エロシーンはありません。
それから由梨佳は今日一日のスケジュールを説明し始めた。朝食の時間は午前九時まで。その後にメンテナンス、次いで昼食、その次に学習時間、夕食、風呂、そして睡眠となる。それを聞きながら多輝はいちいち頷いた。まだ二日目で慣れないが、これからそのスケジュールにも慣れていかないとならない。
「奈月さん、これから天輝さんはメンテナンスだから、席を外してもらえるかしら」
優しい微笑を浮かべて由梨佳が静かに告げる。
「はい、失礼します」
元気のいい返事をして奈月が部屋を出て行く。ドアのところで振り返ってご馳走様、と愛らしく告げる奈月に多輝は笑顔で手を振った。
ドアが閉まりきると奇妙な沈黙が二人の間に落ちた。多輝は自分から由梨佳に話し掛けることが出来ず、無言で紅茶のカップを傾けた。対する由梨佳はさっきまで浮かべていた微笑を消し、生真面目な顔で端末を操っている。
「メンテって……何するんすか」
しばらくの沈黙の後、多輝はぼやくようにそう訊ねた。目だけを画面から上げ、由梨佳が苦笑する。多輝の脳裏には昨日のチェックが思い浮かんでいた。チェックと言いながら由梨佳は多輝の女性器を散々弄ったのだ。
「とりあえず、全身の状況チェック。身体の調子がおかしいでしょう?」
多輝が自分から報告出来なかった事を由梨佳は的確に言い当てていた。多輝は息を飲んで黙り込んだ。確かに言われた通りだ。弁解の余地はない。だが一つだけ判らないことがある。何故、これほどまでに自分の身体は痛むのだろう。
「あ、あの。何でおれがこんなになってるか、判ります?」
出来るだけ気をつけて喋ってはいたが、多輝の喋り方はいつもと比べてぎこちなかった。相手が教育担当の先生である、という意識が多輝を無用に緊張させているのだ。
「あなたはヒューマノイドの中でも珍しく、睡眠機能を持っているわ」
端末の蓋を閉じ、由梨佳は改めて多輝に向き直った。告げられる言葉に多輝は無言で頷く。どうも自分の機体はヒューマノイドの中でも特殊であるらしい。そのことは昨日、由梨佳からも説明された。
「あなた、最近、きちんと自慰をしてた?」
だがそれとこれとがどうして関係あるのだろう。睡眠機能について巡っていた多輝の思考にいきなり由梨佳の言葉が割り込んでくる。多輝は驚いて目を見張った。何でそれが関係あるんだよ。反射的にそう言い返しそうになる。多輝は慌てて片手で口を覆ってから首を横に振った。
「いえ、して、ませんけど」
少なくともこれまで自慰をした記憶がない。そのことを多輝は正直に由梨佳に告げた。由梨佳は多輝をからかうためにそんな質問をしている訳ではない。そのことは多輝にも十二分に判っていた。
「駄目じゃない……」
呆れたように由梨佳が告げる。多輝は素直にごめんなさい、と由梨佳に詫びた。そんな多輝の反応に由梨佳が僅かに目を見張る。だがそのことに多輝は気付けなかった。俯いてカップの中の紅茶に目を落とす。
「ヒューマノイド化されたときに、性感制御システムについては説明を受けているわね?」
「でも、あの、立城は何も教えてくれなかったし……」
これでは言い訳にしかならないと思いながらも多輝は呟くようにそう答えた。するとぴくりと由梨佳の眉が跳ねる。多輝は由梨佳の気配の変化を敏感に受け取り、慌てて顔を上げて手を振った。
「あ、あの、でも、ごめんなさい。おれがちゃんと聞いてなかっただけかも」
説明なんて受けたかなあ。心の底ではそう思いながら多輝は口では謝っていた。すると由梨佳が大きなため息をつく。
「いいのよ」
そう言って由梨佳はにっこりと笑った。が、その唇が微かに動いて呟いたのを多輝は見逃さなかった。立城さんにしては珍しい手落ちね。由梨佳の声にならない声がはっきりと多輝の意識に届く。多輝は居たたまれなさに俯いた。
「それでは改めて説明します」
そう言って由梨佳は説明を始めた。
「ヒューマノイドとは、機械の身体に人の精神を組み込んだものだってことはわかるわね?」
「あ、はい」
答えながら顔を上げる。由梨佳は再び端末を見下ろしていた。その指が忙しなくキーを弾く。どうやら説明しながら何かを打ち込んでいるらしい。多輝は大人しく由梨佳の説明に耳を傾けた。
ヒューマノイドは機械仕掛けの身体……つまり、機体に人の精神を半ば強制的に組み込んだものだ。だが、当然、そんなことをすれば無理が出る。どこかに皺寄せが来るのは自然なことだ。そう、由梨佳は説明を続けた。
「試作機が作られて、数年間、その試作機を用いて研究した結果、ある、事実が判明したの」
ヒューマノイド化された精神を維持をするためには、性的快感を定期的に与え続ける必要があること。そしてその条件を満たしても、維持可能なのはある特定の性向を持つ女性の精神だけだということ。その二点を由梨佳は詳しく説明した。多輝は言葉の一つ一つを頭に叩き込み、無言で頷いた。
「簡単にいってしまうと、ヒューマノイドは毎日、自慰やセックスに耽らないと、存在していく事ができないってわけなの」
そう締めくくって由梨佳は顔を上げた。だが多輝は真っ直ぐに由梨佳を見られなかった。恥ずかしさに顔が自然と赤くなる。なのに自慰とかセックスとかいう単語を聞いただけで無性に下半身が熱くなるのだ。
この辺りの設定は前からあったのですが、ちゃんと説明されたのはここが最初かも知れません。