※この作品はR-18です。

俺の妹が最高のオカズだった   作:風見 源一郎

98 / 100
第九巻が本日から発売開始されました!!
いよいよウェブ版に追いついてきてヤバいですが、書き下ろしも入れつつ最後まで出版しきりますので応援いただけると嬉しいです!!
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ピンクの検査薬

 

 薄暗い一室に三人の女の子がいる。

 ちょうど美優と同じくらいの歳の子たちだった。

 

 周囲は騒がしいものの部屋の壁に防音処理が施されていて、会話をするのに支障はなく、また誰かに話を聞かれることもない。

 人数に対してだいぶ広いその部屋にはステージがあり、その中央にはマイクスタンドが置かれていて、しかし、今日に至ってはそれが使われることはないのだった。

 

「まさかいきなり全員と話すことになるとは……」

 

 俺が視線をやるその先には不機嫌顔のツインテールがストローでメロンジュースを飲んでいる。

 言わずもがなその人物とは由佳であり、横でちょこんと座っている佐知子は軽い挨拶をしてくれて、遥は数秒目を合わせてくれただけだった。

 みんな学校帰りの制服姿である。

 

 由佳はテーブルに置いていた小さいカップのソフトクリームを一口で平らげてから俺にスプーンを指し向けてきた。

 文句があるときの行儀の悪さは変わっていない。

 

「あたしら三人同時にメッセを飛ばしてくるなんて、美優の一大事しかありえないでしょ。さっさと話しなさいよ」

 

 由佳と佐知子が毎日一緒に勉強していることは俺も知っていたので、一斉に相談を持ちかけたら只事ではない事態だとバレることぐらいは考慮すべきだったな。

 もうしばらく美優の反応を伺った後でもいいと思っていたが、こうともなれば話さないわけにもいかない。

 いずれ伝えるつもりだったその時期が少し早まっただけのこと。

 

 放課後になって由佳から『緊急会議よ!!』とメッセージが届いて、指定されたのがこのカラオケだった。

 学校で勉強して帰ることが増えたので俺の帰宅が遅くなっても美優が気にすることはない。

 しっかりと事実を伝えて、やるべきことを話し合えたらいい。

 

 この三人なら惜しみなく美優を気遣ってくれることはもうわかっている。

 どうやって本題を切り出すかが最も難しいところだ。

 

「話はもちろんあるんだ。ただ、今回ばかりは本気で真剣な話で。どう伝えるかが難しくてな」

「ズバッと言えばいいのよズバッと。ここいる全員、あんたにケツの穴まで晒してるんだから、今さら深刻も何もありゃしないのよ」

 

 由佳の淑女らしからぬ発言に、佐知子は「そこまで見せてないけど……」と恥ずかしげに呟いて、ただのとばっちりである遥はなぜか由佳ではなく俺を睨んでいる。

 由佳だけはケツの穴どころではない醜態を何度も晒してくれているので誤りではないのだが。

 

「あ、あの、美優ちゃんのことでは、あるんですよね? 私たち全員に相談するぐらいですし。何かの病気なんですか?」

「病気ではないんだ。まあ、でも、そういう感じの相談だよ」

 

 さすがは佐知子だ。

 察しが良くていい感じに話を進めてくれる。

 

「美優が病気なんて、この間の熱が珍しかったぐらいなんだから、まずないでしょ。あり得るとしたらつわりが来たとかじゃないの?」

「いや、その……」

 

 由佳が冗談っぽく言ったそれがほぼ正解だったので返答の仕方がわからなくなってしまった。

 なんだって君らはそう直感が鋭いんだ。

 こっちの気苦労も考えろ。

 

「何を根拠にそう判断されたんですか」

 

 次に口を開いたのは遥だった。

 由佳ではなく、明らかに俺の方を向いて訊いてきている。

 俺の反応から、由佳の放った冗談がまさしく相談の核であることまで読み取ったらしく、それを踏まえての質問だった。

 

