※この作品はR-18です。

紐パンきつねの海色バカンス   作:ナルキケーネ(ハーメルン支店)

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その憂鬱は空華に似て

「んで? そろそろ話す気になったか~?」

 

 ミオは膝枕をしながら頭を撫でていた相手に、そんなことを尋ねた。

 

 まつりとフブキがちょっとだけすれ違ってしまった日。あやめの看病を終えて帰宅しようとした、ちょうどそのときに突然着信があった。内容を聞いて、ミオは通話相手の下に駆け付けたのだった。

 

 ミオを呼び出した相手はうんうんとテキトウに唸って、目の前にあったそこそこデカめのおっぱいを揉んではぐらかす。

 

「……そんなイタズラするなら、今すぐにでもフブキの前に連れて行くぞ?」

 

「待った! ごめんて、それは本気で勘弁して!? 今はまだ、ちょっと……その時じゃないし……!」

 

 乳房を揉みながらまごついたまつりが、ミオのお腹に顔を埋めた。

 

 後輩たちとの遅めのランチ会を終えてからもずっとモヤモヤとしていた心に、母性たっぷりの温もりが沁みていく。

 

「まったく……受け身になった瞬間に照れ隠しするのは、まつりの悪いところだよ?」

 

 くすくすと笑ったミオがかけた言葉とは裏腹に、まつりの頭をギュっと抱き締める。

 

 まつりは突然の息苦しさに身体をビクリとさせたが、すぐに脱力して身体を委ねた。

 

「……うち、ホントはさぁ……まつりのことをお説教しようと思って、ここに来たんだよ」

 

『……ん……まつりも、そのつもりだったし……ミオにバカ女のお尻を叩いてもらおうと思って……』

 

 ミオのお腹に向かって、もごもごと本音を口にするまつり。

 

 その乙女全開な態度に、ミオは笑うことしかできなかった。

 

「ってことは、反省はしてたんだね? さっき、まつりが自分で言ってたこと……ルーナちゃんたちにセクハラして、フブキに当て擦ったことにさ」

 

『それは……ちゃんと、後で説明するつもりだったんだよ……! でも、そしたら……フブキが仕返しにミオとイチャイチャし始めて……それで、頭の中が真っ赤になって……』

 

「うち!? フブキとイチャイチャなんてしてねぇよぉ!?」

 

『してたじゃんか! みんなの目があるのに……フブキの手でもみもみされて、あんなにドスケベな声出しておいてさぁ……!』

 

「フブキの手……あー、あの肩揉みかぁ! まつり、アレと乳揉みを同列に扱ったのか!?」

 

『だって、女の子のカラダを揉むって意味では同じやん……? 純愛モノならもう浮気じゃん……』

 

「おっぱいの敷居が低すぎるだろ!? それならおめーも浮気してんじゃねえか!!」

 

『…………しょうがないじゃん、純愛じゃないんだから……。所詮、愛情なんてないカラダだけの関係だし……フブキ、まつりの気持ちなんてどうでもいいみたいだしさぁ……』

 

 まつりがうりうりと首を動かして、ようやく悩みを吐露し始めた。息を切らせたミオを、しょぼくれた顔で迎えてから……早くも一時間近くが経とうとしていた。

 

 ミオは愛おしげに目を細めて、小さなため息をつく。

 

「まったく……『フブキとエッチして遊んでたら取り返しがつかなくなった』とか言ってたわりに、意外とちゃんと恋愛してんだもんなぁ……」

 

『……事実だし……。まつりはそんなに本気じゃなかったから……ただ、スキンシップの一環みたいな感じでさ……』

 

「ふーん? それじゃ、なんでフブキとえっちすることになったのよ? フブキはまつりの中でも特別な子だったんでしょ?」

 

『……そんなんじゃなくて……フブキが強く断らなかっただけやし……。まつりも、こんなことになるなんて……思わんかったしさぁ……』

 

「それじゃあ、ルーナちゃんやラミィちゃん……他の推しの子にも『えっちしよ?』って言ってんのかー?」

 

『っ…………それは……してないけど……』

 

