことのないような、いわゆる陽キャ、学校ではスクールカースト上位だった人種ばかりだった。

 SNSによく写真を上げているタイプのオシャレな男子や、パネルからそのまま飛び出てきたような美女たちが、組になって列を成している。

 

 ここでは一人でいることなど許されない。

 一人でいることを好む人が歓迎される場所でもない。

 それはオタク文化に自らを閉ざしてきた俺にとって、これまで触れてこなかった未知の世界だった。

 

 山本さんには期待してくれなんて言っておきながら、俺は不甲斐なくも緊張している。

 たぶん美優と一緒にいてもこうなってただろうから、ある意味ではこれも、俺の素のままの彼氏らしい振る舞いではあるのだけれど。

 

「ソトミチくん。大丈夫?」

 

 山本さんはなぜか両手でブラのカップを持ち上げておっぱいをたぷたぷさせながら訊いてきた。

 餅とプリンの良いところだけを取って混ぜたような凄まじい重厚感だ。

 

「ほれほれ」

 

 たぷん、たぷん、たぷん……と、山本さんは俺が釘付けになっている視線の先でおっぱいを揺らし続ける。

 ただでさえデカかった胸を、さらに目立つようにして盛ってきた、その途方もないほどの巨乳をだ。

 

 すごい。

 

 これはすごいな。

 

 滑らかに波打つ乳房の柔らかさと同調して、俺の心の凝りもだんだんと解れていく。

 

 ああ……、そうか。

 

 そういえば、このおっぱいは今は俺の物だったな。

 

「山本さんはどうしてそこまで男に理解があるの?」

「好きな人のことを想えばこそだよ」

 

 ニッコリ笑顔の山本さん。

 

 男の心情を優しく汲み取ってくれる理想の彼女だ。

 

 なんだか、懐かしさも覚えてしまう。

 初めて山本さんと話したときもおっぱいの話題だったっけ。

 山本さんは軽率におっぱいを揉ませてくれるからな。

 

「中に入ったら、どこから回ろうか?」

 

 山本さんは園内マップを広げて眺めている。

 入場ゲートも少しずつ近づいてきた。

 

「順番は任せるよ。俺はアトラクションというより、この海上を自転車で半周できるやつとか、キャラクターの等身大像が並んでる通りが気になる。あ、でもここのシューティングゲームはやってみたい」

 

 由佳ともやったけど、なんだかんだでガンアクションは楽しいんだよな。

 

「なら、どこのエリアから行くは私が決めちゃってもいい?」

「もちろん。助かるよ」

 

 山本さんは歩く順を計画して先導する係。

 俺は園内を行く中で、気になったお店を指差す係。

 

 そんな役回りを決めて、列が消化されるのを待ってから、俺たちは受付で入場の手続きをした。

 

 そこで渡されたのは、入場パス代わりとなるICチップ入りのブレスレット。

 青と赤のペアになっていて、俺たちは手を繋ぐ方の腕にそれぞれ付けて、園内を真っ直ぐに進む。

 自然と指が絡む形で繋がれた手に、赤と青のリングが交わって、それだけで二人の間には恋人っぽい空気が生まれていた。

 

「ソトミチくん」

 

 見つめられるだけで胸の奥が焼けてしまうような澄んだ目を俺に向けて、山本さんが呼びかけてくる。

 

 好意というものを一部も隠さずにストレートに伝えてくれるのが山本さんの一番の魅力だ。

 長所がありすぎて普段は意識しないけど、一緒に居る時間が長くなるほどに強くそう思う。

 

「どうしたの? 山本さん」

 

 隣を歩いている、背が高くて可憐な女の子に声を返す。

 まだ底は広い、歩き慣れたヒールを履いてきたその歩き姿は、足運びがとても綺麗だった。

 

「……あの、こんな早くからで、申し訳ないんだけど……並ぶ前に食べ物を買ってもいいかな?」

 

 山本さんは照れ恥ずかしそうに相談してきた。

 

