エロシーンはありません。
「だから勝負にならないんだってば」
笑いながら告げ、カレンは要の身体を宙に放った。要が手足をばたつかせて宙を泳ぐように上下する。落ちた要は伸ばしたカレンの腕の中にすっぽりと納まってしまった。
「わたくしにあなたと同等の身体能力があれば、わたくしが勝ちますわ!」
怒りに肩を震わせながら要が喚く。だがカレンははいはい、と言いながらまるで子供をあやすように笑っている。優一郎は我慢出来ずにそこで吹き出した。口許を押さえて懸命に笑いを堪える。
「せっかくそんな美人なんだからさあ。べっつにうちに格闘なんかで勝たなくてもいいじゃん?」
カレンがそう言いながら要の目を覗き込む。どうやら身体に直に触れているためにカレンの欲情に火がつきつつあるらしい。優一郎は軽く手を上げてカレンに頷いた。カレンが渋々といった態で要を解放する。
「保美と申しましたね。あなた、先ほどわたくしに躊躇いも無く性器をさらけ出しましたが、恥ずかしくはないのですか?」
くるりと振り返って要がそう声を飛ばす。保美はにっこりと笑って軽く頷いた。
「ええ、特に恥ずかしいとは思いません」
さらりと保美が答える。すると要が考えるように沈黙した。優一郎は黙って三人の様子を見守っていた。要が二人に興味を抱いていることは間違いない。その理由は恐らく一つに絞られる。それは要が自身をヒューマノイドに当てはめて考えているからだ。そしてそれは要がヒューマノイドの機体を望んでいるということに他ならない。
「それでは、服を脱ぎなさい。わたくしがじっくり、検分してさしあげてよ!」
胸を反らして要が命令する。保美はうっすらと頬を染めて実験台に昇った。カレンが短く口笛を吹く。にやにやと嗤いながらカレンは手近の椅子を引っ張った。優一郎の傍に椅子を二つ開く。優一郎はカレンに笑みかけてありがたく腰を下ろした。隣の椅子にカレンがどっかりと腰を落ち着ける。
保美は無言で服を脱ぎ始めた。エプロンを取り、続いて黒いワンピースのジッパーを下ろす。下着姿になった保美はうっとりとした眼差しで要を見た。これもですか、と小声で訊ねながらブラジャーをつまむ。
「もちろんよ。あと、わたくしの言うとおりのポーズをとってもらうわよ!」
そう告げる要の頬もうっすらと染まっている。保美ははい、と頷いてブラジャーを取り去った。既に股間は露になっている。ガーターベルトとストッキングだけという格好になり、保美は要を見つめた。
「要様。どのようなポーズをとればよろしいですか?」
保美がそう告げる。相手の反応を誰よりも楽しむ保美らしい言い回しの選択だ。優一郎は薄く笑って背もたれに深く寄りかかった。台の上に座る保美を見つめ、染み一つないんですのね、と要が呟く。
「とりあえず、そのままで構わないわ。胸を触ってもいいですわね?」
そう言いながら要が保美の乳房に触れる。保美はぴくりと肩を震わせて小さく息をついた。乳房を触っていた要が眉間に皺を寄せる。
「思った以上に柔らかいですわ、型崩れしていないのにっ!」
独り言のように要が呟く。対して触れられている保美はうっとりと目を潤ませている。優一郎は小さく笑って白衣のポケットから携帯端末を取り出した。素早く操作して保美の機体の状態を表示させる。横からカレンがその画面を覗き込んだ。
不意に電子音が鳴る。優一郎は訝りに眉を寄せてカレンに断りを入れた。立ち上がって部屋の隅に移動する。手にした端末を操作し、優一郎は届いたメールをチェックした。今ごろの時間にメールが来るのは珍しい。もしかしたら例の社長が痺れを切らしてメールを送ってきたかな。そう思いながら優一郎は何気なくそのメールを見た。
差出人を確かめて優一郎は微かに息を飲んだ。立城の名前が記されている。ここしばらく立城からメールが届いたことはない。大抵は電話で話した方が事が簡単に進むからだ。なんだろう、と呟いて優一郎はメールを開いた。
『君がこのメールを読んでいるということは、恐らく僕は屋敷から出てしまった後でしょう』
書き出しの部分を読んで優一郎は怪訝に思った。この書き出しではまるで遺書か何かだ。優一郎は三人を余所にそっと研究室から出た。廊下に出てから画面をスクロールさせる。
『多分、いま屋敷の中は荒れています。きっと由梨佳さんと多輝も壊れていることでしょう。申し訳ないのだけれど修理をお願いします』
メールの文章はそれだけだった。優一郎は呆然としつつ携帯端末を操作した。メールが発信されたのは先ほどだ。優一郎は携帯端末をポケットに突っ込み、地上に走った。
急展開です。