「ほら、みてみぃよ。まつりはフブキにだけ……そういうことをしたいと思ってるんだ。それが特別じゃなかったら、いったいなんなのさ?」

 

『…………意地悪だよ、そんな質問の仕方……』

 

 まつりはミオの腰を抱くようにして、お腹への密着度合を強めて顔を完全に隠した。

 

「……素直になりなよ。まつりはエッチする前からフブキを特別視してたんだ。それを、まつり自身が認めたくないだけだよ」

 

『……どうして、ミオにそんなことがわかるの……? まつりにもわからないのにさ……』

 

「まつりは脇が甘いし、繊細だし、臆病だけど……悪い子じゃないから。ハッキリと見えちゃった答えから、ただ目を背けてるだけだと思うけどな」

 

 まつり自身は永久に解けないだろう難問に、ミオは即答して微笑んだ。

 

「最初は、ホントに恋愛って感じではなかったのは……確かだと思うよ。でも……フブキと触れ合ってるうちに、まつりの気持ちが変わったんだろうねぇ」

 

『……そんなの、恋愛って言えるのかなぁ……? めっちゃ軽いし……不誠実っぽくない……?』

 

「さ、さあ……? うちもベテランじゃないし、わからないけど……大切なのは、今のまつりの気持ちと……フブキの気持ち、じゃないかなぁ……?」

 

『………………きっと、恥ずかしがって、答えてくれないよ……。フブキ……告られそうになったら、怖くなって距離取るタイプじゃん……』

 

 まつりは抱き着いていた腕の力を抜いて、大きなため息をついた。

 

 フブキのことをよく理解しているからこそ、まつりもその想いをぶつけることが怖かったのだ。

 

「『まつりがそれを言うのか~』って一瞬だけ思ったけど……フブキなら、まぁ、そうだねぇ……。普通に、逃げるだろうなぁ……たはは……」

 

 臆病というか、まっすぐじゃないというべきか。『どうせうまくいかない』とマイナス方向に考えてしまって、決断を躊躇ってしまうのだろう……きっと、どちらも。

 

 素直になれなさでいえば、まつりとフブキはどっこいどっこいなのだ。ミオもそのことがわかっており、こうしてまつりのグダグダな恋愛相談にも、長丁場でゆっくりと臨んでいた。

 

「……今日、さ。まつりはあんなことして、フブキにどうしてほしかったの?」

 

『…………フブキ……やきもち、焼いてくれるかなって……思ったんよ……』

 

「やきもちを焼かれたかったのかー。まつりは寂しがり屋だねぇ」

 

『違うよ……そうじゃない……! まつりは……フブキの気持ちを確かめたかっただけなのに……!』

 

 まつりは突然身体を起こして、迷いに曇った目をミオと合わせた。

 

「……フブキ、まつりに何をしたの?」

 

 優しく光るシトリンの色合いが、まつりの下唇を切なく震わせる。

 

 その輝きに吸い込まれるように……誰にも言えないと思っていた素直な気持ちが、するりと抜け落ちた。

 

「……エッチのとき……フブキ、何もしてくれないんだ……。だから、まつりのこと、好きじゃないのかもって……不安になってさ……」

 

「何もしてくれないって……いわゆる、マグロさんってこと……?」

 

「ん……ホテル取るのも、準備するのも、全部まつりがやってて……いや、べつにそれが不満ってワケじゃなくて……むしろ、喜んでやってたぐらいなんだけどさぁ……なんていうかなぁ……?」

 

 適切な言葉を探しているまつり。その様子を見ながら、話の流れを察したミオが代弁する。

 

「……ああ。まつりは、エッチ自体に満足できないことが多かったのか~……」

 

「ち、ちがっ…………いや、それも……なくはないけど……!」

 

 逃げ場のない戦場で、まつりは必死に清廉な弁明をしようとしたが……胸の中でモヤモヤとしていた不満が体外に溢れてしまう。

 

