※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

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うあー。自分的には不穏なエピタイになりました(汗)
エロシーンはありません。


紫翠の誓約は始まっている

 冷たい風が吹き抜ける。水輝は雪を手のひらで受け止めて舌打ちをした。空を焦がしていた紅い光は納まりつつある。

 

 優一郎と共に奈月が学校に現れた時、水輝は奈月だけを自分の傍に引き寄せた。あの時の悪夢がまた蘇るような気がしたからだ。今、奈月は傍で静かな寝息を立てている。水輝が力を割り込ませて奈月をさらったのだとも気付いていない。

 

 今度こそ真也の魂は冥界に旅立つだろう。黒妖牙の迎えが来ていたことから見ても、それは明らかだ。しばしの間、魂の浄化が行われ、その後に真也は転生の輪廻に加わることになる。

 

 強い雨に晒されていても、水輝の身体は少しも濡れていない。意図的に水輝が降らせた雨だったからだ。小さく息をつき、水輝は煙草を取り出した。白い巻紙に包まれた煙草をしばらくぼんやりと見つめる。

 

 誰もが間違えていたのだと立城はかつて水輝に告げた。紫翠に決して想いを打ち明けようとしなかったかつての水輝も、その想いが凝ったものと知りながら砂夜を受け入れた紫翠のやり方も、そして生まれかわった後も砂夜を追い求めた立城も。全ては歪みの果てに作られた行動なのだと立城は言った。

 

 そして世界は決して望んでいなかったのだと。

 

 お伽噺を語るような穏やかさで立城は水輝に語り聞かせたことがある。世界の理など、本当は勝手に決められたルールに過ぎない。その気があれば、力があれば、いつでも覆せるのだと。

 

 必要なのはたゆまぬ努力と、決して諦めない気概だよ。そしてそれに伴う行動力さえあれば、大抵のことは可能なんだ。

 

 そう言った時の立城は穏やかな微笑を浮かべていた。が、その実、内心には得体の知れない思いが燃え盛っていた。恐らく、立城自身も気付いていなかったに違いない。それに気付いた水輝はだが口を閉ざしていた。

 

 龍神の長として全ての頂点に立つ筈だった紫翠は、その座をあっけなく放棄した。だからこそ世界は紫翠を『要らない』と判断したのだ。そうでなければあれほどまでに力に満ちた紫翠が殺される筈がない。例えそれが惚れた相手だったとしても、だ。水輝は苦い思いをしながら顔をしかめた。

 

 許せ。私はお前に全てを背負わせてしまうのだ。

 

 水輝の刀に貫かれた時、苦しい息の下で紫翠は告げた。それまで見たことのない辛そうな表情は、今でも胸にはっきりと焼き付いている。

 

 私は永遠を見つけるのかも知れない。

 

 まだ、砂夜が生まれていなかった頃、紫翠はそんなことを水輝に打ち明けたことがある。その時の表情もまた、水輝が見たことのないものだった。穏やかな、それでいて内に激しい思いを秘めた顔をしていた。何気ないつもりでの言葉ではないことは理解できた。あれはわざと水輝に聞かせるために告げられた言葉だったのだ。

 

 自分は永遠を見つけて幸せになるってか。でもって、後のことはよろしくって、おれに全部押し付けて死ぬって? そういうのを我侭って言うんじゃないのかよ。

 

 今なら幾らでも紫翠に言い返せる。だがあの時、紫翠の言葉を聞いた水輝は何も言えなかった。

 

 そしてあの時の紫翠と同じ顔を立城がしているのだ。

 

「笑い話にもならない」

 

 呟いて水輝は頭をかいた。つい、無意識に煙草のフィルターを噛み潰してしまう。だが一度、思い返し始めたことはそう簡単には止まってくれなかった。

 

 だから水輝に協力して欲しいんだ。さらりと告げた立城のことを思い出し、水輝は苦々しくため息を吐いた。どっちが我侭だ、とぼやいてポケットの底からライターを引っ張り出す。そこでオイルが切れていたことを思い出し、水輝は舌打ちと共に指を鳴らした。

 

 指先に炎が灯る。その色は青白い。火藍の生み出す真紅の炎とは全く色が異なっている。水輝は指を近づけ、煙草の先に火を灯した。

 

 冷たい雪は降り続いている。一度、雨を降らせと命じた雲は分厚く空を覆い隠している。空を仰いで水輝は煙を吐き出した。

 

 断罪の光がゆっくりと消えていく。後に残ったのは微かな緋色の輝きだけだった。グランドの中央に近いところに火藍が立っているのだろう。その様を水輝は校舎の屋上から眺めていた。眠る奈月が横たわっている。その隣に座っていた水輝は無言で腰を上げた。奈月を両腕に抱え上げて立ち上がる。

 

 穏やかな寝顔を見下ろしながら水輝は微かに笑った。

 

「なあ。おれはどうしたらいいと思う?」

 

 立城は緩慢な自殺中だ。火藍は蘇りはしたが、恐らくこれから順にいいように操られるだろう。優一郎は予定通りに進まないだろうが、どのみち多輝とは無関係ではいられない。

 

 唐突に現れた氷龍神の件も考えない訳にはいかない。水輝の支配下に置かれていた彼らは大戦の折、全滅した。だが彼らもやはり水輝たちと同様に世界が生み出した存在だ。もし、その存在が今必要と判断されて生まれたのなら。

 

 世界は何を凍りつかせてしまおうとしているのだろう。そう思う水輝の胸の片隅には既に答えは浮かんでいた。疑問に感じる余地などない。本当に氷龍神が蘇ったのなら、世界の目的などただ一つだ。

 

 あの時と同じようにか。水輝は低く吐き捨てた。




この辺りから水輝が完全に別行動になります。
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