真似しないでくださいー(出来るか!
エロシーン前哨戦です。
窓から差し込む月明かりに手をかざす。いつの世も月の光は変わらずおぼろで、部屋の中の全てを明るく照らし出すようなことはない。立城は無言で空を見上げていた。丸い月が空にかかり、その傍を薄い雲が流れていく。
立城は軽く俯いて少し笑った。どうして優一郎にあそこまで説明してしまったのだろう。そのことを悔いてはいないが、立城は不思議に思っていた。自分の心の動きがどうであったのかを思い出してみる。だが思い出しても特別な要因はどこにも見当たらない。まして、封じ込めていた彼女の姿を見せるなどどうかしている。立城は自嘲を込めて笑った。
優一郎は意気揚々と屋敷を出て行った。恐らく近日中には本人の言の通り、立城の依頼したヒューマノイドが搬入されるだろう。今まで優一郎が約束を違えたことはない。立城はそのことを思って小さく頷いた。余程のトラブルが発生しない限り問題はない。
夜叉は力のシステム上に生まれた、言わば特別変異体だ。本来は生まれるべき存在ではなかったことが、当時の紫翠の命運を分けた。予定表にないその存在は否応なく紫翠を引き寄せ、そして時の流れに従い紫翠をその運命に招き寄せた。だがそれも全て夜叉の望み通りであった筈だ。少なくとも当時、夜叉であった砂夜は自分の存在に疑問を抱く暇もなくこの世から消えてしまった。
あの時。立城はそっと呟いて記憶にある限りのことを引き出してみた。紫翠の力と夜叉の力が混ざったあの時、二者とは全く別の存在が誕生した。砂夜の腹の中で成長した魂は二つ。力を二分した形で魂はそれぞれの肉体を持ったが、その子供たちが力を発揮することはなかった。だが魂が続いた先にとある二つの命が生まれた。二者の力は時と共に濃度を増し、隠し切れない輝きとなってこの世に現れたのだ。それが立城ともう一人、弟の真也だった。
そしてあの時、紫翠はそのことを既に予見していたのだ。木龍神と呼ばれる龍神であった紫翠は時を読む術を持っていた。今生の木龍神は立城だ。立城は紫翠の生まれ変わりと言われているが、当時の紫翠の力のうちの一部は持ち得ていない。それが時に関わる力だ。
木龍神は自然を司る。そして時を司る龍神は別にいる。それが翠龍神だ。
「あの頃……本当は翠は存在してはいなかった。それが僕が得た唯一の答えだったよ」
誰に聞かせるでもなく、立城は小さくそう呟いた。答える声はない。聞かせたい相手はとうの昔に潰えてしまっているのだ。立城は軽く手を握ってこぶしを作った。
たとえどれほど似ていても、立城は紫翠とは違う。全く別の存在だ。それと同様に、例えどれほど似た輝きを持って生まれたとしても、かつての記憶を持っていても、死んだ者が生き返ったことにはならない。どれだけ待ち望んでも死者は生き返ることはないのだ。それが、どんなに力があろうが抗えない世界の理だ。
ゆっくりと歩き出す。月の光の中から部屋の暗がりへと進んだ立城は静かに一点を見つめていた。壁にかかる大きな絵画のまえ、何もない空間に視線を注ぐ。
優一郎はきっと何も考えずにその場に立ったのだろう。だがそこはかつて立城がとある誰かと誓いを立てた場所だった。誓いは未だに生きている。きっと自分が潰えるまで消えはしないのだろう。立城はそう思いながら微かに笑った。
指が鳴る。立城の合図と共に大きな木が床からせり出してきた。その幹に磔になっているのは水輝だ。眠るように目を閉じて静かな呼吸を繰り返している。立城は黙ってそんな水輝を見つめた。
水輝は最初は愕然としていた。何が起こったのかを全く理解していなかった。立城のことは何とか判別出来ていたらしいが、それも最初の内だけだった。嫌がる水輝を無理やり押し倒し、有無を言わせず口づけした。水輝の悲鳴が続いたのはほんの一瞬で、その後は余りにもあっけなかった。優一郎が事前に水輝に特殊な暗示をかけていたのが功を奏したのだ。
死んだ者は蘇らない。だが暗示により水輝は立城を紫翠と誤認した。それ以降、水輝は立城を紫翠と思い込み、立城の意のままに夢の中へとおちていったのだ。
「思い出だけで生きてはいけないのにね」
そう言いながら立城はおもむろに手を伸ばした。水輝のブラウスに手をかけ、ボタンを外して前を開く。白い水輝の肌にはたくさんのつるが巻きついている。根元を軽く締められた乳房を立城はゆっくりと指でなぞった。
「し、すい……?」
褐色のつるが一斉に蠢き始める。立城は口許に薄い笑いを浮かべて指を滑らせた。つるは乳房の上を移動して赤く色づく乳首を愛撫し始めている。もう、本当はいちいち肯定しなくとも水輝には自分のことが紫翠にしか見えていない。それは判っていたが、水輝の喘ぎ混じりの声に立城は黙って頷いた。
指を唇に当てる。立城は目を細めて自分の指先を強く噛んだ。皮膚が小さく裂ける。口の中で血の味を確かめてから、立城はゆっくりとその指先を水輝の胸元へ向けた。それまで蠢いていたつるが一斉に立城の手を避ける。立城は薄笑いを浮かべて水輝の胸の中心に十字を描いた。赤い鮮血がじわじわと水輝の皮膚を伝って流れて落ちる。十字を描き終え、立城は今度は水輝の唇に血の滲む指を触れさせた。びくりと水輝が身体を震わせる。
人外だから無茶苦茶なのです。