 まだ話題についてこれていない佐知子は遥の言葉の意味を理解しきれておらず、由佳も「は? あたしに聞いてんの?」と不審げである。

 

「検査薬に二本線が入ってて」

 

 その遥に向けた返答に、遥本人は瞼を閉じてため息をついただけで、ワンテンポ遅れて『バンッ!』と両手で机を叩いて立ち上がったのが由佳だった。

 

「そ、それっ……!! 完璧に本物じゃない……!!」

 

 血の気の引いた顔で目を見開いて、隣の部屋にまで声が響きそうなほどの驚きようだった。

 続いて話の中身を理解した佐知子は、きっと祝福をしなければという思いから拍手の寸前みたいな手の上げ方をしていて、そこで固まっている。

 

「そうでしたか。てっきり美優の想像妊娠かと思ってましたが。それはおめでたですね」

「想像で妊娠できるならあたしがしてるっての! どおりで最近はトイレ行く頻度も上がってると思ったわ……」

 

 そんな変化まで起こっていたのか。

 俺は全然気づいてやれてなかったな。

 由佳が冗談のつもりで言っていた、つわりってやつがもう来てるのかもしれない。

 ますます美優のことをケアしてやないと。

 

「ていうか私も実は孕まされたりしてない?」

「そこを俺も心配してたんだ。でも、さすがに由佳は生理がきてるよな? 佐知子も」

「ん、まあ、そうね。残念ながらきてたわ」

「は……はい……私も……」

 

 さすがに生理まできていれば問題はないだろう。

 コンドームが誤って外れたことだってなかったし。

 これで山本さん以外の心配はなくなったと考えていい。

 

「それでな。勝手なお願いだとはわかってるんだけど、美優の学校でのサポートをお願いしたくて」

 

 時期的にどこまで外見的に目立つようになるかはわからないが、卒業までには外目でもわかるぐらいにお腹が膨らむかもしれない。

 元が小柄な美優からしたらなおのことだ。

 

 そのうえ、食べ物や運動にも制限がかかる。

 学校での階段の登り降りですら危険が伴うのだ。

 いくらしっかり者の美優でも任せきりにはしていられない。

 

「あったり前でしょ! 学校に来るってんならもちろん面倒見てやるっての!」

 

 カッと身を乗り出した瞬間に由佳の長い二つ結びが前に揺れて、ガッツポーズするその意気を強調する。

 こういう状況になると心強い仲間だ。

 

「だけどね」

 

 しかし、その次に由佳の口から飛び出してきたのはまさかの一言だった。

 

「悪いけど、私、高校は美優と同じとこには行けないわよ。佐知子と本気で勉強して西高に行くって決めてるの」

 

 励ますにも茶化すにも全力だったはずの由佳は、今は妙に落ち着き払っている。

 美優のことで改心して、佐知子のところで真面目に勉強も続けて、それは目覚ましいほどの成長の証だった。

 それでも完全に吹っ切れたわけではない様子の由佳は、腕を組んで憂いを含んだ顔を横に向けており、隣の佐知子はちょっと照れた様子で「毎日すごい頑張ってるんです」と由佳を褒めていた。

 

「ありがとう。いまのクラスでのことだけでも助かるよ」

 

 美優との義理や友情の範囲でやってもらえるだけでいいんだ。

 仲良しだからって負担をかけたいわけじゃない。

 それは美優だって望んでいないはず。

 

「でも安心なさいな。もし美優に嫌がらせする輩がいたら、別の学校だろうとぶっ飛ばしに行くから」

「あ、あのっ。私からも、おめでとうございます」

「そうよ! おめでたじゃない! 妊娠祝いは何がいい!?」

 

 雰囲気の暗さを察して佐知子が祝福の言葉をかけてくれた。

 止まっていた拍手も気持ちよく音が鳴って、俺の背中を叩く由佳も心の底から祝ってくれているのがわかる。

 妊娠祝いなる言葉は初耳だったがそれぐらい喜んでくれているんだ。

 それが二人の反応だった。

 

