※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

130 / 240
(珍しく)シリアスです。
エロシーンはありません。



七章
捜索開始 1


 その日の朝、優一郎が教室に入るのを見計らったかのように全校放送がかかった。生徒会名義のその放送で呼び出され、優一郎は生徒会室に向かった。登校してくる生徒たちで廊下や階段は賑わっている。それを尻目に優一郎は最上階に続く階段を昇りきった。

 

 四階に上がって廊下を進む。途中から生徒たちの声は次第に遠くなった。足早に歩く優一郎の足音だけが廊下に響く。

 

「お待ちしておりましたわ」

 

 生徒会室で待ち受けていたのは要だった。だがいつもいるボディガードの姿がない。優一郎は挨拶をして生徒会室の奥に進んだ。勧められるままに椅子に腰掛ける。

 

「ちょっと諸事情がありまして、母の日記を拝見いたしましたの。そうしたらそこに吉良君の名前がありましたものですから」

 

 どこか疲れた顔で要が告げる。優一郎は訝りに眉を寄せた。ボディガードの不在といい、要の疲れた様子といい、普通ではない。要と言えばいつも高飛車な態度ではなかったか。優一郎は内心で首をひねった。

 

「栄子さんの日記? なぜあなたがそれを? いや、それをあなたが見なければならない事態になったと?」

 

 探るように訊ねてみる。だが意外にもあっさりと要は肯定してみせた。力なく頷いて目を伏せる。そして再び目を上げた要は真剣な面持ちで告げた。

 

「これは私的な事情ですのでご内密に願いたいのですけれど」

 

 そう前置きして要は語った。数日前から栄子の行方がわからなくなっているのだという。それを聞いた優一郎は心底、驚いた。何故なら要が告げたその日付は紛れもなく優一郎が栄子と会った日だったからだ。午後、学校の授業が終わってから優一郎は栄子の会社を訪ねた。かつてから協力している企画についての話をするためだ。何事もなく栄子との面談は終わり、優一郎は研究室に戻った。たったそれだけのことだが、まさにその日、栄子が行方をくらましたという事実に優一郎は言葉もなく呆然となった。

 

「誘拐、あるいは失踪されたと、そういうわけですね?」

「ええ。ですから母の日記に何か手がかりがないかと探してみた訳ですの。……もっとも、見つけたのは吉良君の名前だけでしたけれど」

 

 そう告げて要はため息をついた。道理で疲れている筈だ。きっと要は数日の間、ずっと気の休まる時がなかったのだろう。

 

「わかりました。僕の知る事実は全て話しましょう」

 

 それが手がかりになるならば、と優一郎は自分の知る栄子に関わることについて話し始めた。まず、信じられない話かも知れないがと前置きする。わらにもすがる思いなのだろう。そう告げた優一郎に要は真剣に頷いた。

 

 超常的な力を持つ存在について。栄子に暗示をかけた者の存在。栄子の総一郎への思慕。そんな栄子の思慕を利用し、優一郎を誘惑するように仕向けた暗示について。それらの話をする内に次第に要が青ざめる。だが優一郎はあえて要の様子を無視して続けた。

 

 それがきっかけで栄子と知り合ったこと。そして栄子から要のロボットの企画に協力するように頼まれた経緯を語る。

 

「日記の内容と、矛盾はありますか?」

 

 最後に優一郎はそう締めくくった。要が力なく首を振る。

 

「いいえ。吉良君の言った通りですわ。ですが、母の日記にはそこまで詳しいことは書かれていなかったから」

 

 少し驚きました。要はそう告げて微かに笑みのようなものを浮かべた。もしかしたら本人はそれでも笑っていたつもりかも知れない。優一郎はため息をついて背もたれに背中を預けた。要も疲れたように椅子に深く沈み込む。

 

「先ほど話した、暗示に対抗する薬品というか実態はマイクロマシンなんですが……それには副作用があるんです」

 

 言いながら優一郎は身体を屈めて膝に肘をついた。両手を軽く組んで顎に当てる。言うべきかどうか少し迷ったが、優一郎は心を決めて続けた。

 

「実は、トレースが可能になるんです。そして、非常事態だから結果オーライとして許してもらいたいんですが、足跡はずっとうちのコンピュータに記録されてるはずです」

 

 要が椅子を蹴飛ばして立ち上がる。机に乗り出し、要は優一郎につかみかからんばかりの格好になった。

 

「ほっ、本当ですの!?」

「ええ、研究室へ来て頂けますか、事情が事情ですから、すぐに解析にかかります」

 

 そう言って優一郎は立ち上がった。要が慌てたように優一郎に駆け寄る。動揺していたのだろう。要は生徒会の誰にも連絡することなく優一郎についてくる。優一郎もこの時は純粋に栄子の身を案じていた。例えば自分の身内が急に姿を消したら。そうしたら自分はやはり要と同じように動揺するだろう。そして恐らく出来る限りいなくなった者を探す。それこそ使える手は全て使う。要はきっとそういう状態になっているのだ。優一郎にはそのことがすぐに理解できた。

 

 階段を駆け下りる。無言で階段を降りる二人を登校してきた生徒たちが不思議そうに見る。実際、彼らにとって優一郎と要という組合せは珍しかっただろう。その上、要はいつものボディガードを連れていない。彼らの好奇の目を余所に二人は一気に一階まで階段を下りた。

 

 地下のその施設に要が入るのは初めてだった。優一郎はしばし扉の前に佇んだ。要に晒して問題のあるものは放置してはいない。見せられないものは全て地下二階にある。解析だけなら地下一階のコンピュータでも可能だろう。




長いので四分割してあります。
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