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「わたくしがよく行くジュエリーショップですの。……お母様はわたくしにプレゼントを買おうとしていたのだわ」
娘にプレゼントを買いに行く。きっと要が喜ぶだろうと想像しつつ、店内で買物をする。そして栄子はそこで誰かにさらわれたのだ。その店から次の点はかなり離れている。とても人が移動できるスピードではない。優一郎は画面に目を戻して目を細めた。口許に指をあてがって思案する。
通常なら車や何かで移動したと考えるだろう。が、そもそも車が乗り入れられるほど大きな道は店からずっと離れた場所にある。しかも車や何かで移動できる距離とは思えない。ヘリコプターなどが着陸できる場所ではないのも確かだ。
「瞬間移動?」
「何ですって?」
微かな呟きを聞き取ったのだろう。要が素っ頓狂な声をあげる。少なくともその言葉の示す意味だけは理解しているようだ。優一郎はため息をついて要を見やった。要は半ば呆れたような顔をしている。言葉では理解できていても実際に見た訳ではない。そのために要は優一郎の話をまだ信じきれていないのだろう。
「暗示や洗脳だけでなく、そのような力も持っているんです」
やはり、あの風の主の仕業か。優一郎は内心で呟きながら画面に目を戻した。現に店から離れた場所にある点の次に表示されるべき点が画面の地図上にはない。つまり、画面に表示されない地図にまで一気に飛んだということなのだ。
「じっ、冗談でしょう!?」
しばしの間の後に要は叫ぶようにして応えた。優一郎の肩をつかみ、力任せに引く。椅子が自然と回り、優一郎は正面から要と向き合う格好になった。
「瞬間移動なんて、そんな、小説や映画じゃあるまいし!」
どうして暗示や洗脳には反応しなかったのに、それには反応するのだろう。優一郎は不思議な気持ちでまあまあ、と要を制した。実際に目にしていなければ確かに信じがたくとも無理はない。人の形をしたものが目の前で消えるのだ。実際に目にしたことのある優一郎にとっても彼らの能力のことはまだ理解しきれていないのだ。
「存在すると言っても信じられないのはわかります。でも今は、存在することを前提に、この情報を見てください」
「だってあの男がそんなことできる筈がないわ!」
優一郎の言葉に要の叫びが重なる。優一郎は目を見張って要を見上げた。あ、と呟いて要が口許を手で覆う。優一郎はすっと目を細くして要を見つめた。
「要さんも、栄子さんに暗示をかけた相手と接触したことがあるんですね?」
悠然と足を組み、優一郎は静かにそう訊ねた。要は目を逸らして黙している。が、それが何よりの返事だった。間違いない。要は風の主を知っているのだ。
「とりあえず、栄子さんの行方を追うほうが先ですね。その人物が誘拐したと決まったわけではありませんし」
そう告げて優一郎は画面に向き直った。要が無言で頷く。優一郎は画面を切り替えて別の場所の地図を表示させた。三度目の切り替えで次の点を発見する。それは清陵からはるかに遠い場所だった。清陵が俗に吉良瀬の地と呼ばれているのに対して、その場所は木村のそれと呼ばれている。巨大な学園都市を中心にした土地だ。
「ここは……!?」
優一郎は手を伸ばして内線電話を取った。コール二回で相手が出る。
「保美先輩、すいません。果穂さんと一緒に、こちらに来ていただけませんか?」
それだけ告げて優一郎は電話を切った。どうしたの、という要の声に手をあげる。今は考えを中断されたくなかった。木村の地。それは巨大な実験場とも言われている。独特の自治体を持っており、あらゆる権力から切り離された場所だ。
殆ど待たずして二人が現れる。白衣に身を包んだ果穂の姿を見止めた要が目を丸くする。果穂はそんな要に小声で挨拶してから優一郎に近づいた。保美は黙ってドアのところに控えている。
「……なにごとなの」
愛らしい声で果穂が告げる。優一郎は画面を指差してみせた。それを見た果穂が僅かに眉を上げる。見覚えのある地図なのだろう。
「この場所、わかりませんか?」
言いながら優一郎は画面の点を指で押さえた。空色の点を果穂はしばし黙って見つめていた。ため息をついて腕組みをする。その顔は緊張に強張っていた。
「しっているわよ」
小さな声で果穂は告げた。それを聞いて優一郎は要を手で示した。要が慌てたように頭を下げる。果穂はそんな要と優一郎を見比べた。
要はここから巻き込まれていく感じですかねw