(意味:ちらっとだけエロいけど、本番はありません)
ちょっと長めですが一気にアップです。
その公園は薄暗かった。繁華街の脇にあるにしては人の声も遠い。昼間なら子供達の遊ぶ声が響いているのかも知れないが、今は誰の声もしない。ちなりは伺うように周囲に視線を走らせた。その視線を遮るように猫が一匹、走り抜ける。
悲鳴を慌てて飲み込んだちなりの肩を抱く手に力がこもる。どきんどきん、とちなりは少年の胸の鼓動に合わせて心の中で呟いてみた。自然と頭を傾けて耳を胸にぴったりとつける。
「ねえ、どきどき言ってる。おっきな音で」
鼓動が耳の鼓膜を一定間隔でノックする。ちなりはその音に耳を傾けて目を閉じてみた。視界を完全に閉ざすと音が余計にはっきりと聞こえる。
「どれどれ」
くすくすと笑って少年はふわりと手を放した。ちなりは慌てて目を開けてその場に立ち止まる。暗がりに放り出された気分になる。だが少年はちなりの思惑とは反対に目の前にしゃがんでいた。
つきん、とした痛みのような感覚が身体に走る。少年はちなりの左胸に耳を当てていた。少年の体温が服を通して伝わってくる。はっきりと少年の存在を間近に感じると、それだけでちなりの鼓動は速くなった。
「ほんとだ、どきどきいってる」
細いちなりの背中に少年の手が回る。ちなりは懸命に声を殺して目を固く閉じた。柔らかな乳房を押さえていた少年の頭が少しだけずれる。ちなりは小さな掠れた声を上げて少年の頭を押さえた。
「や、やだあ。こんなとこでっ。見られちゃうよう」
ちなりは俯いて少年にそう囁いた。足が自然と震えてくる。周囲を見ると数は少ないが人が行き来しているのが判る。ちなりは真っ赤になって少年を引き剥がそうとした。が、意外にも強い力で少年はちなりを抱いている。
「見られたほうが、感じるんじゃない?」
言いながら少年がまた少しだけ頭をずらす。ちなりは涙ぐみながら懸命に声を殺した。胸の膨らみの先で色づく乳首が少年の頭に巧みに擦られているのだ。
「やっ、やだってばぁ。意地悪っ」
頬を膨らませてちなりは少年の頭を強く押した。くすくすと笑いながら少年が頭を胸に擦り付ける。うっ、と息を飲んでちなりは唇を噛んだ。
「嫌なら、やめてもいいよ」
公園の路地にはぽつんぽつんと外灯が光っている。ちなりは焦ったように視線だけで周囲を伺った。抱き合う二人を妙なものでも見るかのように人々が眺めていく。ちなりは強引に少年の腕から抜け出して胸を隠すように腕を回した。
「こ、こんなところ、人がいっぱい通るのにっ」
ちなりは出来るだけ平静を保って少年に告げた。少年は困ったように笑って周囲を見回している。人の通りがあることには少年自身も気付いていたのだ。頭をかきながら身体を起こし、少年はちなりに笑いかけた。
「じゃあ、人のいないところならオッケー?」
悪戯っぽい笑い方にちなりはすぐには答えられなかった。優一郎は絶対にそんな顔をしない。どちらかと言うといつも穏やかで、時折、ちなりとの会話で楽しそうに笑う。そんな笑いしかちなりは見たことがなかった。
へんなの。この人は部長じゃないのに。ちなりは自分の考えを否定するように頭を振った。すると少年が不服そうに声を上げる。ああ、とちなりは慌てて手を振る。どうも少年はさっきのを返事だと思ったらしい。
「ちっ、違うのっ! ええと、お、おっけー」
いつもなら照れることなく案に乗る。その程度にはちなりは男と過ごす時間に慣れている筈だった。なのにこの少年にはペースを崩されっぱなしになっている。これじゃあ、いつもみたいに出来ないかも。不安になるちなりに少年はにっこりと笑って手を伸ばした。
「じゃ、行こうか?」
ちなりの手を取った少年が歩き出す。ちなりは慌ててついて歩いた。
公園の奥に入ると段々と人気がなくなっていく。うっそうと茂った木々が小道を挟んでいる。外灯が時折、明滅する。蛍光灯、切れかけてる。ちなりは明滅する外灯を発見するたびに、そう内心で呟いた。
優一郎が構ってくれない学校はちなりにとって酷くつまらないものだった。でも、と内心で呟いてちなりはこっそりと少年を見た。少年は真っ直ぐに前を向いて歩いている。
不意に何かが指の間で蠢く。ちなりは驚きに目を見張って足を止めた。少年がちなりの指に自分の指を絡め、巧みに撫ぜているのだ。
「あっ、んっ……ふぅっ」