「今朝は興奮しちゃって何も食べられてなくて……」

「構わないけど、そんなに楽しみにしてたの?」

 

 小学生でも無さそうなことを言われて、笑い出しそうになるのを堪えて思わずはにかんでしまう。

 

 まだレストランの開店前だから、食べられるものといえばお土産屋さんのお菓子か、各所で軽食を販売している屋台ぐらいしかない。

 

「それはもう、大好きな人とのデートですから」

 

 山本さんはこれでもかと瞳に感情を込めて俺を見つめてから、ふふっと微笑むと先にある屋台に近づいていった。

 

「ポップコーンお一つくださいな」

 

 山本さんが軽快なリズムで歌うように注文をする。

 

 それを聞いた園内スタッフは、出来立てのポップコーンをスコップでサクサクとかき混ぜて、童謡でも流れてきそうな軽快な手捌きでバケツに注いでいく。

 

「400円になります!」

「はーい、ピッタリ払いますね」

「まいど~どうも~! 楽しんで、お過ごしください!」

 

 テンション高めで俺たちを送り出してくれたスタッフの口調は、どうやらそのエリアでモチーフとなっている映画のキャラクターを真似ているようだった。

 ポップコーンの味もただの塩味ではなく、舞台となる地域から特徴を出して、イタリア風ソルトとして名付けられている。

 いくつか分けてもらって食べてみると、確かに普通の塩味とは違った。

 

「ん~、うまー!」

 

 大きめのバケツを腕に抱いてアトラクションの列に並ぶ山本さん。

 これだけ綺麗な身なりをしても、年相応の少女らしさを失わない。

 

 一緒にいるときの身の楽さでいえば、山本さんに敵う者などいないだろう。

 それぐらい、山本さんと居る時間は、幸福感しかない。

 

 山本さんのそんなところが俺は好きで。

 それは間違いなく恋に匹敵するほどの好意で。

 でも、俺はもうその気持ちを自覚することに、躊躇うことはなかった。

 

「山本さんにひとつ、お願いがあるんだけど、いい?」

「え、なになに? なんでも言って!」

 

 山本さんは期待いっぱいに目を輝かせる。

 そこまで純粋な反応をされると言いにくい話なのだが。

 

「今日は山本さんの彼氏になるって言っただろ? でも、なんか本調子にならないというか……その原因って、やっぱりアレかなって……」

 

 山本さんが本当に彼女だったらどうなるかを考えると、駅のホームでも話をした通り、性欲を前提としたお付き合いになるはずなのだ。

 

 しかし、山本さんがエッチを自粛しているので、肝心のその部分が封じられてしまっている。

 いくら山本さんがエッチな妄想を許してくれても、男としてはその先への期待がないといまいち盛り上がらない。

 

「あ、そうだった。私も大事なことを言い忘れてたよ。そのことならもう大丈夫なんだ」

 

 山本さんは俺にポップコーンのバケツを渡すと、ウェットティッシュで手を拭いてから肩掛けしている鞄に手を伸ばした。

 

 そこから出てきたのは、手のひらサイズのポーチ。

 本来であれば化粧道具でも入れるべきそのケースから顔を覗かせたのは、円形が浮き上がった正方形の包装の繋ぎ──ひと目では数えきれないほどのコンドームだった。

 

「準備万端です」

 

 山本さんは嬉々として声音を尻上がりに、そのひと繋ぎを指で引っ張り出して俺に見せる。

 

 一つ二つのレベルではない。

 ポーチの中身全部がコンドームだ。

 十か、あるいは二十か?

 何個入ってるんだ?

 まさかこの一日で全部使うつもりか?

 俺は死ぬのか?

