祭りというのは特別なものだ。
普段じゃ絶対に食べないものも食べれば美味しく感じ、たこ焼きなどの定番のものはいつもより3割増ぐらい美味しく感じる。
それに加えて、道行く男女は皆笑顔を咲かせながら歩いている。
野郎同士で来てても楽しいものだ。
『もう少しで着くから、もうちょっと待っててくれる?』
「了解、急がなくても平気だぞ」
現在、待ち合わせ時間より5分過ぎている。
まあ、浴衣の着付けに時間がかかったということだし、目を瞑ろう。
久しぶりに会えるんだ、そんなことで怒りたくない。
しかし、彼女の友達に呉服屋がいるのは驚いた。
昨日、彼女のチャットで、「明日の夏祭り、完璧に着付けするんで、マジで楽しみにしてて!」って言う文が送られてきた時は、さすがに頭でも打ったかと心配した。
その後、「友達が打ったやつだから」って言う訂正のチャットが来たので、安心した。
...ギャルなましろも、ちょっと興味ある。
という邪な思考を繰り広げつつ、時計を見る。
現在時刻は17:12。
まだまだ序盤だし、花火も結構先だ。
のんびり待つことにしようと考えた時、後ろから声が掛けられた。
「ごめんね、遅れちゃった」
浴衣を着た彼女は、なんというか、形容しがたい何かがあった。
可愛いとか美しいじゃない何か。
今の子だったら「エモい」って言うんだろうか。分からないが。
とにかく、それぐらいに心を奪われた。
「あの?なにか喋ってくれないかな...」
「あ、あぁ...ごめん。すごく似合ってて、見惚れてた」
そう言うと、彼女は顔を赤らめて、「そういうのは、いいのに...」と小声で言った。
嫌がっている訳では無いというのは、最近学んだ。
「透子ちゃんにやって貰ったから大丈夫だと思うけど...変なところない?」
「どこも平気じゃないか?」
「良かった。じゃあ行こっか?」
そう言って手を差し出す彼女。
その手を取って握り返す。
「エスコートはお任せを、お嬢様」
「あやくん、飲んだ?」
「いーや、素面だよ。というか、俺はまだ未成年だ」
一応まだ19なんでな。
ましろの手を取って、屋台のほうに進む。
地元の祭りではあるが、例年よりちょっとだけ盛り上がってる気がする。
と、ましろがふと足を止めた。
「っと...どうした?」
「ベビー...カステラ...」
「あれ、食べたことなかったっけ?」
「カステラと何か違うのかな?」
「じゃあ食べるか」
と言って、カステラ(12個入り、300円)を2セット買う。
少し離れたベンチに座り、1セット渡す。
「...多いね」
「6個入りのほうが良かったか?」
「ううん、大丈夫。小さいからベビーなんだね」
そう言って一個口に含む。
頬が膨らんだ横顔が最高にかわいい。
「ん~!おいひい...」
「食いながらしゃべんな...」
顔が蕩けて最高にかわいいです。
女神と言っても差し支えないほどに。
「あやくんはたべないの?」
「あ、忘れてた」
ましろの横顔に見とれていて食べるのを忘れてた。
二個ほど口に含む。うん、うまい。
「...これ、作れないかな...」
「まあ、作ろうと思えば作れるんじゃないか?」
「じゃあ、今度作ってあげるね」
「急にどうした?」
「...だって、食べてる時のあやくん、すごい笑顔なんだもん...」
ベビーカステラに妬く彼女。
可愛いが過ぎるな。
そう思い、膨らんでる彼女の頬をつつく。
「うにゅ...ど、どうして笑ってるの」
「俺の彼女は今日もかわいいなって思っただけだ。お菓子に妬くなよ」
「うう...だってぇ...」
「ましろは知ってるだろ、俺があんま笑わないの」
ましろと出会う前、俺は楽しいということを全く知らなかった。
というか、笑顔というものを知らなかった。
だから、こういうことになったのは、全部彼女のおかげだ。
「さ、まだまだ時間はあるし、もっと回ろうぜ」
「誤魔化された...」
「...ましろのカステラ、楽しみにしてるよ」
「...!!」
全く、わかりやすい子だ。
祭りの定番、たこ焼きや焼き鳥、チョコバナナやわたあめなんかを買って、さっきのベンチに戻る。
「さすがに買いすぎたか」
「どうやって食べよっか...」
とりあえず両手がふさがっているので、手に持っているチョコバナナから消化することにした。
「...美味いな」
「美味しいね...あ、あやくん、動かないでね」
ましろの指が俺の頬を擦る。
