美優が目覚めるまでの間、俺と山本さんは二人で部屋の掃除をしていた。
美少女二人分の愛液と俺の精液に塗れて染みだらけのシーツは、結局のところ破棄することはせずに洗濯して使い続けるらしい。
山本さんはその気になればすごい人なので、俺のことを好きでいながら普通に結婚して幸せな人生を過ごしていくことぐらいはできるのだ。
そうなっても俺のことをオカズにしてのオナニーはし続けますと宣言されてしまったときには頭を抱えたが、まあ世の女性としてその実ありふれたことだったりすることかもしれないので無用な心配はしないことにした。
「にしても美優ちゃん、ぐっすり寝てるね。寝心地の良いソファーじゃないのに」
「意外とどこでも寝れるタイプなのかもな」
「実は起きてたりして」
「ははっ。まさかな」
この部屋で長い時間をもう一度過ごせたのは良いことだったのかもしれない。
山本さんの男性経験もそうだけど、この部屋で過ごした時間も山本さんにとっては悲しいもので終わっていて、だから、こうして和やかな雰囲気で部屋を出ることになったのは俺と山本さんのどちらにとっても幸いなことだった。
「来週から学校か。エッチで初日を休んだってのは冷静になってみるとヤバいな」
「ヤバいね。ソトミチくんのせいで背徳感に興奮する身体になっちゃったから、今夜は早速シちゃうかも」
「お、俺のせい? てか、そんな早速で大丈夫なのか……?」
山本さんはもうすっかりと元気を取り戻している。
言葉の節々にいやらしさを感じるほどエッチに前向きなのだ。
もちろんそれは喜ばしいことだけど、そんなにもあっけらかんとしていて良いのだろうか。
「ん? 将来的なお話のこと? それはもう、こっそりしますとも。ソトミチくんとのセックスを昨日のことのように思い出して……」
山本さんは頬に両手を当ててウットリとした表情になる。
この女は新しい男ができても俺とのセックスをオカズにオナニーをするつもりだ。
「こっそりなんだな」
「言わないよ、さすがにね。お墓に入るまで胸の中にしまっておきます。私とソトミチくんだけの思い出だから」
ニイッと笑って、山本さんはまた部屋の片付けを進めていく。
こっそりすると聞いて、ヒドいような気もしたけど、少なくとも山本さんにとって忘れられない思い出であることは変えようがないことなので、それをあえて口にするべきかと問われたら俺としても判断に迷うところだ。
「ソトミチくんが美優ちゃんと上手くやっていくためには、そういうのも必要だよ」
「……え?」
山本さんの言葉が、具体的に何を指してのものだったのか。
それを聞こうとした矢先のことだった。
「んっ……ふぁ……あれ……。なんで、私……」
ソファーでむくりと影が起き上がって、ようやく美優のお目覚めだった。
先に着替えた俺たちは服を着ていて、布団を払った美優は裸で、大福のように色白のもっちりとした乳房がチラ見えすると、美優は自らの裸体を隠すようにして俺たちを睨んだ。
「ジロジロと見ないでください」
その美優の不機嫌面に、反応したのは山本さんだった。
山本さんはスラリと伸びた長い指を波うたせながら、ニヤニヤと下卑た笑みで美優に近づいていく。
「あれだけ二人でシたんだから、裸ぐらい良いじゃない。お互いのイイところも知り尽くした仲なんだし……」
「お、お兄ちゃんに変なこと吹き込んだら承知しませんからね」
恥ずかしそうにする美優と、構わず迫る山本さんと、俺が寝ている間にこの二人がどんな触れ合いをしていたのかは非常に気になるところだが、問い詰めても教えてはもらえないだろうな。
「私もシャワーを浴びさせてもらいます」
「どうぞどうぞ。あるものは好きに使っていいからね」
山本さんはやたらと美優を気に入っているようで、知らずのうちに二人の間には友情に近いものが生まれているようですらあった。
身を削っての勝負の後に残った何かがそうさせているのかもしれない。
これもお互いが本気でぶつかったおかげなのかな。
