※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

150 / 240
ちょっと長めです。
前の続きです。
エロシーンはありません。


潜入して捜索 4

 不意に地面が大きく揺れた。葵が急ブレーキを踏む。ダッシュボードに突っ込む形で優一郎は頭を打った。額を押さえて顔を上げる。不服を込めて横を見る。だが葵は愕然と目を見開いて前方を見つめていた。

 

 火の手が上がっている。それを見た優一郎も言葉をなくした。震える手で上着のポケットを探る。急いで出したそれは携帯電話だった。ポイントの位置を表示させる。

 

「とにかく、行ってみよう」

 

 低く呻くように葵が告げる。優一郎は緊張に身体を強張らせて頷いた。

 

 車が走る。途中、立ち入り禁止だと言われたが葵が無理に話を通して車を敷地内に乗り入れてしまう。広大な敷地の真ん中で燃えている建物がある。赤い火が揺れて空を焦がす。

 

 電話の画面のポイントの位置と優一郎の立っている場所はぴったりと一致していた。空を見上げる。だがそこにあるのは黒い雲だけだ。絶え間なく雨は降り続いている。

 

「……随分と……豪快に燃えてるねえ……」

 

 ぼんやりと葵が呟く。煙草に火を点けようとするが、その手が震えて上手く着火できないようだ。優一郎は静かに歩み寄って葵の手からライターをとった。変わりに火を灯す。葵は無言でライターに煙草を寄せた。

 

 葵の手にライターを押し付け、優一郎はその近くをうろつき始めた。どこかに入り口がある筈だ。そう思いながら探して歩く。その後を慌てたように葵が追ってくる。

 

「上には何もありませんから、今、この場の真下です」

「え、だって優一郎くんの言ったポイントってあの建物じゃないの?」

 

 驚きに目を見張って葵が炎を指差す。優一郎は入り口を探しながらちらりと葵を振り返った。葵は顔を強張らせている。

 

「ですから、先ほどGPSで確認しました。ここの真下です」

「えっ、ここって地下あるの?」

 

 そう叫んだかと思うと葵は優一郎を走って追い越した。焦ったように周辺を探し始める。

 

「上には何もないですから」

 

 それから十分後、二人は地下に続く入り口を見つけることが出来た。人が一人、ようやく通れるほどの狭い階段が続いている。敷地の真ん中周辺は大騒ぎになっている。消防車が何台も集まり、懸命の消火作業も続けられている。それを尻目に優一郎は地下に続くドアをくぐろうとした。が、その寸前に肩をつかまれる。

 

「オレが先に行くよ。キミ、後ろからついてきて。それってポイントの位置がわかるんしょ?」

 

 優一郎は葵の言葉に神妙に頷いた。それから後ろでナビお願い、と言われる。優一郎は判りましたと告げて葵の後に続いた。

 

 扉を閉めると階段は真っ暗になった。葵がライターの火を灯す。頼りないその明かりだけを目印に二人は進み始めた。ゆっくりと階段を降りる。優一郎は電話を開いて捜索用の画面を呼び出した。ポイントの位置を葵に説明する。葵は判った、と頷いて階段を降りて行った。

 

 まるで地獄に堕ちていくようだ。感慨に浸る場合ではないと知りつつも優一郎はそんなことを思った。ゆらゆらと揺れる小さな火だけを頼りに進んでいるからだろうか。どうしても不安になる。

 

 どこまでも続くと思われた階段はある地点で途切れていた。今度は廊下が続いている。葵が小さな火を翳して先を照らそうとする。が、ライターの火は僅か先を照らしただけで奥がどうなっているのかは判らない。

 

「とにかく行くしかないかな。見えないしね」

 

 言いながら葵は右の壁に手をあてがってゆっくりと進み始めた。優一郎は後を追いながら電話を閉じた。地下に入ってしまってはポイントを捕捉することは出来ない。だが、あの時表示されたポイントは間違いなくこの先にあった。

 

「そうですね。確かにポイントはこの先です」

 

 受信側の機能をもっと充実させなければならない。優一郎は改良点を心の中で思い浮かべながら廊下の先を睨むように見た。暗い廊下には変わったところはない。ごく普通に前に伸びているだけだ。

 

 だが次第に廊下は広くなっていった。人一人がようやく通れる幅から二人並んで歩ける程度にまで広がる。優一郎は自然と葵と並んで歩き続けた。葵は伺うように前方を見つめている。

 

 不意に視界が遮られる。二人は扉の前にたどり着いて足を止めた。葵が優一郎に目配せする。優一郎は黙ったまま頷いた。この先に何があるのか判らない。自然と身構える。

 

 軋みを上げてドアが開くと一気に視界が明るくなった。眩しさに目を細める。優一郎は手を翳してその部屋の様子を伺った。真っ白な部屋だ。

 

「……なに、ここ。気持ち悪いなあ……」

 

 隣で葵が呟く。だが優一郎はその声を聞き終わる前に駆け出していた。部屋の中央に据えられた硝子のケースに飛びつく。葵がその後から駆けて来る。

 

 部屋の中には小さな椅子が幾つか散乱していた。壁際にはロッカーが並んでいる。硝子で仕切られた壁が一枚、その向こうには何やら操作盤のようなものが設えてある。もしかしたら部屋のどこかを外部から操作するためのものかも知れない。

 

 部屋の中央には硝子の壁に覆われたケースがあった。優一郎は懸命に硝子を殴った。が、びくともしない。

 

「この人? もしかして」

 

 葵が低い声で訊ねる。優一郎は返事をする間も惜しんで硝子に肘をぶつけた。ケースの中には栄子が横たわっている。身体中傷だらけになっているが、ごく小さくその肩が動いているのだ。きっと呼吸しているに違いない。

 

「退いて!」

 

 鋭い声が飛んで来る。優一郎は反射的に身体を伏せた。葵が手近にあった椅子をつかみ、硝子に向かって叩きつける。だがそれでも硝子はびくともしなかった。

 

「コンソールから、操作できるかもしれません」

 

 叫ぶように告げて優一郎は来たのとは別のドアに飛びついた。が、鍵がかかっているのか開かない。葵が先ほどと同じように硝子の壁に向かって椅子を叩きつける。だがこちらも傷一つつかない。

 

「仕方ないな。ちょっと待ってて」

 

 そう言ったかと思うと葵は硝子のケースに手をあてがった。金属の枠を指先で握って強く床を蹴る。唖然とする優一郎を余所に葵は身軽にケースに飛び乗った。ポケットから煙草を出して火を点ける。ふと、その仕草が誰かを連想させる。優一郎は目を細めて葵を見上げた。




そういえばこの話には携帯電話がよく出てきます。
今でいうところのガラケーです!w
書いてる当時はスマホはなかった……。・゚・(ノД`)・゚・。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。