「続いてはこちらの人間です!白い髪に緑の眼!身長はやや小さいですがそれをリカバーできるほどの胸の大きさ!同年代のモノよりは確実にあるでしょう!!さあさあ、オークションスタートです!!」
妙に甲高い声の男の主催で、人間オークションが始まった。
彼女は奴隷に分類される人間であり、彼女を狙うのはこの会場に集まった貴族20人ほど。
もっとも、このオークションも秘密裏に行われ、表面上「養子引き取り」というふうになっている。
これに参加をするにも、招待券が必要なため、そう簡単には入れない。
「10マン!」
「さぁ!10が出た!いないのか!?」
「20!!」
「30!!」
「47!!」
「60!」
どんどん金額が膨れ上がり、気づけば500を超えていた。
奴隷を500で買い取るというのはどうなんだというのはあるが、正直身の回りのことを任せ、イラついたらサンドバッグ、ついでに性欲の赴くままに貪り尽くせ、それに代金がかからないと考えれば、少しは価値が上がるだろう。
だとしても、流石に500は釣り上げすぎた。
「500!!500で落ちるゾォ!!500で、おち…」
「650」
「...え?」
「来たぁ!!650!それより上は!?ないのかっ!?」
そんな背景を知る由もない司会は、650を高らかに実況する。
「ぐぅ...6、680!!」
「690」
「7、710!!」
「725」
「740!!!」
「745」
「これで...!850だぁーっ!!!」
「キターーー!!850!!これはどうだぁっ!?」
最後まで食らいつく貴族が、850を出した。
言い方的に、有り金全てだろう。
その場が全て凍りついた瞬間に、彼は言った。
「はぁ...860」
まだ上が出せると。
「860!!さあ!さあ!」
「そんな...こ、降参だ...」
最後まで競り合っていた貴族は降参を宣言し、彼の元に彼女が渡った。
陽が上がってすぐの頃、インターホンが鳴る。
家の中まで運ばれてきた檻。
中には昨日の彼女。
配送業者に礼を言い、檻の鍵を開けてやる。
鍵を開けた音に反応し、彼女が目を覚ます。
「あ...あれ...?」
「おはよう、起きた?」
優しく声をかけてあげる。
この手の子はおいとか言うと絶対にビビるから。
「あ...あっ...!」
「どうかした?」
俺を見るなり涙目になる彼女。
...俺そんなに怖い顔してるかな。
「え、えっと...その...」
「焦らないでいいから、ね?」
彼女の背中に軽く手を添えて、優しくなでる。
この手の子は背中に傷があるかも知れないから強くやるのもよくない。
「えっと...コホン、『お買い上げ頂きありがとうございます。』」
ダメだ、毎度わかっているのに。
「『中古品の我が身ではありますが、精いっぱい尽くさせていただきます、ご主人様。』」
「...うん、ありがとう」
彼女の定型句は本当に心が痛い。
中古品ってなんだよ。
ダメだろ、そんなこと言っちゃ...
ーー貴族の世界はこうだってわかってたのに...まだガキだな。
そんなことを考えながら、お辞儀をしたままの彼女を起こす。
「とりあえず、よろしくね?」
「は、はい。精一杯務めさせていただきます」
「じゃあ、名前。教えてくれるかな」
「な、まえ...?」
彼女は固まってしまった。
名前がない事例は今までなかった。
番号にしろ、侮辱的な呼び方にしろ、絶対に名前があった。
「ごめんなさい、ご主人様。私、名前、無くて...」
「...そっか」
名前がない、呼ばれ方はたぶんお前だとかそこの奴隷、とかだろうか。
ダメだ、心が痛い。
ーーこの子は、絶対に俺が元通りの生活に戻す。
「名前、俺がつけてもいいか?」
「そんな...恐れ多いです...!」
「遠慮しないで」
「そ、それじゃあ...お願いします...」
つけてもいいかと言ったところで、浮かんでいるわけではないのだが。
髪は白く、眼は緑。
「...ましろ」
「え?」
「名前、ましろにしよう」
「私の、名前?」
「うん。...気に入らなかったら、別の考えるけど...」
「いえ...初めてつけてもらった名前、大事にします...!」
そう言って笑顔を見せる彼女。
それだ、やっぱり女の子は笑っているのが一番似合う。
「それじゃあ、そんな恰好なのもなんだし、お風呂いこっか」
「おふろ...!」
そう言って彼女は目を輝かせる。
彼女の着替えは今は亡き姉から拝借するとして、まあどうにかなるだろう。
***
彼女を先に風呂は入らせ、俺はあくまで体を洗う役だと自身を洗脳し、彼女の後に風呂に入る。
しかし、こうしてみるとなかなかに異様だ。
漫画などで見る豊満な体のほうが現実味があるのではないかというほどに、彼女の体は痩せ細っている。
それなのに、胸と尻の形だけは維持しているのだから、興奮というより不気味に感じる。
いくら細い方がいいと考える人間でも、こんな人間を抱きたくはないだろうと思えるほどには、痩せている。
すごく痛々しい姿だ。
よく見ると、いくつも傷がついている。
それも見ていられない。
それでも、彼女を普通の生活に戻すと約束したのだ。
ここで見て見ぬふりはできない。
「お湯かけるけど、しみるとか、無い?」
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます、ご主人様」
彼女はご主人呼びがデフォルトなのだろうか。
ふと気になって、聞いてみた。
「なあ、ましろ?」
「はい、なんでしょう?」
「ご主人様呼びやめてって、もし言われたらどうするの?」
「その時は...旦那様、とか...」
名前で呼ぶっていう考えを教えられてないんだ。
「じゃあさ、俺のこと、名前で呼んでよ」
「え?でも、それは...」
「俺、ご主人って呼ばれるほどの立場の人間じゃないし、名前で呼んでくれた方が、気楽だよ」
「そ、そうなのですか...?じゃ、じゃあ...綾乃さん」
「ありがとう、よくできたね」
そう言って頭をなでる。
「あ...あん...」
「ん、どうした?」
「ご、ごめんなさい、くすぐったくて...」
良かった、痛いとかじゃなくて。
それにしても、ひどい傷だ。
拭きながらパッと見た感じでも、結構ある。
擦り傷や切り傷だけじゃない、刺し傷や痣まである。
「なあ、この傷...」
「あ、はい...もう、慣れちゃいました」
こっちを振り返ってにこっと笑う彼女。
慣れたってことは、これくらいの傷じゃ動じないってことなんだろうな。
「ごめんなさいご主人様。醜い、ですよね」
申し訳なさそうに頭を下げるましろ。
なんで彼女が謝っているんだろう。
「いや、そんなことない。頭を上げてよ」
「...私、ご主人様で6人目なんです」
俺に引き取るまでに5人、彼女を扱った貴族がいた。
しかも、こんな手荒に。
「今回も、きっと同じような扱いなんだって思ってました。今回に関しては、ご主人様に起こされてしまったので」
「起こされるの、マズいの?」
「仕える側なんだから自力で起きろって、いつも言われていました」
ひどい話だ。
「でも、ご主人様は第一声に、「おはよう」と言ってくださいました。それが、嬉しくて...」
ろくに挨拶もできないような、そんな連中の中にいたことが、すごく悔しい。
それを救えなかったことが、とても。
「だから、ご主人様は私にとって...きゃっ!?」
思わず彼女を抱きしめていた。
「おはようとかお休みとか、そんなの全部当たり前に言うことだ...!」
「あ、たりまえ...?」
「これから腐るぐらい言い続けてやるから...!」
「...!ありがとうございます...ご主人様!」