※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

120 / 240
長かったのでエピソード分けました。
エロシーンはありません。


バトルの訓練中

 冷たい水を浴びせられ、多輝は焦って飛び起きた。水に濡れた頭を強く振る。衝撃に気を失っていたのだとこの時に気付く。多輝は慌てて身体を起こし、その場に立ち上がった。

 

「目が覚めましたか?」

 

 少し離れた場所で蒼が腕組みをしている。多輝は濡れた髪を背中に追いやって蒼を鋭く睨みつけた。0勝三敗。しかも多輝はここまで一度も蒼に触れていないのだ。舌打ちをして多輝は手のひらを合わせた。

 

 体内に渦巻くそれをイメージする。まずはそこからだと蒼は言った。多輝は三度ほど蒼にぶちのめされたおかげか、随分と楽に力を集めることができるようになった。が、それでも蒼に比べればまだ不器用だ。

 

「今度こそ!」

 

 そう叫んで多輝は畳を蹴った。格技場の中には多輝と蒼しかいない。畳は随分と荒れているし、あちこちの壁には亀裂やへこみがある。だがそれでも戦うには充分な広さがある。多輝は畳の上を素早く移動した。ぎりぎりまで蒼に迫ってから畳を強く蹴る。

 

「遅いですね」

 

 そう告げて蒼がその場から姿を消した。多輝は一瞬、蒼を見失った。が、感覚が鋭くなっているためにすぐにその居場所を感知する。

 

「こっちか!」

 

 多輝は畳を蹴って無理に走る方向を急転換した。が、手が空を切る。蒼は多輝の手を避けて身体を沈めていた。

 

「読みは当たっていましたが」

 

 残念ですね。そう告げて蒼が足元に力を炸裂させる。多輝は叫びを殺して身体を丸めた。壁に背中から激突する。衝撃に息が止まる。多輝はそのまま落ちるように床に倒れた。激しく咳き込む。その咳音に微かに雑音が混じっている。どうやら肺が傷ついたらしい。多輝は力なく笑いながら胸に手をあてた。

 

 不思議と怒りはない。それどころか爽快感すらある。きっと憎しみに駆られて動いていないからだ。それ故に蒼の言うことも素直に理解できる。

 

「感覚は鋭くなってきているようですね。ですが、力の織り方がそれでは余りに稚拙です」

 

 淡々と蒼が告げる。稚拙、と多輝は口の中で呟いた。はい、と頷いて蒼がゆらりと腕を上げる。多輝は目を細めて蒼の手先に意識を集中した。淡い水色の光が蒼の手の先に集まっている。

 

「本来、力はこうした単純なものです。このままの状態で放てば」

 

 そう告げて蒼が手にした力を多輝に放つ。高速で移動したそれはだが、多輝の手前で跡形もなく弾けた。無意識に展開した多輝の結界に阻まれたのだ。

 

「本能的に作られた結界にあっさりと弾かれてしまいます」

 

 うん、と頷いて多輝は身体を起こした。その場に胡座をかく。蒼はこうして一つずつ多輝に教えながら戦っているのだ。蒼の手先に再び集まり始めた力を見つめ、多輝は息を潜めた。今まで誰も多輝には力の使い方を教えはしなかった。身体で覚えろと言わんばかりの水輝のやり方は少しは役に立ったが、それでも多輝の能力を完全に引き出すには足らなかったのだ。

 

 蒼が手の先に集まった光を見つめる。

 

「極小の光と思えば織り易いかも知れません」

「光?」

「そう。小さな点である光を寄せ集め、形を作る。それが力を織るということです」

 

 言って蒼は少しずつ手の先の力を変化させた。やがて光が分裂し、また集合する。そして蒼は幾つもの光の刃を作り出した。光の刃が照明を反射して煌く。つい見とれていた多輝は次に焦った声を上げた。蒼が予告もなく刃を放ったのだ。

 

 光。点。咄嗟に多輝はそれらをイメージした。瞬間、轟音が鳴る。多輝の目の前に立ちはだかるように水の柱がそそり立つ。放たれた刃は次々と水の柱に突っ込んで消えた。柱の外にはみ出したものだけが多輝の脇を抜けて壁に突き刺さる。肩越しにそれを見た多輝の背中が一気に冷えた。あんなものをまともに食らったらただでは済まない。

