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赤い光が細く長く天に向かって伸びている。細い光の根元には抱き合う二人の姿がある。立城は遠くそれを眺めながら微かに笑みを浮かべた。隣で不機嫌そうに顔を歪めていた順が訝りをこめた目で立城を見やる。立城は視線に気付いていたが、そ知らぬ振りでジャケットを探った。
細身の煙草を咥える。どうやら煙草を取り出したことがかなり意外だったらしい。順が正直に驚いた顔をする。立城は苦笑しながらライターで火を点けた。
「何か妙な感じだねぇ。こーしてオレとアンタが並んでるとこなんて、想像もしたことなかったよ」
疲れたように笑いながら順が告げる。それはそうでしょうね。立城は内心でそう答えた。実際に口に出さなかったのは、少しでも声を出すと気付かれてしまいそうだったからだ。
声にしない立城の返事をしっかりと読み取ったのだろう。順が嫌そうに眉を寄せる。立城は微笑みだけを返して再び抱きあう二人へと目を転じた。
これまで順は巧みに身を隠し、決して立城の前に姿を現そうとはしなかった。それは立城も同様だ。出来ることなら関わりたくない。それが正直な気持ちだった。少なくとも数ヶ月前までは。
翠が介入してきた時点で事情は一変した。それまで内々だけに留めておこうとしていた計画が、そのままでは進められなくなってしまったのだ。断罪の主が目覚めるまでに済まさなければならなかった事柄の多くは未だ手付かずのままで放置されている。翠の目を盗むなどという真似は決して出来ないだろう。それが痛いほど判っていただけに、立城は止む無く計画を変更せざるを得なかったのだ。
本来、龍神とハンターは敵対関係にある。その理由は簡単だ。龍神の持つ龍宝珠がハンターの主食だからだ。それ故、古来から二者は敵対してきた。もっとも、圧倒的な数の差のため、ハンターの存在そのものが滅多に目にすることが出来ないものだった。だが龍神の間ではその手の情報は光の速度で伝達する。瞬く間にハンターの噂は広まり、龍主天輝によりハンターの討伐命令が下された。それは随分と昔の話だ。
紫翠がまだ生きていた頃の話だ。当時、ハンターの数は今よりずっと少なかった。彼らは龍神の多くに逆に狩られ、種そのものが絶滅したかに見えた。
ここに一つの問題があった。ハンターは龍神と同じく、ほぼ百パーセントの確率で血を継げないということだ。例えハンターが次の世代に血を繋ごうとしても、まず間違いなく子供はできない。それは龍神にも同じことが言える。龍神同士で子供を成してはならない、という禁忌があるが、それは龍神自身もどうやっても犯すことの出来ない取り決めなのだ。
少なくともハンターが壊滅したと言われた時はそうだった。だがだからこそ、ハンターは決して絶えてはいないだろう、というのが当時の一部の龍神たちの意見だった。現に今、立城の横にはこうして順が並んで立っている。そして翠が天輝と子供をなしてしまったことも、当時からすれば考えられなかったことだった。
時は容赦なく流れていく。それこそ、地上に生きる者たちが気付かぬ内に、時は流転する。あの頃、常識と言われていたことは既に覆っているのだ。
ハンターは血で継ぐものではない。それでは何故、この現在の地にハンターたちはこうして生きているのだろう。絶滅したと言われたにも関わらず、彼らはどうして未だに地上にいるのか。
それは龍神の間に子供が出来てしまったことにも起因する。時は流転する。状況は刻々と移り変わる。そして世界がどんな気紛れを起こしたのかは地上にいる者たちには判らない。知らぬ間に事は進み、そして気付いた時にはもう事態は一変しているのだ。少なくとも立城は何度もそのために痛い目を見てきた。
生まれる筈のない夜叉が生まれた時から、既に歪みは存在していたのだ。歪みは一つずつ、だが着々と別のゆがみと混ざり合う。そしてその力は次第に強くなり、最終的には世界の状況が大きく変化する、という結果になる。
絶滅したと言われたハンターたちは血では継げない。そしてそれは龍神たちにも同じことが言える。龍神と争い続けるべく定められた種として、ハンターは世界に偶然かつ故意に生み出されたのだ。
龍神の力が今より強大であった頃、ハンターはその必要性が殆どないためか、絶対的に数が少なかった。それ故に龍神に先に狩られることも多く、大抵のハンターは龍宝珠を一度も糧とすることが出来ず、死んでいった。だからこそ、龍神たちは天敵のいない状況で世界に君臨することが出来た。それがある意味では龍神たちにとって一番幸せな時期だった。
そんな折、龍神の主である天輝に反旗を翻す龍神が現れる。それが黒妖牙だった。本当ならあり得ない事象が起きたのだ。その原因になったのは数多くの誓約者たちの存在だった。
だが後に大戦と呼ばれるようになったあの戦いの中で、誓約者たちは殆どその力を使うことが出来なかった。特殊な輝きを帯びる誓約者たちはその力を恐れる龍神たちの手によってあらかた狩られてしまったのだ。
絶対の存在として君臨しなければならない、という履き違えた使命感により、龍神たちは誓約者たちの殆どを葬った。人としても生きられず、龍神たちにも受け入れられない。そんな彼らが何も思わないままで死んでいっただろうか。否、きっと天を呪ったに違いない。望んでそう生まれた訳ではないのに、なぜこんなに早く命を取られなければならないのか。しかも一度も揮っていない力を持っているという理由だけで。
恨み、後悔、絶望。多くの思いは誓約者たちの意図せぬままに力となって世界に満ちた。龍神という存在は元々、力が形をなしたものだ。それ故に誓約者たちの残した力に否応なしに影響される。
かつて龍神にははっきりとした感情はなかったという。それは真っ白な状態で生まれた白琅渉を例にすれば納得できる。天の居城を守る白龍神、白琅渉は生まれた時には何も感じることが出来なかった。世界が一つずつ白琅渉に感じることを教え、そして彼女には感情が徐々に備わったという。
一つずつ、感じるように。彼女と同じように龍神は各々が学習していく。だが力で構成された龍神は世界の意図を無意識のうちに読もうとする。そして世界の成り立ちを、やがては見えてはならないものが見えるようになってしまうのだ。
誓約者たちの残した力を学習した龍神たちが世界に蔓延しかけた時、唐突に大戦は終結した。あれだけ龍神たちを翻弄した黒妖牙の陣があっさりと白旗を上げたのだ。黒妖牙は龍神の手によって捕らえられ、天の居城の奥深くに幽閉された。黒妖牙は身柄を拘束され、龍神の誰もがほっと息をついた。
大戦で犠牲になった者は数知れない。その犠牲者には金龍神、識晃も含まれていた。八大の一人である彼の死を龍神たちの多くは悼んだ。そして龍神たちは識晃の魂を湖の奥深くに沈めたのだ。
それが間違いの元だとは気付かないままで。
設定は後から出来る物!!w