そうこうして、帰りの準備を終えた美優と俺が玄関に向かって、見送ってくれる山本さんの表情は深読みなんてする必要もないぐらいに明朗だった。
まだ青空が残るうちに外に出てきた俺たちは、久しぶりに日差しを浴びたような眩しさに揃って目を細めた。
俺は指折り数えられる日数しかこの部屋で過ごしていないのに、そこはもう第二の実家みたいな親しみがあって、この場所を出ていかなければならないことへの寂しさは拭いきれなかった。
でも、これは比喩でもなんでもなく、俺と美優にとっても巣立ちのときでもあった。
「美優ちゃん。ソトミチくん。改めてだけど、私のために色々とありがとうね。二人とも、大好きだよ」
Tシャツに膝下までのパンツで簡単な装いに留めた山本さんの、その胸の膨らみから相対的に作られた細身のシルエットは完成された美で、まだ明るい時間の陽光に当てられてもなお、男の情欲を誘うほどにエロかった。
こんな人に本気で好きになってもらえたんだから、俺はもうこの先で自信を失うことなんてないだろう。
山本さんのおかげで手に入れられたものが俺にはたくさんあった。
「ソトミチくんは来週からまたよろしくね」
「ああ。学校では、勉強とかも見てもらえると助かるよ」
「最優先でお相手するから、いつでも言って」
満面の笑みで応えてくれた山本さんに、俺も思わず表情が緩む。
こんなやり取りでも愛を感じてしまうな。
明るくて幸せそうな笑顔が何よりも似合うのが、この山本奏という女性の魅力であって、俺もこれからの山本さんの人生の支えになれたらと思う。
「美優ちゃん」
山本さんに名前を呼ばれて、美優は緊張した面持ちで正面に向かい合った。
「これから大変なこともあるだろうけど。いつでも頼ってね」
そのときの山本さんは優しいお姉さんのようで。
どこか含みも感じる励ましの言葉をかけられた美優は、その意図をしっかりと読み取って、芯のある真っ直ぐな姿勢から深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします」
それはまるで嫁ぎ先への挨拶のように、重たく真面目な返事だった。
以前に、美優は言っていた。
俺たちは一人でも多くの人に祝福してもらう必要があると。
山本さんが「大変なこと」という言葉で表現した、俺たちがこれからぶつかるであろう壁を乗り越えるためには、こうして信頼できる人の助けが必要になる。
だから美優は、由佳にも、遥にも、山本さんにも、自らの主義主張を捻じ曲げてまで、最大限の義理を通してきたんだ。
「ずっとずっと応援してるから。どんなときでも、会いに来て」
山本さんは美優にハグをして、顔の上がった美優の表情は、どこかホッとしたような緊張の解けた様相だった。
美優もここまで気を張り詰めて頑張ってきたんだもんな。
「ソトミチくんも、美優ちゃんも。愛してるよ」
山本さんからの、元気いっぱいの愛をもらって、ついには俺と美優はマンションを後にすることになった。
寂しさはあっても今生の別れというわけではなのだ。
むしろ、俺と美優のこれからを考えるならば、これから最も付き合いの長くなる人になるわけで。
まず俺が向き合うべきなのは美優なんだよな。
だいぶ待たせてしまった。
「ん? そのカバン、ずいぶんと膨らんでるな」
帰り道に美優の肩掛けが大きく揺れているのが気になって、ポーチの部分を見てみると、見栄えを意識する女の子が絶対に入れないであろう容量までパンパンに何かが詰め込まれていたのだ。
「これね、奏さんからお土産」
美優がカバンからガサゴソと音を立てて取り出したのは、見覚えのある個包装が大量に入ったビニール袋だった。
「なんで、ゴムをそんなに? 使うのか?」
美優はピルを飲んでいるので、俺がコンドームを着ける必要はないはず。
もうすでに何回も中出しをしてしまっているし。
「何年かしたらね。私の身にも差し障るものがあるので」
「……そうか。生で出しすぎると、美優の精神状態も危険だもんな」
