※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

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にゅーキャラ登場です。
あ、エロシーンはないです。


再び、物語のはじまり 2

「でないと彼女は再現できません。これは僕の予測ですが……」

 

 それまで自信に満ちていた言葉の最後だけが力なく消える。立城はそんな優一郎を黙って眺めた。優一郎はため息をついて言葉の先を濁したままにしている。

 

「簡単に言い表せるような問題じゃないし、そもそも君は知らなくてもいいことだと思うけれど?」

「知らなければ、彼女を復活させることはできません」

 

 苛立ち混じりの声で優一郎が即答する。立城はやれやれとため息をついて首を振った。次いで指を一度だけ鳴らす。するとそれまで沈黙していたドアが小さくノックされた。ためらいがちなその音に思わず微笑む。何事が起こったのか判らないのだろう。優一郎は訝りに満ちた眼差しでドアを見た。

 

「今のところ、彼女が世界最新鋭のヒューマノイドじゃないかな?」

 

 ドアが開く。ゆっくりと執務室に入ってきたのは一人の女性だった。懐かしい彼女の微笑みと共に苦渋の過去が立城の胸の内に蘇る。

 

「紹介しよう。吉良瀬奈月さんだよ」

 

 立城の紹介を受け、奈月は静かに一礼した。美しい長い髪が動きに合わせて肩から滑り落ちる。奈月を見ていると、時間が遡ったような錯覚さえ感じてしまう。立城は笑顔で優一郎を伺った。

 

「あなたは!」

 

 それまで声をなくしていた優一郎が奈月に叫ぶ。すると奈月は慌てたように頭を下げた。

 

「えっと、あの……ごめんなさい!」

「まあまあ」

 

 焦って詫びる奈月に立城は笑いながら手を振って見せた。今の奈月は黒いワンピースに白いエプロンをつけている。典型的なメイドの格好なのは、さっきまで掃除を頼んでいたからだろう。立城はまだ詫びようとする奈月を宥め、優一郎に向き直った。優一郎は愕然とした目で奈月を見ている。

 

「ともかく君の言う彼女の復活とやらは、これで必要なくなったんじゃないかな?」

「どうして……」

 

 まだ信じられないのだろう。優一郎は奈月を見つめながら声を震わせている。それも無理のない話だ。当初の予定では優一郎が奈月を作成する、ということになっていた。だがそんな予定は立城のスケジュール表にはなかった。それだけのことだ。立城は苦笑して執務机に肘杖をついた。

 

「こう見えて僕はかなり気短でね。君がのんびりと開発してくれるのを待っている余裕がなかったんだ」

 

 にっこりと笑って立城はそう告げた。そこでようやく優一郎の視線が立城に戻る。その目は疑いと怒りに満ちていた。

 

「つまり、僕の技術力がまだまだ信用できないと、そういうことですか?」

「ありていに言えばそうだね」

 

 苦しそうに告げた優一郎に対し、立城はいともあっさりとそう切り返した。優一郎の目が驚愕に見開かれる。立城はため息をついて肘で机を押した。軽く反動をつけて椅子の背にもたれかかる。それだけで異様なほどに身体が疲れていることが判る。だがそのことを立城は表面には出さなかった。

 

「前回の件では君にはとても感謝しているよ。多輝の件もそうだけれど、特にもう一方の件についてね」

 

 立城は目で奈月を促した。すると改めて気付いたように奈月が慌てて立城に駆け寄る。その手に握られていたのは小切手の冊子だった。

 

「もう一方の件?」

 

 訝りのままに優一郎が訊ねる。立城は笑顔で奈月から冊子を受け取り、机の中の万年筆を取り上げた。慣れた手つきで署名する。

 

「水輝の件だよ。君、翠に言われた通りに動いてくれたんだってね。おかげで僕の手間も随分と省けたよ」

 

 数ヶ月前、その事件の折に水輝の人格が一変した。正確に言えばただ人格が変わった訳ではない。その性別も全く違っていた筈だ。立城が意図するより先に翠が指示した訳だが、その件のおかげで手間が省けたのは事実だった。

 

「別にあれは、僕にとってはついでに過ぎませんでしたし」

 

 言いにくそうに優一郎が返す。だが立城は笑ってその返事を流した。ついでであろうが、意図的にであろうが、そうなった事実だけは紛れもない現実だ。そして水輝は立城にとっては理想的な状態に追い込まれたのだ。

 

「とにかくその件のお礼も兼ねてこれを受け取ってくれるかな? 開発費は別途請求してくれて構わないから」

 

 そう告げて立城は小切手を切った。奈月がそれを受け取り、優一郎の方へと向かう。優一郎はまだ戸惑った様子で奈月と立城を見比べていた。

 

「それは必要ありません。セカンドプランを実行するなら、依頼人からいただけるはずですから」

 

 差し出された小切手を優一郎はやんわりと拒絶した。小切手をつき返される形になってしまった奈月が困惑し

た表情で手の中に目を落とす。その小切手には優一郎から望まれた倍額が記されていた。

 

「ただ、ひとつ別のお願いがあります」

「なにかな?」

 

 もの問いたげな奈月に目だけで返事をしてから立城はそう問い返した。優一郎が小さく笑って再び壁を見上げる。その口許には今までにはない微笑みが浮かんでいた。

 

「如月栄子さんを紹介していただけませんか? 父にべったりの姉を……いえ、父を、超えたいと思ってる少年が居ると」

「なるほど。そちら側から絵美佳さんに勝負をかける訳ですか」




奈月という名前の彼女はけっこー重要キャラです。
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