「チョコ、ついてたよ」
そう言って彼女は自分の指を舐める。
可愛らしいんだけど、同時に少しだけ色気を感じる。
「甘いののあとに焼き鳥って...」
「まあいいじゃねえの、それも祭りならではだろ。じゃあ口直しにこれ飲むか」
少しぬるくなったラムネ。
開け方にコツがいると、姉から教わったがパワーでどうにかなったのでコツなんてもんは知らない。
「...これ、どうやって開けるの?」
「それを...そうそう。そのまま押し込んで...」
「ん〜っ...あやくんやって〜...」
踏ん張る彼女も可愛かったし、なんなら泣きつく彼女も可愛かった。
まあ素直に助けてやりますかね。
「よっと...どーぞ」
「ありがとう...んぐ...ぷは...意外と炭酸強いんだね」
「慣れだよ、慣れ」
その後も色んな屋台を回って楽しんだ。
途中ではぐれた時はマジで焦ったけど。
「さて...そろそろかな。ましろ、移動しようぜ」
「え?どこ行くの?」
「花火がいちばん綺麗に見える特等席」
そう言って祭りの場所から離れ、向かう先は丘のてっぺんにある公園。
「公園だったら人いっぱい居そうだね?」
「そこがただの公園だったらな」
たどり着いた先は葉が生い茂る一見廃墟に見える公園。
「ここ、ほんとに公園?」
「あぁ、ここに看板もあるだろ?何とか公園って。...何公園かはわからんけど」
まあ、ぶっちゃけ公園自体に用はない。
用があるのは公園の向こう側にある、一面が開けた小さい広場だ。
「さて、ここだよ」
「うわぁ...!すごいね、ここ」
「ま、とりあえず座ろう」
ブルーシートを敷いて座る。
「...おっきくない?」
「サイズミスったんだよ。聞くな」
風で飛ばないよう石を置きつつ、さっき買ったわたあめをかじる。
「なんでこんなのをガキの頃は好きになるんだろうな」
「ガキって...あやくんも今すっごい子供っぽいよ?」
「いいんだよ。心はいつまでも幼稚園児だ」
そう言いつつ、時計を見る。
...7時だ。
「来るぞ」
ドーン!!
「わぁ...!」
ドーンドーンと、大きいのが3発打ち上がる。
続いて細々したのがいっぱいに広がり、それを塗りつぶすようにまた大きいのが上がる。
「すごい、すごいよ...!」
「あぁ、すげえな」
まさかこんなに綺麗に見えるとは思ってなかった。
ある程度開けた場所なら綺麗に見えるだろうと思っていたが、このロケーションも相まって、だいぶ綺麗に見えている。
何より、隣に彼女がいるってだけで、去年とは違う。
隣で花火のような笑顔を見せる彼女に、視線を奪われた。
「...?花火、見ないの?」
「あ、いや、その...隣の花火の方が、眩しくて...」
「隣...?...!///」
言葉の意味に気づいたましろは顔を赤くする。
「ど、どうしてそんなこと平然と言えるの...」
「嘘と隠し事は嫌いだからな。思ったことは正直に言うって知ってるだろうに」
「あう...それは、そうだけど...」
正直言って、花火よりましろのほうがきれいだ。
まあそれでも、こんな場所に連れてきたのには訳があって...
「ましろ、こっち向いてよ」
「え、な...んんっ...///」
これがしたかっただけだ。
花火が上がってる中、彼女を振り向かせてキスをする。
ましろに貸してもらった小説にこんな文面があったので、実行してみたら意外とうまくいった。
うん、満足。
「ぷはっ...びっくりした...」
「ごめんな、あの小説、結構面白かったよ」
「あ、読んだんだ...」
そう言って顔を伏せ、寂しそうに笑う彼女。
そんな顔をしてほしくなくて、彼女に膝の上にある手を取る。
「...?あや、くん?」
「笑っててくれ。少なくとも、俺が隣にいるときは」
「...」
「無理に笑えとは言わないから。理由を話してほしい。俺はそんな顔、見たくない」
そう言っても、彼女は強情だ。
首を振るだけで、答えてくれない。
まあ、そんなことはわかりきってるので。
と考えたタイミングで、花火の音が止んだ。
「ん、終わったみたいだな」
「...そう、だね」
なんとなく気まずい空気が流れる。
...うまくいくかは正直わからないが、この手に掛けるか。
「なぁ、もうちょっとだけ付き合ってくれない?」
「え?いいけど...どこ行くの?」
「俺の家。正直久々に会えたんだし、まだ話したりない。いいかな?」
「...うん、わかった」