※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

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親子げんか……までいかないところが絵美佳。
エロシーンはないです。


三つ子の魂百まで 3

「総一郎……さん? いや違う、あなた、誰?」

 

 震えながら由梨佳は呟いた。言い当てられた恥ずかしさと屈辱が同時にこみ上げてくる。そして絶頂寸前で放り出されたために由梨佳の身体は欲情したままの状態になっていた。

 

「自分の子供もわかんなくなったの? あんたもとうとう壊れちゃったの?」

 

 やれやれ、と肩を竦めながら少年が告げる。その目は明らかに由梨佳を侮蔑している。由梨佳は訳が判らず額を押さえた。自分の子供は絵美佳と優一郎の二人きりだ。もう一人子供がいた覚えはない。

 

「わかんないなら、いいわよ。オナニーくらいいくらでもやってていいから、そこどきなさい」

 

 少年はため息をついて無造作に由梨佳に近づいた。慌てて机の前から退いた由梨佳に代わり、端末に手を伸ばす。由梨佳は慌てて少年の手をつかんだ。懸命に少年を端末から引き剥がそうとする。

 

「邪魔するなら、ぶっこわすわよ?」

 

 少年が剣呑に言ってのける。だが由梨佳は別のことにも納得できなかった。何故なら少年の遣っている言葉がどうしても女の子のそれに思えるのだ。しかもその言葉遣いには聞き覚えがある。

 

「絵美佳? あなた、絵美佳なの?」

 

 声を裏返らせて由梨佳は告げた。目を見張って少年を凝視する。すると少年は不機嫌そうに眉を寄せた。邪魔しようとしていた由梨佳の手を振り解いて再び端末に手を伸ばす。その独特のキータッチを見て由梨佳は確信した。間違いない。姿形は違っているが、確かにこの少年は絵美佳なのだ。

 

 少年が鋭く舌打ちをする。画面を見たからだろう。由梨佳は理解して慌てて少年の腕をつかんだ。もう一度、絵美佳なのかと問う。すると少年は煩そうに由梨佳の腕を解いた。

 

「他に誰がって、そうか、俺、男になってたんだった」

 

 そう告げて少年がくすくすと笑う。その様子に由梨佳は呆然となった。絵美佳、と力ない声で呼ぶ。目を上げた絵美佳の面立ちはどう見ても総一郎そっくりだ。由梨佳は自然と頬を染め、絵美佳から視線を外した。

 

「どんな理由があったのか知らないけど、どうして相談してくれなかったの?」

 

 きっと絵美佳は深く悩んだに違いない。誰にも内緒で性転換する理由など一つしか思いつかないが、それでも由梨佳はそう訴えた。すると絵美佳が怪訝そうに顔になる。由梨佳は情けない気持ちで絵美佳に迫った。

 

「はっ?」

 

 そう言ってから絵美佳は急にくすくすと笑い出した。由梨佳はそれを見て憮然となった。本気で母親として心配したのに。内心で絵美佳に文句を言ってみる。絵美佳はそんな由梨佳を余所にあさっての方を向いて頭の後ろで手を組んだ。

 

「ある日起きたら、いきなりこうなってたんだから仕方ないじゃない。それに、もし自分の意思で性転換するにしてもアンタにだけは相談しないよ」

 

 楽しそうに笑いながら絵美佳が告げる。その目が斜めに由梨佳を見下ろす。由梨佳は絶句して身体の前で手を組み合わせた。自然と俯く。

 

「義理で母親ごっこしてやろうなんて考えてる機械人形なんか、母親だって思えるほうがおかしいだろ?」

 

 それを聞いた由梨佳はびくりと身体を震わせた。慌てて目を上げる。絵美佳はいつの間にか顔から笑いを消し、鋭い眼差しで由梨佳を睨むように見つめていた。どうして、という呟きが由梨佳の唇から自然と漏れる。

 

「あんたは俺も、優一郎も見てなかった。見てるのはパパだけ。違う?」

 

 違う。そう答えたかった。だが由梨佳はどうしても答えられなかった。言葉をなくして下を向く。絵美佳が手を伸ばして由梨佳の顎をつかむ。強制的に上向かせられ、由梨佳は息を飲んだ。

 

「別にそのことを責めてるわけじゃない。あんたはヒューマノイドだから仕方ないじゃない? ヒューマノイドってのはそういうモノなんだから」

 

 由梨佳は声もなく目を見張った。ヒューマノイドだから。絵美佳に言われた言葉が胸に突き刺さる。

 

 すっ、と絵美佳の目が細くなる。唇を歪めて絵美佳は薄い嗤いを刻んだ。

 

「変に取り繕おうとしてるから、むかつくんだよ。パパの事が恋しくて欲情したなら胸張ってオナれよ。それに」

 

 そこまで言って絵美佳は一段と声を低くした。

 

「パパの信頼を裏切るな。あんたは研究者として信頼されてるんだ。妻だとか、母だとか、自分勝手に作った虚構の世界に浸ってるんじゃねーよ」

 

 吐き捨てるように告げて絵美佳は由梨佳を振り払った。よろけて床に座り込んだ由梨佳は俯いたまま、頭を上げることが出来なかった。とても絵美佳を直視できない。これまで懸命に逃げ続けていた現実を突きつけられた気分だった。

 

「落ち込むのは後にしろ。研究者であるアンタに依頼したいことがあるんだ」

 

 言いながら絵美佳が無造作に由梨佳の腕をつかむ。引き上げられて由梨佳は力なくその場に立ち上がった。なに、と呟くように問う。目を上げると絵美佳の真剣な表情が見えた。

 

「ヒューマノイドを一体、診て欲しい。残念ながら、俺には修理できないんだ」

 

 絵美佳の顔が総一郎と被って見える。由梨佳は目を伏せて判ったわ、とだけ応えた。




厳しいようですが事実だったりします。
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