紐パンきつねの海色バカンス 作:ナルキケーネ(ハーメルン支店)
「ひえ~……まさか、アキバの店舗が全滅だとは……! でもブクロにあってよかった~……! さっすが海賊だワ、お宝への嗅覚が冴えてるぅ!」
マリンはちょっと長い旅路の果てに、Vブクロで確保したお目当ての同人誌たちをバッグに入れて帰宅しようとした。
ちなみに、同人誌のタイトルは『やわらか大胸筋に包まれて』、『おかころに挟まれたい』、『AQUA♡すぷらっしゅ!』、『M・I・O(ミルク・いっぱい・おっぱい)』、『足コきつね(ぬちゃシコ超大盛)』であり、マリンが手に入れたもので店舗在庫は終了となっている。
少し重たいバッグには、快楽の栄光と肉宴の香りが満ちている。達成感に満ちたホクホク顔で帰るその道すがら、大型の家電量販店に入っていく女の子の姿が目に付いた。
やや暑さを覚える気温の中で、地味なパーカーを着て、頭をすっぽりと覆っていたため微妙に浮いて見えていたのだ。
「……あれって……フブちゃん……よね?」
パーカーの下に見えるやや攻め気味のショートパンツと、服に収まりきらないふさふさのモノクロ尻尾。そして、フードからこぼれていた、編んでまとめた真っ白な髪束のおかげで特定に至る。
一度気付いてしまえば、1時間ほど前に別れた友人にしか思えなくなる。周囲をやけに気にしているその少女のことを見過ごせず、マリンはこっそりと後をつけた。
白い毛の少女は、大きな家電量販店の中を忙しなく歩き回る。その活発な動きの一方で、商品を手に取る様子もなく、ただコーナーを適当に眺めてその場を離れることを繰り返すばかりだった。
「……さっきからいろんなところでチョロチョロして……フブちゃん、なにやってんのかしら? ウインドウショッピングって感じでもなさそうだし……」
物を探しているという雰囲気ではなく、しきりに周囲の視線を気にしているようだった。
その姿は、思春期の少年少女がエッチな本をどうやって購入するか悩んでいる様子によく似ていた。
「……じれったいわねぇ……何か探してるなら、もう一緒に回ろうかしら……?」
ようやく何かの商品棚に立ち止まったフブキが、辺りを警戒してから深呼吸を重ね、震える手で目標を掴んだ。
しかし、それよりも少し前に、マリンが痺れを切らして接近していた。
「ふ~ぶ~ちゃん!」
「ひぎゃあああああああああッ!?」
マリンに肩を掴まれ、尻尾をピンと張って身体を硬直させたフブキが絶叫する。そのはずみで、手から箱を落としてしまった。
「ま、ままま……マリンちゃん……!? なんで、こんなところに……!?」
「アキバで用事が終わらなかったんですよ~。フブちゃんは電器屋さんに何を買いに来てたの?」
「あっ、ちょっ、それは……!?」
フブキが落とした箱をマリンが拾い上げる。その側面には、どこかでよく見るタイプのハンディマッサージャーが描かれていた。
「あれ、マッサージ機じゃん? なぁんだ、普通のお買い物かぁ……つまんないのー」
マリンは更衣室での会話を思い出し、フブキが内ももの疲労を訴えていたことを想起した。
やけにこそこそとしているものだから、友人の思わぬ一面を見られるかもしれないと、変に期待してしまった。マリンは残念に思いながら、フブキに箱を手渡す。
フブキと電マを使ったオナニーがあまりにもイメージに合わなかったため、瞬間的には繋がらなかったのだ。
「えっ!? あっ、うん!! そうそう、マッサージ機!! 白上さぁ、なんか最近肩が凝っちゃって……あはは……!」
「……肩ぁ? 脚じゃなくて???」
箱を後ろ手に回しながら取り繕われた、フブキのオドオドしたその場しのぎによって、マリンの中にあった違和感がぶり返した。
その額に浮かんでいた大量の冷や汗と、恥ずかしそうに染まった真っ赤な頬。
そこからエロスと下ネタのニオイを感じるのは、マリンにとってそう難しいことではなかった。
「…………あっ……」
もじもじとする美少女狐と電マ。その組み合わせに、マリンは全てを察した。
点と点が線を結び、つまらなかったはずの答えがとても面白い話の気配を呼び起こしたのだ。
「あ、ああ、うん! 脚もついでにケアするつもりでさぁ! やっぱりどれがいいのかな~って悩んじゃってさ……!」
