※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

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お嬢様のはずですが、要は根性マンですw
エロシーンはありません。


八章
突撃! 要の根性


 要は運転手の首を半ば締めるようにして叫んだ。

 

「いいから突っ込みなさい! わたくしが突っ込めと言っているのが判らないの!?」

 

 目の前にはゲートがある。あと数メートルというところで運転手は車を停めてしまったのだ。

 

「でっ、ですが、要様! この先は余りにも危険です!」

 

 悲鳴じみた声を上げて運転手が頭を横に振る。要は目を吊り上げて運転手を前後に揺すった。路肩に停めた車が大きく揺れる。ぐえ、という呻きのようなものを漏らして運転手は手足をばたつかせた。

 

 いつの間に眠ったのか判らない。気付いた時、要は運転手と二人、車の中に取り残されていた。優一郎の姿はなかった。要は急いで車を回し、何とか木村の地に近づいた。だが要の予想をはるかに上回り、警備は厳重だった。木村の地の周囲を大きな壁が取り囲んでいる。そして出入り出来るのは検問のようなゲートのみだ。

 

「か、かなめ、さま! おやめください!」

 

 涙目になって運転手が叫ぶ。要は舌打ちをして運転手から手を離した。これでは埒があかない。優一郎がいなくなっていた、ということはここに入り込んでいる可能性が高い。母親のことを他人に任せて自分だけのうのうとしていられるものですか! 要は憤慨しつつ乱暴に後部座席のドアを開けた。

 

 無言で運転席を開ける。運転手は訳がわからないという顔をしている。雨を全身に受けながら要はきっぱりと言った。

 

「変わりなさい」

「は!?」

 

 運転手が素っ頓狂な声を上げる。要はだが厳然とした態度で同じことを繰り返した。途端に運転手が慌てて首を振る。

 

「いっ、いけません、要様! 要様は運転免許が」

「うるさいですわ! ええい、降りないのなら引きずり降ろします!」

 

 言うが早いか要は運転手をドアの外に引きずり出した。悲鳴を上げて要にすがり付こうとする運転手を振りきってドアを閉める。要はきっちりドアにロックをかけてハンドルを握った。

 

「アクセル、ブレーキ、クラッチ。大体は判りますわ!」

「だ、大体って! 要様!」

 

 窓を叩きながら運転手が喚く。だが要はそれを無視した。ギアをローに入れてアクセルをふかす。右足でブレーキも同時に踏んでエンジンの回転数を上げる。これまで運転などしたことはない。だが人間、その気になれば何でも出来る。根拠のない自信を胸に、要は踵でアクセルを踏み込んだ。タイヤが軋みを上げて回転する。

 

「いきますわよ!」

 

 クラッチを離しながらブレーキを一気に解除する。すると車は甲高い音を立てて急発進した。要はハンドルを握り締め、気合の声を発しながらアクセルを一杯に踏んだ。周囲の車を蹴散らしてゲートに一直線に向かう。

 

 ギアを一気にサードに入れる。途端に凄まじいGがかかる。要は歯を食いしばってゲートに突っ込んだ。車を遮るための黄色と黒の遮断機が激しい音を立てて根元から吹っ飛ぶ。ゲートに構えていた警備員たちが慌てたようにゲートから離れる。

 

「邪魔したらひきますわよ!」

 

 叫びながら要はハンドルを切った。スリップしながら車が道を曲がる。最後に示されたポイントの位置は覚えている。要はギアをトップに入れてノンストップで目的地に向かった。信号を全て無視し、とにかく突っ走る。

 

 ふと、目の端に何かが引っかかる。要は急ブレーキを踏んで車を停めた。周辺の車が慌ててハンドルを切ったのか、スリップして路肩に突っ込む。だが要はそれを無視してギアをバックにいれた。一気にアクセルを踏んで車を走らせる。要の乗った車は既にあちこちを激しくぶつけ、元の美しい車体は見る影もない。その車が全力でバックしてくるのだ。目にした者たちはとにかく避けようとあちこちに散り散りに動いた。

 

 軋みを上げて車が急停止する。要は急いでドアを開けてさっき見かけた人影に駆け寄った。優一郎が愕然と目を見開いて要を凝視している。

 

「さっさと乗りなさい!」

 

 要は尊大な態度で吐き捨てた。優一郎は腕に誰かを抱えている。白衣で覆われたそれが栄子であることは、要もはっきりと判った。が、今は一刻を争う。破壊工作にも似た無茶な要の行動を聞きつけ、周囲にはサイレンの音がし始めているのだ。

 

 運転席に戻って乱暴にドアをひく。へこんだドアは大きな音を立てて閉まった。後部座席に優一郎が飛び込むようにして乗り込む。ドアを閉めるか閉めないかという所で要は再びアクセルを踏んだ。

 

「歯を食いしばって! 座席に足をかけて踏ん張りなさい! でないと死ぬわよ!」

 

 言いながら要は慌ただしくギアチェンジをした。追いついてきたパトカーの数台の中に車を突っ込ませる。激しい音を立てて車は何とかパトカーを振り切った。が、今度はゲート前にパトカーが並んでいる。要は舌打ちをしてアクセルを踏み込んだ。停まると思っていたのだろう。パトカーに乗っていた警官たちがこぞって車から降りて逃げて行く。要は歯軋りしながらハンドルを握り締めた。

 

 ボンネットに乗り上げる。要の運転する車はパトカー飛び越えてゲートを破壊しつつ道に落ちた。激しい衝撃が襲ってくる。要はハンドルを頼りに何とかそれに堪えた。慌てて後ろを見る。優一郎は何も言わなくても栄子を庇って後部座席に伏せていた。

 

 無茶しやがる。てめえ、後で覚えてろ。

 

 不意にどこかから声が聞こえてくる。何、と要は前を向いた。車は走り続けている。だが要の車を追って幾台もの車が唸りを上げて近づいてくる。追いつかれる。そう、思った瞬間、要を追っていた車が一斉にスピンした。

 

「え? ……ええ!?」

 

 要は声を上げてブレーキを踏んだ。スピンした車と車がぶつかり、あちこちに火の手が上がる。要は後ろを振り返ってその様を呆然と見つめた。炎のこちらを誰かが駆けて来る。

 

「かっ、要様!」

 

 泣きながら走ってきたのは運転手だった。要は息をついてハンドルから手を離した。壁際は騒然となっている。要の車が一台だけ、そんな騒ぎから少し離れた場所にいた。手を膝の上に下ろす。今更ながらに震えてくる。要はだが、そんな震えを隠して運転席から優雅に降りた。

 

「帰りましょう。ここは危険ですわ」

 

 言いながら要はさっさと助手席に乗り換えた。運転手が恐る恐る運転席に乗り込む。そんな運転手を余所に、要はそっと後ろを向いた。炎に照らされた優一郎の横顔を見る。優一郎は栄子を庇ったまま眠りについていた。




当時はオートマチック車は主流じゃなかったんですよ………………
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