「そ、それも、なくはないけど。私はたまたま副作用がないだけで、飲み続けてると腎臓とか血圧に悪いんだってば」
「えっ、ああ、そうなのか。なら、無理することはないって。悪いな、なんか」
単に妊娠しなくなるだけの便利アイテムかと思っていたけど。
そう単純なものでもないんだな。
出費で考えたら、ゴムを買い続けるのとピルを飲み続けるのは、どっちのほうがお得なんだろうな。
「お兄ちゃんに早めに生でのエッチを許可したのは、そこまでしないと奏さんを負かせられなかったからであって。お兄ちゃんとの関係からしたら予定外の進展具合にあります」
「そうだったのか。なんなら、今日明日からは、ゴムでするようにするか?」
「え、あっ、いや。そんな急には、やめなくてよいですが」
美優は照れ恥ずかしそうにしながらコンドームが入った袋をカバンに戻した。
数年後で構わないというのであれば、美優のペースに合わせよう。
どうやら美優にも都合があるようだし。
「美優の計画を聞いてたときはどうなるかと思ったけど。山本さんが最後まで元気そうでよかったよ」
「……まあ。あれだけ二人でイチャラブしてたらね」
美優はそっけなくそう返してきて。
俺と美優は、しばらくの間、無言で歩いていた。
「……え?」
そして、俺は立ち止まった。
それから数歩先に進んだところで、美優が歩くのを催促するように首だけを俺に振り返って、俺は慌てて美優を追いかけた。
「まさか……起きてたのか……?」
「起きてたというか。起きたというか。ソファーで目が覚めたら、お兄ちゃんと奏さんが恋人のように甘々な時間を過ごしていたので、妹は息が苦しくなるほどの胸の痛みに耐えながら二度寝しました」
「それは申し訳ない……」
「んー。別にいいんだけどさ」
山本さんとのイチャラブセックスは、元を正せば美優がやらせたもの。
しかし、目が覚めて自分のものだったはずの男が別の女とそれはもう仲睦まじくイチャイチャとエッチをしていたら、生物の根源的な感情はそう穏やかではいられない。
はずなのだが、どうにも文句を言うわりの辛さはないようだった。
歩き姿も、表情も、堂に入っているというか、余裕があった。
さながら俺の妻としての、である。
「意外と、平気そうだな?」
「なんかね。由佳と、奏さんと、あとは佐知子もだけど。これまでお兄ちゃんとエッチしてる現場を見てきたからなのか。尾を引くものはないんだよね」
「そうなのか」
たしかに美優は俺がこれまでエッチをしてきたどの女の子との行為も目撃している。
だから、慣れたというのなら、経験としてはわからなくもないのだが。
男女の在り様って、そんなものでよかったっけ。
なにより、
「美優は、俺が他の子とエッチするのは、絶対に嫌だって言わなかったっけ?」
俺としては、アレは結構、印象的な言葉として記憶に残っている。
美優は他の女の子に比べたら、だいぶ独占欲が強いほうだと思っていた。
「お兄ちゃんは浮気しないって信じられるから言えることではあるんだけどさ。結局は、みんな今でもお兄ちゃんのことは好きなわけだし。なんだかんだでいい男になっちゃったお兄ちゃんは、きっとこれからモテていくだろうと思うから」
美優は落ち着いた声音で語り続ける。
長い黒髪の奥に見え隠れする美優の横顔は楽しげだった。
「最近では、ちょっぴり優越感も、なくもなかったり」
美優は人差し指でほっぺをかいて、顔は真っ直ぐに前を向いたまま、照れ臭そうにそんな本音を溢した。
それこそ思いもしなかった心情の変化だった。
美優は恋人とは二人だけの空間を好む性格だと思っていたからだ。
俺に向けられる好意など、たとえそれがプラスの要素をもたらすものであっても、かつての美優なら不純物として切り捨てていたはず。
これまでの経験を通して、それだけの余裕が美優に生まれていたのか。
思えば、美優が話す声から受ける印象が、初めて自慰行為を見られたあの頃よりも柔らかくなっている。
美優は完璧な存在だから、変わりようなどないと思っていたのに。
