エピタイセンスゼロですね!w
あ、エロシーンはないです。
かなり長いので5か6分割します。
二つ折りの携帯電話を閉じて舌打ちをする。優一郎は鋭い眼差しである一点を見つめていた。
ここまではヒッチハイクで何とか来ることが出来た。が、木村の地と呼ばれるこの辺り一帯は大きな壁で覆われており、出入りするにはある一箇所を通らなければならない。そこはどうやら出入りする人間のチェックを行っているようだ。優一郎は道端に並ぶ木々の間に身を潜め、そっと息をついた。
恐らく見つかればただでは済まないだろう。が、誰にも見咎められずにあの壁の向こうに行く方法が見つからない。運んでくれたトラックの運転手は怯えたようにこの付近で優一郎を降ろしてしまったのだ。あんなとこ、いけるわけない。そう吐き捨てられた男の声がまだ耳に残っている。
この地は丘で囲まれているらしい。要の言葉を思い出す。だが実際には丘の麓に壁が立ちはだかっている。降りしきる雨が優一郎の視界を遮る。優一郎は目を細めて出入り口を睨んだ。壁伝いに進めば別の出入り口があるのかも知れない。が、ここまで余所者を排除しようとする姿勢から、別の出入り口もここと似たような状況だということは簡単に判った。
どうするかな。優一郎は口の中で呟いた。雨は容赦なく優一郎の体温を奪っていく。このままここに張り付いていれば確実に身体を壊してしまう。そう考えてから優一郎はふと眉を寄せた。ちなりの震える声が何故か心の奥底に蘇る。壊れそうなの。そう告げたちなりの声はいつもとどこか違っていた気がする。
だが今はそんなことを考えている場合じゃない。優一郎は首を振って思考を切り替えた。時折、車が道を走って過ぎて行く。一刻も早く。優一郎は次第に焦り始めていた。栄子の居場所を示す点はもしかしたらこんなことをしている間にも動いてしまうかも知れない。そうしたらまた最初から探し直さなければならないのだ。
不意にライトが優一郎の姿を照らし出す。優一郎は眩しさに目を細めて目元に手を翳した。夜に一人、しかも雨に濡れている優一郎のことを不審に思ったのだろうか。車が路肩に寄って停まる。優一郎は反射的にその場から逃げようとした。
「あっれぇ? どしたの、優一郎くぅん。おーい」
駆け出そうとした優一郎の背中に声が飛んで来る。優一郎は驚愕に目を見張って振り返った。傘をさして一人の男が手を振っている。
「葵さん?」
優一郎はそう声をかけて瞬きをした。どうしてここに葵がいるのだろう。葵は笑いながら手を振って寄ってくる。ガードレールを越えて近づいた葵は持っていた傘を優一郎にさしかけた。
「こんなトコで何してんの? まさか散歩じゃないっしょ?」
雨が傘に遮られて音を立てる。優一郎はしばし葵を凝視してから我に返った。そうか、と内心で呟く。葵は木村系列の会社に勤めている。しかも社長付きの秘書だ。もしかしたら葵は木村の地に用事があるのかも知れない。
「重工のプラントを見学しようと思って来たんですが、まさかあそこまでセキュリティが厳重だとは思わなかったので」
「あー……。あそこねぇ。変だよねー。あーんなに厳重にしなくてもいいのにさぁ。作った奴、なに考えてるんだか」
そう言いながら葵はポケットから煙草を取り出した。優一郎に煙草を示して目配せをする。どうやら吸ってもいいかという意味らしい。優一郎は苦笑して頷いた。
ふわり、と生暖かい風が吹いてくる。紫煙が風に流れていく。
「ええ。例の件もあって叔父に頼るわけにもいかなくて、直接見に行こうと思ったんですが」
「だからってずぶ濡れになることないのに。んでもまあ、急に降り出したからねぇ」
呟いて葵が空を見上げる。それから葵はため息をついて目を戻した。唇の端に咥えた煙草が揺れる。揺れる赤い火を優一郎は静かに見つめた。
「んー。見学できるかどうかは知らないけどさあ。とりあえず、乗ってく?」
「お願いします」
優一郎は軽く頭を下げて告げた。葵はうん、と答えて歩き出す。唐突に放られた傘を慌てて受け止め、優一郎は目を上げた。葵が車の傍で手招きをしている。優一郎は慌ただしく車に近づいた。
タオル、後ろにあるから。まず髪を拭いて。そっから上着脱ぐ。葵の言葉に優一郎は無言で従った。そうしているうちに出入り口が近づいてくる。優一郎は自然と緊張に身を固くした。
「上着、後ろに隠せ」
葵がぼそりと告げる。優一郎は頷いて制服の上着を後部座席に隠した。葵が窓を開けてだらしない笑みを警備員らしき男に向ける。
「ういっすー。毎度ぉ」
言いながら葵はダッシュボードから何かを取り出した。どうやらIDカードらしい。警備の男は顔をしかめてカードを受け取った。手にしていた携帯端末のスロットに入れ、画面を確認してからカードを葵の手に戻す。
「そっちの子供のはどうした?」
警備の男が顎をしゃくる。優一郎は膝の上に乗せたこぶしに力を込めた。緊張に身体が震えそうになる。だがそれを懸命に堪えて優一郎は目を上げた。まともに警備の男と目が合う。
「それがさあ! 聞いてよ、もう! あんまり戻らないから迎えに行ったんだけどさあ! コイツ、あそこの池にはまっちゃっててさあ! もー、オレがどんなに大変だったか!」
不機嫌そうに言いながら葵が後ろを指す。優一郎は出来るだけ不自然に見えないように警備の男ににっこりと笑いかけた。警備の男はああ、と言いながら車の後方に目をやる。
ここぞという時に出てくる葵です。