ロボット研究会の一員です。
エロシーンはないです。
趣味と実益を兼ねて、という単純な理由でちなりは街に出かけていた。目ぼしい店は全部覗いた。昨日までに稼いだ金はまだ残っている。ちなりは嬉しそうに微笑んで開いていた財布を閉じた。
唇を尖らせてリップクリームを塗る。ちなりは優一郎の手かげたヒューマノイドだ。が、身体は人とそっくりに見えるし性行為も可能だ。そしてちなりは優一郎の作ったヒューマノイドの中でも滅法、それが好きだった。
だってえ。好きなんだもん。唇の端にはみ出したリップクリームを小指で拭いつつ、鼻歌混じりに呟いてみる。デパートの最上階のトイレには今は誰もいない。閉店間際でデパートにいる人そのものが少ないのだ。
もう一度、鏡に向かって唇を突き出してみる。右に左にと顔を傾けて今日のご機嫌を伺う。うん、今日も可愛い。ちなりは満足そうに笑って頷いた。
今日はどんな男の人を誘おうかなあ。昨日のおじさまみたいにたくさんお金くれるといいけどなあ。そんなことを考えながらちなりはデパートを出た。
街に出ると一気に周辺が賑やかになる。ちなりは慣れた足取りで街の中を歩き始めた。胸元の大きく開いたシャツにジーンズのミニスカート。上にコートを着てはいるが、ボタンは全開で身体のラインがしっかり見えるようにする。髪は耳の上で二つに結わえ、ゴムを隠すようにピンクのボンボンがつけられている。そんなちなりに道すがら声をかけてくる男は多い。が、ちなりは自分の眼鏡にかなう相手以外は全く構わない。人の波に乗って歩を進める。
「ねえねえ、おじょうさあん。俺と遊ばない?」
「ビンボーそうだから、嫌」
また一人、そうきっぱりと叩きつけてちなりは知らん顔で歩き続ける。その背後でばかやろう、という怒鳴り声がしたがちなりはそれを無視した。ちなりにとってはよくある話だ。いつだったか忘れたが、集団で取り囲まれたこともある。その時、ちなりは優一郎に持たされた防犯グッズを駆使して集団をやり過ごした。騒ぎを聞きつけた警官に補導されかかったが、ちなりはその愛らしさを巧みに使い、結局はおとがめなしで解放された、ということもある。
道の途中で肉まんを買ってかぶりつく。口許についた餡を指ですくい、ちなりは道に目をやった。もしかしたら厄日かなあ。道行く男たちを品定めしつつ内心で呟く。いつもならものの五分もすれば目当ての男にありつける。なのに今日は三十分経ってもちなりのお気に入りは現れない。
あちこちの店から漏れる賑やかな音楽が道の上ででたらめに混ざる。ちなりは手の中で肉まんの包みを握り潰してごみ箱に放り込んだ。すとらーいく、と一人ではしゃぐ。そんなちなりを道行く人々が眺めていく。ちなりはコートのポケットに手を突っ込んで再び歩き始めた。
近頃ガッコがつまんなくてさあ。そんな話し声がちなりの耳に入って来る。見知らぬ通行人の会話にちなりはそうだよねえ、と内心で合鎚をうった。近頃、優一郎が構ってくれない。理由は判っている。忙しいからだろう。だがそれが何よりちなりにとって不満だった。
「ほんっと、つっまんないよねぇ」
言いながらちなりは足元の小石をかつん、と蹴った。小石は頼りなく転がって道端の溝に落ちる。あーあ、とため息をついてちなりは肩を落とした。今日はもう、かえろっかな。そう思いかけて頭を振る。
ちなりが帰る場所は学校だ。そしてそこには優一郎はいない。きっと今日もまた地下二階にこもっているに違いないのだ。ちなりはぷっと頬を膨らませて止まっていた足を動かし始めた。
店先に飾られた指輪を衝動的に買う。ちなりは店を出て指に嵌ったそれをじっと眺めた。背後で店員がありがとうございました、と礼をする。ちなりは適当に手を振ってまた道を行き始めた。
ばっかみたい。こんなの買っちゃって。歩きながらちなりは不機嫌に呟いた。店先で見た時はどれよりも輝いて見えたのに、暗がりで見るとただの石にしか見えない。ちなりは低く呻いて右の指から指輪を抜いた。発作的に指輪を放り投げようとする。が、そこでちなりはふと気付いた。
やば。まずいとこに入り込んじゃった。内心で呟いて周囲を見る。辺りにはピンク色に輝くネオンがひしめいている。普段、ちなりが避けている歓楽街だ。あちゃー、と額を手で覆ってちなりは急いで取って返そうとした。
不意に何かが目に留まる。ちなりは瞬きして足を止めた。見慣れたそれは確か清陵高校の制服だ。ちなりは急いで周辺を確認してダッシュした。ちなりには全速力だったが、それは傍目にはふらつきつつ早足で歩いているようにしか見えない。ちなりはヒューマノイドの中でも髄一の運動オンチなのだ。
「ちょっ、ちょっとあんた! こんなとこで何してんの! 補導されるよ!?」
言いながらちなりはその少年の肩をつかんだ。振り返った少年の顔を見てちなりは息を飲んだ。瞬きを数回繰り返す。
「なんだよ?」
不機嫌そうに少年が告げる。ちなりは驚きの余り、言葉に詰まってしまった。少年の肩をつかんだままうろたえる。
短めですがギリギリ4,000字弱だったので分けました。