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怒りがゆっくりと鎮まっていく。水輝はため息をついてふと振り返った。墓の前に佇む立城はまだ動かない。やれやれ、と肩を竦めて水輝は屋敷に戻った。
主の様子がおかしいからだろうか。使い魔たちはどれも不安そうな顔をしている。そんな中で呑気なのは多輝くらいか。水輝はすれ違った多輝の鳩尾にきっちり一撃見舞って笑いながら階段を上がった。傍にいた蒼が困惑した顔で自分を見ていたが気にしなかった。
あてがわれた部屋に戻る。ドアを開けて入ると奈月が嬉しそうな顔をして振り返った。が、すぐにその顔が曇る。
「顔、どうしたんですか?」
奈月は相変わらずメイドの格好をしている。どうやらそれが落ち着くらしい。水輝はうろたえる奈月に小さく笑った。笑いかけた拍子に頬が引きつれたように痛む。思わず頬に手を当てて水輝はため息をついた。
「これか? 立城に殴らせた」
そう言って水輝はソファに身体を投げるように腰を下ろした。おずおずと奈月が近づいてくる。
「あの、治療していいですか?」
不安そうな面持ちで奈月が問い掛ける。もしかしたら水輝がどう応えるか判っていたのかも知れない。水輝は仏頂面で真正面を見据えながら低く呟くように告げた。
「いらない」
奈月が悲しそうな顔になる。水輝は奈月をちらりと見やってから息をついた。ごめん、と詫びて目を伏せる。奈月ははい、と小声で返答して困ったように視線を彷徨わせた。
優一郎たちと鉢合わせした昨日のことを思い出す。まず間違いなく裏で動いているのは順だろう。だがそのことを立城に知らせるのはためらわれた。今の立城の様子がおかしいことは傍目にも明らかだ。そんな立城に知らせたところで事態はさらに混乱するだけだろう。それなら自分一人の方が気が楽だ。
かと言って自分一人の力でどうにか出来る状態を越えてしまっていることも事実だ。水輝には根本的に物事を解決する能力はない。思うままに動いて結果的に解決したように見えることはあっても、それは常に誰かが裏側でそうなるように仕向けているからだ。水輝は無意識に考えながら唸っていた。
だとしたら放置してみるのはどうだろう。だがそう考えてすぐに水輝は心の中で否定した。氷龍神が関係しているかも知れない以上、放置しておける問題ではない。
考え込む水輝の邪魔をすまいと考えたのだろう。奈月が足音を忍ばせて部屋を出ようとする。ドアにたどり着いたその時、水輝は急に声をかけた。
「奈月」
「はい!」
嬉しそうに返事をし、奈月が駆け寄ってくる。だが水輝は前を向いたまま続けた。
「ごめん。おれ、しばらくいなくなるから」
「わかりました」
奈月は素直に頷いた。その顔が歪んでいる。もしかしたら笑おうとしたのかも知れない。水輝は横目に奈月を見つめ、もう一度ごめん、と詫びた。
この二人、仲が良いはずなのですが……
すれ違うことがかなり多いです。