「美優の周りはまあ、こういう環境ですし。誰も怒ったりすることはないでしょうから、分不相応ながら私から言いますが」

 

 ずっと深くソファーに腰をかけていた遥が立ち上がって由佳と入れ替わった。

 その瞳に怒りこそ篭っていないが、美優と同じぐらい淡白な性格をしている遥からすると、尖った感情が見てわかるほど目が細まっている。

 

「美優の若さで産むことにどれぐらい負担があるかはわかっているんですよね? 美優とお兄さんの性格を考えると、もしものときに感情を抑えて母体を優先させることができるとも思えませんし。事故とはいえきっちり反省してもらわないと」

 

 遥の言葉は端から端まで正論だった。

 出産というものが俺にとってまだリアルになっていない。

 美優の気持ちに寄り添うことが逃げの選択肢ではないと断言できるだけの熟慮はこれから先も必要になってくる。

 

 山本さんの助言は、あくまでもこれまでの俺と美優の営みが間違っていなかったというだけで、目の前の幸せだけを追い続ければいいという意味ではない。

 そこまでを含めて俺が考えるべきことなんだ。

 

「謝るべき人にはきちんと謝るし、美優のことは何よりも大切にするよ。どれも結果で示してみせる。だから、美優には祝福してやってほしい。そうじゃない部分のことは、きちんと二人で考えるから」

 

 山本さんからも、遥からも、言われなかったら気づけなかったことがあった。

 由佳と佐知子のように真っ直ぐに喜んでもらえるのもありがたいし、信頼できる仲間っていうのはこれほどまでに重要なものだったんだな。

 美優が無理をしてでも守りたかったものがなんとなくわかってきた気がする。

 

「それはまあ、もちろん」

 

 遥はしっとりと目を閉じて、次に開いたその視線は柔らかいものに変わっていた。

 美優の周囲で自分だけがハッキリと言える立場だからと、あえて一言を伝えてくれただけで、その根っこのところにある感情は由佳たちと変わりないものだったらしい。

 

「ところで、お腹の子は女の子ですか?」

「それは知らん」

「美優の娘に着せたい服が無限にあるので、いっそこうなったからには女の子が生まれるまで美優を孕ませてもらっても」

「さっきと言ってること逆だな?」

 

 もちろんそれは冗談の範疇であって──実際に女の子が生まれたとなったら本当に遥は服を大量に送りつけてくるだろうが──遥も美優が子を授かったことを喜ばないはずがなかったのだ。

 

 出会ったばかりのことはぶっ飛んだ考えの子ばかりで価値観が合う気がしなかった彼女らも、だからこそこうして祝福をしてくれるのは他にない良縁だったと言える。

 その後も女の子の気持ちにまつわるあれこれをレクチャーされて、最後には由佳の「てかいつまでも美優を一人にしちゃダメでしょ!?」の一言で会議は和やかに終わり、無事報告は完了したのだった。

 

 帰宅の途中も調べるのは妊娠した美優に関することばかりだった。

 なんでも妊婦はカフェインを摂り過ぎるのがよくないようで、カフェインレスでかつ美優の舌に合う紅茶を遥に教えてもらったりと、準備は着々と進んでいる。

 もちろん、安定期に入るまではぬか喜びになってはならないので、物を揃え過ぎるのもよくない。

 まず考えるべきは手帳を貰うためにどこの病院に行くべきかぐらいか。

 

 そうしたことに脳のリソースを使っていたせいか、玄関に入った俺はリビングから出てきた父親の姿を見た瞬間に驚きで固まってしまった。

 最近は気まぐれで両親が早く帰宅するので心臓によろしくない。

 

「どうした? そんなとこにつっ立って」

「ああいや、珍しいなと思って。帰ってきてたんだな」

「そりゃまあ、お前らがこの先どうするかってのもあるからな。子供の成長は今のうちに見守っとかないと」

 