いつだか由佳が言っていた、美優の一人の女の子としての部分に、俺はまだ十分には向き合えていなかったのかもしれない。
「私は一生で一人としか恋ができない人間だから。自分でも、だいぶ重たいなって思うし。……たぶん、お兄ちゃんに捨てられたら死んじゃうし。お付き合いしてすぐの頃は、焦りとか不安でいっぱいだったんだよ。こんな私で、お兄ちゃんは大丈夫かなって」
美優はそう話しながら、俺の手を取って、それから、這うように指を絡ませて、手を繋いできた。
「でもね。お兄ちゃんは頭のてっぺんから足の先まで私のもので。私の人生は死ぬまでの全部をお兄ちゃんが貰ってくれて。気づいたら、それが絶対の確信になってて。もう、不安はないみたい」
珍しく俺の一歩前を歩く美優が、繋いだ手を大きく振って、はにかむように笑った。
夏の終わりも近づく時期とはいえ、まだ暑さの抜けない八月の住宅街に、秋の訪れを思わせるような爽やかな風が吹いていた。
「美優……?」
少女然とした美優の笑顔に、耳鳴りにも似た感覚が俺を現実から浮き上がらせていた。
目の前を歩く道が引き伸ばされて、喉の奥が、熱湯を流し込んだように熱い。
美優がこんなにも自然に笑う姿を見ることができるなんて。
なんだか俺、バカみたいだ。
泣きそうになっている。
「ん? どうしたの?」
美優からの返事が聞こえたときには、美優は少しだけ緩んだぐらいの、いつもの真顔に戻っていた。
「美優は、今さ」
「はい?」
俺の問いかけに、小首を傾げて反応した美優の髪が、はらりと下に揺れ落ちた。
これまで美優の笑顔を全く見なかったわけではない。
エッチをするときの美優は、ユルユルなぐらいに満面の笑顔だった。
でも、今の美優は、性欲に突き動かされて、どうにかなっているわけではない。
淡泊で、事務的で、真面目で可愛い俺の妹。
ニュートラルでありのままの美優が、俺との信頼関係に安心して、微笑んでくれただけなんだ。
「ああいや、なんでもない。美優にも、だいぶ余裕ができたみたいで、よかったよ」
俺は取り繕って、美優も俺の態度を不審に思っていたようではあったけど、そこを掘り下げてくることはなかった。
俺を交配相手として認識して発情している美優だって、それも紛れもない美優の一側面であることには違いない。
だから、これまでの笑顔が嘘だったなんて言うつもりはないが、一つの達成感に込み上げてくるのもいたしかたのないことなのだ。
「えー、変なの。……ふふっ。別にいいけどさ」
また頬を緩ませて、俺の横を足取り軽く歩く。
美優は本当に、よく笑うようになった。
「私は今後も、お兄ちゃん以外の男には肌に触れさせることすらありませんので、ご安心ください」
美優はそう言いながら、そのたわわな胸で挟み込むように、俺の腕に抱きついてきた。
あえて俺の二の腕から手の先までが美優の体に触れるようにして。
慣れないことを急にやったせいで、腕の収まりの悪さにちょっぴり苦い顔をしているあたりが萌える。
「徹底してるな」
「お兄ちゃんだけの妹なので」
また当たり前のようなことを大袈裟に表現する妹だな。
でも、恋人でいるよりは妹でいたい美優からしたら、お兄ちゃんの妹であることは言葉以上に重要なことなのかもしれない。
「それはそれとして」
美優は会話を一区切りし、俺を見上げてくる。
そこにはまた愛らしい不機嫌顔があった。
「これまで我慢させられた分、私はしばらくはわがままになるから。ちゃんと付き合ってね」
拗ねたような声で念押しをしてくる。
美優はこれまでの計画のために、ずっと俺とエッチしたい気持ちを押し殺してきた。
そのわだかまりを総て清算した今、美優はその鬱憤を晴らそうとしている。
……俺としては、それでも結構なエッチをしてきたと思うのだが。
「もちろんだよ。これからは全部の都合を美優に合わせるから」
どっちにしたって、俺が美優より優先するものなどもうないのだ。
昨日今日とセックスはしてきたけど、とにかくもうこの妹とイチャイチャしたくて仕方がない。