 

「力を織る、というのはそういうことです」

 

 静かな蒼の声が聞こえてくる。それと同時に多輝を守っていた水の柱が消えた。多輝は驚きに声をなくして周囲を見回した。何が起こったのか判らない。

 

「今、多輝様は結界を展開されました。それは先ほどのような本能的なものではない。現に多輝様を守ったでしょう?」

「え? あ、あれ? もしかしてさっきの?」

 

 巨大な水柱は音もなく消えた。だが多輝にはそれを作り出したという実感はなかった。さしてしたことはない。強いて言えば光の点をイメージした程度だ。唖然とする多輝に蒼はほんの少し、ごくささやかな笑みを見せた。

 

「わたくしがお相手させて頂いているために水輝様の属性が色濃く出てしまったようですが……慣れればどんな属性の力でも織ることが可能になります」

 

 穏やかに言いながら蒼が再び力を集め始める。多輝は立ち上がって手を合わせた。手の中で紺色の光が膨れ上がる。目を閉じると光が瞼の裏に見える。戦っている最中に視界を閉ざすことが危険だということは判る。が、目を閉じたことで多輝はこれまでよりはっきりと力を見ることができた。

 

 霧のように細かな光の粒が渦を巻いている。きっと本当はもっと細かいのだろう。それを思いながら多輝は一つの形をイメージした。目を開く。多輝の手の中で収縮した光が一瞬で展開する。

 

 幾つもの鋭い刃が蒼を目掛けて走る。それは空中で極細の針となって蒼に襲い掛かった。それまで沈黙していた蒼の真正面に何かが現れる。蒼はそれを片手に一気に空を薙いだ。

 

 凄まじい風が巻き起こる。多輝は姿勢を低くして床に手をついた。でたらめに風が室内を走る。そして多輝の飛ばした針は全て蒼に蹴散らされた。舌打ちをして風を切って走る。蒼が手にしているのは一本のリボンだ。

 

 空にリボンが踊る。そしてそれは一瞬で変質する。多輝は手の中に握った力を床に叩きつけた。リボンが無数の鎖に姿を変える。一方、多輝の力は鋭い氷の柱となった。畳から巨大な氷が生えてくる。

 

 鎖が氷を打ち砕く。多輝は怒号を上げて蒼に飛び掛った。その手足を鎖が捕える。だが蒼も氷を避けていたために自由が利かないらしい。多輝はまとわりつく鎖を引き千切って床を蹴った。

 

「もらった!」

 

 高く飛び上がりこぶしをふりかぶる。それを狙いすましたように一本の鎖が多輝の肩を貫く。だが多輝は構わず蒼に殴りかかった。

 

 光が交錯する。多輝のこぶしは蒼の頬を掠めて畳にめり込んだ。同時に多輝もそのまま畳に突っ込む。脱力した多輝の影響を受けて氷は跡形もなく消えた。

 

「何とか当たりましたね」

 

 頬に出来たうっすらとした傷を指で押さえ、蒼が微笑む。多輝は畳にひっくり返って全身で息をした。視界がぼやけている。きっと深手を負ったためだ。多輝は顔をしかめて肩に手を伸ばした。その手に何かが触れる。

 

「今日はここまでに致しましょう。わたくしで宜しければまたお付き合い致しますので」

 

 急に痛みが消える。蒼が鎖を消したのだ。が、多輝は目でそれを確認することは出来なかった。深い息をついて全身に入っていた力を抜く。それだけで体力を激しく消耗していることがわかった。

 

 不思議な気分だった。水輝に滅多打ちにされた時とは全く別の感覚が身体を満たしている。多輝は自然と口許に笑みを浮かべた。気分がすっきりと晴れた感じがする。それに疲労感や痛みも何故か心地いい。

 

「失礼致します」

 

 ふわりと身体が浮く。蒼が多輝を抱き上げて歩き出す。多輝は力を抜いたまま身体を預けた。視界はぼやけているし、耳の奥では雑音が鳴っている。疲れすぎたためだろう。多輝は大人しく抱えられて目を閉じた。




視界がぼやける=カメラがぶれてる
なのですが、書けてないですね!><
すみません!
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