ここはエロシーンはありません。
一人、真也は佇んでいた。地下室で電気を落とすと殆ど視界が利かないほどの闇になる。真也はその闇の中に静かに立っていた。手探りでなくとも周囲の様子は判る。力が僅かながらでも戻ってきたために闇の中でも目が利くようになっているのだ。
絵美佳の意識が心の底で怒り狂っている。人の身体を勝手に使っていることが相当に気に入らないらしい。真也は苦笑して額を押さえた。同じ身体に入っていても絵美佳と真也は全く別の人格を持つ。魂が違うのだからそれも当然だ。絵美佳にとって真也の存在はただの侵略者に過ぎない。
「今までずっと我慢してきたんだ。少しくらいいいだろ?」
試しに真也はそう呟いた。すると凄まじい勢いで絵美佳が反論する。真也はやれやれと肩を竦めて息をついた。
そりゃそうだよな。生きてる奴には少しの時間でも貴重だろうよ。真也は投げやりにそう呟いた。僅かの間、絵美佳が黙る。だがすぐに怒りの声は復活した。お前のことなどどうでもいい。とにかく身体を返せ。絵美佳の主張はその一点張りだ。
後のことなどどうでもいい。立城に一目会えればそれだけでいい。真也は目を閉じて器の内側で力を編んだ。喚く絵美佳の意識に蓋をする。聞こえていた絵美佳の怒鳴り声は次第に小さくなった。強制的な眠りについてしまったのだ。
魂と器の隙間にねじ込まれる。真也は軽く俯いて手を握った。指を強く握ると手のひらが少し痛む。感覚は確かにあるのにこの器は自分のものではない。絵美佳の器に仮に宿されているだけだ。真也はため息をついて手を開いた。
何のためにそんな真似をしたのか、と翠に問いたかった。翠には質問することが出来なかった。数度ほど翠は絵美佳の前に姿を現したが、その時の翠は立城の姿をとっていた。真也はそれを見て疑問より先に怒りを覚えた。翠にすぐにでもつかみかかってやりたかった。だがその時の真也はまだ絵美佳にすら知覚されておらず、到底、器の表面に出ることなど出来なかった。結局、翠には真也の手は届かなかったのだ。
絵美佳が生まれてからまだ十数年しか経ってはいない。だが、その時間は真也にとってとてつもなく長い時間に感じられた。それまで魂のままで翠に保護されていた時とは時間の流れそのものが違っているとすら思えた。同じ地上にいるはずなのに、どうして会えないのだろう。その思いだけがいつも胸にあった。
どうして判ってるのに会いに来てはくれないのだろう。立城を思う気持ちの裏で真也はそんな疑問も感じた。立城は八大の中でも凄まじい力を有している。そんな立城が真也の魂に気付かないはずはない。なのに立城はこれまで一度たりとも姿を現したことがないのだ。
真也は小さく笑って息をついた。始めからこうなることなど判っていた。どんなに呼んでも立城はきっと来ない。もし、会いにくるつもりがあるなら、魂が地上に戻された時に来ているだろう。だが真也はそう考えてから頭を振った。まともに考えたところでどうにもならない。それなら心を占める欲望を満たす方がいい。
闇がゆっくりと紫の光に照らされる。真也は自然と力を光に変えて放ち始めていた。器の表面がぼんやりと光る。真也は紫色の淡い光の中でくすくすと笑った。考えることを止めているとそれだけで気分が良くなる。どうせ考えたところで事態が変わる訳ではないのだ。
紫色の光を一筋の青い光が分ける。真也は笑いを止めて目を上げた。部屋の中にふらりと現れたのは水輝だった。服は乱れたままだ。真也はゆっくりと水輝に歩み寄り、開いたシャツを手につかんだ。水輝が無言で軽く上向く。真也はテーブルから首輪を取り上げて水輝の首に嵌めた。
水輝は青い光をまとっている。その光は柔らかく紫の光と混ざり合う。真也は互いの光を見つめ、静かに目を細めた。水輝から発されている光には立城の気配が混ざっている。真也はゆっくりと深く息を吸い込んだ。身体の中に気配を取り込むと、それだけで背中がざわめく。
今の自分の状態が普通ではないことは判っている。いつからこうなったのかもはっきりしている。あの時、立城の傍から離れた瞬間から何かが狂ってしまっているのだ。だがそれを真也自身がどうすることも出来なかった。
この話の前に別の話があるはずで、それはかなり前に投稿したものなのですが……
原稿がなくてどーにも!w