 

「なら、今日はそっちも制限なしってこと?」

「うん……昨日から性欲が鎮まらなくて……」

 

 山本さんはほんのりと頬を赤く染める。

 まさか、今朝は興奮してご飯が食べられなかったって、そっちの意味じゃないだろうな。

 

「それなら、よかった……まあ、さすがにこんなテーマパークじゃ、こっそりは無理だろうし……夜が、楽しみだな」

 

 美優の予感は当たっていた。

 

 昨晩は休んでおいてよかった。

 山本さんが相手ともなれば確実に絞り尽くされる。

 

「もちろん、こんな賑やかな場所でする気には私もならないけど……」 

 

 山本さんは周囲に聞こえないように耳側に顔を近づけてくる。

 

「ホテルの当日予約もあるから、アトラクションとセックスを交互に楽しむでもいいんだよ」

 

 股間にじんと響く甘い囁きだった。

 こんな大衆のど真ん中で勃起しかねないほど、俺の鼓膜はエッチな周波数に揺らされていた。

 

「か、考えておくよ」

 

 自分から持ち出した話しなのに、気付けばまたタジタジにされている。

 

 シャキッとするんだ。

 こんな可愛い女の子が、デート用の鞄に大量のコンドームを入れてるとかエロ過ぎるだろ。

 

 いやそれこそ似たシチュエーションで同じようなことをやったやつは過去にもいたが、なんというかあれは半分は勢いと冗談みたいなもので、こっちのエロ娘の方はガチだ。

 

 やるとなれば全てのコンドームに射精するまで帰さないとかも平然とやるだろうし、それができるだけの魅力も能力も体力もある。

 

 気掛かりなのは、あれだけダメだダメだと拘っていたものを、こんなにもあっさりと覆してしまってよいのかということだが……。

 

 山本さんが積極的になってくれるのなら何よりの行幸と考える他ないか。

 俺も盛り上がってきてしまったしな。

 

「うふふっ。やっぱりソトミチくんとこういうことしてる時が一番楽しいなぁ」

「そこは同意するよ。ただ、一旦こうなると、エロいことしか考えられなくなるけど」

「別にいいんじゃない?」

 

 まあそうなんだろうけどさ。

 美優といい、そういうとこ、あっさりしてるよな。

 ほんとに腹違いの姉妹では無いんだよな。

 

「山本さんは彼氏がおっぱいばかり見てたりしてたらどう思う?」

「え、どうって。そのためのおっぱいだし」

「ああそうなんだ」

 

 いくら巨乳とはいえ目立たない服を着ることもできるわけだし、こんだけあからさまなおっぱいにしてきたということは、まあそういうことか。

 

「あとはほら、ちょっぴりソトミチくんに優越感を味わって貰いたかったり?」

 

 その言葉が意味するところは、いまでも周囲の男たちからチラチラと視線を向けられている、この状況そのものを言っている。

 

 前後左右と、カップルだらけであるにも関わらずにだ。

 

 ここに来ている女の子のレベルがなんだのと言ったが、それは一般人の平均と比べての話であって、山本さんクラスの美少女がそういるわけもない。

 

 で、この絵に描いたようなエロボディなわけだから。

 

 それはもう俺は羨望の眼差しで見られているというか、人知れず恨みを買っていてもおかしくはないのだ。

 

 普通の女の子なら、男からエロい目で見られるのなんて嫌なはずなのに、自分に絶対の自信があるが故に山本さんはそれを楽しむことができる。

 だからこそ、彼氏の側も優越感に浸ることができる。

 

 この自尊心の逞しさは懐かしいな。

 ようやく山本さんにらしさが戻ってきた感じだ。

 

「そろそろだな」

「えへへ。アトラクションがこんなに楽しみなの初めて」

 

 列の先頭に着くまでにポップコーンを食べ終わって、ようやく俺たちの番がやってきた。

 

 午後にはまた人も増えるため、まずは人気の列から並ぼうと考えた結果、最初のアトラクションは俺が希望した移動型のシューティングゲームになった。

 

 自動制御されたカートに乗って大量の模型が配置された道を進んでいくと、モンスター化した模型に3D映像がマッピングされて禍々しく動き出し、それを専用の光線中で撃ち抜いて点数を稼いでいくという内容になっている。

