※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

216 / 240
このエピソードで十章は終わりです。
エロシーンはありません。


崩壊した吉良瀬邸 3

 だが奈月はそう告げた優一郎に首を振った。

 

「違います。立城さんは今は」

 

 力なく告げて奈月は壁の穴から外を見つめた。つられるようにそちらを見つめ、優一郎はどういうことかと問い返した。

 

 立城はいま、力を使うことが出来ない。淡々とした奈月の説明に優一郎は軽く息を飲んだ。どういう意味だろう。奈月は優一郎の疑問に静かに答えた。立城の今の状態は通常ではない。歪んだ力を一度、無防備に受け入れてしまったために本来の力を用いて辛うじてバランスをとっていたのだという。歪んだ力は元は水輝のものだったのだが、それをそのまま水輝に戻す訳にはいかない。そうすれば水輝はまた再び女の性に立ち戻り、終には正気を失ってしまう。

 

 だからこそ立城の内部で暴れていた歪みの力を奈月は全て吸収した。だが同時にバランスを取るために用いられていた立城の力も器から吸い出されてしまったのだ。

 

「立城さんを助けてください! お屋敷から万が一、出るようなことがあった時は止めてくださいと言われていたんです!」

 

 懸命に言いながら奈月が優一郎の白衣の裾を握る。その目から大粒の涙が零れ落ちる。だがどうすることも出来ない。優一郎は力なく首を振ってやんわりと奈月の手を解いた。

 

 屋敷には強固な結界が張り巡らされていたという。それは屋敷内部にいる者を外敵から守るという効果と同時に、立城自身を外に出られなくするという意味もあったのだ。だが水輝がこの屋敷を破壊した時に結界は破れてしまった。それ故に立城は自由に外に出られるようになってしまったという。優一郎は震えながら語る奈月を静かに見下ろしていた。

 

 だが本当にそれだけだろうか。優一郎は奈月を見つめながら考えを巡らせた。理由は判らないが、立城が外に出ると何がしかの問題が発生するということなのだろう。が、もし、立城が外に出ないようにするとすれば、もっと確実な方法を選びそうなものだ。奈月に頼んだところで立城が本気で外に出ようとすれば止めたところで無駄だろう。

 

 それにメールのこともある。優一郎は自然と考え込んでいた。顎に手を当てて思考を巡らせる。

 

「この場にある力が誰のものなのか判りますか?」

 

 チェッカーの針を振り切り、さらに判別のつかないほどに混ざってしまっている力の源が判れば、立城の意図も少しは判るかも知れない。そんな思いから優一郎はそう訊ねた。奈月が涙を拭って顔を上げる。

 

 瞳の色が音もなく変化する。奈月はブルーグレイの瞳を上げ、部屋の中を見回した。うっすらと髪に青みがかかる。

 

「水輝さんと立城さん、それともう一人」

 

 何かを探るように奈月の目が細くなる。優一郎はじっと黙ったまま答えを待った。彷徨っていた奈月の視線が壁際に向かう。ある一転で視線の動きが止まる。そこは最初に優一郎が見止めた場所だった。服が散乱し、じゅうたんに染みが出来ている。

 

「立城さんとそっくりな色の……でも全然違う力が見えます」

 

 どうやら奈月の目を通すと残留力は色に見えるらしい。優一郎は小さく頷いて目を凝らした。だがどうやっても優一郎にはその場に残された力を見分けることは出来ない。

 

 お前、見えそうなんだけどなあ。ふと、優一郎の脳裏にかつて聞いた水輝の言葉が蘇る。あの夜に言われていることを全て理解できたとは思わない。半信半疑といったところだ。だがあの時の水輝は冗談を言っている顔ではなかった。

 

 コップの中の水を凍らせて固める。いつの間にか優一郎は思ったことを口に出していた。奈月が不思議そうに優一郎を見つめる。ああ、と苦笑して優一郎は首を振った。何でもありません。そう告げる。

 

 立城と酷似した色の力の本性は歪みだと奈月は告げた。その力を歪み、捻れた人の心だと奈月は表現した。人、と呟いて優一郎は目を細めた。

 

「はい。間違いありません。この力の源は人間の心、誰かを守りたいという強い思いです」

 

 その思いが歪んだ経緯は判らない。奈月は困惑した面持ちでそう告げる。だが優一郎はそれを聞いて確信した。立城は恐らくその歪んだ心によって外に連れ出されたのだ。そして立城は最初からそうなることを読んでいたのではないか。奈月に止めるように言ったのは言わば保険だ。そうでなければわざわざ奈月に使いを頼む必要性がない。本気で止めて欲しいと思うなら、最初から奈月を外に出す必要がないからだ。

 

 勿論、立城が予測しなかったことも発生しているのだろう。だからこそ、優一郎の元にメールが届いたのだ。優一郎は巡る考えに結論をつけて顔を上げた。

 

「とにかく多輝を修理しましょう。詳しい事情はそれから」

「あ、待ってください。多輝さんもですが、由梨佳さんも」

 

 それを聞いた優一郎は顔を強張らせた。まさか、という思いがこみ上げてくる。通りがかりに由梨佳を見なかったから安心していたのだ。きっと立城は保険の意味でメールに由梨佳の名を記したのだ。が、由梨佳は偶然、居合わせなかったのだろう。優一郎はそう踏んでいたのだ。

 

 瞬きをして目をあける。その時の優一郎の顔からは一切の表情が消えていた。




壊れた機体が書けてないんですよね(´Д⊂ヽ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。