紐パンきつねの海色バカンス 作:ナルキケーネ(ハーメルン支店)
それから、後日のこと。都内のスタジオで、夏色吹雪での収録を終えたフブキは、空いていた控え室にまつりを呼び出した。
あのすれ違いから、どうしても気まずさを覚えていたふたりはプライベートな時間を作ってこなかった。お互いに、心やその他諸々の準備をする時間が必要だった。
寂しくて、もどかしさばかりが募る夜をいくつも越えて。これまでで一番大きな勇気が必要だったフブキは、とうとう意を決した。
「……あの……まつりちゃん……!」
「……どしたん? まつりに、何か用?」
ずっともじもじし続けて、言葉を詰まらせていたフブキが……ようやく口を開く。
まつりはそのじれったい空気の中で何も言わず、その頑張りを待ち続けていた。
「あの……ですね……! その……し、白上のっ……す、スカートの中を……見て、もらいたいんですが……!」
「……へ……? スカート……?」
「……まつりちゃんだけにしか……見せたくないものがあって…………と、とにかく……ど、どうぞ……!」
フブキは膝丈のシックなスカートをつまんで、少しだけ持ち上げる。
その突然すぎる誘いに戸惑いながらも、まつりはフブキのプライベートな空間に進入した。
スカートの中はやや暗く、スマホをライト代わりにして乙女の秘境を探索するまつり。そして、そこにあるキワドイVラインを目の当たりにした。
『………………あ……れ……!? フブキ……このエグい角度のパンツどうしたの……!? お肉が溢れてて……超エロくてかわいいんだけど!!』
「あぅー……! ま、まつりちゃん……それを見たなら、もう出てもろて……きゃっ!?」
『あ、リボン握ったらほどけちゃった……これガチの紐パンじゃん!?』
「い、言わなくていいよぉ……! 恥ずかしいからぁ……!!」
フブキは股座を押さえてまつりを放出し、慌ててパンツの紐を結んだ。
その様子を見てぽかんとしていたまつりだったが、顔を真っ赤にしていたフブキの意図と……そこに込められた精一杯の愛情表現を察したように、呼吸を整えようと大きく揺れていた肩を抱く。
「……フブキ……ホテルとレストラン、どっち先にする? このスタジオの近くにさ、予約なしでも入れる美味しいお店があるんだけど……」
「……ホテルがいい……。こんなパンツじゃ……ドキドキして、ご飯なんて入らないよ……!」
「そっか。それじゃ、先にここで渡しておくね」
「えっ……?」
まつりはちょいちょいと手を招いてフブキを屈ませ、自分より少し高い位置にある頭を下げさせる。
ケモ耳に付いていた銀のピアスを外し、ゴールデンイエローのフープピアスを穴に通した。
スマホのインカメラを起動し、「ほら、見て?」と画面を示す。モノクロームな体毛によく映える、オレンジ色にも見える輪っかの輝きを披露した。
「まつりちゃん……これは……?」
「……フブキに似合うかな、と思って……。べつに、深い意味はないんだけどさ……」
まつりは多くを語らず、カメラで捉えたフブキの耳を弄って、画面をズームする。
普段はふさふさの毛で隠れて見えないところに、まつりとフブキの名前が小さく刻印されていた。
「…………ま、まつりちゃん……!? これって……もしかして……?」
「……まつりは、言葉にする必要ないと思ってるけど……フブキにも、これで伝わるかな……?」
なぜかやたらと協力的だったマリンから、的確な助言を得ていたまつり。自分が起こしてしまった行動の、全ての責任を取るつもりで……世界で一つしかない贈り物を用意していた。
もたもたしていると、痺れを切らせたマリンに海賊らしく頂かれる可能性があった。それを阻止するためにも、自分のあかしをフブキに刻んでおきたかった意図もある。
唐突な、実体がある贈り物。心のどこかに残っていた、形に残らない関係性への不安が……喜びで埋め尽くされていく。
フブキはじわりと溢れ出た感涙を目に溜めながら、スマホを握っているまつりの手に、自分の手を重ねた。
「ふ、フブキ……?」
「……まつりちゃん……大好きっ……! んーっ……♪」
『大好き』なら、友達にも、それ以上の人にも、等しく伝えられるから。
