あ、エロシーンはないです。
一つ、運んで欲しいものがあるんだ。そう優一郎は告げたきり、再び専用の研究室に引っ込んでしまった。何でも今、開発中の新しいヒューマノイドがいるらしい。カレンはしかめ面で頭をかいてため息をついた。
授業もほっぽり出してかよ。カレンは胸の内でそう呟いた。優一郎が優秀であることは、恐らく彼に開発されたヒューマノイドが一番よく知っている。カレンは自分がそんな中の一人であると自負していた。
やれやれ、と肩を竦めてドアに背を向ける。ここより更に地下に作られた専用研究室には優一郎以外が入室することは出来ない。研究施設のあらゆる管理を任されている保美ですら例外ではない。恋人の斎姫も専用研究室の内容は全く知らないと言っていた。カレンは眉間に皺を寄せたまま、大股で研究室に戻った。部室として利用されている研究室は数多くあるが、中でも部員たちが談笑するために作られた部屋は一つだけだ。カレンは機嫌の悪さを満面に表しつつ、その部屋に戻った。
派手な音を立ててドアを開ける。既に中にいた斎姫が驚いたように振り返った。その足元にはなめくじのなめぞうが横たわっている。どうやら斎姫に撫でてもらっていたらしい。
まあ、授業に関してはウチらも同じだけどさ。カレンは不服を込めてそう呟いてから大股で部屋に入った。どすん、と身を投げ出すようにして椅子に腰掛ける。カレンのお気に入りの揺り椅子が反動を受けて小さく軋む。
「どした? 今日は果穂はいないのかい?」
ちらりと斎姫を見やってカレンはそう告げた。訊き方がぞんざいなのは性格からだ。斎姫もそんなカレンの言い方には慣れているのだろう。困った顔に微かな笑みを浮かべて頷く。
「果穂ちゃんは、今日は保美先輩と出かけたわ」
果穂は一人では絶対に研究所を出ない。外に出ると小学生と間違われることが多く、時には誘拐されかけてしまうからだ。かと言ってなめぞうを連れて出る訳にもいかない。なめぞうは気のいいやつだが、ごく一般の人々から見れば化け物に過ぎない。カレンはふうん、と呟いて手を伸ばした。
「仁科も買物かあ。じゃ、ここにいるのはウチと吉良瀬だけ?」
そう言いながらカレンはテーブルの上に盛られたクッキーをつまんだ。いつも保美が部員のために、と焼いてくれるものだ。カレンは口にクッキーを放り込んで周辺を見た。が、目的の茶は辺りにはない。仕方なくカレンは椅子から腰を上げた。
「そうね。あと、保美先輩から、電源の確保は大丈夫だから心配しないで、と伝言よ」
茶をいれるために席を立ったカレンに斎姫が声をかける。なるほど、とカレンは口許を歪めて笑いの形を作った。保美はその電力供給のためにカレンと性交しなければならない作りに改造された。カレンは女性型のヒューマノイドだが股間にペニスを持っている。保美は普段はその亀頭部分から電源を確保しているのだ。
「さっき仁科とはやったからね。まあ、しばらくは持つだろうさ。それより」
カレンは言いながらドアのところで斎姫を振り向いた。斎姫が不思議そうな顔で首を傾げた。なめぞうが甘えるように斎姫の足に擦り寄る。
「吉良瀬は茶は飲むかい? ついでだから一緒にいれるけど」
「ありがとうございます」
微笑を浮かべて応えた斎姫に頷き、カレンは調理室に急いだ。手際よく茶を入れて先ほどの部屋に戻る。すると今度は斎姫がなめぞうの触手に向かって紙風船を放り投げているのが見えた。
「へえ。なめぞうが果穂以外の誰かに懐くなんてねぇ。初めて見たよ」
なめぞうは器用に紙風船をキャッチして斎姫に放り返している。それをまた斎姫が手のひらで軽く叩いてなめぞうに向けて放る。カレンの目から見てもなめぞうは楽しんでいるように思えた。
「こう見えてけっこう器用なのよ」
微笑みを浮かべながら斎姫が告げる。カレンはへえ、と応えて茶を斎姫の近くに置いた。白磁の茶碗からは湯気が立ち上っている。カレンは自分の前にも茶を据え、静かに椅子に腰掛けた。体重をかけるとゆらり、と椅子が揺れる。
「ウチはそいつに嫌われてるっぽいからねぇ。ま、昔に苛めたからなんだけどさ」
そう言いながらカレンはずずっと茶を啜った。程よく入った緑茶が喉に染みる。顔を上げるとどこか不満そうな斎姫と目があった。どうやらなめぞうを苛めていたという言葉が気に入らなかったらしい。ああ、と笑ってカレンはなめぞうの触手を指差した。
「その触手。いっぱいあるけど、中の一本がさぁ」
当時のことを思い出しながらカレンはくすくすと笑った。それまでの苛立ちが消えていく。
「男のアレみたいに勃起するんだよね。それもけっこー、太いやつ」
保美がなめぞうの身体を押さえつけ、カレンは触手の中から特殊なそれを手探りで突き止めた。なめぞうは元々はなめくじだが、今はその性質を大きく変えている。カレンは発情したなめぞうの触手をいいように嬲ったのだ。
「こー……手で扱くとさあ。透明なのが出るんだ。それが面白くってね。ウチら、果穂に怒られるまでずっとやってたかなあ」
説明しながらカレンはなめぞうの触手の太さを手で表した。斎姫にその時のことがよく判るように手を上下させる。だが斎姫はなぜか真っ赤になってカレンから目を逸らしていた。その足元でなめぞうが困惑したように斎姫の膝を触手で撫でている。髪風船は別の触手が器用に操っていた。
この後、なめぞうは出てこなかった記憶が……。