 

 このアトラクションの珍しいところが、結果がスコアとして表示されることと、そのスコアに応じてエンディングが分岐するという点だ。

 ひと月は配置が変わらないので、ゲームが苦手が人でも何度か乗れば最高エンディングを見ることができるのだが、こうしたデート向けのテーマパークでは珍しい趣向だろう。

 

 列の先頭から一組ずつが飛び出していき、専用のケースに立てかけてある光線銃を手に取って、観覧車と同じくらいの速度で動くカートへ乗り込んでいく。

 

 俺と山本さんも大人用に用意された装備を手にしてカートへと乗った。

 ドアを閉めたスタッフが俺たちを見送って、先の景色がほとんどわからないぐらいの暗い道を進み、スピーカーから流れてくる俺たちが遂行するべき使命とやらを右から左へ流していく。

 

「ワクワクするね! 今日は本気出しちゃおっかな」

「普段は本気ではやらないの?」

「だって、私が全部倒しちゃうと、一緒に乗っててもつまらないじゃない?」

 

 なるほど確かにな。

 山本さんレベルの能力になってくると撃ち漏らしもなさそうだし。

 このアトラクションでの初見完全クリアは月に一組もいないという噂だが、山本さんなら平然とやってのけるだろう。

 

「なら競争といくか」

 

 暗闇を進んでいくカートの振動を足元に感じながら、弾の補充に必要なリロード動作をガチャッと決めて、俺は遠くに見え始めたターゲットに狙いを定めた。

 

 俺だってゲームは得意なんだ。

 いくら山本さんが相手とはいえ引き下がるわけにはいかない。

 

「いいの? 手加減しないよ?」

「望むところだ」

 

 ブォンという地に響く低音が反響すると同時に、洞窟内が急に明るくなって、暗闇に隠れていたモンスターや石像たちに悪の魂が宿っていく。

 

 俺は全長で五十センチもある銃を構えて照準を覗き込み、その一匹に狙いを定めた。

 

 その直後。

 

 同時出現したターゲットの六体が、端から連鎖爆発するように散っていった。

 

「なっ……!」

 

 俺は照準から目を離して山本さんのほうを振り返る。

 

 そこには、涼しい顔でカートリッジを再装填する山本さんの姿があった。

 

 エイムにかかる時間はほぼゼロ。

 銃に設定されたリロードタイムを考慮した理想値で、山本さんは次々とターゲットを撃破してスコアを稼いでいく。

 

「配置知ってるの!?」

「うーんと……動作音で、なんとなく?」

「んなアホな」

 

 その言葉通り、向かい合う山本さんの背後から出現したターゲットに、俺よりも早く狙いを定めた山本さんが精密な射撃で撃破していく。

 

 鮮やかなものだった。

 圧倒的に人としての作りが違うことを思い知らされる。

 

 だが、

 

「そういうことなら……!」

 

 出現を事前に察知するのは、何も鋭い感覚器官を持つことが唯一の術ではないのだ。

 敵の出現そのものが演出の一つである以上、そのパターンには人間らしい思考が通っているわけで、ある程度のゲーム勘を持っていれば、次にどの方向から襲われるかを予測することはそう難しくはない。

 

「きたっ!」

 

 すでに俺が構えていた向きに配置されていた仮面の群れに、モヤモヤした魂の影が重なって、その目が赤く光りだす。

 

 複数体で同時出現したターゲットの真ん中──無駄な動作を極限まで減らせばまず最初に狙われることのないであろうターゲットに照準を重ねて、俺は引き金を引いた。

 

 直後、魂が爆散して落ちていく仮面たち。

 

 しかし、俺の銃に表示されていたカウンターは、『0』のまま変わってはいなかった。

 

「競争、って言ったからには、勝ち負けにも全力じゃないとね」

 