「……乱れてるフブキを見るだけで、心はいっぱいになるんだけど……身体の疼きは、どうしようもなくない……? フブキの前でオナるワケにもいかんし……いっつも、トイレと自分の家で……ひとりで、続きをしてさ……あれ、めっちゃ虚無いんよ……」

 

「そ、そっか、そっか……。絵に描いた餅じゃ、きっとお腹は膨れないもんねぇ……」

 

 ミオはなかなかデリケートな問題を聞かされて、恥ずかしそうにケモ耳をさりさりと掻いていた。

 

「でも、フブキは基本受けに回っちゃうし……特に、イく寸前とかはマグロから鯨に進化するし……」

 

「くじら!? フブキはどういう進化経路してんだよ!?」

 

「ふっふふ……♪ いやね、フブキさぁ、めっちゃ派手に潮噴くんよ。見ててたのしいぐらいに、ぶしゅぶしゅー♡って」

 

「しお……くじら………………あっ……!? あ、あ~……!」

 

 友人の派手な痴態を聞いてしまい、ミオは複雑な表情のまま、熱くなった両頬を手で覆った。

 

「ごめん、フブキぃ……! うち、知っちゃいけないこと聞いちゃったかもぉ……!!」

 

 男性向けの同人誌で見かける、秘部からエッチな液体を漏らす美少女と友人の姿が重なってしまって、とても申し訳ない気持ちになっていた。

 

「ミオも知ってるクチなんだ……。マジでエロ漫画とかAVみたいに潮を飛ばすから、この前なんかまつりのバッグにさぁ……」

 

「いやーっ、そんな話は聞きたくないー!! あ~も~っ、これからどんな顔してフブキと会えばいいんだよぉ……! この子、こんなカワイイ顔して潮噴くんだぁ……とか絶対思っちまうよぉ!!」

 

「あっはっはははっ! それはそれでおもろいやろ」

 

「面白くねえよ!? っていうか、フブキの……え、えっちなトコロなんて、そんなホイホイ聞かせんなよぉ!?」

 

「いや、猥談なんて誰でもするやん? ミオが相手ならフブキも許すと思うけど……そうじゃなきゃ、まつりもここまで話さんし」

 

「許す・許さないの問題じゃねえだろっ!? あの恥ずかしがり屋のフブキの話なのに……こんなことがバレたら、お布団かぶって出てこなくなっちゃうよ!!」

 

「…………恥ずかしがり屋……か……」

 

「そうだよ……まつりもよく知ってるよね……? フブキ、水着姿とかだけでも死ぬほど恥ずかしいのを我慢してるんだから……エッチの最中なんて、なおさらでしょ……?」

 

「…………そう、だね……それも、そっか……」

 

 まつりは、フブキの裸体が縮こまる様子を、まるで先ほどの出来事のように鮮明に思い返せた。

 

 恥ずかしいトコロを見られている緊張感の中で、身体が強張ってしまう。それを、まつりが毎回ほぐすように絶頂させていた。

 

 あんな様子では、セクハラで場慣れしたまつりの官能を満たすことなど無理に等しいだろう。

 

 最初はそのことがわかっていたというのに……いつの間にか、フブキを求める心が強くなって、すっかり失念してしまっていた。

 

「まつりの性格もわかってるし……その……フブキにも、悪いところがあったんだと思う。でも、フブキの気持ちも理解してあげなよ」

 

「……わかってる……わかってるけどさぁ……。それじゃ、まつり……一生、禁欲生活になるくない……?」

 

「一生じゃないよ。まつりがちゃんと、その気持ちを伝えれば……フブキなら、必ず改善しようと頑張ってくれるよ」

 

「…………わかんないじゃん、そんなの……。フブキ、まつりのことなんかどうでもいいみたいだしさ……」

 

「さっきもそれ言ってたけど……フブキがまつりを軽視するなんてあり得ないと思うよ? どれだけすれ違っても、どれだけわかり合えなくても……きっと、心のどこかで大切に想ってるハズだよ」

 

「じゃあなんで、フブキはまつりのされるがままなの……!? まつりのこと、どうして愛そうとしてくれなかったんだよ……!?」

 