「うん、それはいいんだけど……じゃあなんで今、それを隠したの? なんか別の使い方をしようとしたんじゃないの?」
「はぐぅっ!? いや、だって……あっ、そうだ! ほら、現役のアイドルがマッサージ機に頼るってのもヘンじゃない!? だから……!!」
「ついさっき更衣室でアフターケアの大切さを説いていた、立派なアイドルさんはどこに行ったんですかねぇ?」
「へきゅっ……や、それは、あの……えーっ……機械ってのは、ちょっと違うっていうか……! やっぱり、実際に生身の手でやってもらうのが一番よくって……ええっと……!」
「へー……?」
取り乱したフブキの様子は異常にしか見えず、何か後ろめたいことを隠そうとしているのは明らかだった。
しどろもどろになりながら慌てふためくフブキに、マリンが確信を持って提案をする。
「あのね、フブちゃん。すぐに白状してくれたら、ここで見たこと……『フブちゃんが電マを買ってた』って、周りの子には黙っておいてあげるけど……どうする?」
「あっ…………そ、それは、ズルくねえかい……!? 何を勘違いしてるのか知らねえが、こいつはホントに肩をブイブイするための健康器具だぞ……!? 脅迫にすらなってないだろ……そんなの……!?」
フブキの冷や汗が、べっとりとした脂汗に変わっていく。首を絞められた罪人のような、心理的に追い詰められた苦痛と圧迫感を口いっぱいに味わっていた。
「モチ、わかってますよ? 船長が『フブちゃんが電マを買ってた!!』って言いふらしても、フブちゃんがその器具について……『健康のため』って、冷静にご立派な説明をすれば、みんなわかってくれるもんね?」
「はぅあっ……!? あ、ああっ……ま、マリンちゃん……!」
マリンのニヤニヤした笑いが、フブキの心臓と背筋を凍らせる。
いくらその説明に正当性があろうとも、このハンディマッサージャーという特殊な器具について、周囲に根付いている印象は拭えない。
むしろ、どれだけ論理的に釈明できても、激しめな自慰行為のごまかしを精一杯にしているように思われる可能性は高かった。
「ノエルとか、ちょこ先生とか……アキ先輩あたりも勘違いして、面白がってくれそうな話題よね~♪」
「ま、待て待て、待つんだ……! これは、ホントにそういうアレじゃないって……!」
「わかってるってばぁ。フブちゃん自身にヤマシイ気持ちがないなら、ちゃんと否定できるじゃんか~」
「わ、話題に出されるだけでも困るんだよぉ……!」
それに、何よりも。清楚な白上フブキと自慰の疑惑を結び付けてしまう、概念自体を容認できるわけがなかった。
しかし、フブキはそれが押し問答であることに気付いてしまった。ここでどれだけそれっぽく否定をしようが、マリンの話から面白さは消えないのだ。
「あれれ~? フブちゃん、どったの~? それ、普通のマッサージ機なのよ~? 買っても何も問題ないでしょー?」
フブキは持ってしまった証拠を戻そうとするが、マリンから注がれる痛いほどの視線のせいで手を止める。
(う、うう……! マリン、絶対に気付いてるよ……こんな現場を捉えられたら、言い逃れなんてできないよぉ……!)
フブキは今日一番で混乱し、その場で思考を凍らせてしまった。
今さらマッサージ機を買わなかったところで、その用途がバレて、羞恥に耐えきれなかったが故の証拠隠滅にしかならないのだ。
フブキが追い込まれていたのは、完全に詰みの状態だった。
「…………ほ、ほんとに、黙っててくれる……?」
「……ふふん♪ 船長、こう見えて上の口は堅いのよ!」
マリンは歯を見せるようにニンマリと笑って、フブキに「それでオナるの?」と問う。顔を伏せて、髪の毛で表情を隠した少女は、マリンだけに見えるように小さく頷いた。
「へぇ~……! フブちゃんも、そういうコトに興味があるんだねぇ。なんかこう、今まで以上に強い親近感を覚えちゃったワ」
「うぐ~……! ふくぅー……ぬぅ~……!」
(サイアクだぁ……もう、お嫁にいけないよー……! まつりちゃんのせいだからな……!)
マリンにポンポンと肩を抱かれたフブキは、羞恥と屈辱に涙ぐみながら肩を震わせることしかできなかった。