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紫翠は使い魔と呼ばれる存在をつくった。その数は他の龍神に比べてはるかに多く、それだけに紫翠は仲間からも力のある存在であると認められていた。使い魔の数は純粋にその主の力の大きさを示す一つの指標になっていたからだ。
「けれど紫翠がそれだけ多くの使い魔をつくった理由は、力が大きかったからという単純なものじゃなかった。そうしなければ己を保てない理由があったんだよ」
力の均衡を保つために次々に使い魔はつくられた。紫翠は己の力の危険性を理解していたのだ。
「僕たちには感情がある。紫翠にも同じように感情があった。決して、仲間には悟らせないように心がけていたようだけれどね。そして力ある者であるが故に、その感情そのものが力となる。……例えば激情一つで簡単に対象を壊せてしまうようにね」
己の力の危険性を熟知していた紫翠は、一つずつ感情を切り分けた。それが紫翠のつくる使い魔にこめられていたのだ。立城は静かにそう語って横たわる機体に手を伸ばした。慈しむように髪を撫でる。
「そして、感情を制御できない龍神から漏れ出た力が、漂流する力となって、人間に憑いたものが夜叉なんですね?」
「そう。あれは人の器には重過ぎる力だった。人の器は龍神の力に晒された時、大抵は破滅してしまう。けれど稀にその力が定着してしまうケースがあるんだよ。それが彼女だった」
夜叉である
「時と場所、そして想いが揃ってしまった時、主龍神である蒼龍天輝は幾多の龍神に命令を下したんだ」
紫翠を討伐せよ。そしてその瞬間から紫翠は全ての龍神の狩りの対象となった。だが紫翠はなかなか発見されなかった。夜叉の力を無意識に発揮し、砂夜が紫翠を龍神たちの目から隠してしまったからだ。
「彼女は紫翠を守ろうとした。だがそれが逆に紫翠の命取りになったんだよ」
夜叉の力は龍神の想いが凝ったものだ。そしてその想いを人の器に閉じ込めた本人には、夜叉の力の発生源が手に取るように判る。主龍神の命令を受けていた一人の龍神が紫翠の存在を探りあてたのだ。
青龍水輝が紫翠の前に立ち塞がる。そして水輝は己の刀で紫翠を殺害した。紫翠は水輝の力の前にこの世から消えたのだ。
「感情をどんなに切り分けてもその想いは完全になくなったりはしない。記憶を司るという使命だったことも、紫翠が潰えた理由だったかもね」
「消えたというのは正確ではないですよね? 紫翠という存在がなくなっても、力は消えなかったはずです。恒星が爆発しても、星雲が残るように」
龍神の存在は力そのものだ。力は唐突に消えたりはしない。別の形になって残るものだ。優一郎はそう告げた。すると立城が苦笑して頷く。
「そう。紫翠は水輝とある約束を交わして死んだ。そしてその魂は砂夜の血と混ざって続き、力は約束の形となって残った。……水輝は紫翠と誓約を交わしてしまったんだよ」
思いを切り分けたりしなければもっと別の未来があったのだろう。だが紫翠はその方法を選ばなかった。自分が死することで不安定な力を大きく分けることにしたのだ。そして紫翠の思惑通りに魂は大きく三つに分かれることになった。一つは翠龍と呼ばれる時の龍神に、もう一つが立城に、そして最後の一つが立城の弟である
「それだけなら、きっと何も問題はなかったんだ」
そう告げて立城は一度、言葉を切った。ため息をついて視線を落とす。立城はしばらく無言で機体の髪を指ですいていた。優一郎はそんな立城を見つめつつ、やはり黙ってカップを傾けた。
日は既に暮れかけている。執務室の中には赤い夕日が差し込んでいた。
「紫翠はね。水輝に強いたんだよ。ずっと砂夜を見守るようにって。あれは人の身には余りにも強い力だから、危険がないように砂夜を守れって。そして水輝はその約束を守ったんだ。……ずっと、ね」
しばしの沈黙の後、立城は小さく呟くようにそう語った。ずっと、という言葉に優一郎はぴくりと眉を上げた。先ほどまで立城が優一郎に言わんとしていた意味が少しずつ判り始める。
「水輝は続く命をずっと見守っていた。生まれては死に、死んではまた生まれる人の輪廻をずっと見守っていたんだ。その思いがやがて歪んでいることにも気付かずに」
やがて砂夜の生んだ魂の先に力が復活する。それが双子の立城と真也だった。その輝きが生まれた時、水輝はもう一つ別の力を見出す。それが砂夜の生まれ変わりであるだった。
水輝は必死で莢花を守ろうとした。その性を男に変え、莢花に近づく者たちを排除する。それは先々で立城と真也が莢花と出会うことを、水輝が薄々と感じていたからだろう。立城はそう告げて小さく笑った。
「ずっと砂夜を守らなければならない。その約束を水輝は果たそうとした。……だから水輝は莢花さんに近づく僕たちを殺そうとしたんだ」
だがその約束は破られる。戦いの折、水輝は誤ってその力を莢花にぶつけてしまったのだ。元々、不安定だった水輝の精神はそのことで更に追い詰められた。そして立城もまた、真也を自らの刀で貫いてしまったのだ。
「その時の僕はまだどうして水輝があんなに必死で莢花さんを守ろうとするのか理解できなかった。真也を亡くしたこともあったからかな。本気で水輝を殺そうと思ったよ」
それだけが唯一、水輝を止める方法だと思い、立城は水輝に刀を向けた。水輝も立城を屠ることだけを考えていた。元々、女の性をまとっていた水輝が力を捻じ曲げて男の姿をとっていたことが戦いを余計に激しいものにした。互いが力を出し尽くすまで戦いは続いた。
真也は立城の弟で、莢花は水輝の妹です。
ちなみに莢花の方は義妹? なのかな?
血の繋がりはありません。