※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

140 / 240
要と運転手が眠ってしまいましたので、優一郎視点です。
エロシーンはありません。


割れないコップ 1

 要の身体が傾ぐ。腕の中で脱力した要を抱え、優一郎はため息をついた。あの一瞬で要は眠らされてしまった。もし、自分がその力を食らったらやはり同じように眠りについてしまうのだろう。そう思うと今更ながらに水輝の力の強さに驚いてしまう。

 

「別にさ。教えてもいんだけどな。でも、知らない方がいいってことも世の中にはあるし」

 

 言いながら水輝は片手で器用に煙草を取り出した。ポケットから一本だけ抜いて唇の間に挟む。優一郎はぼんやりとそんな水輝を見つめていた。ライターを灯して煙草の先に火を点ける。そんな些細な光景が何故か新鮮に見える。

 

「ですね。知るべき事は、嫌でも耳に入ってしまうものですし」

 

 そっと呟くように言いながら優一郎は腕の中に目を落とした。きっと要はこれから龍神たちとは全く関わりのない人生を歩んでいくだろう。そんな要をあえて巻き込むことはない。

 

 それから水輝は要を車に戻してくるように告げた。優一郎が要を抱えて戻った時、運転手は蒼白になっていたが、ついでだとばかりに水輝が運転手まで眠らせてしまった。車の中は暖かい。眠っていても風邪をひくことはないだろう。笑いながら告げた水輝になにか納得できないものを感じつつ、優一郎は再びあの景色の見える場所に戻った。

 

「さっき言った絶滅種な。氷の龍神なんだけどさ」

 

 短くなった煙草を吐き捨て、水輝はまたポケットに手を伸ばした。優一郎は水輝に目をやって首を傾げた。

 

「それって水輝さんの担当分野だと思ってました」

「ああ、管轄的にはおれだな。氷龍神はおれの配下的立場だった龍神だ」

 

 その昔、龍神たちの間で大きな戦いが繰り広げられた。その際に滅びた一族なのだと水輝は告げた。

 

「その絶滅種が復活をとげた、と?」

 

 優一郎は出来るだけ言葉を選びつつ訊ねた。以前、立城に言われたことがどうしても頭から離れない。言葉の持つ意味と力。それについては常に考えなければならない。言葉一つが様々な事柄を動かしてしまうと優一郎は理解していた。

 

「そう思ってな。気配がまるっきりそれだったから追っては来たものの……なーんか、やな感じすんだよなあ、この辺」

 

 そう吐き捨てて水輝は周囲を見回した。空のコップに灰を落とす。優一郎は無言で水輝の動きを見つめていた。氷の気配。考えを巡らせるが心当たりがない。

 

「やっぱり、罠なんでしょうか?」

「罠? ああ、さっき言ってた奴か。どうだろうなあ……あいつ、変態だからな」

 

 顔をしかめてそう告げ、水輝は頭をかいた。せりふの最後の部分に不穏な言葉を見つけ、優一郎は思わず眉間に皺を寄せた。どういう意味だろう。そうは思ったが問い返すのもなんだか怖い。

 

「で? おれはそっちの事情はぜんっぜん知らないんだけど? まさか知ってるつもりで話してるんじゃないだろな」

 

 悪戯っぽく笑って水輝が片目を閉じる。それを聞いた優一郎は目を見張った。水輝といえばセットで思い浮かぶほど、あの立城が深く関わっている筈だ。その立城が知らないということはあり得ないだろう。そう思ったのだ。

 

「ということは、本当に偶然だったんですか?」

 

 目を丸くしたまま問う。水輝はああ、と笑ってガードレールにもたれかかった。身体を預けて視線を前方に飛ばす。

 

「そもそも偶然はあり得ないってのがあいつの言い草だがな」

「いや偶然も必然も一緒ですね。こちらの事情を、お話ししましょう。無謀だと言われてしまうと思いますが」

 

 そう前置きして優一郎はこれまでにあった出来事を話し始めた。優一郎自身は淡々と話しているつもりだったし、水輝も特に変わった反応はしない。無言で煙草をくゆらせながら聞いているだけだ。

 

 やがて優一郎は全てを話し終えて息をついた。ふうん、と水輝が呟く。

 

「つまりあれか。まんまとかき回されてるってことか」

 

 情け容赦なく水輝が切り返す。優一郎は一瞬、呆然として次いで苦笑した。どんな話をしても水輝には容赦なく要約されてしまうのかも知れない。優一郎は口許に笑みをたたえたまま告げた。

 

「ですね。地雷原に突入するのは一人で充分でしょう。氷の龍神の件。承りました」

「無理だなあ、それ」

 

 のんびりと煙草をふかしつつ、水輝が呟くように応える。優一郎は不思議な気分で水輝を横目に見た。ガードレールに上半身を預け、水輝は静かに街の明かりを見つめている。

 

「ですよね」

 

 切り返されるか、それとも合意されるか。どちらかの応えを待っていた優一郎は感情の失せた声で応えた。水輝は変わらず街を見つめている。

 

「あそこに行くんだろ?」

 

 そう告げて水輝は煙草の先で街をさし示した。優一郎は頷いて肯定する。

 

「ええ」

 

 出来れば行かない方がいいのではないか。そんな思いはずっとある。そもそも、栄子の居場所を示す点があちこちに散っているということは、要するに既に身体がばらばらにされている可能性が高い。それを要に言わなかったのはひとえに傷を深くしたくなかったからだ。

 

「お前、見えないかなあ。見えそうなんだけど」

 

 ぼやくように水輝が告げる。何のことだろう。優一郎は素直に水輝に言葉の意味を訊ねた。あー、と低く呻いて水輝が頭をかく。




水輝ってものすごく言葉が足りないんですよね……。
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