 どうやら、親父は俺と美優の関係を知ってから、俺たちの独立が早いのではないかと気にしているらしい。

 まだ大学の進路も確定しているわけではないものの、距離によっては一人暮らしも必要になる。

 そうなれば、美優が俺と離れて暮らすことをよしとすることは考えられないため、同棲という選択肢にまで飛躍する可能性もあるのだ。

 

 俺としては美優と暮らす充分な準備ができるまでは実家にいるつもりだけどな。

 その方が美優だって都合がいいはず。

 

 それに、もはや実家を離れるだとか言っている場合でもないのだ。

 俺たち二人の責任で子供は育てなければならないとはいえ、今の年齢でとなれば親の協力は必須と言っていい。

 生活費だってろくに稼げない身の上なんだ。

 

 だからこそ、美優が妊娠した事実も、できるだけ早くに伝えなければならない。

 

「お兄ちゃん、おかえり」

 

 そう考えていたからこそ、美優が階段を降りてきたこのタイミングは、運命的なようにも思えた。

 

 俺も父親になる覚悟をしている。

 山本さんも美優の友達もみんな、美優の妊娠を祝福すると言ってくれた。

 あとは俺たちが両親に認めてもらうだけ。

 

「なあ、美優」

 

 父親が出てきたのはトイレに行くためで、わずかだが俺と美優には二人で話す時間があった。

 その間に俺はリビングに入ろうとしていた美優を抱き止め、お腹をさすりながら語りかける。

 美優は困惑していたものの、俺にお腹を触れられるのが心地よかったのか、首だけを振り返って俺を見る目は優しかった。

 

「そろそろ、父さんたちに話さないか?」

「ん? 何を?」

「だから、ほら……」

 

 誤魔化そうとする美優の理解を促すように、俺は美優のお腹を撫で続けた。

 

 自分から話す勇気がないのはしょうがない。

 美優だけに関することなら、あの甘々な両親はなんだって許すだろう。

 だが、俺が絡んでいるとなれば一筋縄で行かないことは容易に想像できる。

 だから、話をするのは俺からでいい。

 

 ただ、その前に、美優の口から、妊娠した事実を俺に告げてほしい。

 

「俺たちの……将来のこと。美優の、お腹にいる……子供のことを」

 

 何年と付き合ってきたわけではない。

 それでも、今日に至るまでの濃厚な月日と、兄妹として過ごしてきた十数年は、俺たちの愛を確かなものに成熟させてくれた。

 

 美優とならどんなことが起きたって幸せを掴んでみせる。

 

 そんな確信が俺の中に強くあった。

 

「えっ」

 

 俺のお願いに美優はまず小さく驚いてから、

 

「え、えっ!?」

 

 発言の本気度合いがようやく伝わったのか、美優は身を翻すようにして俺の腕を振りほどき、俺から半歩分の距離を取った。

 

「き、気が早くない? たしかにこの前はそんな話をしたけど、あれはあくまで話の流れで、検査っていうのは……その……プレイの一環というか……」

「二回目の検査のことなら、待たなかった俺も無粋だとは思うよ。でも、きっと今なんだ。父さんたちに言うべきなのは」

 

 美優が自分から言いだしてくれた、二度目の検査の結果を見てからでもいいとは思っていた。

 妊娠したからといって、これから安定期に入れる確証もない。

 それでも、仮に上手くいかなかったとしても、ここで妊娠した事実を両親に告げなかったら後々の人生で必ず歪みを生む。

 

「ん、ん? えと、二回目? って、どういうこと?」

 

 美優との噛み合わない話。

 何日も前から並行線を辿っているこの議論は、さすがにこれだけ繰り返せば美優も折れると思っていた。

 

「だから、前にも検査をしてただろ? 陽性の検査薬だって、机に……」

「なっ……なんだって!? み、美優が妊娠したのか!?」

 

 と、そこで会話に割って入ってきたのが、トイレを終えた親父だった。

 美優との会話が上手くいかなすぎて、聞こえないように気を回すのを忘れていた。

 

