※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

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ちょっとだけえろっぽいシーンがあります。


再び、物語のはじまり 3

 優一郎と絵美佳はれっきとした姉弟だ。優一郎がヒューマノイドの研究に没頭しているのに対し、絵美佳は科学全般における研究を日々進めている。似たような研究をしているとも思われがちだが、彼ら二人の目指すものは方向性が全く正反対なのだ。立城はふうん、と呟いて奈月を目で促した。慌てたように奈月が小切手を優一郎に突き出す。両手を伸ばして頭を下げた奈月に優一郎は戸惑いの表情を浮かべた。

 

「なら、余計にそれを受け取ってもらわないと困るな。何しろ僕はその条件を飲む代わりに君にお願いしたいことがあるんだよ」

「お願い、とは?」

 

 奈月に出された小切手を受け取るべきかどうか悩んでいるのだろう。優一郎は小切手を見つめたままだ。立城は微笑みを浮かべて首を傾げた。

 

「早急にヒューマノイドを一体、作成してくれるかな。モデルはこれで」

 

 そう言って立城は胸ポケットから一枚の写真を出した。指先で弾くと写真は宙を滑って優一郎の元に届く。優一郎は指でそれを受け取って視線を落とした。その瞬間、優一郎が息を飲む。

 

「君には感謝しているんだ。確かにあの方法でなら意外と簡単に意識を引き剥がせるかも知れないからね」

 

 手にした小切手を強制的に優一郎の手に握らせる。奈月がそうしても優一郎は反応しなかった。絶句したまま写真を見つめている。立城は薄い笑みを浮かべて奈月に手を振った。用件が済んだことを理解したのだろう。奈月が慌てたように頭を下げて執務室を後にする。

 

「わかりました……。仕様的には前作とほぼ同じでかまいませんね? 容姿の調整もほとんど必要ないですし」

 

 しばらくしてから優一郎はそう言いながら写真から目を上げた。立城は執務室のドアがきっちりと閉まっていることを確認してから頷いた。優一郎に手を振ってあの場所から退くように指示する。優一郎は不思議そうにしつつも立城の指示に従った。

 

「少しだけ教えてあげよう」

 

 立城は一度だけ指を鳴らした。その音を合図にしたかのように空気が揺れる。そしておぼろげに空気が色を持ち、やがてそれは形を取り始めた。優一郎がさっきまで立っていた場所に太い木の幹が現れる。

 

「本来、僕たちは力という目に見えない不定形なものだ」

 

 力が形をまとうのにはそれなりの条件が必要になる。そう言いながら立城は指先を木の幹に向けた。ゆっくりと床から木の幹がせり出してくる。天井までに届いたところで優一郎が息を飲んだ。木の幹に埋め込まれるようにして一人の女性が姿を現したのだ。

 

「だがどれだけ強大な力と言えど時の影響は受ける。それが僕たちの、ある意味では枷にもなっているし、生きる条件とも言える」

 

 女性の意識はない。手足を木の幹に巻きついたつるに捕らえられ、俯いたままだ。そして木の根が女性の足を拘束している。その様子をぼんやりと眺めながら立城は続けた。

 

「けれどね。時に逆らうということも出来るんだよ。もちろんこれは僕たちに限った話じゃない。人もそうだね」

 

 だが力が強大であれば逆らう力も大きくなる。人のそれが些細であるのに対し、力ある者の時への反逆は半ば自殺行為になる。それ故、通常は大きすぎる力を一つの器に収めるのではなく、幾つかに分けているのだ。そう、立城は説明した。

 

 木の幹がかすかに揺れる。ゆっくりと床からせり出した木の根が女性の足を伝ってスカートの中へ消える。立城は目を細めて指先で静かに空気をかいた。その瞬間、女性の身体が大きく震える。

 

「夜叉はその力のシステム上、止む無く生まれたと言ってもいい。本人にその意識はなかった筈だし、今でも自覚などありはしないと思うからね」

 

 遠い昔、力から切り離された場所に夜叉が生まれた。永遠にも近い命を生きる筈だった夜叉は、だがとある龍神と交わってしまった。それ故、命の殆どを腹の子供に吸い取られ、夜叉は人と同じ程度の時をしか生きられなかった。

 

 そして命は時を流れ、続いていく。本来、あるべき姿に戻ることもなく変化し続ける。それが世界の願いだったのか、それとも夜叉の思いの欠片ゆえだったのかは判らない。結果的に命は続いた先に一つの力としてこの世に現れた。

 

 立城は静かに目を閉じて指を胸に引き寄せた。木の根が意志のままに動いて女性のスカートの奥で蠢く。女性は微かな喘ぎを漏らしながら誰かの名前を呼んだ。根の動きが激しくなるに従ってその名前が明確に聞き取れるようになる。

 

 紫翠。女性の口からその名を聞き取った瞬間、立城は目を開けた。苦笑して優一郎に視線を向ける。優一郎は納得のいった顔でしみじみとその女性を見つめていた。

 

「これが今の水輝の実態。夢の中で紫翠とずっと交わっている状態だから何を言っても聞きはしないけれどね」

「ありがとうございます」

 

 そう告げた優一郎の表情はどこか吹っ切れていた。もしかしたら夜叉について随分と悩んでいたのかも知れない。立城はぼんやりとそう考えた。

 

「ご依頼の件、早急にとのことでしたが、予備の機体を調整するだけなので、明後日には納入できると思います」

 

 手にしっかりと小切手を握り締め、優一郎はそう言いきった。その顔に自信が戻っている。立城は苦笑して判った、と頷いた。




段落が長いので三分割してあります。
この話はけっこー分割されると思います。
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