 山本さんは容赦がなかった。

 俺の銃口の向きから、どのターゲットが狙われているかを判断して、先に撃ち落としたのだ。

 

 俺も男として意地を見せるべく、是が非でも一点を稼いでやると、意気込んだまではよかったのだが。

 結局、ゲームの最後まで俺の銃口の向きを正確無比に把握し尽くしていた山本さんにより、俺の決意は無惨にも散らされた。

 

 ただの一発の無駄もなく、山本さんは見事に一人で全ての敵を撃墜したのだった。

 

「やったー! 大勝利~!」

「強すぎる……化け物か……!」

 

 理不尽なほど圧倒的だった。

 ここまでやられるといっそ清々しいほどだ。

 

「マジでセックス以外で勝てる気がしないな」

「ほんとならそのセックスでも誰にも負けないはずなんだけどね。むしろ得意分野?」

「相性ってのは何にでもあるもんだな」

「ソトミチくんのセックスは気持ち良すぎるから……」

「そ、それは、励みになる言葉だ。……ところで、飯はどうする?」

「いくいく!」

 

 出口へ向かう道すがらにお喋りをして、早速ではあるが小休憩を挟むことにした。

 

 カフェもレストランも各所に点在している。

 朝が早かったので、お昼になる前にガッツリしたものを食べようと、肉バル風のイタリアンレストランに目星をつけていたのだが。

 

「……ソトミチくん?」

 

 俺の目はテラス席に座る一組のカップルへと止まっていた。

 

 ドラマやアニメでは有名だが、日常ではなかなか目にすることのなかった、二人用のストローがついたドリンクを飲んでいたのだ。

 

 ハート型になっているストローの二つの口をそれぞれ咥えて、少し首を伸ばせばキスができそうなぐらいの至近距離でお互いに見つめ合っている。

 

「ほう。ソトミチくんもまたベタなものが好きですな」

「いや、別に、そういうつもりじゃなくて……!」

「私たちもあれやろ! 次のお店はあそこにけってー!」

 

 そんなこんなで山本さんに強制連行された俺は、カップル用のメロンソーダを注文させられて、あまつさえテラス席の一番端へと座らされたのである。

 

 テーブルの中央にはハート型のストローが入ったグラスが置かれて、その隣にはついでに買ったサンドイッチが添えられていた。

 

「き、緊張するな」

「ラブラブ感があって良いじゃない? 美優ちゃんとか絶対にやらなそうだし」

「まあな」

 

 こんに可愛い子と見つめ合って、カップル用のドリンクが飲めるなんて貴重な体験だ。

 美優にやらせたらムスッとしながらストローの先を咥えてるだろうな。

 

「んふっ、そしたらソトミチくん、一緒にチュー……!」

 

 山本さんがストローをパクッと咥えて、期待の眼差しで見つめてくる。

 管の中を緑色の液体が登っていって、俺も慌てて自分に向けられたストローの先端を口に含んだ。

 

 山本さんの顔が近い。

 

 目がおっきい。

 

 ドリンクに混じった香料とは違う女の子の匂いがする。

 

「うぐっ……は、はずい……」

「むふふっ。ソトミチくん可愛い」

 

 照れてしきりに目を逸らす俺を、鑑賞でもするかのようにずっと見つめてくる山本さん。

 

 それからしばらくして心を落ち着けて、俺も覚悟を決めて目を合わせると、そこでまた山本さんはニコッと朗らかな顔になった。

 

 なんだかやられっぱなしだ。

 これはもう俺からも打って出るべきだな。

 

 山本さんは俺が好きで。

 今の俺は山本さんの彼氏で。

 

 なら、山本さんに好かれるために、もっとできることがあるはず。

 

「山本さんも、可愛い、よな」

 

 言われたことを言い返してみる。

 意外と口にして伝えたことは少なかったかもしれない。

 

「ん。それは嬉しい」

 

 さすがの山本さんも照れた。

 そんな仕草がまた、愛らしい。

 

