※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

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コスプレ少女が進みます。(実はコスプレじゃないんですけども)
エロシーンはありません。


それはデビュダントドレスですの! 1

 壁に手を当てて要は苛々と唇を噛んだ。コスプレ少女が呑気に廊下を行くその少し後方に要は隠れていた。その後ろには野木がついている。野木がコスプレ少女と要を見比べて潜めた声で告げた。

 

「要様。あのメイドらしき少女がどうかなされましたか?」

 

 コスプレ少女は周囲を見回して首を傾げている。要は微かに舌打ちをして野木を見返った。

 

「あの娘はメイドじゃないわ! もしかしたらメイドのコスプレのつもりかもしれないけれど」

「こ、こすぷれ……? ですか?」

 

 野木は要領を得ない顔で首を捻っている。要は眉を寄せてため息をついた。野木はどうやらコスプレという言葉の意味を知らないらしい。おかしいわね。先日、教えたと思ったのに。コスプレ少女とは全く関係ないところで苛立ちが増す。

 

「コスプレというのはコスチュームプレイのことよ! 好きなキャラクターの衣装を着て、仮装することを指すの。プレイと言っても性行為ではないから注意なさい」

 

 小声で解説しながら要はそろそろと廊下を進んだ。その後ろを野木が足音を殺してついていく。コスプレ少女は手にした紙を見つめながら廊下を進んでいた。

 

 唐突に壁に激突する。その場に屈んで顔を押さえたコスプレ少女の少し後ろで要は壁に張り付いた。野木が同様に身を潜める。

 

 何故、わざわざ斜めに歩くの! 要は内心でコスプレ少女に喚いた。コスプレ少女はいたたた、と小声で呟きながら額を押さえている。どうやら壁に打ち付けたらしい。要はそれを見てこぶしを握って震わせた。

 

 ひとしきり痛がってからコスプレ少女は立ち上がった。恥ずかしそうに頬を染めて周囲を伺っている。要はさらに壁にべったりと張り付いた。柱の陰に隠れている二人には全く気付かなかったのだろう。コスプレ少女は再び廊下を行き始めた。

 

 何かを探しているらしいことは判った。すぐにでも飛び出して手を貸したい。そう思わせる何かをコスプレ少女は持っている。だが要はそれをぐっと堪えてコスプレ少女の様子を伺っていた。他校の生徒であることは間違いない。メインコンピュータで検索してもコスプレ少女のような容姿を持つ生徒はヒットしなかったのだ。

 

 かと言ってコスプレ少女のことを調査するために、わざわざ諜報部員を使う気にはなれなかった。要するに要は自分でコスプレ少女の正体を確かめたくなったのだ。

 

「あ、要様。こすぷれさんが曲がりましたよ」

 

 野木はどうやらコスプレ少女のことをそう呼ぶことにしたらしい。要は頷いて小走りに駆けた。野木も要の後ろに続く。教室内でざわめく生徒たちの声を余所に、要たちは足音を殺してコスプレ少女を追った。

 

 廊下を曲がって真っ直ぐに進む。コスプレ少女は特別教室のある棟へと向かっていた。要は曲がり角に隠れてコスプレ少女を見つめた。窓から外を見て嬉しそうに微笑んでいる。だがそのまま横に進んだため、コスプレ少女はまたも柱にぶつかった。今度は肩を押さえて涙目になっている。

 

「……こすぷれさんは異常に視野が狭いんでしょうか?」

 

 背後で野木が呆れたように呟く。要はため息をついてさあ、と応えた。だがこれだけは言える。コスプレ少女はどういった訳か、とても浮かれているのだ。そうでなければここまで間抜けな醜態を晒すことはないだろう。幾らなんでも。要は内心でそう呟いた。

 

「しかし、何ゆえメイドなのでしょう? ああいった服はどこにでもあるものなのですか?」

 

 不思議そうな野木の声を聞きつけて要は鋭く振り返った。壁に張り付いていた野木がぎょっとしたように目を見張る。

 

「そんじょそこらの庶民が着れる服ではありませんわ!」

 

 要は憤慨をこめて小声でそう告げた。野木がえ、と呟いて要とコスプレ少女を見比べる。コスプレ、という意味が判らなくとも着ている服に似たものは見たことがあったのだろう。野木は眉を寄せて困った顔になった。

 

「メイド服というものは、作業着なのではありませんか? ええと、あれを身につけて掃除をしたり洗濯をしたりすると私は記憶しているんですが」

 

 再びコスプレ少女は歩き出した。よろよろと壁伝いに進んでいく。まだ痛むのだろう。片手は肩を押さえている。要はコスプレ少女を指差して眉を吊り上げた。

 

「あのドレスはデビュダントドレスといって、清楚さを演出したフォーマルドレスのひとつよ。デビュダントとはフランス語でデビューの意味。もともとは上流階級の娘が、社交界デビューの時に着ていたドレスなの」

「どっ、どれす……なのですか、あれが」

 

 驚きに目を見張って野木がコスプレ少女を見る。要はコスプレ少女の後をこっそりつけながら無言で頷いた。あまり近寄りすぎては気付かれる。少女が立ち止まったところで要は手近な柱に潜んだ。野木が要の足元に屈みこむ。どうやら消火栓に隠れているつもりらしい。

 

「エプロンをコーディネートしているからメイド服のように見えるだけよ! どこの世界に銀糸で縁取ったフリルのブラウスやら、プラチナ台のサファイアのカフスやらをメイドに着せる馬鹿が居ると言うの!」

 

 しかもドレスの素材は恐らくシルクだ。光沢とすんなりした布の動きを見ながら要は歯軋りをした。野木が怯えたように要から少しだけ離れる。要はコスプレ少女を睨むようにして観察した。タイの留め具部分に使用されているそれも、驚くことにサファイアだ。しかもカフスのそれと同様、やたらとサイズがある。

 

「し、しかし、ドレスで買物かご……ですか」

 

 まだ野木はコスプレ少女の着ているのがドレスだとは信じられないらしい。疑いの眼差しでコスプレ少女を見ている。要は思わず舌打ちをした。野木は見慣れないからわからないのだ。コスプレ少女の着ているそれにどれだけ金がかかっているか。要は憤りに任せて傍らの野木にヘッドロックをかました。

 

「いったい、何者なの!」

「か、かな、め、さま」

 

 苦しそうに野木が呻く。要は仕方なく野木の首から腕を外した。コスプレ少女は浮かれた足取りで進んでいく。要は苛立ちと同時に言いようのない悔しさを味わっていた。コスプレ少女の着ているドレスだけではない。その少女自身の愛らしさが要のプライドを刺激した。




要、説明ありがとう!(棒
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