「お前らな! いつか作れとは言ったけど早すぎるだろ!? お、そ、それで、美優の体は大丈夫なのか? そろそろ冷え込む時期だからな。今日は温かい汁物にでも変えてもらうか? 暖房入れるか!? 鉄分足りてるか!?」

 

 血走った目をかっぴらいて、おそらく抱いているであろう俺への怒りを封印して全力で美優を心配する父は、やはりというか大人なのであった。

 やっぱり、お腹が大きくなる前に本当のことを告げてよかった。

 

「落ち着いて、お父さん。私、妊娠してないから」

 

 美優は低い声で空気を凍らせて、呆れたような顔で俺を睨んでくる。

 ここまで否定するということは、もしかするともしかするのかもしれない。

 

「お、おお? ん? どっちなんだ? したのか? してないのか?」

「してるんだよな? 美優。もう、正直に言っていいんだぞ?」

「だから、してないんだってば。お兄ちゃんは私の部屋に来て。お父さんはビールでも飲んで全部忘れてて」

 

 本人によって完全に否定された妊娠説は、美優の部屋で改めて二人で話し合われることに。

 腕を引っ張られて階段を登る途中、リビングに入っていく親父の横顔がどこか残念そうだったのは気のせいだろうか。

 

「──お兄ちゃんの精子でなら、薬を飲んでても私が孕ませられる可能性があることは認めます。だからって、さすがに妊娠した前提でお父さんたちに話すのは早すぎです」

 

 部屋に入るなり早速お叱りモードだった。

 怒っているほどではないが、ハッピーな感情が一つもないことだけは見てわかる。

 

「父さんに聞かれたのは申し訳なかったけどさ。でも、もういい加減に、打ち明けてくれてもいい頃かなって思って」

「打ち明けるって。まさか私が妊娠してるってこと?」

「まさしく」

「……お兄ちゃんもしかして、私が妊娠してると本気で思ってる?」

 

 本気もなにも実物を見てしまったからな。

 しかし、美優のこの口ぶり、少し怖くなってきた。

 

「あのさ。さっき下で話してたとき、私が妊娠の検査してたとか不穏なことを言ってたけど」

「ああ。だってほら。そこのペン立てに入ってるよな? 二本の線が入ってるやつ」

 

 俺が勉強机を指差すと、美優は「あー……」と気の抜けた声を出して、それから俺が確認したものと同一の検査薬を持ってきた。

 

 この両端が丸いピンク色の楕円棒、間違いない。

 陽性の線もくっきりと残っている。

 

「これは妊娠検査薬ではありません」

 

 な……んだと……。

 

「じゃあなんだそれは」

「排卵検査薬です」

「紛らわしすぎるだろ!? どっからどう見ても妊娠検査薬と同じじゃないか!!」

「女の子でも普通にわからなくなります」

「どうしてそんなものがまかり通ってるんだよ……!」

 

 待てよ、いや待て。

 それが本当だとすると今までの俺の行動はどうなるんだ。

 

 山本さんや由佳たちに告げてしまった誤報は正さなければならなくなるのか。

 どんな顔して訂正すればいいんだ。

 

「まさかとは思いますが」

「いや、だって、もう確実な証拠だったし」

「もう……! 私に聞けばよかったじゃないですか」

「だってほら、美優が何やら言いづらそうにしてたことがあっただろ? ……それは、どうなんだ?」

 

 というより、排卵検査薬だと?