 俺はストローから口を離して、それでも顔の近さは変わらないぐらいの位置で頬杖をついた。

 

「やっぱりそのピアス、似合ってるよ」

「あ、ほんと? ありがと。ソトミチくんにそう言ってもらえると、頑張って選んだ甲斐があったよ」

 

 どうやらそれは今日のデートのために見繕ってきた新品のようで、山本さんも俺と同じようにして頬杖をつくと、空いていた手で耳たぶに触れた。

 

「なんでピアスって悪いイメージが強いんだろうな。耳に穴を開けるのが自傷行為っぽいからかな? イヤリングなら抵抗がないってのは、まあ、実際あるか……」

「うんうん、あるね。あと、『それって元彼の趣味?』って聞かれたことは何度かある」

「それは辛い」

 

 健全な女の子なら、自分から好んでピアスをつけたりなんかしないと、そういう固定観念があるのかもしれない。

 

「俺も美優がいなかったらどうだったかな」

 

 ダメ男の見本として、女の子へのデリカシーもなく、自分の気持ちばかりを優先していたかもしれない。

 

 ……デリカシーのなさに関しては、まだ十分に改善されたとは言い難いけど。

 

「過程はどうあれ、いまここに素敵なソトミチくんがいてデートしてくれてるわけだから、私は幸せだけどな」

「ほ、ほう……」

 

 また小恥ずかしいことを。

 

 でも、それは俺が山本さんに抱いている印象と、そう変わらないものだったりするのかな。

 

「こうしてラブラブソーダも飲めるし」

 

 山本さんはまたチュッとストローに吸い付く。

 それに合わせて俺もメロンソーダを飲む。

 

 お互いの唇は再接近して。

 山本さんの唇が、やけに艶やかだった。

 

 キスをしたら気持ち良さそうだ。

 フェラテクと同じくらい舌使いも半端ではないんだろうな。

 また意識がドロドロになるくらい堕とされてみたい。

 

(こんなにエッチをしてるのに、俺は山本さんとキスしたことがないんだよな……)

 

 セックスに関してはもう数え切れないほどしてきたのに、キスだけはその全てを記憶している程度にしかしていない。

 

 美優から彼女を紹介してもらったあたりからそうなのだが、俺の女性遍歴はどう考えても順序がおかしい。

 

 山本さんからしてくる気配もないしな。

 

 俺が思っている以上に、キスって特別なものだったりするんだろうか。

 

「いまソトミチくんが考えてことがわかるかも」

「山本さんはどう思う?」

「実は今日するタイミングを伺っておりました」

「夜になったら花火があるよな」

「それが一番ロマンチックだね」

 

 色々と端折りまくった会話。

 それでも俺たちは通じ合っている。

 

「でもね、ソトミチくん」

 

 至近距離で俺を見つめる山本さん。

 

 その目が、ゆっくりと、閉じられて。

 

「──ッ!?」

 

 山本さんの厚く柔らかい唇が、俺の唇と重なった。

 

 ごく僅かな時間ではあったのに、温度に敏感なその器官は、山本さんの唇の熱と、芳醇なメロンな香りを瞬間に凝縮して、俺の脳が痺れるほどの情報を伝えてきたのだった。

 

「あっ……こ、こんな、いきなり……」

 

 完全なる不意打ちだった。

 

 できる距離にいたとはいえ、まさかこんな白昼堂々とキスをされるなんて思ってもみなかった。

 

「ここは恋人の聖地だよ。キスぐらい、したいときにしていいんだよ」

 

 山本さんは自身の照れ臭さを隠すように薄らと微笑んだ。

 戯れのような些細なことだったのに、俺の脈は跳ね上がっている。

 

 それから、山本さんは真っ赤になった俺の耳に淫らな声を打って、

 

「エッチなキスは、夜になったらたっぷりしてあげるからね」

 

 茹だって混乱するだけの俺を、しばらくニコニコと楽しそうに眺めているのだった。

 

 

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