※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

110 / 240
名前つけたはいいものの、ほぼ出てこない件。
エロシーンはありません。
ちょっとだけ長めです。


独り相撲な親戚の人

 その日の男の機嫌は最悪だった。男の名は吉良克俊。木村重工GPHカンパニー開発部部長を務めている。克俊は肩を怒らせて大きな足音を立てて廊下を歩いていた。通りすがった女子社員たちがこそこそと廊下の脇に避ける。克俊に関わるといいことがない、というのが開発部の定説になっているのだ。だが克俊はそんな噂を全く知らない。そもそも自分以外の社員たちのことを全く見ていないのだ。

 

 以前、克俊は女子社員をいきなりくびにしたことがある。その理由はごく単純だった。克俊に出された茶がぬるかったのだ。それを克俊は自分に対する反発と決めつけた。結果的にはその女子社員は自分から退社願いを出した。とてもそんな上司の下で働けないと思ったのだろう。だが未だに克俊はそんな女子社員の気持ちには全く気付いていない。

 

 そもそも克俊がこの木村重工GPHカンパニーに入社したのには訳がある。当時、克俊はかなり悪質な手法で強引に木村重工GPHカンパニーに入社した。当時の人事部部長の不倫問題をねたに脅迫まがいの手を使ったのだ。

 

 克俊はそれからも裏側で様々な手を駆使し、昇進した。その悪質な手に辟易し、辞めていった社員もいる。だが克俊はそんなことは全く気にしなかった。何故なら克俊にはある目的があったからだ。

 

 かつて学生だった頃、克俊は事あるごとに従兄の総一郎と比べられた。進学先に選んだ高校ですらランクに差があったため、克俊は両親に酷い厭味を言われたのだ。が、どう足掻いても克俊は総一郎と同じ高校を受験することは出来なかった。担任が最後まで渋っていたのだ。

 

 だが、例え同じ高校を受験していても克俊は不合格だっただろう。それは当時の克俊の学力がそのレベルに満たなかったからだ。だが克俊は別の高校を受験せざる得なかったことを担任のせいにした。そして当時の担任に克俊は陰湿な嫌がらせを繰り返した。担任はノイローゼに陥り、結局は学校を辞めていった。

 

 総一郎は今や世間的にも有名になった。科学雑誌には毎号のように総一郎の発明品の特集が組まれている。市場にも総一郎の発明品の様々が出回っている。画期的だと世間は総一郎の作り出した品々を評している。が、その一方で克俊の開発したあらゆる品は悉く世間には認められない。

 

 許さん。克俊は苛立ちを込めて壁を蹴った。プラスティックで出来た壁が衝撃を受けてへこむ。新たな企画が倒れたばかりで克俊は気が立っていた。が、同じ職場で働く者はたまったものではない。何もしていないのに克俊に怒鳴られ、ありもしないことをねたに叱られる。克俊の陰湿ないじめに耐え兼ねて辞めていく社員も多い。それでも克俊が会社を追い出されないのは、そのやり方が狡猾だからだ。決して上の役員たちにばれないやり方で克俊は日々、鬱憤を晴らしていた。

 

 そんな克俊は今、とある企画に関わっている。巨大ロボットの製作というのがそれだ。開発部の克俊としては何としてもこの企画はやり遂げなければならない。何しろ巨大ロボットといえば、あの総一郎がかつて高校生の頃にあっさりと作り出してしまった代物だからだ。

 

 奴に出来て俺に出来ない筈がない。克俊は恨みや怒り、憎しみを動力源に日々、企画に取り組んでいた。だが提案する意見が悉く却下される。苛立ちは日々強くなり、克俊の陰湿ないじめは度を増していた。

 

 そんな日々の中、克俊は更に追い詰められる。企画に新しい誰かが関わるというのだ。それは開発部の克俊にとって最悪の状況だった。その誰かは外部の者で、克俊の手の届かない場所にいる。もしもその誰かが克俊を出し抜くようなことになったら。克俊の苛立ちは最高潮に達した。だが企画は着々と進んでいく。

 

「あ、あの……吉良部長。お客様……なんですが」

 

 ためらいがちに言った女子社員を克俊はぎらりと睨みつけた。女子社員が焦ったように手で部屋の入り口を示す。だが克俊が目を凝らしても誰かがいる様子はない。

 

「君は今、うちの部がどういう状況になっているのかを理解しているのかね? アポイントメントのない客に私が会う暇がある訳がないだろう。帰ってもらいたまえ」

「で、ですが……その……ぶ、部長の親戚の方とかで……」

 

