※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

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頑張っても無理なものは無理という。
エロシーンはありません。


要がんばる! 1

 不機嫌に顔をしかめて水輝は振り返った。誰もいない教室に一人の女子生徒が入ってくる。水輝はその姿を見止めて目を細めた。生徒会長の要だ。ふうん、と呟いて水輝は軽く手を広げた。

 

「残念ながらみんな帰ったけど? 何か用?」

 

 今朝、生徒会室を訪れた水輝は会長である要から各種の注意事項を聞いた。だがそれらはかつて水輝が聞いたことのあるものと全く同じ内容だった。立城の作り上げた独自のルールは未だに生きている。そのことが水輝にとって不思議だった。結局のところ、時が流れても使えるものは残るということだろう。

 

 要はごほん、と咳払いをして腰に手をあてた。生徒会室で見た時に感じたままの尊大な態度だ。水輝は内心で苦笑して要に顎をしゃくった。

 

「用があるなら早く言ってくれないかな。これでも忙しいんだ」

 

 水輝のクラスは多輝や絵美佳のそれより離れている。だが幾ら感覚を研ぎ澄ましたところで多輝の気配が読めないのは当り前だ。多輝は今、立城の屋敷にいる。こちらには休学の届けが出ているが、それももう少ししたら退学届けになる。多輝は全く別の人間としてこの学校に来ることになっているのだ。

 

 だが絵美佳は違う。絵美佳はまだ学校に在籍しているのだ。なのに気配がつかめない。欠席という届けが出ていたが、家にいないことは明らかだ。何故なら学校に来る前、水輝はわざわざ絵美佳の自宅を回っている。無人の家をくまなく探してみたが、絵美佳の姿はなかった。色濃く残っていた気配から察するに、今朝まではいたのだろう。結局、水輝はそのまま学校に来た。が、ここにも絵美佳の気配はなかった。強いて言えば校舎の外と地下にそれらしい気配があった程度だろうか。どうやら絵美佳は教室を素通りして地下にこもってしまったようだ。

 

 地下に飛ぶことは可能だった。が、水輝はそれをしなかった。地下に絵美佳とは全く別の気配があったからだ。

 

「池田水輝さん、ですわよね? わたくしに付き合って頂きたいのですけれど」

 

 どこまでも偉そうに要が告げる。水輝はふうん、と口の中で呟いて鞄を取り上げた。水輝が従うつもりだと思ったのだろう。要が当然のように笑う。だが水輝はそのまま要の横を通り抜けてさっさと教室の扉に向かった。

 

「ちょ、ちょっと!?」

「悪いな。おれ、先を急ぐから」

 

 片手を上げて水輝は教室を出た。要の相手をしている暇はない。そもそもどうしてわざわざ目をつけられている相手について行く必要がある? 水輝は内心でそう呟いて廊下を行き始めた。

 

 慌てたように要が教室を駆け出す。歩く水輝に小走りで追いつき、要は声を少し張った。

 

「この学校ではわたくしがルールですのよ!? 生徒は従う義務が」

「違う。生徒会長がルールなんじゃなくて、生徒会長にはあらゆる事柄を決めるという権利があるだけだ。そして生徒には反論の自由がある。従わない自由ってのもあるわけ」

 

 水輝はそう言いながら廊下を曲がった。とにかく地下に行ってみるか。気は進まないが直接調べるしかない。そう考えながら階段を降りる。

 

「ちょっとお待ちなさい! あなたにとっても悪いお話ではない筈! って、待つ気はないんですの!?」

 

 後ろから要の声が追って来る。水輝は不機嫌に顔をしかめて足を止めた。どいつもこいつもわがままな、と口の中で呟きながら肩越しに振り返る。

 

「ああ? おれはあんたに用はないんだがなあ」

 

 頭をかきながら水輝は一段だけ階段を戻った。要が息を切らせながら追いついてくる。そんなに早く歩いたつもりはないんだが。内心でぼやいた水輝に要がずい、と迫る。鬼気迫るその表情に水輝は一瞬、気圧された。

 

 そういえばこいつ、車で暴走してゲート破壊したんだったな。のんびりと水輝がそんなことを思い出している間に要が水輝の傍に寄る。

 

「わたくしが自ら声をかけるなど滅多にないんですのよ?」

 

 誰が後始末をつけたと思うんだ。要の暴走にまつわることを思い出していた水輝は次第に苛々とし始めていた。クラッシュした車から運転手たちを移動させる。出来るだけ死人が出ないようにしたつもりだが、中には重傷を負った者もあったようだ。だが優しく丁寧になどと言っていられる状況ではなかった。水輝は出来るだけ早くという条件だけを満たすことに何とか成功はした。だが当の要たちは後始末は全くつけず、そのまま逃げてしまった。水輝は思い出しながら片頬をひくつかせた。

 

 おれは確かにあいつを逃げやすいようにしてやったよ。でも断じてこいつのためじゃない。水輝は自然と鋭い目で要を見た。要は何を勘違いしたのか、そんな水輝の腕に腕を絡めてくる。おい、と水輝が止めるのも聞かず、要はそのまま身体を水輝の腕に密着させた。

 

 第一、要と会ったのはこれが初めてではない。あの夜、水輝は要の前に姿を現していた。だがその時の要はこんな風には反応しなかった。もしかしたら動揺していたためか。そうだとしても要の様子は水輝には理解出来なかった。

 

 胸の膨らみが腕に押し付けられる。水輝はやれやれとため息をついて要を無造作に引き剥がした。じゃあな、と言い残して階段を再び降り始める。

 

「わ、わたくしに恥をかかせる気ですの!?」

 

 素っ頓狂な声で要が叫ぶ。水輝はため息をついて踊り場で足を止めた。要が顔を輝かせて寄ってくる。だが水輝は伸ばされた手を無造作に払った。鞄を脇に抱えてポケットに手を突っ込む。

 

「恥もなにも、あんた、何がしたいのかわかんねえよ。まずは目的を言え」

 

 要の積極的とも言える行動の意味を理解していない訳ではない。だが水輝はあえてそう訊ねた。途端に要が困ったような素振りをする。水輝に払われた手を反対側の手で包み、視線を彷徨わせる。

 

「つまり、わたくしの男になれと言っているんですわ!」

 

 しばしの間の後に要が尊大に告げる。水輝はにっこりと笑った。

 

「間に合ってます」

 

 そう言い残して階段を降りる。取り残された要が喚くのを余所に水輝は早足で階段を下りた。背後から要が何事かを喚きながらついてくる。肩越しにそれを見やり、水輝は鋭く舌打ちをした。しつこい女は嫌われるぞ、と声を投げる。だが要は猛然と水輝を追い続ける。




要を落とすのは大変なんですけどね(棒
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