※この作品はR-18です。

魂の座 一部 凍えた魂   作:伊駒辰葉

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悪戯的なものはありますがエロシーンではないです。


吉良瀬邸で昔の話を 4

「やれやれ。ちょっとからかうつもりだっただけなんだけれどね」

 

 立城はそう告げて軽く肩を竦めてみせた。そんな立城を多輝が怒った顔で睨む。だがその顔も本心で怒っているそれではない。どこか照れたような、それでいて少し残念に思っているといったところか。優一郎は胸の中で多輝の心情の動きをそう分析した。

 

「ヒューマノイドにとって、それがどういう意味を持っているか、考えてから行動してください!」

 

 こちらは真剣に怒っているのだろう。由梨佳は必死の面持ちでそう立城に訴えかけた。立城はうん、と素直に頷いて多輝の傍にしゃがみ込む。

 

「悪かったね、多輝。少し悪戯が過ぎたようだ」

「えっ、いや、あの」

 

 素直に謝られるとは思わなかったらしい。多輝がまともにうろたえる。立城はそんな多輝の頭を撫ぜてもう一度詫びた。その後にさりげなく多輝の耳元に口を寄せて何事かを囁く。途端に多輝の顔が真っ赤になった。

 

「由梨佳さん。午後の授業は少し早く切り上げて頂けますか?」

 

 立ち上がりながら立城はそんなことを告げた。それまで懸命な面持ちで立城を叱っていた由梨佳が困ったような顔になる。由梨佳は多輝と立城を見比べて返事に窮している。優一郎はため息をついて箱から背中を引き剥がした。

 

「了解しました。それでは天輝さん、すぐに授業を始めましょう」

「えっ、あの、うわ、ちょっと待って由梨佳先生!」

 

 由梨佳はさっさと多輝の手を取り執務室を出て行った。引きずられるようにして多輝がその後ろに続く。二人が出て行くと執務室は急に静かになった。優一郎は肩越しに二人を見送り、次に立城に目を戻した。

 

「いつ見ても記憶操作の手際はすばらしいですね」

 

 微笑みながら告げる。立城は緩んだネクタイを直しながら優一郎に微笑みを返した。穏やかなその笑みに一体、今までどれだけの者が騙されてきたのだろう。自分と似た性質の笑みを見つつ、優一郎はそんなことを思った。

 

「多輝の記憶のことかな? あれは単純にすり替えをしているだけでね。特に難しい術をかけている訳ではないよ」

「なるほど、記憶操作にもいろいろな手法があってそれを組み合わせて効果を発揮させているとそういうわけか」

 

 確かめるように呟くと立城がにっこりと笑う。優一郎は目を上げてそんな立城を見つめた。出会った時と同じ青年の姿をしてはいるが、一体この人は幾つなんだろう。スーツに身を包む立城を見つめ、優一郎は考えを巡らせた。するとまるで思考を読んでいるかのようなタイミングで立城が告げる。

 

「年齢に興味があるなら君の父上に訊くと判るかも知れないね。もっとも、僕は龍神の中では随分と若い部類に入るんだけれどね」

 

 そう言いながら立城はすい、と優一郎の脇を過ぎた。箱に近づいて手を伸ばす。立城は金属の箱に触れて微かな笑みを浮かべた。金属の厚い壁に包まれて眠っているのは一人の女性だ。優一郎はため息をついて箱の傍に戻った。

 

「早速、中身を見せてもらおうかな」

「ご期待に沿える出来だといいのですが」

 

 優等生の答えを返して優一郎は箱の隅にある操作盤に触れた。暗号を打ち込むと箱の合わせ目から一気に圧縮された空気が噴出する。それが鎮まると今度は箱の合わせ目がゆっくりと光り始める。やがて箱の上面と側面が自動的に折り畳まれ、執務室の中に一体のヒューマノイドが姿を現した。透明な球体のケースの中でそのヒューマノイドは膝を抱えて丸くなっている。箱の面の内側には緩衝材代わりにクッションが張り巡らされている。球体はそのクッションの中央に静かに据えられていた。

 

 青いクッションの中央に座す球体は淡いブルーの光に包まれている。ケースが発光しているのではない。中に納まっている機体が発光しているのだ。だがその光は熱を持っておらず、たとえ手を翳しても感触は全くない。

 

 機体が光を帯びたのは昨晩のことだった。その説明をしながら優一郎は球体の中に眠る機体を見つめた。立城も興味深い眼差しでその機体を見つめている。

 

「正確に言えば機体そのものが発光しているのではないことが判りました。測量した結果から考えると、機体を取り巻く空気が発光しているものと思われます」

「そうだろうね」

 

 呟くように応え、立城は目を細めて球体に手を伸ばした。優一郎が止める間もなく、そのケースの表面に触れる。特殊な細工の施されたケースを素手で開けることは出来ない。何物かが接触すると微弱な電流が流れる仕組みになっているのだ。防犯装置のかわりと言ってもいい。だがケースに触れている立城に特に変わりはない。もしかしたら電流の流れ自体を捻じ曲げているのか。優一郎は立城の手元を見つめて、次にケースの中に目を転じた。

 

 指先がケースの表面を撫でる。ケースをなぞる立城の手つきはまるで愛しいものを愛撫しているかのようだった。説明を中断し、優一郎は無言で立城の様子を見守った。何度会っても謎は減らない。それどころか彼らに対する疑問は増える一方だ。一つの謎が解明できたかと思えば、また別のところに疑問が発生する。その繰り返しだ。




説明が続くよどこまでも……
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