逸る気持ちを足に乗せて、俺たちは家に戻ってきた。
ドアを開けると、旅行帰りの洗濯をしている母親が、ちょうど洗濯機のある脱衣所から出てきたとこだった。
「あっ……あら、おかえりなさい。二人とも急に学校を休むなんて、大丈夫だったの?」
それに続いて俺たちの帰宅に気づいた父親がリビングから出てきて、珍しく人と距離を詰めて立っている美優を不思議そうに見ていた。
「なんだお前ら。どこに行ってたんだ?」
俺と美優は、学校を休むから体調不良とでも伝えておいてくれと母親にメッセージを送っただけで、詳しい理由を説明していない。
その両親の疑問に答えたのは、先に靴を揃えて玄関に上がった美優だった。
「お兄ちゃんとお泊まりデートしてきた」
美優はざっくりとした言葉を選んで、嘘をつくよりはよかったのかもしれないが、もう少しオブラートに包んだ表現があったようにも思う。
その発言に目を丸くしていたのは父親だけで、母親はなぜかすんなりと納得をした顔だった。
これも女性の包容力というやつなのだろうか。
「お泊まりって、荷物も持たないでか?」
「軽く一泊してきただけだから」
美優はそれだけ言って、自室に行ってしまった。
その後ろ姿を目で追いながら、俺も続いて玄関に上がる。
「父さんたちは来週からの仕事はどうするんだ?」
「変わらないよ。土日休んだらまた朝から晩まで仕事だ。……てか、なんだ。お前らなんかあったのか?」
その疑問はどちらかというと、「お前ら」ではなく、「お前は」という俺個人に向けられたものだった。
この夏休みで顔つきも体つきも一回り大人になってしまった俺に、父親も尋常ではない履歴を読み取ったらしい。
美優とのことだけでなく、俺はその友人や山本さんと、人に言えないようなことを幾つもしてきたからな。
「近いうちに話すよ。……美優は、元気になったから」
「そうか。それは、何よりだったな」
あの小学校の一件以来、美優が無理して大人になってしまったことを、両親も気にしていないわけではなかった。
それでも、美優には学校での友達もたくさんいたし、勉強の出来もよかったから、そういう風に成長しただけだということでどうにか納得をしていた。
その美優がまた幼少の頃の明るさを取り戻したともなれば、両親としてもそれ以上に喜ばしいことはないし、そのためにはちょっとしたことでは済まないような出来事があったのだろうと想像も及んだはずなのだ。
親父はひとまず「お疲れさま」とだけ俺に声をかけて、リビングに戻っていった。
そして、美優を追って階段を登っていく俺に、今度は母親が声をかけてきたのだった。
「こーちゃん」
呼び止められて、階段の途中で振り返った俺に、母親は笑顔というより苦笑いに近い表情で、声量小さく俺に言った。
「あんまり騒がしくしないようにね」
母親の言葉に、俺は意図を汲みきれずに「ああ」とだけ言って返して。
そして、前を向いてからその真意に気づき、口角が歪に上がっていくのを抑えられなかった。
家に帰ってきた美優の様子からするに、母親は俺たちの関係を知っている。
しかも、そのことには美優が絡んでる。
後で問いただしておかないと。
「はあー……」
俺は部屋に戻ってきてから、ベッドに大の字で寝転んだ。
山本さんとのデートの帰りが遅くなるとは思っていたので、通学用のカバンには宿題なり教材なりがもう入っている。
肉体的にも精神的にも、この二日でかなりの体力を使ったため、まだ寝るには早い時間にもかかわらず何もやる気は起きなかった。
美優も俺の部屋にくることはなくて、隣の部屋のドアが開いたと思ったら一階に下りてしまった。
俺はスマホですっかりと更新を追うことのなくなった動画サイトの一覧を眺めて、それから美優に夕飯に呼ばれ、俺も一階へと降りることに。
リビングに入ると美優と父親はすでに着席していて、久しぶりに家族団欒の時間を迎えることになった。
久しぶりの母親の料理だった。
俺は煮物を箸で摘んで口に放る。