 なんでそんなものを買ったんだ。

 妊娠したい人が排卵日を確定させるために使うものだろ。

 

「それは……まあ……」

「関係してるのか?」

「関係してなくは、ないと言いますか……」

 

 この態度、間違いなくこれが言いづらさの原因だな。

 あの謎の中出し希望のときに美優が見ていたのが検査薬であることは変わりないんだ。

 

 そうかそういうことか。

 ただ膣内に精液を送り込むだけみたいなセックスを要望した理由はそれか。

 そんなことのために俺はここまで気苦労をかけさせられてきたのか。

 

「排卵確定日に俺とセックスしてエクスタシーしてたんだな」

「まあ……言いようによっては……」

「美優からしたらオナホとかディルドと同じオナニー道具なんだろ」

「そ、その言い方はやめてください……!」

 

 美優は周知に顔を朱に染めながら素早く検査薬を背後に隠した。

 これまでの態度とこの反応からするに、美優が俺の中出しで孕まされる妄想をするためだけにこれを使ったことは明白だ。

 妹の淫らな性実態は俺の想像の及ばないレベルに至っている。

 

「ともかく。お兄ちゃんが責任を持って訂正してよね。私は由佳からその話題を振られても完全無視するから」

「ちゃんと訂正はしておく。そこはマジで申し訳なかった」

 

 美優が妊娠を告白するタイミングを測っていると思いこんでいたとはいえ俺の過失だ。

 由佳にガミガミ言われるのは構わないのだが、山本さんに無用な心配をかけてしまったのは心苦しい。

 佐知子もあれだけ純心な反応をしてくれたのに。

 遥は……、もしかしたら、半分ぐらいは妊娠していないとわかっていたのかもしれない。

 

 とはいえ、もしものときを考えるいいきっかけにはなったかな。

 普通に人生を過ごしてたら、産婦人科に行ってからの手続きなんて、絶対に知ることはなかっただろうし。

 

「てか、ピルを飲んでるのに、排卵ってするんだっけ? 卵子が排出されたら受精しないか?」

「ん。だから、これはピルを飲み始めるより前に検査したやつ」

 

 それをずっと取っておいてあるのか。

 排卵周期上の検査陽性日が来るたびに、妄想を捗らせていたんだよな。

 エロゲをそれなりにやり込んだ自負がある兄からしても妹がエッチすぎてびっくりする。

 脳みそを取り出したら真っピンクなんだろうな。

 

「でさ」

「はい。なんでしょう」

「一応、最後はああして、ガッツリ中出したわけじゃないか」

「めちゃくちゃ精液出されましたね」

「そっちで妊娠したってことはないの?」

「……」

 

 ようやくクールダウンに向かっていた空気が、美優の肌の裏側から伝わる体温によって上昇していく。

 

 だって気になるだろう。

 あれが排卵検査薬だったということは、美優はまだ一度も妊娠の検査をしていないことになる。

 あの夜の美優の発言からするに、卵子が排出されてしまった可能性もあるのだ。

 

「そこまで言うのでしたら」

 

 通常は生理が来ないことを認識してから検査をするもの。

 とはいえ調べた限りでは、妊娠さえしていれば、生理予定日より前でも反応はするらしい。

 

 そして、その他諸々の意図を、言わずとも美優は汲み取って、今度こそ本物の妊娠検査薬を机の引き出しから取り出した。

 負い目がないときの頭のキレと、面倒くさくなったときの豪気さはいつもながら惚れ惚れする。

 

 俺は美優にトイレへと連れられ、普段着姿の美優が便座に跨り、スカートからパンツをずり下ろすところまでを見ていた。

 不正の余地などない完全な検査スタイルである。

 

 美優は検査薬を箱から取り出して股の間にセットし、その時を待つ。

 大切な溶液の排出口は暗がりの中に見えないままとなっていた。

 

「スカートを上げたら怒るんだよな」

「当然です。というより前から思ってたんだけど、裸に見慣れても妹の排尿になんか興奮するの? しかも何度も見てるのに」

「するだろ普通に。妹だぞ」

 

 妹がパンツを脱いで人に見られると恥ずかしい行為をしてるんだから、それを見て興奮しないわけがない。

 興奮しないのは動物としての摂理に反する。

 事実として俺の股間もあられもない姿になっている。

 

「まだ出してないんだけど。まあいいから黙って見ててください

「出し終わったらでいいから処理してくれないか」

「それは別に構いません」

 

