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結局、子供はケースの中で半年ほど生きた。子供の命を絶ったのは順自身だった。飢えが限界に達してしまったからだ。だが龍宝珠の欠片は僅かだが順の飢餓感を埋めた。欠片はそれなりに力を有していたということだ。
それから都子の器から卵子が定期的に摘出されることになった。人為的に順の精子と掛け合わせる。幾度も繰り返された実験の結果、二人の間に出来た子供には常に龍宝珠の欠片が宿った。
特殊な研究施設を設立し、順は意図的に欠片を持つ子供たちを作ることにした。研究者たちは熱心に日々、研究を繰り返した。失敗作は順の元に運ばれ、例外なく糧にされた。
研究の結果、子供たちは形だけは何とか人として見られるまでになった。最初はなかった知能も有するようにまで至った。宿った力も使う器用さを兼ね備えた実験体も中には生まれるようになった。そうした子供たちは隔離された場所で育てられている。
おかげさまで餌には事欠かないよねえ。そう内心で呟いて順は笑った。空にかかる月を見つめてみる。
だがハンターの主食となるのはあくまでも龍宝珠そのものだ。欠片では決して満たされることはない。それはハンターの誰もがみな承知していることだ。だが、知ってはいても実際にそれを成せるかどうかはまた別だ。現実に一度でも満たされたことのあるハンターはごく少ない。そんなハンターたちに比べれば、順の今の状況は恵まれている方だとも言える。
それでも飢えは完全に消えることはない。順は息をついて目を細めた。前を行く立城の後姿をぼんやりと見る。ふらつきながらも立城は着々と前に進んでいる。先に何があるのかを知っているのに、それでも立城は立ち止まることはない。虚ろな視線はただひたすらに真也を求めているのだ。
誰かの言いなりに動くのは好きではない。が、翠には多少なりとも恩がある。それにもし、自分が動くことで彼らが混乱するというのなら、従ってみるのも悪くない。立城を見ながら順はくすくすと笑った。少なくとも立城のこんな姿が拝めるなら、面白くない筈がない。今のような立城が見られるとは順も正直なところ思っていなかったのだ。
短くなった煙草を吐き捨てる。新しい煙草に火を点け、順は感慨を込めて呟いた。
「これで役者が揃ったって事かな」
「そうですね」
不意に真後ろで声がする。順は目を見張って身体の動きを全て止めた。反射的に気配を殺す。だがそうしてみても背後の気配を感じることが出来ない。順は煙草を指でつまみ、唇から引き剥がした。ゆっくりと振り返る。
人好きのする笑みが真っ先に目に留まる。
「なるほど、さすがにそこまでは僕も判りませんでしたよ」
「どういう……ことかな?」
視界の隅には確かに頼りなく歩く立城の姿がある。では、この目の前にいるのは誰だ? 順は半ば混乱しかけていた。
「簡単なことですよ。あれを僕たち以外の誰かが……そうですね。例えば優一郎くんが見れば、僕ではないと判ると思いますよ」
楽しそうに笑いながら告げたのは間違いなく立城だ。順は無言で立城を睨むようにして見つめた。そうしている間に歩いていた立城の姿が遠ざかって行く。
なるほどねぇ。順はそう呟いて煙草を咥え直した。煙を細く吐きながら嗤う。
「確かにまんまと騙されたかもね。でも、それってかーなり危険技じゃないの?」
例えばここでオレに殺られる可能性もある訳じゃん。順は嗤いながらそう告げた。だが立城は事もなげに肩を竦めて苦笑する。
「事の成り行きを見逃すような方でもないでしょう? あなたは」
話しながら立城は歩き出した。どうやら言わなくても順がついてくると思っているらしい。やれやれ、と順はため息をついて立城の後ろをついて歩いた。確かに言われた通り、ここで立城と事を構えて成り行きを見逃すつもりはない。答えの判りきった二択だ。
一度は視界から出てしまっていた立城の背中がまた見えてくる。二人の立城は全く同じ格好をしていて、ぱっと見にはどちらが本物か判別できない。だが力を完全に閉ざし、器の視力のみで捉えると僅かな違いが見えてくる。見てすぐには単によろけながら歩いているようにしか思えない。が、よくよく見ると前方を行く立城の動きがどことなくぎこちないことが判る。
出来の悪いコピーと言われた当時のことを思い出す。苦い気分で順は前方の立城を見た。いや、正確には立城を模したもの、だ。本当の立城は順の少し前をゆっくりと歩いている。その足取りに迷いやためらいは微塵もない。
背後をとられることは滅多にないのですが……。
この頃の順だからなあ……。