※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

3 / 240
『夢の隙間』の続きの話です。
エロシーンありません。前振りだけです。


一章
出発の日 1


 世間の学校では体育祭などが行われる秋、多輝は学校には行っていなかった。一時的に休学しているからだ。多輝はため息をついて自分の通っていた学校を見上げた。その学校は市立清陵高等学校。小高い丘の上にそびえ立つ校舎が嫌に懐かしく見える。数ヶ月前まであそこに自分がいたのだ。そう、思ってはみるがどうも実感がない。

 

 懐かしいと思えるほどまだ時間が経っていないからではない。実感が湧かないのは当時、通っていた頃には今とは全く別の姿をしていたからだ。あの頃の多輝は紛れもなく男として生きていた。だが、今の多輝はどこから見ても少女だ。それも黙って街の中にでも立っていれば、何人かの年頃の男が必ず声をかけていくような美少女だった。多輝はため息をついて校舎から目を離し、また坂道を下り始めた。

 

 清陵高校へと続くなだらかな坂道には多輝以外に誰もいない。登下校時には賑わうこの道も生徒の姿がなければやけに静かだ。多輝は通学していた頃の事を思い出しながら坂道を下った。クラスメイトたちと時には笑い合った日々が遠いことのように感じられる。そんなに年は食ってない筈なんだがな。多輝は小さな声で一人呟いた。

 

 多輝はとある事件がきっかけで女性の身体になった。しかもその身体は生身ではない。機械仕掛けの身体だ。機体作成者は吉良優一郎。優一郎は現代では世界一の科学者と言われている吉良総一郎の息子にあたる。そんな大人物の息子である優一郎と多輝は同じ学校に通っていたのだ。そうでなければ今ごろおれは死んでいたかも知れない。多輝は心の中だけでそう呟いた。

 

 緩やかなカーブを曲がっていくと短いトンネルがある。このトンネルの上を高速道路が走っているのだ。防音壁に阻まれていても車の走る音は坂道まで聞こえてくる。多輝はふと足を止めてトンネルの上を見た。だがやはりそこには防音壁しか見えない。白と緑のラインの入った壁をしばらく見つめ、多輝は再び歩き出した。

 

 今日は特別な日なのだ。これまで、女性の機体になってからずっと、多輝は清陵高校の地下で暮らしてきた。優一郎が機体のメンテナンスをしやすいようにという理由からだ。だがずっとそのまま隠れている訳にはいかない。何しろ多輝は休学したままで、この半年間というもの、まともに授業を受けたことはないのだ。

 

 そんな多輝を気遣った優一郎がとある提案を持ち出した。多輝が別の人物として転入するのであれば、問題はないのではないか。多輝はその話を最初は断った。どうせこの身体でまともに就職なんて探せない。最初は良くてもいずれ健康診断でもされれば普通でないことがばれてしまう。それなら学業など特に役には立たないのではないか。しかも多輝はそもそも人間ではない。人とは違う能力を有しているのだ。それ故に多輝は優一郎の申し出を断るに至った。だが、優一郎は珍しく何度もその話を多輝に持ちかけたのだ。

 

 結果的に多輝は優一郎に従うことにした。元より、機体作成者の優一郎が本気になれば多輝は逆らうことが出来ないのだ。それが多輝の持つ機体の特性でもある。

 

 機体の特性には種々あるが、中でもそれを欠いては成り立たないというシステムが存在する。それが性感制御システムだ。多輝を始めとする機械仕掛けの身体を持つ者たちを総称してヒューマノイドと呼ぶ。機体と自我とのずれによって生じたストレスを快楽で解消するため、快楽のシステムとも呼ばれている。そして彼らヒューマノイドにはその性感制御システムが絶対不可欠なのだ。

 

 まあ、そんなもんなくても逆らうつもりなんてなかったけど。そう思ってから多輝は慌てて首を振った。火照った頬を手で包み、多輝は周囲に人がいないかを確かめた。だが心配とは裏腹に周辺には誰もいない。多輝はほっとして胸に手を当てた。途端に機体が敏感に反応する。思わず眉を寄せた多輝は乱暴に手を下ろした。乳首が勃ってしまったのが判ったのだ。

 

 舌打ちをして歩き出す。だが多輝はトンネルに入ってすぐのところで足を止めた。驚きに目を見張る。トンネルの壁にもたれて立っていたのは優一郎だった。

 

「だいじょうぶかい? 顔が火照ってるよ?」

 

 腕組みをして優一郎がそう告げる。多輝は慌てて辺りを見た。確かに人の気配はなかった筈だ。なのにどうしてここに優一郎がいるのだろう。絶句して答えられない多輝の代わりにか、優一郎は言葉を続けた。

 

「もしかして、緊張してる?」

 

 心配顔で話し掛けてくる優一郎に答えられず、多輝は視線を彷徨わせた。何度、見つめられても慣れない。それに機体は多輝の意志を無視して優一郎に如実に反応している。機体のあちこちがじわじわと火照る。




多輝が冒頭から女性なので、TS警報は出すべきなのか悩みましたが……(汗)
まあ、このままで!w
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。