「……ねえ……ホントに、何もしてくれなかったの……? まつりのために、フブキがしてくれたこと……恥ずかしいのを我慢して、頑張ってくれたこと……一個もなかったのか!?」

 

「…………!!」

 

「さっきの肩揉みの件もそうだし、猥談のレベルもそうだけどさ……まつりとフブキの価値観、たぶん全然違うと思うよ……? うちは……まつりが、とても小さい何かを……見落としてると思うんだ……」

 

 まつりは自分が目を背けていたという、フブキへの特別視と恋心について考えた。

 

(……まあ、恥ずかしながら……フブキは、たぶん……以前から、まつりの特別な人だった……とは思う……。可愛いし……アイドルって感じだし……なんか……自分の手で、汚したくなるキレイさがあって……)

 

 しかし、その想いの始まりを鮮明に遡るには、少しだけ時間が経ちすぎていた。

 

 きっと思い出せるのは……考えるべきは、それよりも最近のことだという確信もあった。

 

 まつり自身も把握していなかった、フブキへの想いが恋に変わり始めた瞬間……そのきっかけのことは、自分でも知っておきたかったのだ。

 

(フブキがしてくれたこと……我慢して、頑張ってくれたこと……そんなの、ほとんどなかったと思うけど……)

 

 ミオの助言を真ん中に据えて、真剣に想起する。思い返しても、たくさんのプレイをしてきたというのに……まつりが攻めて、フブキが受けるという本質には変化がないように思えた。

 

 それでも、情事にちょっとずつ変化が起こっていたのは確かだった。直近では、まつりはベッドで見下ろすフブキのことが、可愛く見えて仕方がなくなっていたし……フブキも、まつりとのセックスにすっかり慣れて、快感を楽しむようになっていた。

 

 フブキは基本的にマグロ気質で、快感に没頭してしまう耽溺タイプではあったが……ごくまれに、まつりと求め合う場面もあった。

 

 覆い被さるお尻に手を添えて、唇を寄せてくれたことも――。 

 

「………………あっ……」

 

 ――その瞬間に感じたときめきは、大量の快感の記憶にまみれた今でも色鮮やかに思い出せた。

 

 まつりは、フブキがキスをしてくれた秘部に指を這わせた。一度だけ駄目元で試した、シックスナインの体位のときに味わった微量の快感が蘇る。

 

 最初はお互いの秘部を食み合っていた――フブキはやり方がよくわからなかったのか、唇と花びらを吸い合わせる程度だった――のだが、すぐにフブキがトロトロに乱れてしまい、まつりは快感を諦めてフブキを絶頂させたのだった。

 

『……い、痛くなかった……? ヘンじゃ、なかったかな……?』

 

 ガチガチの受け身だったフブキが、恐るおそる捧げてくれた、衝撃的で極甘だった刺激。どんなに激しい自慰をしても、決して満たせなかった渇きの源。

 

 その熱がまつりの心に小さな愛を灯し、情事を重ねるたびに、じわじわと恋を育てるようになっていたのだ。

 

「そうだ……! そうだっ……フブキは、まつりに……」

 

「なー? やっぱり何かしらがあっただろ? そりゃそうだよ、フブキだってまつりに……」

 

「うん……! あのね、ミオ……!! フブキさぁ、まつりのおま×こにね……!」

 

「おまっ……きゃーっ!? あ、あんまり詳しく言わないでいいよぉー!? 聞くだけで赤ちゃんできちゃうー!!」

 

 ミオはふたりだけの百合世界の濃厚な気配を察し、カァっと赤面してしまった。

 

「いや、できんやろ……ミオ、ピュアすぎん……? めっちゃ可愛いんだけど……ってか、今夜空いてる?」

 

「おめーマジでぶん殴るぞ!? フブキに『まつりにレイプされる!』って電話するぞ!?」

 

「うわあああああああああああッ!! このタイミングでそれはマジであかんヤツだから! 待った、思い留まって……ホントに、ごめんてー!!」

 

 まつりの悲鳴に似た謝罪は、晴れた夜空に透き通るように響いていた。

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