 それを耳にした克俊は椅子を蹴倒して立ち上がった。憤然と机を殴る。親戚と言われて克俊の脳裏に浮かぶのはただ一人。総一郎のことだった。克俊は女子社員が慌てた声を上げるのも無視し、入り口に駆け寄った。閉じたドアを乱暴に開ける。

 

 高校の制服に身を包んだ総一郎が立っている。克俊は苛立ちに任せてドアを叩きつけるように閉めた。

 

「貴様! うちの社に何の用だ!」

 

 すっかり取り乱した克俊は怒りのままにそう喚いた。が、総一郎は不思議そうな顔をして克俊を見ている。次に総一郎はああ、と納得顔になった。

 

「お久しぶりです。優一郎です」

 

 そう言って総一郎がにっこりと笑う。そこで初めて克俊は自分が勘違いをしていることに気付いた。総一郎が高校生である筈がない。幾らなんでも少年の姿をしている筈がないのだ。そして気付く。優一郎と名乗った少年を睨みつけ、克俊は顎をしゃくった。

 

「あいつの息子か」

 

 見れば見るほど優一郎は総一郎に似ている。克俊は苛立ちを込めて優一郎の胸倉に手を伸ばした。だがつかむ寸前に優一郎がひらりと身をかわす。そのことが余計に克俊のしゃくに障った。

 

「はい。今日はご挨拶にあがりました」

 

 克俊に微笑みかけたまま、優一郎が軽く頭を下げる。一体、何の用だ。克俊がそう告げる前に優一郎は更に続けた。

 

「いえ。プロジェクトのほうが停滞してるようですので。如月さんにちょっとこちらの様子を見てくるように頼まれたんです」

 

 きっぱりと告げた優一郎を克俊は凝視した。如月といえば今回の企画の依頼者だ。何故、優一郎がそんなことを言い出すのか克俊には理解できなかった。だが優一郎は唖然とする克俊を無視し、更に続ける。

 

「企画書のほうには問題ないようですのに、何故、停滞しているのかが不思議でしたので、如月さんに代わって確認に参りました」

「……何故、お前のようなガキが」

 

 そう言いながら克俊は自然と震えていた。これまでばれなかった様々なことに土足で踏み込まれているような気分になる。克俊は優一郎から目を逸らし、ポケットから煙草を抜いた。そもそも、こんなガキに企画のことなどわかるもんか。そう内心で呟くと少し落ち着いた。

 

「今回のプロジェクトでパイロットを努める要さんと同じ学校に通っている縁から、雑用のお手伝いをしてるんです」

 

 あくまでも優一郎は穏やかに喋っている。克俊は乾いた笑い声を放って優一郎を煙草の先でさした。肩を軽く煙草でつつく。優一郎は不思議そうな顔をしてつつかれた肩を見た。

 

「雑用? ご苦労なことだ。だが企画については問題なく進んでいる。お前に話すことは何もない」

 

 まさか上から強引にコンセプトを変えろと言われたとは言えない。それはイコール、克俊の提案が却下されたということだからだ。

 

「企画のほう拝見しました。汎用性に優れていて素晴らしいと思います。操縦性に多少の難がありますが、たいした問題ではないかと」

 

 まさに克俊の思っていた通りのことを優一郎が告げる。克俊は途端に機嫌が良くなった。うんうん、と頷いて優一郎の肩を軽く叩く。そう、素晴らしい企画なのだ。それをどうして上の連中は判らないのだ。克俊はだが気付かなかった。優一郎は総一郎ではない。例え優一郎が企画を認めるような言葉を吐いても、それは総一郎が克俊を認めたことにはならないのだ。

 

 不意に視界を何かが過ぎる。凄まじい勢いで誰かが駆けて来る。それが人であることに克俊が気付いた時、それは優一郎の肩を強引に抱いて笑い声を上げた。

 

「あははははは! 優一郎くんってばもう、お茶目さんなんだから!」

 

 そう言いながら見知らぬ男が優一郎を強引に連れ去ろうとする。克俊は唖然として男を指差した。

 

「……何だ、貴様は」

「ええと、通りすがりの謎の遊び人ですぅ。そんじゃ、またー!」

 

 そうまくし立てると男は優一郎を脇に抱えるようにしてその場を走り去った。克俊は一人、ぽつんと廊下に残された。




途中で切っても良かったのですが……。
このワンシーンしか出なかった気がしますので、一括でアップします。
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