個々人の好みはあっても、家庭には家庭の味というものがあって、美優が作る料理も煮物だけはあえて母親の味を真似ているので、これだけは食べ慣れた味だった。
「こーちゃんはこの夏休みで進路は決めたの?」
「受験勉強はしてたよ。大学は、次の模試の結果とかで考える」
「まあまあ母さん、久しぶりの食事なんだからそんな堅い話はしなくても」
「そうだけど、でもねえ」
母親は心配そうに俺に目を配らせながら食事をテーブルに運んでいく。
言わんとしていることはわかるさ。
俺には美優の面倒をみる責任があるからな。
つい口を挟みたくなるのが親心というもの。
「てか美優の心配はしないのか?」
むしろ受験シーズンの真っ最中なのは美優のほうなのだ。
それが進路はおろか勉強の進み具合も聞かないなんて。
と、ちょっと理不尽を感じたので話題を受け流してみたのだが、両親は揃って目を丸くするだけだった。
「しないわよそんな」
「するわけないだろ」
わかるよ。
尋ねた俺自身が不安を感じていないぐらいだ。
美優に厚く信頼を置くこの両親が心配なぞするわけがなかった。
「こーちゃんのが大変でしょ。予備校ぐらい考えなさいよ」
「それは、まあ……」
夏休みを終えて、学校でもいそいそと通い始める生徒が増えている。
俺だってやる気には燃えているから、予備校に通うことだって考えていないわけではない。
「予備校みたいな人がいるからいいんじゃない?」
黙々とスープを飲んでいた美優からのさりげない呟きが横から飛んできた。
「そんなにすごい奴がいるのか?」
「お兄ちゃんには日本一美人で頭が良くて巨乳のお友達がいるの」
「よし今度うちに連れてきなさい」
「あなた。いい加減にしなさい」
ようやく着席した母親に注意されて、わりと本気で期待していたらしい親父はそこから大人しくなった。
そこからも家族の談笑は続いた。
両親からは長い土産話があって、俺も美優も以前と比べるとよく口が回るようになって、その様子を眺めていた母親はどこか嬉しそうだった。
食事が終わり、美優と入れ替わりで風呂に入った俺は、また自室のベッドで天井を見上げていた。
「はあ」
しかし、ダメだったな。
美優とのことは話せなかった。
食事中の会話の雰囲気からするに、親父はまだ何も知らされていない。
母さんは俺たちの心の整理がつくまでは待つつもりでいるんだ。
逆に言えば、それは俺の口から伝えなければならないということ。
(闇雲に話し出せばいいってものでもないよな)
それを聞いた父親がどんな反応をするかなんて、考えずに真実を伝えてしまったほうが楽だ。
しかし、いくらうちの両親が放任主義で寛容な性格をしているからといって、俺と美優の関係が否定されない保証はどこにもない。
それでも俺と美優には別れるという選択肢はないから、どちらにしても突き進んでしまうしかないし、そうともなれば最悪は離別の事態にだってなり得る。
仮に母親の力を借りるにしても、俺が色々と考えて動かないとな。
「こんこん。お兄ちゃん居ますか」
ドアのノックと一緒に声が聞こえて、俺が応えると美優が部屋に入ってきた。
シルキーでピチピチの、巨乳が着るとエロく見える、俺と一緒に寝るとき用のパジャマに美優は着替えていた。
「どうした? もう寝るのか?」
「そこも含めて、お兄ちゃんと今後のことをご相談に来ました」
「ならちょうどよかった。俺も美優に聞きたいことがあって」
「ママのことなら、私が産婦人科でピルを処方してもらうときに、そのときまでのことは話したよ」
理解の早い妹で助かる。
「というと……。どこまで知ってるんだ?」
「察してる範囲まで言うなら、たぶんだけど、お兄ちゃんとお付き合いして、エッチしてることまでは、わかってると思う」
やはりそうなのか。
それは許されていると理解していいのだろうか。
「母さんは何も言わなかったのか?」
