※この作品はR-18です。

【血】東方短編集   作:slnchyt

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#殺人 #自殺


二つのリング

―二つのリング―

 

あなたを殺す。

 

私が、殺す。理由は明確だった。あなたは私を裏切ったのだ。あれほど私に甘い言葉を吐いておきながら、それは心無い嘲笑に過ぎなかったのか。あの女と以前から長話しているのを、私は知っていた。単なる友人同士の会話だと思っていた。私はそれに僅かばかり嫉妬していた。僅かだ。

 

しかしそれは、僅かで済む問題ではなかったのだ。夕方頃、私が洗濯物を取りに出た時、あなたは――あの女を抱き寄せながらが、顔に、顔に、顔と顔とを! 近付けていた!! あり得ない。私は洗濯物を取り落とした。洗濯物は汚れてしまった。私は呆然として、それを見ていた。

 

そうだ。私の心が、私の心こそが、汚れてしまったのだ。私はその場で関係を質す事が出来なかった。この期に及んで、それが夢幻だと信じたかったのだ。家に飛び込んだ。頭を抱え、我が目を疑い、我が正気を疑った。それらは冷静に答えを返した。疑うべくもない。それは事実だ、と!

 

私は嫉妬に狂った。狂ってしまった。あの女、そしてあなたの手によって! 私は、平然とした顔で家に入ってきたあなたを見た。あの女は既にいなかった。あなたは私を抱き寄せると、耳元で愛を囁いた。私はこの場で舌を噛み切ってやろうと思った。……いや、違う。それは違う!!

 

私は、あなたの罪を清算させねばならない。甘い言葉を振り払うと、私は食事の準備に戻った。不思議そうに覗き込む、あなたの顔が憎い。料理を平らげるあなたが憎い。皿を洗い始めたあなたが、憎い。激情はやがて、静かな怒りに変わった。治まったのではない。静かに燃え立つのだ。

 

私は部屋から抜け出し、倉庫の扉を開けた。雑多な道具の中に、ライフルがあった。置いていかれた時に回収したものだ。私はそれを掴み、状態を確認した。弾は十分にある。……いや、二発で十分だ。一発を装填し、内部へと押し込んだ。これが吐き出された瞬間こそが、あなたの最期だ。

 

戻り掛けに、お手洗いに入った。用を済ませて出てきた私の前に、鏡があった。その瞳は――そうだ。緑色に輝いてはいなかったか。私はそれに殴りかかった。鏡は砕け、私の手を切り裂いた。あなたが走り寄るのが、憎らしかった。手当する仕草も、愚かな私を嗤っているように見えた。

 

―――

 

  ―――

 

それからも、あの女は家を訪ねてきた。包丁で突き刺してやろうかと思ったが、理性がそれを制した。確実に、最も後悔するような殺し方を私は考えていた。そしてそれは、一つの結論を得た。あの女の前で、あなたを殺す。その驚愕と悲哀の顔を見れば、さぞ、さぞ、心がすくだろう。

 

私の憎悪などまるで知らぬとばかりに、あの女は私に声をかけた。私は表面上、平静を装った。話など聞いてはいなかった。今この場であなたを殺すには、私の力は弱い。それを埋めるだけの力が必要だ。私は倉庫のそれを思い浮かべた。それはあなたとあの女に捧ぐ、憎悪の証。

 

―――

 

  ―――

 

粉雪が降っていた。それは既にいくらか積もり、これからも積もらんとしている。あなたは行き先を告げずに出かけた。私は知っている。あの女と会うのだ。私はしめやかに倉庫からライフルを取り出すと、サイドポーチに弾丸を流し込んだ。これが必要になる事はないだろう。いや、ない。

 

白いコートを羽織り、私はゆっくりとあなたの姿を追った。転々と足跡がついている。追跡は容易だった。コートが私の姿を隠している。見つかる心配は、していなかった。あなたはやがて、竹藪の近くに着いた。あの女がいる。何やら話し込んでいる。どうでもいい。……死ね。死ね!!