それから、抑えきれない感謝と伝えるべきではない愛情を込めて、まつりの唇にキスをする。
ぱしゃり、と。シャッターを切る音が、夏色吹雪の鮮やかな思い出を永遠に記憶した。
――――――
空き部屋の外では、心配そうにしていた狼と海賊がふたりの絶対的な幸せを見届けていた。
「……あ……アレでいいのかなぁ……? 結局、曖昧なまま突き進むってことよね……?」
「ま、まあ……フブキとまつりがそれでいいなら……いいんじゃないかな? きっと……その後のことも、考えてるんだろうし……だからこそ、まつりもフープピアスに……『リング』にしたみたいだから……」
「……ですね……あのふたりなら、そうでしょうね……。しっかしフブちゃん……この勝負時に、どのパンツにしたのかしら……?」
「なんでおめーがフブキのパンツのことを気にしてんだ……!?」
「それにはまあ、海のように深い理由がありまして……ところでミオ先輩?」
「なんだぁ? 急に改まって……」
「ミオ先輩の母性ってすごいですよね。だから、おっぱいからミルクって出ませんか?」
「だからの使い方が絶対に違うと思うな!? エロ同人の読みすぎだ!!」
「いやぁ、じょうだ………………なんでこの質問の元がエロ同人って知ってるんですか?」
「え゛っ……!? いや、えっと……マリンがそんなこと言うなんて、この前のさ、新刊がどうのって話かと思ったんだよ……ははは……!」
「嘘だねー!! あの時、新刊の中にミオ先輩の母乳本が入ってるなんて言ってないもんねー!!」
「……い、言ってたよ……! ぜったい、言ってたから……!!」
「言ってませんー!! ミオ先輩、自分のエロ同人を買って読んだんですよね!?」
「………………あー、うち、これから配信やる予定なんだー。そういうワケで、じゃあね!!」
「あーっ!! 待ってくださいよぉ~! 感想とオカズドコロを語り合いましょうよー!!」
「そんなの嫌に決まってんだろ!? うちは、ミオファのみんなが、うちにどんなことを期待してるか知りたかっただけだもーん!!」
「真面目かよ!! かわいいかよー!! でも読んだことには変わりないんで、感想は言えますよね!?」
「うわぁああああッ!? めっちゃ追いかけてくる!? へいタクシー!」
「させるか!! その口からスケベ話を聞かせろ!! 母乳飲ませろーっ!!」
「ふぅ…………なんで一緒に乗り込んでんだお前!?」
「ミオ先輩の……ミルクがいっぱいなおっぱいの話……聞かせてくれるまで、逃さないわよぉ……!!」
「わ、わかった、うちの負けでいいから……! タクシーでその話題だけはやめてくれぇっ……!! 運転手さんがミラー越しに、すごい顔でこっち見てるよぉ……!!」
その夜。マリンはミオの口から『M・I・O』のスケベ話を聞くことになった。そのついでに、自分が抱えていた失恋についても、全部を吐き出した。
「……まったく、マリンも素直じゃねぇなぁ。最初から、こっちが本題のつもりだったんだね?」
「くすん……。違うもん……ミオ先輩のおっぱいが飲みたかっただけだもん……」
「ははは……。出ないモンは出ないんだよ、残念ながらさ……」
母性と包容力を求めてきていたマリンを、ミオができるかぎりの優しさと温もりで包み込む。その膝枕は、どんな心の痛みも忘れられる最高の癒やしだった。
「……よく我慢できたね。フブキのこと、一番に考えてくれて……ありがとね」
「……友達だもん……当たり前のこと、しただけだもん…………うわーん……!!」
「……それを当たり前だって言えるのが、マリンの良いところだよ」
ミオに包まれ、たっぷりと癒やされて。フブキに抱いてしまった想いを、少しずつ、止まらない涙と嗚咽が心から洗い流していく。短時間で抱いた情愛だとしても、その大きさと純度は本物だった。
マリンの未練がましい愚痴と我儘な本音にうんうんと頷いて、ミオはマリンの肩をゆったりとタッピングし続ける。その悲恋が切ない思い出に変わるまで、ミオは文句も言わずに付き合い続けた。
想いを吐き出したマリンは、その夜から……ぐっすりと眠ることができ、大切なふたりの幸せを心から願えるようになったのだった。
おわり