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「お、おい、ちょっと待て。どういう意味? それ」
順が上ずった声で言葉を挟む。立城は真っ直ぐに前を向いたまま、黙っていた。視線の先には抱き合う二人がいる。
本来、龍神には一つの使命がある。それは龍主が存在しているかどうかに全く関係なくまっとうされるべきものだ。が、いつからか龍神たちの多くはその使命を忘れているのだ。
世界に凝った汚濁を焼き、流し、清めるという絶対の使命を龍神たちの多くは忘れ去っている。その力は世界の自浄作用として働くべきものであるのに、龍神たちは自分たちの力が世界に与えられた特別なものだと過信しているのだ。
龍神は世界に選ばれている訳ではない。誰もが当り前に持っている、生まれながらの使命というものを全うするため、あえて力で構成されているだけだ。生きている意味も、理由も、それらは全て世界に生きる誰もと同じだ。決して龍神だけが特別なのではない。
ハンターは世界の歪みそのものだ。世界が歪むたびに新しいハンターがどこかで生まれる。それは言わば世界が溜まりに溜まった汚濁に耐えられなくなり、排除する意味も含めて誕生したものなのだ。
龍神たちが世界と呼ぶもの。それはすなわち、天の頂きそのものだ。少なくとも多くの龍神たちはそう思っている。世界の意志とは地上に生きる者たちを含める、この世全体が思うことを示しているのだ。
だが本当に世界に意志があるのだろうか。
立城がそこまで考えた時、順が頭を抱えて地面に屈み込んだ。ごく小さく、低く呻いている。
「なるほど、そりゃあ確かに変な話かも知れないねぇ。意志とかってものがあるとなると、世界ってものが生きているとかそういうことになるし」
苦悩しつつ順が呟く。その声は殆ど聞き取れないほどささやかなものだった。立城は正面を見据えたまま、微かに笑った。
「僕がとある答えに行き着きそうになると、必ず何らかの障害に突き当たってしまうんです。それも例外なく」
学校にたどり着いてから初めて立城はそう声に出して答えた。真也たちの身体は何らかの力に包まれている。既にもう、真也がその力から逃れることは出来ないだろう。立城はじっと彼ら二人の様子を見つめながら続けた。
「龍神たちが本来の力を揮う時、必ず器は滅します。だからこそ、龍神たちは本来の使命を忘れているんです」
世界がそれほどまでの力を龍神に与えた理由はただ一つだ。汚濁を焼き、洗い流し、そして清めるために世界は龍神を最初から使い捨てるつもりで作ったのだ。決して、龍神たちが特別なのではない。本当は必要だからこそ生まれ、そして死に行く運命だったのだ。
使い捨てだからこそ、龍神は大量に生み出された。そして死んだ後も必ず代わりの者が生まれる。龍神の輪廻は永遠に続くのだ。少なくとも作られた時にはそうだった筈だ。そうでなければ計ったように金龍神は生まれ変わったりしなかった。そして立城と真也も紫翠の生まれ変わりだと自覚することもなかった筈なのだ。
力が転じて天を貫く光の柱になる。立城は二人を包む力の変化を静かに眺めていた。真也は立城を模したものを抱いたまま、微動もしない。
「食物連鎖の底辺にいる筈だったんですよ、僕たちは。力の強弱には関係なく、ハンターに大人しく狩られる予定だったんです」
だが龍神たちは使命を忘れた。いや、意図的に使命を捻じ曲げることにしたのだ。生まれながらにして携えたその強大な力を利用して。
「……だからってアンタはここでいまオレに、狩られて下さい、はいそうですかって狩られたりはしないんじゃないの?」
「しませんね」
嘲笑うかのような順の問いかけに立城はきっぱりと即答した。
生きている者たちの根本的な願い、思いを本能と呼ぶ。使い捨てられる予定だった龍神たちにも本能があった。生きたい、生き続けたい、死にたくないという生存本能だ。
世界の予定を覆すほどの思いがあったからこそ、龍神たちは本来の使命を捻じ曲げた。いや、彼らに捻じ曲げるつもりはなかったのだ。だがつもりがなくとも、彼らが生きたいと思った時、使命は歪められてしまった。
その本能は立城にもある。
「必要であればいつでも命を賭けますが、ね」
だが誰かに摂取されるために命を投げ出す気は毛頭ない。予定がどうであろうと生きることを自ら投げ出すつもりはない。そう立城は付け足しながらちらりと順を見た。それまで完璧に築かれていた防壁が僅かに緩んでいる。流れてくるのは憎悪の感情だ。それを見やってから立城は微かに笑った。
黒々としたもやのような形をとった順の思惟が立城に向かって流れている。立城はだがそれまでのように無防備に受け入れたりしなかった。氷のように冷ややかな防壁を展開して思惟を遮る。
「……長々と講釈賜り、恐悦至極に存じます、とでも言えばいいのか?」
それまで被っていた人の良さそうな仮面を取り去り、順が剣呑に告げる。立城は無言でそれを流し、煙草の灰を地面に落とした。メンソールの煙をいっぱいに吸い、細長く吐き出す。それだけの挙動の間に視線の先に異変が起こる。
真紅の光が飛ぶ。立城は黙って二人の元に歩き出した。
「必ず後悔させてやる。覚悟して待っていろ」
苦しむような低く震える声に立城は足を止めて振り返った。極上の笑みを作って首を傾げる。
「楽しみにしていますよ」
それだけを残して立城はグランドに向かった。背後で順が殺気を放っている。それも当然か、と立城は呟いた。それまで決して気付くことのなかったことを、唐突に他者に告げられたのだ。しかもその相手が立城だということも順の怒りに拍車をかけた原因だろう。そのことを立城ははっきりと自覚していた。
相変わらず仲悪いw