 

あなたの頭が、弾け飛んだ。血と肉が白い雪を染めた。私の中で歓喜とも、悲哀ともつかない感情が沸き立った。あの女は激しく動揺している。私は薬莢を弾き、次弾を装填した。これですべてが終わる。終わって――終わって、どうなる? あなたはいない。私はどうすればいい――?

 

雑念が、私の行動を遅らせた。次弾はあの女の身体から大きく逸れた。あの女は銃を取り出し、何処へともなく向けた。無駄だ。雪の中、私の姿は見えない。薬莢を弾き、次弾を装填した。次は外さない。私はあの女を凝視した。狙撃に集中する。下らない事は、お前を殺してから考える!!

 

女の頭が――しかし、弾け飛びはしなかった。女は姿をくらましていた。……いや、いる。何処かにいる。薬莢を弾き、次弾を装填した。雪を掻き分け、じりじりと位置を変える。足音がする。あの女の足音だ。私は――必殺の思いで、『新たについていく足跡』に向け、弾丸を放った。

 

それは当たりだった。雪に血飛沫が飛び、女の姿が露わになった。腹部が半分ほど吹き飛んでいる。致命傷だ。だがしかし、それでは足りないのだ。私の手で、確実に、殺す。薬莢を弾き、次弾を装填した。膝立ちになった女の頭部に向け、弾丸を放つ。これで――お前は死んだ。

 

――しかし、女はただでは死ななかった。私の方に向けて、幾発もの銃弾を撃ち返した。数発が私の頭をかすめた。庇った左手の薬指が刎ね跳んだ。一発が私の頬を穿ち、左目を潰した。女は頭を吹き飛ばされ、絶命していた。私は、笑った。心の底から湧き出る歓喜と悲哀を吐き出した。

 

私は銃を杖にして、変わり果てたあなたに近付いた。もう、あなたは私の元から離れる事はない。それがとても――嬉しかった。嬉しいはずだった。しかしそれなら、私の心を引きずり込むようなこれは、何だ。空しさ。違う。後悔。違う。燃え尽きた心。……違う違う違う!!!

 

頭を抱え、地団駄を踏む。足元で雪が爆ぜる。突き立てていたライフルが倒れた。……足が、何かに引っかかった。足元に二つ、何かがあった。あなたと、あの女の持っていたもの。赤と緑がペイントされた袋が、雪の中に転がっていた。これは何だ。私はそれに、手を伸ばした。

 

あなたの荷をほどいた。そこにはリボンが巻かれた小さな箱が入っている。それを踏み潰そうして――止めた。私の中に何ともつかない感情が沸き起こっていた。それを解き、中を覗き込んだ。中からは、更に箱。可愛らしい小さな箱が出てきた。私はそれを手に取り、指をかけ、開けた。

 

あの女の荷をほどいた。そこにはリボンが巻かれた大きな箱が入っている。それを踏み潰す事は、もはや出来なかった。感情は吹き荒れるように私を苛んだ。それを解き、中を覗き込んだ。中には、更に箱。可愛らしい大きな箱が出てきた。私はそれを手に取り、指をかけ、開けた。

 

小さい箱からは二つのリング。大きい箱には暖かそうな赤いマフラー。挟まれたカードには『清蘭、結婚しよう 鈴瑚』『メリークリスマス! 鈴仙』と書かれていた。血が、肉が、雪を真っ赤に染める。ゆっくりと雪が融けていく。私は己が手を見た。血に塗れた手には、薬指がなかった。

 

 

 

私は銃口を咥え、引き金を、引いた。

 

 

 

――悪かったよ、告白の練習までさせちゃってさ「いいのよ。それに、随分上手くなったと思うわよ?」そうかな?「そうよ。自信持ちなさい」いやぁ、どうだろうな「普段はのらりくらりしてるのに、そっちは駄目なのね」まあ、ね。それじゃ、今日は思い切り驚かせて――

 

 

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