「ママには私が小学生のときから悩みを聞いてもらってたからね。女の子が好きかもしれないとか。お兄ちゃんのことを好きになるかもとか。エッチな気分になっちゃうからピルを飲んでおきたいとか。そういう話は、長い時間かけてずっとしてたから」
なるほど、そうか。
母さんは美優が幼い頃から抱えていた悩みを当初から知っていたから、好意の対象が最後には実の兄になっても、心の準備はできていたというわけだな。
「だからあの一言か。……わかった。親父には、俺から説明するから」
「よろしくね。それと、私からのお話だけど。これからも夜は一緒に寝るでいいんだよね?」
「もちろん」
同じベッドに入っているところを、何かの拍子に見られてしまうかもしれない。
それでも、だからといって別々のベッドで寝るというのは、今となっては考えられなかった。
この点については、美優も賛同してほしがっていたようだし、やっぱり恋人なら同じベッドで寝ないとな。
「なら、あともう一つ」
うん。
おそらくは、アレについてだろうな。
「エッチも、するよね」
「する」
たとえ下で親が寝ていようとも、美優とエッチしない生活は同衾しない夜よりも考えられない。
「じゃあさ。お兄ちゃん、お疲れのところ申し訳ないけど。こういうのは、初日が肝心だから」
「だな。軽くでも、してみるか」
こうして、やや強引ではあるけど、二人でエッチをすることに。
「お口でいい?」
「抜くのは口でいいよ。ただ、服はお互いに脱ごう」
「は、はい」
これも俺と美優の将来のため。
俺が先にパジャマを脱いで、パンツも下ろして、それに続いて美優も裸になった。
何度拝んでも見慣れない、ロリで巨乳でエッチな体の俺の妹だ。
「またそうやって。いやらしい目で妹の裸を見て」
そんなエロい体をしてるのが悪いんだろう。
「でも、お兄ちゃんの、ちっちゃいままだね」
「昨日と今日で出し過ぎたからな」
「意味わかんないぐらい射精したもんね」
その半分はお前が出したんだがな。
「えへへ。やっぱりこのどんぐりみたいなサイズも可愛くて好き」
「男としては複雑なんだが。とにかく、舐めてみてもらってもいいか」
「はーい」
美優は気軽に答えて、パクっと俺のペニスを口に含んだ。
丸っこくて亀頭が皮に包まれたそれを、美優は舌で転がして、ちゅぱちゅぱと口から出し入れして楽しそうにフェラをしている。
無駄にデカくなってしまった俺のペニスにだいぶ文句を言っていたからな。
言葉にしている通りに小さいのが好きなんだろう。
「んむ……はむっ……ちゅるっ……んちゅ……へろれろっ……あぁ……んっ……」
「っ……ふぅ、この状態でされるのも、いいな……」
勃起していない陰茎を舐めてもらうなんて、そうそう無い機会だからな。
これまで美優としてきたエッチを考えるともう二度とできないかもしれない。
「お兄ちゃんはすぐおっきくするもんね」
美優は俺の性欲の強さ批難して、それからまた小さいままのペニスを咥えた。
これまで美優とエッチをしてきたほとんどは、俺が欲情して美優に迫ったものだ。
だから、まずペニスを見せるとなったら勃起をしていたし、美優も俺の性欲に奮い立った肉棒の相手しかしてこなかった。
「これさ、お兄ちゃんのって、小さいときは皮を被ってるけど。舐められるときは、剥くのと被ったままなのと、どっちのが気持ちいいの?」
「えっ、そんなこと、聞かれてもな」
無邪気に兄の心の傷を抉ってくる妹だ。
「剥かないほうが、新鮮という意味では、気持ちよくはある」
「ふむふむ。なら、こういうのはどうなのかな」
美優はペニスから口を離すと、舌を伸ばして、皮に包まれた亀頭の隙間に舌の先端を入れてきた。
「おっ、あっ……それっ……ヤバいかも……っ……!」
まさかの内側からの包皮舐めに、普段のフェラチオ以上の快感が腰から突き上がってきた。
美優は舌で右回りに左回りに舐めてきて、皮がめくれると、唇でそれを無理やり戻して、皮と亀頭の間を丹念に舐め回してきた。
「へろっ……れろおっ……ちゅぷっ……ちゅっぷっ……はあ……えろぉ……れぇろっ……」