 うちの妹はドライになると許容範囲が広がる不思議なところがある。

 

 検査薬の構えられたそこに、黄金色の液体がかかる瞬間も、そう感動的なものではなかった。

 それでも、お互いに無言のトイレの中で、美優がおしっこをする音だけがなっているのは妙にエッチだった。

 

「はい終わりました。無味乾燥でしたね」

「どれぐらいで結果がわかるんだ?」

「だいたい五分。なのでお兄ちゃんを射精させるには充分すぎるぐらいの時間です」

「なんだと」

 

 俺は勃起した陰茎をズボンの中から美優の前に引きずりだした。

 排尿後の美優はパンツを足首に掛けたまま、ティッシュで股を拭くこともせず、無気力そうに俺のペニスを咥える。

 かつてないほど淡白なフェラチオの始まり方だった。

 以前にもメイド姿の美優に同じような構図でフェラをしてもらったことがあるが、前後の文脈があるかないかでこうも気の昂りが異なるものか。

 

「なんかいっつもお風呂前のを舐めさせられてると思うと悔しくなってきた」

 

 ちゅぱちゅぱとフェラをする合間に美優がボソッとこぼした一言。

 そこに続いたのはペニスを吸い尽くすような絶技よりも俺の性感帯を強く刺激するものだった。

 

「今日は私もこのままのをお兄ちゃんに舐めさせちゃおうかな」

 

 いつだかは死んでも舐めさせないとまで言われた密部。

 それをあろうことか雫の滴るままで味わわせようという。

 衝撃的な発言だった。

 

「ま、マジか。美優が、いいって言うなら……俺は……うっ……あっ」

 

 びゅるっ、びゅうぅうっ、と、つい美優の口内に射精してしまった。

 それほど刺激されていたわけでもないのに、最高潮時と同じだけの量が美優の喉奥へと流し込まれていく。

 

「この情けない味が兄ちゃんの精子って感じがする」

 

 精液を飲み下した美優は、トイレでパンツを脱いだまま兄のペニスをフェラ抜きしたというのに、何事もなかったかのように澄ました顔をしていた。

 

 その情けない精子でいずれは受精することになるんだからな。

 大人になったら絶対に孕ませるからな。

 

「じゃあ、次は美優のを……」

「お断りします」

 

 無情にも美優はビデボタンを押して綺麗さっぱり股を洗い流してしまった。

 いやそれでも舐めさせてくれるのなら舐めるのだが。

 

「舐めさせません」

「そうだよな」

 

 まあ想定の範囲だった。

 

 大丈夫。

 いつもの美優だ。

 きっと陽性反応も出ない。

 

「お兄ちゃんの早さだと五回イかせても検査結果が確認できないね」

「悪かったな」

 

 軽口を叩き合って、日常となんら変わりない兄妹の距離感で、俺たちは話していた。

 

 でも、本当はそれは緊張の裏返しで。

 美優の部屋に戻ってカーペットに横並びで座り込み、テーブルの上に置いた検査薬を眺める俺たちからは、会話がなくなっていた。

 スマホを弄ってのんびり過ごしているように見える美優も、検査薬と時計にしきりに目をやっている。

 俺は喉が渇いて喋れなかったので黙り込んでいた。

 

 一分、二分、と時間が過ぎていく。

 検査の窓にまだ線は現れてこない。

 出るはずがないとわかっていても、もしもを考えると緊張する。

 

 そして、四分を超えた残りの一分間。

 ついには美優も検査薬を凝視するだけになった。

 

 兄妹で並んで妊娠検査薬の反応をドキドキしながら見ている。

 こんな瞬間がくるなんて、まだずっと先のことだと思っていた。

 

 残り二十秒、残り十秒と、針が進む。

 浮き出てくることのない陽性線に、マックスまで高まった心拍は、五分を超えたところで空気の抜けた風船みたいにスゥと落ち着いていった。

 反応するなら二、三分で出るものらしく、五分してでなければまず陰性とのことだ。

 

