※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

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今のところエロシーンはないです。


不倫? 昔の幻影? 1

 秋の空は遠い。ぼんやりとそれを眺めながら順は唇に指を当てた。窓の外に向かって指笛を吹く。高い音が空に響くとどこからともなく小鳥が飛んでくる。順はソファから腰を上げてバルコニーに出た。手を伸ばし、指を開く。あらかじめ握っておいたパンくずを求めて小鳥が順の手の先に集まった。

 

 薄い雲が空をゆっくりと流れていく。順はジャケットの内ポケットを探り、一枚の名刺を取り出した。金色の飾り文字で記された社名を眺めて苦笑する。肩越しに指で弾くと、名刺は鋭く空気を切って飛んだ。順の背後、部屋の壁に狙い違わず突き刺さる。それを取り上げたのは一人の女性だった。

 

「引っ掛けるにしてももう少しマシな方法はなかったもんかね?」

 

 小さく笑いながら告げる。順はそう言いながらゆっくりと振り返った。バルコニーの手すりに背中をもたせかけ、部屋の中に佇む女性に視線を流す。女性は手にした名刺を指先で軽く裂いた。

 

「あの頃は私もあなたのことをよく存じませんでしたから」

 

 そう応えたのは栄子だった。順は苦笑して手の中のパンくずを叩いて落とした。小鳥が一斉にパンくずを求めて順の身体から飛び降りる。よいしょ、と掛け声をかけて順は部屋の中に戻った。

 

 数ヶ月ほど前のことだった。とある事件の後、順の元には最愛の妹である都子が戻ってきた。だがその件を差し引いても順の食らった痛手は少なくなかった。警備システムのダウン、情報の流出、そして最悪だったのが秘宝の紛失だった。どさくさに紛れて持っていかれた宝は門外不出のもので、木村にとってはなくてはならないものだったのだ。

 

 結果的にその秘宝は吉良瀬に流れたという。だがそれすら順にとっては確認できることではなかった。正面切って返せと言える類のものではなかったからだ。

 

「今は知ってるって言いたい? オレのことを」

 

 皮肉に笑いながら順は栄子の目の前に立った。栄子が三十を過ぎても尚、若々しさの溢れる肉体を持っているのには理由がある。近頃、若返った気がするわよね、というのが栄子が所属する部署の女子社員の証言だ。現に栄子はここ数日で随分と若さを取り戻している。

 

「もちろん、私の存じない部分も多々あるでしょうけれど」

 

 ころころと笑いながら栄子がちらりと視線を流す。さりげなく順の身体を見つめる栄子の目には、数日前までは感じることの出来なかった色香があった。順は苦笑してその視線を避けると先ほど座っていたソファに舞い戻った。

 

 木村の血は順で頭打ちになっている。その理由は簡単だ。順が子供を作らないからだ。そして木村の分家は順が認める血ではない。それは単純に木村の姓を継ぐだけの出来そこないだからだ。

 

 都子という妹については順の頭の中では全くの別枠になっている。例えば都子が子供を作ったとしても、それは正式に木村の後継ぎに出来る存在にはならない。木村の頭を支える柱……戦うことだけが生きる術となる。それが木村が吉良瀬とずっと張り合ってこれた理由でもある。

 

 財閥と財閥の戦い方ってのとはちょっと違ってるかな。順は苦笑して胸の中で呟いた。

 

「まずは経過報告を聞こうか。あ、そうそう。その前にお茶なんていれてくれると嬉しいかなあ」

 

 順の言葉を受けて栄子が深々と礼をする。ドアの向こうに消える栄子の背中を見送り、次に順は床に目を落とした。栄子の捨てた名刺の残骸を見つめる。順が指を鳴らすと紙片は宙を舞い、やがて順の差し出した手の中に集まった。

 

 栄子はその若さで吉良瀬財閥系統の会社を幾つか所有している。今現在、栄子が重役を務めている会社も吉良瀬系列会社だ。中小企業とは言っても幾つも所有していればそれだけ所得も出る。順は手の中に名刺の残骸を握り締めて小さく笑った。次に指を開くと名刺は元の姿に戻っていた。

 

 K2インタラクティブ株式会社 代表取締役 如月栄子

 

 一番最初、順が栄子に出会った時に渡された名刺がこれだ。会社名は順もよく知るK2インタラクティブ株式会社のそれだった。栄子はインタビューを申し込んだ順を木村のスパイと睨み、牽制のためにこの名刺を渡したのだ。だが順は栄子の素性も知り尽くしていた。最初、順は騙された振りをして木村の情報を栄子に流した。が、それらの情報はどれも微妙に細工してあり、結果的には何の役にも立たないように作られていた。だが、それが作り物だと栄子が気付いた頃にはもう手遅れだった。順は栄子の取り仕切る会社に潜り込み、次々に女子社員を手にかけていたのだ。

 

 気付けば泥沼に嵌っていたのは栄子だった。順にいいように操られた女子社員たちは重要な情報をのきなみ漏らしてしまっていたのだ。そして栄子は栄子で順の誘惑に打ち勝てず、その身体を差し出してしまった。

 

 最初はためらいがちに、やがては大胆に栄子は順と交わった。そしてその度に栄子の身体は若い頃の艶を取り戻す。

 

「まあね。オレもただで情報をもらう気はなかったしねぇ」

 

 数日前のことを思い出して順は笑った。肩越しに見返るとバルコニーにはまだ小鳥がとまっていた。順は再び腰を上げてバルコニーに出た。柔らかな木の色は天然のそれだ。手すりにもたれて順は宙に手を伸ばした。一瞬で手の中がパンくずで一杯になる。小鳥は一斉に順の手に群がった。笑いながら小鳥と戯れる。

 

 ほどなく部屋に栄子が戻ってきた。順は三度目の餌を小鳥に与えてからバルコニーを降りた。部屋にはアップルティの香りが漂っている。

 

「娘がクッキーを分けてくれたので持ってきてみましたの。いかが?」

 

 順は出された皿からクッキーを一つだけ摘み上げた。口に運ぶと焼きたてのいい香りがする。クッキーの生地には砕いたアーモンドが混ざっていた。

 

「けっこう美味いよ、これ。要ちゃんの手作り?」

「ええ。娘が明日、お友達に持って行くとかで作っておりますの」

「でもこれ、栄子さんは食べない方がいいよ。睡眠薬が入ってるから」

 

 即座に順はそう切り返した。舌先に人工物の味が残っている。まあ、と栄子は顔をほころばせて口許に手をあてた。




説明含んでいるのでけっこー長いです(汗)
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