「あああっ……はあぁっ……すごっ……ああっ……気持ちいいっ……!」
美優は鈴口が見える程度に頭を出した亀頭の先っぽだけにキスをして、吸い付いて、ちゅぱちゅぱとエッチな音を立てて何度もキスをしては、小さなペニスを楽しそうに堪能していた。
兄のペニスを咥えてここまでのことができるなんて。
妹がエッチになりすぎて困る。
何より美優が俺のペニスをひたすら舐めているこの絵面が好きだった。
できることなら、このまま口内射精まで、いきたかったのだが。
「あーむっ……ちゅっ……へろっ、はあ。ようやく、親指ぐらいの大きさにはなったね。どう? 出そう?」
「めちゃくちゃ気持ちいいんだけど……今日は、難しいかも……」
「そっか。あれだけ出した後だもんね」
どう頑張っても射精するのは無理そうだった。
これだけ刺激してもらっても勃起しないのだ。
もう出せるものなど一滴もないのだろう。
「俺ばっかり、ごめんな。美優にもしようか」
「あー。それは、いいや」
「まだ恥ずかしいのか?」
「それもあるけど。してもらう気分でもなくて」
美優の顔はエッチに興奮して火照ってはいたが、蕩け顔の本能モードまでにはなっていなかった。
俺が勃起できなかったから、雰囲気を悪くしてしまったか。
一概に俺のせいではないとはいえ申し訳ないことをした。
「我慢してるわけじゃないんだよな?」
「恥ずかしくて誤魔化してるんじゃないよ。ほら、今って、お兄ちゃんも興奮の度合いとしては弱いじゃない? いつもはいつ犯されるのか怖いぐらいギラギラしてるし」
それは妹の側に犯されたい願望が見え隠れしてるからだけどな。
「前も言った通り、私はお兄ちゃんに欲情されてないと、エッチな気分にはならないので」
温泉に行ったときに美優が言ってたことだよな。
あのときは美優の頭もバグってたし、俺を煽るための誘い文句だと思っていたが、まさか事実だったとは。
「お兄ちゃんに性欲がないときは、基本的に妹にも性欲がないと思っていただいてよいです」
「そうか」
難儀な体質だな。
兄と性欲がリンクしているというのは、妹として、どう思うのだろう。
恋仲になった今では、兄妹としての相性の良さとして考えることもできるけど。
「なら、今日はここまでにするか。中途半端で悪いな」
「いいのいいの。きっと疲れてるだけだよ。お兄ちゃんなんて、一晩もすればすぐ元気になるんだから」
そう、これは、美少女二人にこってりと絞られて、脳がさすがにもうやめろと拒絶反応を起こしているだけ。
金玉だって空っぽだし、だから、ぐっすりと寝て体調が戻れば、また美優とセックスができるようになる。
「ただね、お兄ちゃんのその喘ぐのは、ちょっとどうにかしたほうがいいと思うんだ。ママたちもお兄ちゃんのそういう声はご遠慮願いたいだろうし」
「すまなかった」
これからは堪えるように頑張ろう。
本番をするようになって美優がどう声を抑えるのかは楽しみにしておくこととする。
「寝るのも裸のまましてみるか?」
「ぜひそうしましょう」
美優は裸のままノリノリで俺のベッドに上がって、下着まで床に脱ぎ散らかしたままなのに、俺も布団の中に入るように引っ張ってきた。
山本さんに影響されてか、元からこうだったのか、エッチな妹になってしまったものだな。
「それじゃあ、おやすみ。美優」
「おやすみなさい、お兄ちゃん。寝てる間におっきくなっちゃたからって、こっそり挿れたりしないでね」
「しないって」
そんな冗談を言い合って、まったりと互いの素肌の触れ合いを堪能していたら、結局は俺が勃起することもなく眠くなってしまった。
あれだけ射精したのだから、今日まだエッチができると考えていたのが間違いだったんだ。
明日、朝になったら、裸の美優を起こして、フェラ抜きをしてもらおう。
エッチな恋人がいると、毎日そういう楽しみがあって幸せだ。
そうやって期待だけを膨らませながら、ようやく長い一日を終えた。
俺も美優も、このときはこの勃起不能の問題を、その程度のものにしか考えてはいなかった。