あ、エロシーンはないです。
「そうそう! ロボットで思い出した!」
言いながら順は素早く腕を前に出した。手を合わせて目を閉じる。絵美佳は急に拝まれて怪訝な顔をした。
「絵美佳ちゃんにお願いがあるんだけど……」
弱気な声で告げながら順が片目を開ける。絵美佳は目を細めて箸を置いた。この様子では順は相当にやっかいなことを言い出してくるに違いない。だがそれは逆に絵美佳に好都合だった。先日、ちょっと張り切りすぎて巴の女性器を壊してしまったばかりなのだ。修復は先に行ったが、予算的にかなり厳しい状況だ。
「契約外の仕事は割増し料金がかかるわよ」
「ええと」
恐る恐るといった態で順が手を下ろす。そしてポケットに改めて手を入れ、今度は電卓を取り出す。順は素早く金額を入れて表示された数字を絵美佳にみせた。
「こんなもんでどうかなあ」
「依頼次第ね」
冷静に切り返す。すると順は途端に困った顔になった。どうやらすぐには言いにくい内容のようだ。絵美佳はどうなのよ、と順に顎をしゃくった。順がしばし考え込んでからようやく口を開く。
「じゃあ、まずは物を見てもらってからってことでもいいかなあ?」
「わかったわ。さっそく見せてもらおうじゃないの」
絵美佳は言いながら立ち上がった。順が嬉しそうに声をあげる。絵美佳が運ぼうとした空丼をさっさとテーブルから取り上げる。順は絵美佳が何も言わないうちに自分から丼を片付けてしまった。まあ、いいか。絵美佳は食堂のカウンターの中で食器を洗い始めた順をぼんやりと眺めた。
どうやら順が見せたいものというのは余程、大きいものらしい。食堂を出た順は待ってね、と言い置いてどこかに行ってしまった。戻ってきた順が引きずっていたのは大きな金属製の箱だった。一辺が二メートルほどもある。それを見て絵美佳は呆れたため息をついた。
「あんた、そんなもんどうやって持ち込んだのよ?」
「え。ちゃんと搬入用にトラック借りたんだよ? これ、借り物だから壊すとまずいと思ってさあ」
そう言いながら順がだらしない笑みを浮かべる。しかも外で開封するとまずいという。絵美佳は周囲を見回して誰もいないことを順に告げた。だが順は困ったような顔で首を振る。食堂から研究室に戻るまでの道は外にある。だが休日でもあり周囲には誰もいない。誰にも見せたくないという理由ならばここでも問題ないだろう。絵美佳は渋る順に腕組みをしてそう告げた。
「見せてもらうわよ!」
絵美佳は強引に箱に寄って操作盤に手を伸ばした。が、届く寸前に順が絵美佳の手首をやんわりと握る。それだけで絵美佳の動きは止められてしまった。
「でもぉ……ほら、やっぱり精密機械だからさあ。外はまずいよぉ」
順はのんびりと言いながら静かに絵美佳の手を解放した。絵美佳はちっ、と舌打ちをして携帯電話を取り出した。
「わかったわよ。ちょっと待ちなさい!」
せめて片付けなければこの箱は研究室には入らない。絵美佳は仕方なく巴を起こそうとした。が、携帯電話の番号のボタンを押す直前に順が慌てて首を振る。
「何よ?」
絵美佳は訝りのこもった目で順を見た。順は力なく首を振りながら肩を竦める。その仕草が何故かふと懐かしく見えた。どうしてだろう。絵美佳がそう考えていると順は喋りだした。
「人なら呼ばなくてもオレが運ぶからさあ。だいじょぶだよ」
どうやら順は勘違いをしているようだ。そのことに気付いて絵美佳は思わず笑い出した。違うわよ、と説明をする。だがそう説明している間にも順は不安そうな顔をしていた。そして気付く。絵美佳はぽん、と手を叩いてにんまりと笑った。
「あたしにしか、見せたくないって理解でいいわね?」
「うー。まあ、そういうことなんだけど」
頭をかきながら順が肯定する。外では駄目、というのは精密機械だからという理由もあるだろうが、万が一別の誰かに見られるかも知れないという危惧をしていたのだ。絵美佳はそのことに改めて気付いた。
順は空を仰いで困ったような顔をしている。そうしていると随分と若く見える。絵美佳は小さく笑ってぽん、と順の肩を叩いた。
「わかったわ。とりあえず、それ持ってこっちに来て」
きっと掃除をしなくても何とかなるだろう。絵美佳はそう思いながら順を促して歩き始めた。底に車輪がついているらしい。順がロープを引くとアスファルトの上を箱が静かに滑り出す。
校舎に入ってすぐのところに地下に続く入り口がある。絵美佳は慣れた手つきでロックを外した。音もなくドアが開く。真っ暗だった地下へ続く廊下に点々と明かりが灯っていく。絵美佳は白衣を翻らせて地下へ進んだ。恐々とした様子で順がそれについていく。
確かあんまり使ってない部屋があった筈。絵美佳は素早く全ての研究室の状況を思い浮かべた。最奥の巴の部屋、続いて自分の私室。そして残る研究室の中でも一番、片付いているところは第6研究室だった。
そこは第1研究室がもしも使えなくなった場合の非常用に作られた部屋だった。間取りは第1研究室とほぼ同じだ。絵美佳は戸惑い気味の順を促した。
「こっちよ」
静かに廊下を進む。順は何故か足音を忍ばせて絵美佳について歩いた。よほど人に見せたくないのね。絵美佳は順の様子をちらりと顧みて苦笑を浮かべた。
箱をそのまま研究室に入れるのは無理だ。絵美佳は先に第6研究室に入って順を振り返った。入り口にぴったりと箱をつけ、順も研究室に入ってくる。物珍しそうに周囲を見やり、順は感嘆の声をあげた。
どんだけの重さのモノを引きずってるのか聞いてみたいところw