※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

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要の母親、捜索中です。
エロシーンはありません。


どちらさまですの!?

 点が唐突に飛んだ場所からその場所に辿り着くまでには車で約半日。鉄道を使えばもっと早いのかも知れないが、小回りが利くという理由から要は車を出した。優一郎もそれに同意し、要と一緒に車に乗っている。

 

 突拍子もない話に続いて不穏な話を聞いた。結局、要は優一郎の無言の応えに卒倒した訳だが、それから意識を取り戻すまでにはさほど時間はかからなかった。すぐに打ち合わせを行って学校を出てから既に九時間が経過している。

 

 何度も疑い、その度に優一郎に説明された。だが、人にはあり得ない力を有した存在が実在しているとはどうしても信じられない。けれど栄子が行方をくらましたという事実には変わりない。要は無言で窓の外を見た。流れる景色はすっかり闇色に染まっている。

 

 あの日。何気ない風を装って現れた順のことを思い出してみる。あれから順は率先して栄子の行方を探ってくれた。が、それらの行動が全て偽りだったのだとすると。そう考えると要の心は暗く沈んだ。栄子に暗示を施したのは紛れもなくその男なのだと優一郎は断定した。確かめるまでは順と栄子を拉致した人物が同一であるかどうかは判らないとも言われた。けれど要は内心では順の仕業であると信じていた。本当は信じたくないのに、それ以外の可能性をどうしても肯定できないのだ。

 

 やがて車は大きな道から狭い山道に入った。ここからは街灯も少ないという。要は無言で運転手に頷いた。ぎりぎりで離合できるかという道を車は走り続ける。

 

 要はこの時にはもう、自分が順に惹かれつつあることに気付いていた。相手は栄子を拉致したかも知れない人物なのだ。どう考えても常識的にそんな想いを抱ける相手ではない。が、あの真剣な眼差しがどうしても忘れられない。弱っていた自分を抱えて起こしてくれたのは、たとえ偽りだったとしても順だったのだ。

 

 そんなことを考えていた要の顔は自然と暗くなった。ため息が零れる。優一郎はそんな要を時折、横目に見たが何も言わない。

 

 不意に視界が開ける。車はいつの間にか広い場所へと出ていた。ゆっくりと停車する。そこは山の中にあるドライブインだった。ここから木村の地がよく見えるという。要は運転手に待つように告げ、急いで車を降りた。同時に優一郎も降りてくる。

 

 ガードレールの向こうに暗闇が広がっている。その先に小さな光の点が散りばめられている。こんな状況でなければ綺麗だと素直に感嘆できたのかも知れない。要は食い入るようにその明かりを見つめた。

 

「罠かもしれません。僕は覚悟はできていますけど」

 

 隣に並んだ優一郎が静かに告げる。要は目を動かして優一郎を見た。真っ直ぐに光を見つめるその目は真剣そのものだ。栄子のために、いや、要のために優一郎はここまで付き合ってくれている。要は毅然と胸を張って頷いた。

 

「わたくしにも覚悟は出来ていますわ」

 

 そう告げて要は光に目を戻した。丸い円を描くように光が並んでいる。そして所々にある大きな輝きは、きっと企業のビルのそれだろう。赤、青、白、そして緑。様々な色の光がそこにはあった。

 

「おや? また妙なところで会うじゃないか」

 

 知らない声が聞こえてくる。要はびくりと肩を震わせて振り返った。見知らぬ青年が近づいてくる。警戒心を露にする要とは対照的に優一郎は微笑を浮かべてその青年に会釈をした。

 

「まさか、来て頂けるとは思いませんでした」

「ふうん?」

 

 そう告げて青年は口許に嗤いを浮かべた。それを見た要の背に悪寒が走る。何故だろう。これと同じものをいつか見た気がする。そんな要の動揺を余所に優一郎は青年に近づいた。紙コップを片手に青年が立ち止まる。

 

「へえ。全部知ってるのか。じゃ、別に隠すこともないか」

 

 薄く笑いながら告げた青年の眼差しは真っ直ぐに要に注がれている。要は何故か一歩、下がった。ガードレールが腰に当たる。

 

「木崎と名乗った男は、やはり、彼、ですか?」

 

 伺うように優一郎が訊ねる。だが青年は優一郎に答えない。どうだろうなあ、と笑っている。そんな青年を見た要は猛然と肩を怒らせた。大股で青年に近づいて指を突きつける。確かにちょっと格好いいですけど、と内心で断って目を吊り上げる。

 

「あなた、下手な隠し立てをするとただではすみませんわよ!?」

「おお、なかなか威勢のいい女だな」

 

 青年がわざとらしく手を打つ。が、紙コップを握っていたために音はなかった。ばかにしたその態度に要はさらに食ってかかった。

 

「そんな風にごまかそうとしても無駄ですわ! さあ、知っていることを全て白状なさい!」

「そうか。誰かに似てると思ったんだ」

 

 ぽん、と青年が膝を叩く。要は不信感一杯だったが一応、答えを聞くまではと口を噤んだ。困った顔で優一郎は要と青年を見比べている。

 

「都子そっくりだなあ、お前」

「は?」

 

 うんうん、と青年は一人で頷いている。はねっ返り方がそっくりだ。そうも言っている。だが要には何のことか判らなかった。首を傾げて目を細める。青年はそんな要の頭を無造作に撫ぜ、次いで優一郎に目を移した。

 

「おれはちょっと変な気配を追ってここまで来ただけだ。お前の言った木崎ってやつはおれも知らないぞ?」

 

 言って青年はのんびりと紙コップを傾けた。何ですって、と要が声を裏返らせたところを優一郎が制する。要は渋々押し黙った。苛々しながら青年を睨む。が、青年は少しも堪えるところがないらしい。それも余計に要の癪に障った。

 

「変な気配、とは?」

 

 あくまでも穏やかに優一郎が訊ねる。要は気が気ではなかった。青年が何がしかの手がかりを持っていることは間違いない。現に青年は優一郎がこの場にいる訳を一つも訊ねていないのだ。それは優一郎がここに何をしに訪れたかを知っているということだ。

 

「絶滅種」

 

 それだけ言って青年はまたコップを傾ける。意味が判らない。要は苛立ちに任せて青年に飛びかかろうとした。とにかく知っていることを全部吐かせたい。そんな思いでつかみかかろうとした要を優一郎が慌てて止める。

 

「龍神の? ですか?」

 

 暴れようとする要を羽交い絞めにし、優一郎はそう告げた。要は懸命にもがいたが、意外にも優一郎の拘束は強い。放せ、と怒鳴ろうとしたその瞬間、青年がゆらりと動いた。息を飲む間もなく要の額に指が触れる。その一瞬で要の意識がぐらりと揺れた。

 

「ちょおっと眠っててくれ。話が済んだら起こしてやるさ」

 

 それを境に要の意識は途切れた。




要視点だと「どちらさまですの!?」なんですよね……w
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