「...今日、何日...?」
私は机の上にあるカレンダーを見た。
バツ印をつけながらカウントしているから何日かっていうのはすぐわかる。
「...あ」
バツ印が付いてない、しかし前日にはバツ印が付いている。
ということは、今日はこの日。
「綾乃くんの、誕生日だ」
現在の恋人、兼同居人である黒見綾乃の誕生日。
「...私のプレゼントなんて、きっと迷惑だ...」
だけど、こんな私に付き合ってくれて、しかも一緒の家に住んでいる以上、無視はできない。
「...頑張る」
「ましろ、おはよう」
「...おはよ」
おかしい。
今日のましろの様子がおかしい。
いつもより半分ほどのテンションな気がする。
こういう時いたずらをすると本気で切れられる。
というか、キレられたことがある。
こういう時は一人にするに限るか。
「なんかほしいもん、ある?」
「え?」
「散歩ついでに買ってこようかと思って。なんか今日のましろ、疲れてそうだし」
「え、えっと、そんなこと、ないけど...これ」
渡されたのはメモ用紙。
「これ買ってくればいい?」
「...うん」
「わかった。ゆっくり休んでていいからな」
さて、頑張るかね。
散歩だけど。
「うわぁぁぁ~!」
やった。やってしまった。
よりによって機嫌が悪いと勘違いされてしまった。
実際は日付を見てから何を用意しようか、そもそも用意しないか、またどんなものだったら喜んでくれるだろうか。
というのを永遠に考えた結果、同居を始めて、一番最初に作った料理がすごく喜んでくれた記憶があるのでそれを作ろうとし、冷蔵庫の中には何一つ材料がないことに気付いて絶望しているところを勘違いされてしまった。
「違うんだよ...違うのに...」
やっぱり私は釣り合ってない。
綾乃くんには、もっといい人がいる。
そう思いかけて、やめた。
せめて、お別れを言われるのはこれを贈ってからだ。
「...っと。これで頼まれたのは全部かな?」
ましろにもらったメモに書いてあった材料はすべて買い終えた。
「でも、何つくるんだろ」
料理ができないわけではないが、簡単にできるものを作りがちな俺には全く見当が付かない。
「まぁ、帰ればわかるかな」
「あれ?綾乃さん?」
誰かに呼ばれた。
この、高めの声は...
「桐ケ谷?」
「どーも綾乃さん!あれ、その荷物、何すか?」
桐ケ谷透子。
ましろと同じバンドのメンバーで、ギター担当。
「あぁ、ちょっとした頼まれ。疲れてそうだったから、俺が代わりに」
「相変わらず彼女思いなんすね~!いやぁ、妬けちゃうなぁ...」
「ははっ、妬くなよ。じゃ、俺はこれで」
「はーい!お気をつけて~!」
...ギャルみたいな見た目して、礼儀正しいのは本当に認識が違いすぎてバグる。
「ただいま」
「お、お帰り」
「...大丈夫か?」
「うん、平気。買い物、ありがとう」
そう言って、俺の手から買い物袋を持って行った。
「...手伝うよ」
「ううん。綾乃くんは座ってて?」
「...無理はするなよ」
「...うん、ありがとう」
袋から材料を出し終わり、一度深呼吸をするましろ。
...やっぱり、何かあったんじゃないだろうか。
それなら、聞いてあげなきゃいけない。
「...ましろ」
「なに?」
「悩み事でも、あるのか?」
「どうして?」
「ほら。ましろって嘘つくとき服をぎゅっとするんだよ」
でまかせでも、言ってみるものだ。
まあでも、本当は嘘をつくとき目を泳がせるというのはある。
「えっ...あっ...」
「...なんか、あったんだろ」
想定通り目を泳がせ、そのまま落ち込んだ様子で話し出す。
「...今日、綾乃くんの、誕生日、でしょ?」
「あ、そうだな。忘れてた」
そういえば今日は7/22だったか。
誕生日を祝ってもらうという風習が俺の中で完全に消えていた。
「だから、ね。プレゼント、どうしようかなって。ホントは、先週とかに買っておくべきだったんだけど、その、えっと...忘れてたわけじゃなくて。その、私からのプレゼント、迷惑じゃないかなって。考えてたら、今日で...」
「...そっか」
ぶっちゃけ誕生日を本人が忘れていた訳だし、それで迷惑も何もない。
恋人からもらえれば何でも嬉しいわけだし、何ならおれはましろといれるだけで幸せだ。
「だから、その。せめて、あの、最初に、私が作ったご飯、食べてほしくて」
「...だろうね。材料に見覚えあったから。で、そんなこと言ってどうしたの?」
会話しながら、最悪な結論を導き出す俺の頭は、本当に忌々しい。
ここまで来て別れ話は、本当に嫌だ。
「え、その...」
「別れたいとか言う気?せめて言うなら明日にしてよ」
誕生日ぐらいは幸せな気持ちでいたい、というのは正直なところ。
まぁ、忘れてた俺が言う義理は無いけども。
「あ、うん...ひゃっ」
「まぁ、言わせないけど」
ましろの手首をつかんで壁に抑えつける。
痕にならないように優しく抑える。
「俺、一回でもましろがいて迷惑とか、ましろのくれるものいらないって、って言ったことあったっけ?
」
「な、ない」
「でしょ?ましろはもっと自信もって。ましろがくれるなら何でもうれしいよ」
「あ、ありがと......」
とまぁ、どうにかしてましろのテンションの回復、及び別れ話の棄却はできたわけだ。
ほんとに精神にくるから、どっか行きそうな顔はしないでくれ。