 つまり、美優は本当に妊娠してなかったのだ。

 

「ね? これでもう疑いようがないでしょ?」

「ああ、悪かった。とんでもない早とちりで」

 

 俺はまずメッセージで誤報を伝えた面々に謝罪と訂正を入れた。

 詫びるなら対面であるべきだが、報連相はスピードが最優先である。

 

「残念な気持ちもあったりするのか?」

「ううん。お兄ちゃんに孕まされて妊娠したいし」

 

 やはりそうか。

 俺が俺の意思で美優に種付けしない限り、満足いく妊娠にはならないよな。

 

「あ、でもさ」

 

 まだもう一つ、俺には気になっていることがあった。

 

「由佳のやつがさ、最近は美優のトイレに行く頻度がやたらと上がってるって言ってたけど、それはどうなんだ?」

 

 俺はもうつわりが来ているものだと思っていた。

 妊娠していないということならなおのこと心配だ。

 

「私の性欲がおかしくなったときにお兄ちゃんとエッチしすぎたせいで、まだ尾を引いてるものがありまして」

 

 正気に戻ってからは平然と性処理をしてくれているように見えていたが、まだ完全には復調していなかったらしい。

 学校に行くとクールな思考に切り替わるはずの美優も、ムラムラを抑えきれずにトイレに駆け込むことがあったのだとか。

 

「ってことは、学校でオナニーしてる……ってことじゃ……!」

「違います」

 

 美優は即答して、それから「ああいえ、もちろん、一番酷いときは、全くなかったわけではないですが」と付け加えてから続けた。

 

「できるだけ瞑想だけで鎮めてたの。最初はキツくて無理かなって思ってたけど、続けてたらちょっとずつコントロールできるようになってきて」

 

 俺とのエッチで性本能が暴走しがちな美優は、精液を飲んでも中出しにしても、その後に体が火照りが残ってしまう。

 俺を射精させることで美優がスッキリする部分もあるようだが、それでも体質というものは抗い難いのだ。

 それを、ついに美優は、自分の意思でオンオフする術を身につけつつあるらしい。

 

「だから今もそれだけ平静としていられるのか」

「うん。脳の一部の機能を止めておくと、侵食が止まるってイメージ。油断すると今からでもエッチな気分にはなる」

「中出しでもコントロールできそう?」

「それは……特訓中……」

 

 まだまだ上手くいかないことも多いようだ。

 でも、目覚ましい進歩だな。

 美優がその感覚を完全にものにしてくれれば、それこそ俺はなんの気兼ねもなく兄妹でセックスしまくりの生活を送れるようになる。

 そう考えるとものすごく楽しみになってきたぞ。

 

「そういや、寒くなる前の温泉旅行、そろそろいいんだよな?」

「会話の流れ的に不穏なものを感じますが、私もそろそろかなとは思っていました」

 

 個室露天風呂付きのお泊まり旅行。

 野外で美優とセックスする唯一の方法と言っていいそれが、現実に近づいている。

 

 もう今日から射精禁止にしとこう。

 太陽の下で溜めに溜めた精液をどっぷりと美優に中出ししたい。

 明るいベランダで美優にフェラチオもしてもらいたい。

 その後、しばらくお湯に浸かって休んだら、全身のあらゆる部位を使って射精させてもらいたい。

 

 妹の体を性処理のために都合よく使いたくて仕方なくなってきた。

 今日の話を聞いて、俺も昔のような純粋な性欲が戻ってきた気がする。

 

「い、一応、旅行なので、エッチ以外のとこも考えてくださいね」

「ああ、そうだったな。もちろん。一緒に決めよう」

 

 どちらかといえば、恋人が愛を深めるためのものではなく、夫婦としてのハネムーンみたいなものでもない。

 いつか大人になれば、今のような関係にならなくても、あり得たかもしれない。

 兄妹の仲良し旅行が計画されるのだった。

 

 

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