自然と声が漏れる。ちなりは目を潤ませて少年を見つめた。空いていたちなりのもう片方の手も握り、少年は両手の指を動かし始めた。
「どしたの?」
ちなりと向き合ったまま、少年が告げる。ちなりは声を殺して目を固く閉じた。そうすると余計に指の感覚が鋭くなる。
気持ちいいよう。こんなの、初めてかも。ちなりは潤んだ瞳で少年を見つめ、一歩傍に近づいた。二人の繋いだ手が挟まれるようにちなりと少年の胸の間に納まる。
「ねえ……ちなり、捨てられちゃうのかなあ」
少年の指に指を絡め、ちなりはぽつりと呟いた。切れかけた蛍光灯のように、そのうちに捨てられてしまうのだろうか。そんな不安がこみ上げてくる。少年は不思議そうにちなりを見つめ、次いで苦笑した。
「捨てられるって? 彼氏に?」
「ううん……あっ。そこ、気持ちいい……」
「じゃあ誰に? ちなりちゃん、こんなに可愛いのに」
くすぐるように指を撫でられ、ちなりはうっとりとため息をついた。部長は彼氏じゃないもん。少年の胸に頭をもたせかけて呟く。すると少年がぴたりと指を動かすのを止めた。慌てて顔を上げる。
「遊びの関係ってこと?」
急に真顔になって少年が訊ねる。ちなりは慌てて空笑いしながら少年の手を解いた。違うの、と手を振ってみせる。
「ご、ごめんねぇ。判んないことゆって。えっと、今の、ナシ。忘れて」
どのくらい優一郎に触れられていないだろう。そう考えると余計に辛くなる。だからちなりは暗い考えを振り捨てるように笑った。だが少年は真剣な面持ちを崩さない。変だなあ。ちなり、笑ってるのに。ちなりはそう思いながらどしたの、と少年に訊ねた。
「別に、捨てられてもいいじゃん」
ぼそっと殆ど聞き取れない声で少年が告げる。ちなりは驚きに目を見張った。ぴたりと笑いが止む。
「なんでそんなことゆうの? ちなり、捨てられたら……捨てられちゃったら」
死んじゃうのに。ちなりはその先の言葉を飲み込んだ。力なく俯いて息をつく。すると少年はちなりの肩をそっと抱いて励ますように告げた。
「新しい男見つければいいじゃない。もっと甲斐性ある奴」
そっと頬に何かが滑る。ちなりははっとして顔を上げた。いつの間にか泣いていたことにようやく気付いたのだ。ちなりは照れ隠しに精一杯の笑顔を見せた。が、ちなりが思った通りに笑みにはならない。半泣きの顔になったちなりを見つめ、少年は呟くように言った。
「ごめん。そいつの事、そんなに好きなの?」
「……判んない。ちなり、そういうこと考えたことないから」
好きってどういうことだろう。前ははっきりと優一郎を好きと言うことが出来たのに。今はどうしていえないのだろう。ちなりはぼんやりと考えていた。するとちなりを抱く腕に力を込め、少年が不機嫌そうに顔を歪めた。
「なんかむかつく、ちなりちゃんこんな風に泣かせて、平気で居る奴、許せないな」
「えへへ」
ちなりは顔をほころばせて少年の胸に抱きついた。驚く少年の胸に顔をすり寄せる。ちなりは嬉しそうに微笑んで腕に力をこめた。ぎゅっ、と少年を抱きしめる。
「ちなり、嬉しい。そんな風に言ってくれたヒト、初めてだよぅ」
ちなりのことを思って本気で怒った者は今まで一人もなかった。優一郎はちなりにはとても優しいが、それだけだ。例えばちなりを本気で怒ったり、または心配して感情を剥き出しにしたりはしない。そういう意味で言えば少年はちなりにとって初めての存在だった。
「じゃあさ、逆転の発想してみない? ちなりちゃんから、そいつを捨てちゃうの」
耳の奥で声が聞こえる。ちなりは心地のいい低音に耳をすまして目を閉じた。鼓動の音に少年の声が重なると、それだけで綺麗なハーモニーに聴こえる。今まで聴いていた街中のあのごった煮のような喧騒とは全然違う。
何だかいいなあ、このヒト。すっごく安心する。
するりと腕を伸ばし、ちなりは少年の首にぶら下がった。まだ憤っていたのだろう。少年がちなりの急な動きに驚き、目を見張る。ちなりは背伸びして少年に軽く口づけた。ちゅっ、と音を立てて唇が離れる。
「そうしたら、俺が貰ってやるからさ。そんな甲斐性無し振っちまえよ」
ちなりの耳元に少年が囁く。その手が腰に回り、ちなりの細い身体を強く抱く。ちなりは嬉しさに満面の笑みを浮かべ、うん、と無邪気に返事した。
ちなりはかなり切羽詰まった状態です。